バンビーノ いぇすんせっ。
ひとりごと言ってる。
は?
ほら見て、ジニがさっきトイレ行ってからおかしいんだ。
ジアンの指指した方のジニを見ると確かに変だ。
首を回したかと思うと天井を仰いだり鏡を覗き込んで自分の頬をつねったりしてる。
ジーニー、なにやってんのー、トイレで痴漢でもされたあ?
ジアンが後ろからジニに抱きついた。
痴漢?
ジニとビーノが同時に叫んだ。
バカヤロウ、痴漢されるわけがないだろう。
ジアンを軽く殴る真似をしたジニの顔をビーノが覗き込む。
ほんとに?大丈夫?変なひといなかった?
いねえよ、なんだよ痴漢って。もしいたらぶっとばしてやんよ。
さ、帰るぞー。
マネージャーが迎えに来た。
今日は音楽番組の撮影だった。撮影っていっても今週CDデビューしたグループを紹介するコーナーで、きっとオレたちの映像が流れるのもほんの数秒だ。でも完璧にメイクして人前に出るのは初めてだ。そんな緊張が痴漢だどうだでほぐれていった。
車に乗ったとたんマネージャーのダメ出しが始まる。
ビーノ、おまえは当分メガネなしだ。仕事なんだからコンタクトに慣れないとな。
えー、やだ。
やだじゃない。仕事だ仕事。お歌歌うために我慢しろ。
ジニがビーノの頭を小突く。
ねえ、ほんとにトイレに変なひといなかった?
なんだ変なひとってのは、おい、そのきれいな顔見せて手でも振ってやれ。
マネージャーが車の窓を開け、オレたちは、出待ちをしている女の子たちに手を振った。オレたちのファンじゃないのはわかってる。でも気が変わるってこともあるしな。お目当てのグループじゃないってわかっても笑顔で手を振り返してくれて嬉しいもんだ。
お前たちは見た目がいいんだがなあ、それだけでどうにかなる世界じゃないのはわかってるだろ。この後ダンスの、レッスン入れたから頑張るんだぞ。で、なんだ、その変なひとってのは。
変なひとじゃない。
ジニのあげた名前を聞いて運転中のマネージャーまで腰を浮かせかけた。レジェンドと言ってもいいような大物歌手だ。
ヘッヘッヘ、並んで用足しちまった。んでさ、言われたんだ。お前たちは声がいいなあ、声の組み合わせがすごくいい。羨ましいよ。って。
お、ま、え、た、ち、い?
ジアンの声が裏返った。
それっておれたち全員ってことだよね。おれも入ってるってことだよね。それにおれたちを認識してくれてるってことだよね、ね?ね?ね?
ヤッターってビーノとジアンが抱き合ってジニがニヤリと笑ってオレを見た。
うん。オレも自分の頬をつまんでみることにした。
