母性と歴史の地層を掘り当てる旅…トルコ映画『わたしは異邦人』
2025年8月23日、日本で公開が始まったトルコ映画『私は異邦人』(エミネ・ユルドゥルム監督)。昨年の東京国際映画祭では『昼のアポロン 夜のアテネ』というタイトルで上映されたが、私はそのとき見逃している。日本の劇場で一般公開されることは、トルコを愛する者としてこの上なくうれしい。
アナトリアの悠久と母性へのまなざし
本作を観てまず感じるのは、トルコの歴史をギリシャ・ローマ、いやそれ以前にまでさかのぼって俯瞰する視点だ。私は以前、アンカラのアナトリア文明博物館で、チャタル・ホユック遺跡から出土した新石器時代の「地母神」像を見たことがある。
アナトリア高原で出土した「地母神」像。新石器時代のものという。豊穣と繁栄を象徴する女性。両側に動物を従えている。自由で大胆な造形に釘付け。トルコ・アンカラのアナトリア文明博物館にて。 pic.twitter.com/A1SSEdCcTu
— カフェバグダッド/CAFE BAGHDAD (@cafebaghdad) April 24, 2017
両脇に動物を従えたその姿は、豊穣と繁栄の象徴であり、母性を偉大なものとして敬う古代アナトリアの精神を今に伝えていた。本作はその伝統をふまえながら、地中海岸の古都シデを舞台に、母性と大地の豊かさを重ね合わせて描き出していく。
ダフネの旅と母なる神々
孤児として育った主人公ダフネは、死者と対話できる霊能者のようだ。母を探す旅を続けているが、その手がかりとして持っていた本には「キュベレ」の名が記されている。ギリシャ時代のアナトリアで大母神として崇められ、その後、ギリシャやローマにも伝えられた。劇中ではダフネがその一節を、古代からやってきたような身なりの女性に読み聞かせる場面がある。母を求める個人的な物語が、古代の信仰や精神文化に重ねられ、観客を歴史の地層へと導く仕掛けになっている。
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