【感想戦】特集:あのちゃん「ミスiDと『ちゅ、多様性。』」〜きみが抱える“やさしさ”のために
特集:あのちゃん「ミスiDと『ちゅ、多様性。』」回の感想戦(73分)になります。いつもならここの文章は私がこーへが書いているのですが、彼は今も絶賛編集作業中のため、今回はキムラが担当します。
本編まだの方はこちらから↓
特集:あのちゃん「ミスiDと『ちゅ、多様性』。」をやるにあたって、当初ここまで壮大な回になるとは思ってもいませんでした。あのちゃんとミスiDについて語ろうとしたら、音楽の話だけでなく、インターネットの文化史、ひいては東京・新宿という都市の文化論にまで飛躍することになりました。これぞ過剰接続な回となりました。
前半で挙がった「様々な属性を持った人々が刹那的に集い、たったひとときを過ごし、またそれぞれの場所へと散らばっていくというミスiDの風景はかつての渋谷系の動きと重なるものがある」という話を振り返りながら、ふと本棚にあった『オリーブ・クラブ』という本(雑誌『Olive』に寄せられた読者からの投書をまとめた一冊)を手に取って読んでいたら、その中の、山梨に住むある女の子の手紙が目に止まりました。
この間、東京に遊びに行きました。とにかく制服がかわいいんですね。スカート丈がひざこぞうより短くて、みんな白いハイソックスや三つ折りソックスをきちんとはいてる。髪もパーマをかけず、サラサラのストレートで…やっぱり制服はそのままきちんと着て、髪の毛にだってやさしくしてあげたい。私もいつかは素のままでキラキラ輝いてみたいな。
地方に住むこのオリーブ少女にとって、制服とはスカートの丈を過剰に伸ばしたり、下に変な色のシャツを着込んだりと「着崩す」のが当たり前で、それが地方で暮らすための、いわば生存するための手段だった。ところがある日、東京を歩く女の子の「清潔な制服」を見て、その清潔さこそが「わたしは女の子だ」という誰にも否定されるはずのない、自らの存在の証明になっていることに気づいてしまった。それができない山梨の女の子は、自分のもどかしさに落胆するしかなかった。まるで大森靖子の歌詞の中で描かれる女の子像のようです。
「清潔な制服」とは東京の特権性を象徴するモードであり、例えば乃木坂46から東京が強く香るのもそういった所以があるからでしょう。しかし「清潔な制服」だけが制服ではない、規範からはみ出した、キッシュでオーバーでダーティなものだって、紛れもなくモードであるということを証明するために、山梨の女の子のような人間の存在を肯定するために、かつて運動していた東京のB面、それがミスiDだったのだと思います。
ミスiDなき現在、小学生が脱毛クリニックに通い、美容整形が当たり前のものとして定着した社会が生んだ潔癖は、信じられないほど多くのものを許しません。多様性と露悪が一緒にある世界を生き抜くことがこれほど困難だとは、おそらく誰も想像していなかったでしょう。そんな混沌と絶望を極める世界のなかで今日もあのちゃんは立っている。自らの存在を証明するために。かつて自分がいた場所なんてもうどこにも存在しないことを知りながら、居なくなった人たちのことを想い、嘘を嫌って、優しさを振りまいている。そのことがどんなに素晴らしいことかを、皆で分かち合い、インターネットの電電電波の上で乾杯しましょう。推しとすき家食ってる場合じゃない。まやかしの雪で遊んでる場合じゃない。踊らされるな。踊れ。たとえそこが墓の上だとしても。
---------- キリカエ ---------
さて、この感想戦では、
・「0(ゼロ)」になった新宿。かつて大森靖子は東京のアンダーグラウンドを見て「ZERO SONGS」と歌った。大切なのは無から無限への想像力。
・ただでさえ皮肉やユーモアが無効化されてしまう現代、齢をとればとるほど口に出さずにはいられない「親父ギャグ」を有効化するための叙述トリック。
・ミスiDは保健室だったとして、保健室は保健室以上ではない。卒業するためには、保健室から外に出なければならない。CANDY TUNE 福山梨乃は、竹中夏海『アイドル保健体育』を踏まえた上で、「アイドルは女の子である前にアイドルでいるべき」と言った。
・フォーク・ミュージックが好きな私はこーへ、ジャズが好きなキムラ。最小限から無限宇宙へと接続するジャズは、アイドルと同じく「客に魅せることを前提とする」音楽。そしてマイルスはゾス。
・本当のことしか言わないあのちゃん。嘘をつけない人間だけが抱える苦しさ。「あなたが嘘をつかなくても生きていけますように 何回も何千回も 願っている」。
・あのちゃんは優しいし、粗品も優しい。人柱となり表で身を切って悪口を言うと、裏で蔓延する悪口の総量が減る。隠された悪を注意深く拒むこと。
・濁った川と化したTwitterから去った白瀬百草、時は経ちXの洪水の中をふるえながら登り続ける早瀬ノエル。
…このほかにも様々な話題を行ったり来たりしています。情報と情念の嵐吹き荒れる本編とは違った、非常にゆるい雑談回…とは思わないでください。それではどうぞ。
【感想戦】特集:あのちゃん「ミスiDと『ちゅ、多様性。』」(73分)
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