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待ち合わせ #シロクマ文芸部

待ち合わせの場所に行くと、そこには大きなパンダのぬいぐるみがいた。

うっかり誰と待ち合わせをしていたのか忘れてしまったので、とりあえず声をかけてみることにした。

私が遠慮がちに「ごきげんよう」と言うと「こんちゃー」と淡白な返事が返って来た。黒い毛に覆われた瞳はどこか所在なさげである。

「こんな所で何をされてらっしゃる」私が聞くと、「何をするわけでもなく、時間つぶしで此処にいるんだよん」とパンダ(ぬいぐるみ)。よんが気になる。
「ではどちらからいらっしゃったのですか」
「インドネシアだよん」
そう言って腰の当たり前に付いているタグを指差すので見てみると、確かにmade in Indonesiaと書かれている。
「みんながみんな中国製だと思っちゃダメよん」
黒い毛の奥のつぶらな瞳をギラリと光らせてパンダ(ぬいぐるみ)が言う。
「コレはコレは失礼いたしました」
実際のところ、みんながみんな中国製だと思っていたので素直に詫びた。
「いいよん」
どうやら許してくれたようだ。

「そろそろ行くよん」
「ほう、どちらへ」
「奥さんと笹塚で笹デート」
「ご結婚なさっているのですか」
「去年ね」
「それはそれは、新婚ホヤホヤですね」
「羨ましい?じゃあまたねだよん」
手を差し出されたので握り返す。外はフワフワだが、中に芯を感じた。黒い毛に覆われた瞳は相変わらず所在なさげである。
「はい、お気をつけて」
私が言うと、パンダ(ぬいぐるみ)はノソノソと駅の方に向かって歩いて行った。

入れ替わるように、妻が待ち合わせ場所にやって来た。あぁそうだ、私も妻と待ち合わせをしていたのだった。

「じゃあ行こうか」私が言うと、「えぇ、そうしましょう」と妻が言った。

握ったその手は人間らしく、温かみがあり柔らかであった。

おしまい


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