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手のひらのイリュージョン(ミステリ小説第2話 犯人は、どこから来たのか?)

 小夜が目を覚ましたのは、日曜日の午前2時。真夜中である。いつもならいつのまにかベッドに戻ってかたわらにいるはずの夫はいず、胸騒ぎのした彼女は、屋上に急ぐ。
 そこで小夜は屋上の真ん中で、頭から血を流して倒れている夫の遺体に遭遇した。
 スマホで110番に電話し、2時半に、近くの交番から警官がかけつけたのだ。夫妻の寝室は5階にあった。
 5階の通路には死角がないよう防犯カメラが設置され、捜査にあたった綿引と涼香も録画映像を確認したが、不思議な事に23時に虹羽が屋上に上がってから、後から上がった人物は1人も映っていないのだ。
 その反対に23時以降、翌日午前2時過ぎに小夜が屋上に上がるまで、屋上から降りた者も映っていない。
「奥さんが屋上に上がられた時、ご主人のご遺体以外に、誰の姿もなかったんですね?」
 綿引は、小夜に用意してもらった一室で、彼が現場に到着した午前3時過ぎに、そう聞いた。
「いませんでした。屋上を見ていただければわかりますが、深夜でも照明が点灯してますし死角もないので、夫以外に誰かがいれば、すぐわかります」
 小夜は憔悴しきっていたが、元々気丈な性格らしく、落ち着いた声で話した。
「主人は、殺されたんですよね? ちゃんと見たわけじゃないですが、夫は頭から血を流してました。誰かに殴り殺されたんでしょう?」
「まだ、わかりません。ちなみにお聞きしにくい質問になりますが、仮に今回の事件が殺人だとして、ご主人を殺害した人物に心あたりはありますか?」
「実際に殺したかはわかりませんが、心あたりは、なくもないです」
「と、言いますと?」
「恥ずかしい話ですが、主人には、教団内に愛人がおりました。そして以前から夫に対して離婚して、自分との結婚を迫っていました。名前は鶴喰詩葉(つるはみ うたは)というアバズレです」
 綿引は、詩葉のフルネームを漢字でどう書くか小夜に聞いて、スマホにメモした。
「詩葉さんは今、どこにいますか?」
「1階にいるはずです。彼女は教団の幹部なので、1階に寝泊まりしてます」
 聴き取りを終えた後、綿引は涼香と一緒に屋上へ上がった。
 屋上へ上がるには1つしかない階段か、館内に1つしかないエレベーターを使うしかない。ちなみに虹羽は階段で上がっていた。
 2人の刑事も階段で、屋上に行く。夜風が冷たい。小夜の証言通り、屋上は照明に照らされており、死角もない。
 誰かが潜めるような物陰はなかった。屋上の中央にはまだ遺体がある。鑑識の担当者達がデジカメで写真を撮っていた。
「死因は、わかりそうか?」
 鑑識の1人に、綿引が質問する。
「後で検視官が調べないと断定はできませんが、転落死じゃないかと思われます」
「転落死? でもここは屋上で、ここより高い建物なんかないぞ」
「でも、近くに鈍器もなかったんですよね? それにガイシャの頭部の近くに、何かが激突して、屋上の床がひび割れた跡があります。逆に頭部の方には、床の破片がいくつも食いこんでいますし」
 言われてみると、確かにそうだ。
「飛行機やヘリから転落でもしたって事?」
 一緒にいた涼香が、疑問を口にする。が、その後調べた結果、飛行機やヘリコプターなどが土曜日23時から日曜午前2時までの間に飛んでいたという記録はなかった。
 また、この時間帯1階で教団のメンバーが交代で警備に当たっていたが、誰も飛行機やヘリコプターが飛ぶのを見た者はいなかった。
 その後捜査の担当者が総出で、周辺のビルやマンションにも聞き込みをしたが、警備員や住人でその時間外を見る機会があった者で、飛行機やヘリを見た人物はいない。全く不可思議な事件である。


手のひらのイリュージョン(ミステリ小説第3話 舞い降りた鶴)|空川億里

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