生かされない過去の教訓
医薬品行政の監視・評価機能を果たすために設置された委員会では、どのような話し合いが行われているのか、公開されている議事録から知ることができます。
医薬品等行政評価・監視委員会とは
厚労省のサイトでは、医薬品等行政評価・監視委員会について下記のように説明しています。
医薬品等行政評価・監視委員会について
(1)委員会の設置経緯とその役割
薬害肝炎事件の検証と再発防止のための検証委員会(注1)がとりまとめた提言(注2)で、医薬品行政の監視・評価機能を果たすことができる第三者性を有する機関の設置の必要性が指摘されました。「医薬品等行政評価・監視委員会」はこの指摘を受けて、令和元年に成立した改正医薬品医療機器法(薬機法)に基づき設置されました。
この委員会は、医師、薬剤師、法律家、薬害被害者など、さまざまな立場の委員で構成されています。そして、これらの委員がそれぞれの専門性を活かして医薬品行政を監視し、施策の実施状況を評価します。これにより、医薬品などの安全性の確保や、薬害の再発防止の役割を果たすことが期待されています。
「薬害の再発防止の役割を果たす」ことが期待されている委員会であり、
委員会のメンバーも紹介されています。
その中で、注目すべき人物は佐藤嗣道氏です。
佐藤嗣道氏(東京理科大学薬学部 准教授)
佐藤氏は、日本薬剤疫学会の理事を長年務めており、薬剤疫学に関する研究についての学術論文発表、学会等での講演発表を多数行うとともに、大学において「生物統計学」の講義を担当し、医薬品の疫学及び統計学に専門的知見を有している。また、「医薬品安全性監視入門」(じほう、2018)の翻訳に携わるなど、医薬品安全監視にも専門的知見を有している。
さらに、薬害(特にサリドマイド薬害)に関して多数の論文・著作があり、講演や講義等の豊富な経験を有するなど、薬害被害に関する知見を有している。
佐藤氏は昨年6月の委員会で心筋炎について指摘し、その後、添付文書に心筋炎のリスクが追記されました。
第7回 医薬品等行政評価・監視委員会
少し前になりますが、3月18日に第7回医薬品等行政評価・監視委員会が、Web会議方式で開催されました。医薬品等行政評価・監視委員会の開催スケジュールなどは、下記で確認できます。
前回が2021年12月21日なのですが、16:00~18:00という短い時間でこの頻度だと、重要なことを話し合うには全然足りないと思います。実際、時間がないからと、しっかり話し合われないまま次のテーマに移る場面もありました。
第7回の資料は、下記のページにあります。
【資料2】医薬・生活衛生局からの定期報告 には、令和3年11月22日~令和4年2月18日に製造販売承認された新医薬品のうち、定期報告の対象に該当するものが書かれています。
定期報告の対象
①先駆け審査指定制度の対象品目
②条件付き早期承認制度の対象品目
③海外で承認されていない医薬品
④特例承認の対象品目
今回は、特例承認された新型コロナ経口薬「ラゲブリオカプセル200 mg」(MSD(株))、「パキロビッドパック」(ファイザー(株))も含まれています。
それ以外にも、海外承認なしのもの、遺伝子組み換え成分のもの、臨床試験開始年が黒塗りのものなどがあります。
モルヌピラビル
議事録を見ると、モルヌピラビル(ラゲブリオカプセル200 mg)について佐藤氏から下記の意見が出ています。
○佐藤委員 モルヌピラビルについては、催奇形性が報告されておりまして、私としては、添付文書で妊娠している方、あるいは妊娠している可能性がある方を禁忌とするだけで、本当に胎児への被害を防ぐことができるのかということに関しては、大変心配しております。
アビガンに関しては、まだ承認がされない段階でも、観察研究の段階でそこについての配慮を相当した上で行われたと認識しております。
だからこそそれに対する逸脱に関して、マスコミをにぎわすようなこともあったわけですが、アビガンの場合には、基本的に入院患者に限定することがありましたし、妊娠している方に使わないのはもちろんなのですが、使い始めたら妊娠しないことが重要な点です。
妊娠検査が陽性になる期間は、ある程度たってからですので、サリドマイドの場合もそうだったわけですが、妊娠検査で陽性になる直前の段階でも、過敏期、危険な時期が少しあるわけで、その辺りをどうするかということが十分に検討されないまま承認されてしまったという感じが否めないのです。リスク最小化策をもう少しきちんとしたものとして、承認条件にすべきではなかったかというのが私の疑問です。
例えば、胎児への影響に関して、文書で説明して、文書で同意を得ることになっていますが、それをやってくださいとなっているだけで、実際にそれを全ての医師がきちんとやったかどうかの確認を取るシステムに全くなっていないわけですね。
