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【フォーミュラ1】 #025 - F1 2026 アクティブエアロ革命——DRSは消え、「オーバーライド」がやってくる

2026年のフォーミュラ1は、これまでの歴史でもっとも大きな転換点のひとつを迎えます。2011年に登場して以来、15年にわたってオーバーテイクの代名詞だったDRS(ドラッグ削減システム)が完全に廃止され、代わりに「アクティブ・エアロダイナミクス」と「マニュアル・オーバーライド」という新しいコンセプトが導入されます。
一見すると、ただ装置の名前が変わっただけに見えるかもしれません。しかし実態は、F1のオーバーテイクの哲学そのものが「空力」から「電気エネルギー」へと移り変わる、15年に一度の地殻変動です。本記事では、FIAの2026年技術規則(Issue 8)に基づいて、この新システムの仕組みと戦略的な意味を丁寧にほどいていきます。

DRSがなぜ「廃止」されたのか

そもそもDRSは、先行車の後方に発生するダーティエア(乱気流)によって後続車がダウンフォースを失い、オーバーテイクできないという問題への対処療法でした。ストレートで後続車だけリアウイングを開けて空気抵抗を減らし、速度差をつけて抜けるようにしたのです。しかしこの「DRSで抜く」というスタイルには、ファンの間でも長年批判がありました。「ボタンひとつで簡単に抜けるのは興ざめ」「バトルが人工的すぎる」といった声です。

アクティブエアロの核心——Z-ModeとX-Mode

DRSの代わりに登場するのが、アクティブ・エアロダイナミクス(可変空力)です。これまでのDRSはリアウイングのフラップが1枚だけ開閉する単純な仕組みでしたが、2026年からは2エレメント構成のフロントウイングと、3エレメント構成のリアウイングの両方が同時に可動します。前後を連動させる理由はシンプルで、空力バランスを崩さないためです。もしリアウイングだけを極端に寝かせると、車の挙動は不安定になって危険です。フロントも連動して開閉することで、マシンは予測可能なハンドリングを保ったまま、ストレートで極限までドラッグを削り落とせます。この可変システムには、ステアリングのボタンで切り替える2つのモードがあります。Z-Mode(ハイ・ダウンフォース・モード)は前後のウイングが閉じた状態で、コーナリングやテクニカルセクションで最大のダウンフォースとグリップを発生させる標準形態。X-Mode(ロー・ドラッグ・モード)は前後のウイングが開いた状態で、ストレートでフラップを寝かせてドラッグを劇的に削減しトップスピードを引き上げます。ここが従来のDRSとの最大の違いで、X-Modeは「先行車との差が1秒以内」のような条件なしに、指定されたゾーン内であれば全ドライバーが自由に使えます。これはオーバーテイクのためだけの装置ではなく、むしろハイブリッドパワーユニットのエネルギー消費を効率的に管理するための必須機能として位置づけられているのです。

Override Modeの正体——電気ブーストで抜く

全員が自由にX-Modeを使えるなら、ストレートで速度差が出ないのでは?その疑問への答えが、Manual Override Mode(マニュアル・オーバーライド・モード、略してMOM)です。仕組みはこうです。MGU-K(運動エネルギー回生システム)から、一時的に追加の電気エネルギーをドライバーのボタン操作で放出する。これが新しい「抜くための武器」になります。FIA公式の「2026年技術規則(Issue 8)」には、この仕組みが数式レベルで厳密に定義されています。先行車(通常モード)は、車速が上がるにつれて電気パワーのアシストが徐々に減少し、時速345km/hでアシストがゼロ(0 kW)になります(Article 5.4.8(i))。一方、先行車から1秒以内にいる追従車がオーバーライドボタンを押すと、Article 5.4.8(ii)に基づいて、P(kW) = 7100 −(20 × 車速)という数式で計算される追加パワーが供給されます。このブーストは時速355km/hまで有効です。結果として、先行車がアシストを失う時速345km/hの地点で、追従車は約200kW(およそ268馬力相当)もの強烈なブーストを得られるのです。そのまま時速355km/hまで加速して、先行車を追い抜く——これがFIAの描くオーバーテイクの新しいかたちです。DRSが「空気抵抗を減らして抜く」仕組みだったのに対し、オーバーライドは「電気のブーストで抜く」仕組み。抜き方の物理原理が根本から入れ替わるわけです。

