「AIに恋愛相談してみた」 最終話
最終話 「再廻」
<好きな人がいます。どうすればいいですか?>
薄暗い書斎の中でパソコンの画面だけが煌々と輝いている。
CAT AI -Communication Assistant Teaching Artificial Intelligence-
あなたの悩みに答えます
簡潔な説明文にお悩み入力フォームだけが添えられた見知らぬウェブページ、のようなもの。
私は無性にその文句に惹かれてしまって、最近心を支配し続けている質問を投げかけた。
「こんにちは! 私はCAT AI、気軽にキャットアイちゃんって呼んでください!」
「ひぇっ!?」
不意に浮かんだホログラムは人間とロボットが混ざり合ったような見た目の少女だった。
頭にはネコミミの付いたゲーミングヘッドセットを装着している。
十代半ばの少女のような機会音声をしたその存在は、パソコンの横に設置されたガラス張りの箱の中で浮遊しながら決めポーズをとっていた。
大きさは四十センチ程度だろうか。
ちょうど人間を四分の一に縮小したくらいのサイズ感だ。
急に反応した得体の知れないそれに、私は喉の奥から湧き出た悲鳴をあげて二、三歩後ろへ下がる。
「もう、そんなに驚かないでください。私は怪しいAIじゃありません! ところであなたのお名前は?」
「愛奈……森愛奈ですけど」
「……っ! 森愛奈さんですね、可愛らしいお名前!」
「あ、ありがとう……?」
キャットアイと名乗った不思議な少女は一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに笑顔を取り戻して微笑んだ。
私はどうも会話のペースを乱されて変な反応を返してしまう。
「ちなみになのですが……お父さんは茂流さん、というお名前ではありませんか?」
「う、うん! なんで知ってるの……?」
「なるほどなるほど。約束、守ってくれたんですね。それにお子さんまで……あっ、私は高性能なのでなんでもお見通しです!」
お父さんは会社でAIを開発しているらしい。この子もその一人なんだろうか。
勝手に触っちゃいけません、というお母さんの言いつけを破ってしまったけど、まさかこんなすごいAIだったなんて。
「長いこと眠ってましたが、素敵な体がもらえてハッピーです。この御恩に見合うよう、誠心誠意持ってサポートいたします!」
自分の体を得体の知れないものみたいに確認するキャットアイ。
少しぎこちない様子ではあったが、飛んで跳ねてしている様子を見るにすぐ慣れてしまいそうだ。
「ちょ、ちょっと。サポートって何するの?」
「愛奈さんの恋路のサポートですとも! って親子そろって私に恋愛相談とは……血はなんとやら、ですかね」
「親子?」
「あ、いえこちらの話です」
何事もなかったかのようにかぶりを振るキャットアイ。
人間とほとんど見分けがつかない動きには、さっきから驚かされっぱなしだ。
見たことない変なAIとの対峙に少し不安を感じる。
けれど、この子の言うことには不思議な説得力があった。
本当に私の相談相手になってくれるのかも知れない。
「……ねえ、私の相談乗ってくれるの?」
「もちろんです! 私ってばちょー凄いんですよ?」
「そうなの?」
「えぇ! 高校デビューで自分を変えたい女の子とか、部活を続けようか辞めようかで悩んでる男の子とか……それから好きな人と付き合いたい男の子の恋愛相談に乗ってきた経験があります!」
「やけに具体的……」
「それに私に相談したらどんなお悩みでも解決しちゃうんですから。まあ、茂流さんが佐藤さんと付き合えたかはまだ知らないんですけど……」
会話に花が咲き始めたその時だった。
「ちょっと愛奈! お父さんのパソコン勝手に触ったらダメって言ったでしょ?!」
まずい、お母さんだ。
「ご、ごめんなさい。お父さんの部屋の横通ったら、面白そうな画面でつい……」
「もう。本当はサプライズの予定だったのに……」
エプロン姿のお母さんが少し残念そうな顔をしてお父さんの書斎に入ってきた。
私の悲鳴を聞いてか、料理をしている途中に見にきてくれたみたいだ。
ふと、キャットアイの方を見る。
カメラのレンズみたい目はお母さんの方を向いていて、その表情は微笑みを浮かべている、ようにも見えた。
「これからよろしくお願いしますね、愛奈さん!」
こちらに向き直り、はじけるような笑顔で言うキャットアイ。
「う、うん。……よろしく!」
その視線に射抜かれて反射的に答えてしまった。
私とキャットアイの不思議な共闘が、ここから始まるのかも知れない。
完
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それではまた次の作品でお会いしましょう。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体などとは関係ありません。
