見出し画像

第105話:男だらけの弾丸キャンプ・開幕編

「ずるいっすわ!

 りん先輩だけハル先輩たちとそんな楽しいことして!」


夏の熱気が残る午後の音楽室。

楽器の片付けを終えた途端、後輩のミツルがスティックを置いて大騒ぎを始めた。


どうやら、ハルちゃんとさっちゃんを我が家に迎えて行った、あの甘酸っぱい農業体験の話がどこからか漏れてしまったらしい。


「オレらも夏休みらしいことしたいっす!

 なあヒロ、龍弥!

 俺らの夏は毎日毎日部活だけで終わっちゃうんですか!?」


ミツルは周囲で楽譜を片付けていた同級生のヒロと龍弥を強引に巻き込み、全力で駄々をこね始めた。


「バカ言え、コンクール前だぞ。

 部活休めるわけないだろ」


俺――竜胆楓は、譜面台を畳みながら一蹴する。


北海道の短い夏。

高校生の俺たちにとって、今はコンクールに向けた一番大事な時期だ。

一日でも練習をサボれば、自分の技術もそうだが周りに迷惑がかかる。


ヒロも汗を拭きながら、ミツルをなだめる。


「流石にこの時期は厳しいって、ミツルくん。

 僕も遊びたいけどさ」


「そうですよ。

 スケジュール的に無理があります」


龍弥も静かに同意する。

男たちの、夏を諦めきれないどんよりとした空気感が音楽室の片隅に漂う。


すると、引き下がれないミツルがニヤニヤと不敵な笑みを浮かべて俺を指差した。


「ふふん、じゃあいいっすよ。

 りん先輩は女の子には甘いって、学校中に言いふらしてやる!」


「当たり前だ、女の子に優しくて何が悪い。

 むしろ女の子に優しいは正義だ!」


俺が胸を張って堂々と宣言すると、ミツルは一瞬怯んだものの、さらにニヤつきを深めて身を乗り出してきた。


「うぐっ!

 じゃあ、ハル先輩たちと何かやましいことしたって言いふらすっすね……」


「お前なぁっ!」


俺はミツルの頭をガシッと掴み、こめかみを両拳でグリグリと容赦なく絞り上げた。


「あだだだーー!

 痛いっす、りん先輩!」


それを見たヒロが、おそるおそる龍弥に耳打ちする。


「り、龍弥くん、あれって春日部のお母さんがするグリグリ攻撃なのかな……?」


「いや、りん先輩のことだから、百式観音でしょう」


龍弥が真顔で分析する声を無視して、俺はさらに力を込めた。


「俺がハート様だったら、こんなんじゃすまないんだからな!」


「「「ハート様って誰っすか〜!?」」」


世代の壁を超えられない後輩三人から、見事なトリプルツッコミが飛んでくる。


「大体、俺からは、やましいことしてない!」


必死にジタバタするミツルを突き放すと、それを見ていたヒロがポツリと呟いた。


「お、俺からは、って……?」


「ヒロ、そういうことは聞き流さないとダメですよ」


すかさず龍弥がヒロの肩を叩して諭す。


「コラコラ、お前たち。

 練習が終わったなら早く片付けて帰りなさい」


その時、俺たちの不毛なやり取りを察した顧問の彦根先生が、職員室へ戻る足を止めてふらっと会話に入ってきた。


「先生聞いてくださいよー!

 りん先輩が僕たちを置いて女子とばっかり青春してるんす!」


ミツルがここぞとばかりに彦根先生に泣きつく。

先生は苦笑いしながら、俺たちの顔を順番に見渡した。


「まあ、コンクール前だから部活は休んで欲しくないんだがな。

 ……そんなにキャンプがしたいなら、すぐ裏の緑地スポーツ公園でやったらどうだ?

 あそこなら学校から歩いてでも行けるぞ」


「えっ……」


彦根先生の口から飛び出したまさかの救いの一手に、俺たちは顔を見合わせた。

盲点である。


学校のすぐ裏手にある、地元の人間なら誰でも知っているあの緑豊かな公園。

確かにあそこキャンプの施設あったわ。


利用者、ほぼいないし穴場かも。

というか、野営と変わらない上級者向けなんだよな。


「部活はしっかりやって、夕方からキャンプ。

 で、翌朝はそこからそのまま部活に来れば、問題ないだろ?」


彦根先生は悪戯っぽく笑ってそう提案した。

近場だからこそできる、弾丸スケジュールだ。


「……まぁ、あそこなら移動時間考えなくていいし、親がOKならいいか」


俺がそう呟いた瞬間、男子三人の目が一斉に輝いた。


「マジっすか!?

 よっしゃ、すぐに確認するっす!」


その場で各自、ポケットからスマホを取り出す。

高校生の突発的な外泊だ、親への確認は絶対の関門である。


音楽室の隅で、男四人が恐る恐る画面をタップし、「明日学校のちかくのキャンプ場で泊まっていい?」と確認連絡を送信した。


一分、二分と沈黙が流れる。


ピコン、ピコン。


次々と通知音が鳴り響いた。


「オレ、OK出たっす!

 『飯はちゃんと食べなさい』って!」


「ぼ、僕もすぐに許可もらえたよ。

 局長と一緒ならいいよだって……」


「私の方も、しっかり練習を継続するなら、という条件付きで許可をいただけました」


最後に俺のスマホにも、母さんから『ちゃんと後輩の面倒見なさいよ』と一言だけ返信が来た。


これで全員の許可が無事に下り、男四人の突発弾丸キャンプが正式に決定した。


「よし!

 じゃあ部活が終わったら、必要なものを確認して各自準備しよう」


俺の言葉に、「うおー!」と一気にテンションが上がるミツルたち。


コンクール前の厳しい夏。

だけど、俺たちの特別な一泊二日が、今ここから始まろうとしていた。


◇◆◇後書き◇◆◇

いつもお読みいただきありがとうございます!

なんと本日の更新で、ついに「小説家になろう」の本編最新話まで追いつきました!

これに伴い、次回からの投稿スケジュールを「小説家になろう」の更新ペースと合わせる形に変更させていただきます。

【今後の更新スケジュール】
・毎週 日曜日、水曜日
・投稿時間:21:10ごろ

これからも彼らの賑やかで甘酸っぱい青春ストーリーをお届けしていきますので、ぜひ楽しみに待っていてくだされば幸いです!

引き続き応援よろしくお願いいたします!

#小説家になろう
#北海道
#比布町
#青春
#コメディ
#Web小説
#連載小説

いいなと思ったら応援しよう!