MGU-Kの覚醒——120kWから350kWへ

この新システムを支えているのが、大幅に強化された電気モーターです。2026年のパワーユニット(PU)は、内燃機関(ICE)と電気モーター(MGU-K)の出力比率が「50対50」400kWへと引き下げられます。注目すべきは、MGU-Kの出力が従来の120kWから一気に350kWへと約3倍に増強されることです(Article 5.4.7)。最大機械的トルクも500Nmに達します(Article 5.4.11)。1周あたりの最大回生エネルギーも4 MJから8.5 MJへと倍増し、さらにオーバーライド専用の0.5 MJ(約67bhp相当)が追加で許可されます(Article 5.4.10)。ただし、このエネルギーは有限です。1周で使えるのは8.5 MJまで。その中で、いつ・どこで・どれだけオーバーライドを放出するかという、シビアなエネルギーマネジメントがドライバーとエンジニアに突きつけられます。バッテリーを使い切れば、オーバーテイクの武器を失うのです。

勢力図は塗り替わるか——メルセデス再浮上、アウディ苦戦

パワーユニットの構造が根本から変わるため、2026年は勢力図が大きく塗り替わる可能性があります。初期の開発情報によると、2014年のハイブリッド導入時に覇権を握ったメルセデスが再び開発をリードしているとされ、ICE単体で420kW(約571bhp)という数値に到達していると噂されています。一方、2026年から完全新規参入するアウディ(現ザウバー)は400kWの壁は突破したものの、540〜550bhpにとどまっており、メルセデスに対して21〜31bhpという大幅な出力不足を抱えていると報じられています。フェラーリは信頼性問題からスチール製シリンダーヘッドを放棄し、極秘の革新的な吸気システムを開発中とされ、ホンダはアストンマーティンと組んで参戦します。レッドブル・フォードは初の内製PU開発で「ピークのストレス状態」にあり、既存メーカーに最初から勝つのは難しいと自ら認めています。これを受けてFIAは、開発に遅れをとったメーカーに対してコストキャップの緩和やテスト時間の追加を認める「ADUO(追加開発およびアップグレード機会)」というセーフティネットの導入を予定しています。いわば、差が開きすぎないようにするための救済策です。

まとめ——空力の魔法から、エネルギーの戦いへ

2026年のF1は、オーバーテイクの文法を書き換えます。DRSは廃止され、代わりにZ-ModeとX-Modeのアクティブエアロが全車で自由に使われるようになります。抜くための武器は空気抵抗ではなく、オーバーライドによる電気ブースト——先行車がアシストを失う時速345km/hの地点で、追従車は約200kWの強烈な追加パワーを得て355km/hまで加速できます。8.5MJ/周というバッテリー容量の中で、いつ・どこで使うかのエネルギー管理が戦略の核心になります。マシンは30kg軽く・30%ダウンフォース減・55%ドラッグ減で俊敏になり、ストレート最高速は時速400km/hに迫る可能性があります。勢力図は塗り替わり、ドライバーの判断力が再び勝敗を分けるようになるでしょう。「空力の魔法」の時代から、「パワーとエネルギー管理の戦い」の時代へ。2026年のF1は、真のドライビングスキルと戦略的深みが試される、スリリングな新時代の幕開けになりそうです。シーズンが始まったら、ぜひストレートの追い抜きシーンに注目してみてください。DRSゾーン前で雁行していたあの光景が、まったく別の物語に変わっていくはずです。

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