サリドマイドの場合、あるいはその類薬であるレナリドミドなどの場合には、そこの確認をやっているわけですが、そういうことも全然やられていないので、現場任せで、医師がちゃんとやらなくても、そのまま放置されることが想定されます。
特にこれは新型コロナウイルス感染症の治療薬ですので、しかもすぐに使い始めなければ効果がないことがありますので、どうも今の状況の中では、医療現場で十分な説明がないままに使われてしまう危険が、ほかの薬に比べると高いこともあると思うのです。
ですから、そういうことに関して、私は非常に心配しているところで、本来、そういうことをすべきではなかったかというのが質問です。これは意見でもありますが、何か厚労省のほうでお答えいただけることがあれば、お願いできればと思います。
これに対する回答は、「対策をとっています」という感じで、佐藤氏の質問に表面的に答えているだけという印象です。長くなるので、要点をまとめました。
○医薬品審査管理課長補佐 の回答より
・医療従事者もしくは患者への個別の説明の資材などを用意する等、安全性を確保するための施策を取っていただく体制を取っております。
・投与の際には個別に文書で御説明することとしています。
・処方に当たっての適格性のチェックなどもやっていただいているところでございます。
・こういった安全対策を取っていって、必要な患者に安全性を確保した上で薬剤を提供していくという考えでおります。
「~していただく」ばかりで、医療従事者まかせな印象です。
上記の回答などを受けて、佐藤氏はさらに続けています。
○佐藤委員 サリドマイドの場合は、多発性骨髄腫などに使われるということで、基本的には認定を受けた専門医が使うということで、使える医師自体も限定された中で使われるわけですが、モルヌピラビルについては、医師であれば誰でも処方ができるということですね。
その中で、単に患者さん向けの説明文書を使って説明してくださいというだけで、本当に全ての医師がそれをちゃんとやってくれるのかということに私は重大な疑問を持っているということです。
医薬品のリスク管理の考え方は、医療従事者にそうやってくださいねとお願いすれば、性善説できちんとやってくれるということでは被害は防げないという過去の教訓があるからこそ、医薬品リスク管理計画の考え方が出てきたわけで、医療現場で説明すべきことがきちんと説明され、文書による説明が行われ、文書による同意が得られたかを確認する仕組みがないと、極めて危険だということです。その仕組みをつくるべきであると、意見として申し上げておきます。
これに対しても、医薬・生活衛生局医薬安全対策課長補佐は、「情報提供をできる限り現場で生かしていただけるように、工夫して資材も準備しています」というようなズレた回答です。
○佐藤委員 そういうこと言っているのではないのです。
サリドマイドの場合は、それを使う医師は、全員が登録していないといけないのです。
かつ、患者さんも、個人情報に配慮しつつも、いつ、どの患者さんにどれだけ使ったかということを全部登録した上で、患者さんにやるべきことを説明し、同意を得たかという記録を全部残して、それを後で確認できるようにしておくという仕組みがつくられているわけです。
そういう仕組みをつくらないまま、野放しにこの薬を使わせていいのかということを言っているので、全然お答えになっていないと思うのです。
ちゃんとやっているか、後で何らか調査すればいいとか、そんな生易しいもので胎児への被害が防げると思っているとしたら、サリドマイド事件の教訓を何だと思っているのかということになると思うのですが、いかがでしょうか。
佐藤氏の「そういうこと言っているのではないのです」「全然お答えになっていない」という言葉から、相手は佐藤氏の意見をきちんと受け止めていないことが伝わります。
○佐藤委員 お言葉ですが、私も審査報告書を読んでいますが、今回のラットでの催奇形性に関しては、使用量の数倍程度の量で催奇形性が現れているわけですね。ですから、安全域は、今の使用量でほぼ存在していないのです。
10倍では不十分で、通常の使用量の100倍程度を使って催奇形性が出たというのなら、あまり人には起きないかもしれないということは成り立つのですが、数倍で出ているということは、当然人にも起こり得るという前提で考えなくてはいけないことですね。
そこの点はいかがですか。
この後も回答がありますが、結局、納得のいく回答がないまま、時間がないので次へ・・・という流れになっています。
このような話し合いで、「薬害の再発防止の役割を果たす」ことができるのでしょうか。
過去の教訓
「医療従事者にお願いすれば、性善説できちんとやってくれると思っていては被害は防げない」
小児用のコロナワクチンについても話し合われていますが、長くなるので次回に続きます。
