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【別冊】M-1グランプリ2025感想回「しなこ、哲学、ラヴ上等」の時代をサバイブせよ

 M-1は単なる漫才コンテストではない。M-1とは時代の精神を映し出す巨大な文化装置である。年に一度、この日だけは日本国民の誰もが審査員になることを許され、目の前で繰り広げられる漫才を、自身の批評の俎上に載せる。この自由と開放にこそ、コンテンツの楽しさがある。

 しかし視聴者と違い、審査員たちの役割は、目の前の演者の単なる優劣を判定するだけに留まらない。彼らの一言一句が、業界全体の「優れた漫才」の定義を方向づけるかもしれないという重要性を持つ。かつてのM-1では、島田紳助や松本人志、立川談志や青島幸男…など、それぞれ価値観の異なる巨頭たちが集結することで多様な視点が共存していた。しかし大会が成熟するにつれ、「芸人(とお笑いファン)による芸人(とお笑いファン)のための大会」へと鈍化し、結果として、外部の価値観を排除しようとする「お笑いナショナリズム」な空気に支配されていった。「あぁ、この国に漫才があってよかった」と誰かが呟く。

 それは今年のM-1においても明確だった。大会2連覇の令和ロマン・髙比良くるまが生み出した『漫才過剰考察』以降のゲーム、加えて霜降り明星・粗品が自身のYouTubeや賞レースの講評などを通じて大衆に広めた漫才分析が、視聴者だけでなく、出場する芸人、果ては審査員にまで一種の「バイブル」「公式」として内面化されてしまっていたのだ。その結果、決勝の序盤(ヤーレンズ〜めぞん〜カナメストーンあたり)の審査は、その「公式」に沿っているか否かを判定するマークシート式の採点に陥っているように見えた。まるで「後で粗品に何を言われるか」を恐れているかのような、自身の感性よりも「批判されないこと」を優先する危機管理の意識に縛られていたように思う。実際にヤーレンズの採点では「完璧」と評しながらも満点をつけないという軸足の付かない評価になっていたり、このまま大会が予定調和に終わるのではないかという閉塞感が漂っていた。

 この膠着した状況を打ち破ったのが、エバースドンデコルテ、そして王者となったたくろうの登場であった。彼らの漫才は、構造分析や理屈を打破し、髙比良くるまと粗品が束ねる「お笑い国家」の民衆の目を覚ました。それが最も象徴的に表れたのは、たくろうの一本目のネタの最中、ミルクボーイの駒場が笑い崩れる姿がカメラに抜かれた瞬間。あれこそが「ショット」だ。一人の審査員が役割から一時的に解放され、自らを生の笑いに委ねた決定的な瞬間。極めつけは最終決戦での今田耕司の爆笑ハンカチ拭い。確定演出だった。理屈や理論で武装した圧倒的な頭脳ではなく、まず先んじて身体が反応する笑いの復権。髙比良くるまによって洗脳されながらも、人々が待ち侘びていたのは実はこんな世界だったのかもしれない。最終決戦3組の漫才は、審査員たちを批評とメタ視点の呪縛から解き放ち「ただ面白いものに高得点をつける」という原点に立ち返らせた。

 しかしそれだけでは、髙比良くるまや粗品を打倒したことにはならない。たくろうの漫才によってお笑いが「理屈」から「快楽」へとシフトしたのだ、などと言い切るのは尚早だ。なぜなら、快楽の根底には得てして理屈がつきものだから。人々をあそこまで爆笑させた素朴な笑いの正体、その構造を探ることこそ、次のお笑いシーンの潮流、ひいては時代の精神の発見へと繋がることでしょう。それって、とてもすごいことだと思いませんか。いやーほんと、漫才万歳!


さて、こちらの【別冊】M-1グランプリ2025感想回「しなこ、哲学、ラヴ上等」の時代をサバイブせよ(音声85分)では…

・ChatGPT(くるま)の回答を鵜呑みにするお笑いシーン。その先に到達するために必要なのは、独自の「プロンプト」。

・「お笑いナショナリズム」の深淵。「この国に漫才があって良かった」の向こう側。

・なぜペーパードライバーネタは漫才の定番なのか?

・ORANGE RANGE、サンボマスター、そしてハロプロの16ビート。なぜ人はミームの賞味期限を見誤ってしまうのか。

「現実よりインターネットを見ましょう。科学者よりインフルエンサーを信じましょう。自民党は、ありません」これをポストするけーまる。

・サウナからポッドキャストへ。エバースはポッドキャスト時代の漫才。

・たくろうの演劇性。ダウ90000もきっと羨むだろう名優っぷり。

etc…

などなど、他にもトピックたくさん!ぜひお聴きください。

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