バンビーノ いぇすなな。
風が吹くとビーノの髪がふわーっと広がった。あとをついて車を降りるとビーノの匂いがした。シャンプーとか同じの使ってんのにビーノの匂いってわかる。
気持ちいいねえ。
ビーノは腕も広げて風を受け止めていた。
車の中が蒸し暑かったせいか寒いくらいの風がちょうどいい。
ダンスのセンセーがメイクもしてくれてオーディション会場までの送り迎えもしてくれるって、じいちゃんの出る幕なしっていうか。今朝のじいちゃん機嫌悪かったな。
歌のレッスンするのも賛成してたしダンスのセンセー探したのもじいちゃんだけど、歌手になるのは喜んでないっていうか。よくわからん。
会場の中は、参加者が自分を誰よりも上に、前に、見せようとしてる熱気が息苦しいほどに満ちていた。
メイクをしたケイは悔しいけどカッコイイ。前を通る人がふりかえって見るくらい仕上がりがいい。でもビーノはコンタクトをイヤがって眼鏡のままで、ぱっとしねえなあ。ダンスもオーディションに必要だからって最近始めたばっかだし。無理なんじゃねえか、おれはそんな気持ちで見てた。
ビーノは自分の番が来ても震えが止まらなくて審査員の前に出るのがやっとだった。歌うなんて無理だ。泣き出さないだけいいかもしれない。
ケイがスッとビーノの横に出た。
いつも二人で歌ってるんです。ルール違反かもしれませんが、一緒に歌ってるのを聞いていただけないでしょうか。
ビーノの顔をのぞき込みながら歌い始めたのは、オーディション用に練習してたのとは全然違うおれも知ってる映画の曲だ。元は女性ボーカルなんだけど、ケイの声で聞くと違う景色が広がってくる。このままケイだけではサビは無理だろうってとこでビーノの声が加わった。
愛してる。でもさよなら。ずっとあなたの幸せを祈ってる。いつも、ずっと。
終わったときには会場いっぱいに詰まってたギラギラしたものが風になって消えたように感じた。空気が入れ替わったみたいだった。
審査員からも他の応募者からも拍手はもらえたんだけど、結果はダメだった。そうだよなあ、他の奴らは明日からでもアイドルとしてデビューできそうなくらい歌もダンスも完成度が高かったもんな。
泣くかと思ったビーノは案外とすっきりした顔してる。
ね、僕の歌どうだった?
よかったよ、おれ、なんか鳥肌たった。違う曲みたいだった。すごく感動したっていうか、よかった、すごく。よかった。
よかった、以外になんて言えばいい。
ならいいの。
ビーノはいつものようにゆっくりと笑った。
ダンスのセンセーだけが、
こんなカワイイ子たちを落とすなんて見る目がないわよねえ、
って怒ってたけど、そのセンセーを通じて別の小さい事務所から、おれ込みでスカウトされたってのはまた別の日の話。
