手のひらのイリュージョン(ミステリ小説第15話 謎は解かれる?)
スマホの画面にはニュース番組が流れており、そのキャスターが、3人のマイクロノイドを殺害したグレートノイドの男を警察が逮捕したと報じていた。
「グレートノイドの世界は、我々よりテクノロジーが進歩している。スマホはすでに使われず、もっと便利なアイテムを使うのがデフォだ。我々がなぜスマホを使うのかというと、ミニ東京構想が立ち上がった西暦2020年代の世界で主流の通信機器だったからなのだ。まあこれも、グレートノイドの受け売りで聞いた話だが」
本山は、そう続ける。
「本山さんの話が本当なら、何でかれらは自分の存在を隠すんですか? 最初から僕らがマイクロノイドだと説明すればいいじゃないですか」
「それが最初は隠す気はなかったそうなんだ。最初ミニ東京が作られた時、グレートノイドは自分達の存在を隠さず、何か問題があった時に我々の先祖をフォローしていた」
本山は解説した。
「ミニ東京だけでなくミニ大阪、ミニ京都、ミニ名古屋など、複数の都市が作られたんだ。ちなみに大阪も京都も名古屋も日本の都市だ。東京都は元々江戸という名前だったが、京都から天皇という君主が移り住んだから、名前が東の京都、つまりは東京都になった」
本山の話ではグレートノイドの統治する日本では立憲君主制というシステムがとられているそうだ。
象徴としての天皇がトップにいるが、実際の政治は国民投票で選ばれる議員が行っていた。
「それぞれのミニ都市は、いずれも政治体制の違う都市国家として発足したそうだ。しかしこれがいけなかった」
「どうしてですか?」
不審に感じて、綿引が質問する。
「都市国家という体制をとったためナショナリズムが生まれたのだ。健全なナショナリズムにとどまっていればよかったのだが、都市国家間で互いに相手を憎悪するファシズムの芽が育まれ、グレートノイドの知らないところで兵器を量産しはじめたそうです」
「誰もそういった動きに対して抵抗しなかったんですか?」
「そういう方いたようですが、過激な国粋主義者によって非国民と決めつけられ、刑務所に入れられたり、嫌がらせを受けるようになった。排他的な極右政党がどのミニ都市でも与党になり、戦争の機運が高まった。そしてついに都市間で戦争が起きたのだ。その大戦でどの都市も壊滅的な打撃を受けたそうです」
「その間僕らの創造主のグレートノイドは一体何をしてたんです?」
問いかけながら、自分の言葉に揶揄が滲むのに気づく。
「戦争はグレートノイドの知らないところで秘密裏に進められ、勃発した時には、手のつけられない状況になっていたと説明を受けました」
本山は、解説を続行する。
「荒廃したマイクロノイドの社会を立て直すため、今度は戦争にならぬようミニ東京1ヶ所に新人類を集めたのです。戦乱による文明の荒廃で、当時我々の祖先は知的レベルが低下し、退化したそうです。そのかれらを再び文明化する際に、グレートノイドは自分達の存在を、消すと決定したんです」
「自分達の存在を?」
「そうです。それまでは、自分達の存在を見せていたので、マイクロノイドは隠れて武装化したわけです。それを防ぐためグレートノイドは自分達の存在を消し、我々には、まるでこの世界が東京しかないように思わせたのです」
「そして、真相に気づいた者を抹殺したと」
「その通りです。が、それは、グレートノイドの総意ではなく、監視担当だった犯人1人の意思によると、私は説明されました」
「それが、ニュース映像に映っていた犯人ですか?」
綿引の疑問に、知事はうなずいた。
「天に浮かぶ太陽や夜の星空は、ホログラムでできてます。ただし天体の運行は、実際の天体を正確に映像化しています。あなたのお父さんは、その天体の動きから、東京が世界の中心にあり、その周囲を天体が回っているという事に疑問を抱くようになりました。犯人は勝手な判断で、あなたのお父さんが公園の池のそばにいる時上から手で押さえつけて、溺死させたのです。それで池の水があふれてしまったわけですね」
本山は同情するような、暗い表情になった。
「そういう経緯だったんですね。知事はそこまで説明を受けてらっしゃるんですね」
「そういう事です。警視庁の捜査情報もグレートノイドの警視庁に提供しています。そして次に殺されたのが、蓬莱虹羽さんですね。捜査の過程で二重写しになった月の画像が見つかったかと思いますが、あれは上空に投影されたホログラムのバグです」
「それで蓬莱さんは、この世界の秘密に気づいたわけですか?」
「少なくとも、犯人はそう感じたようです。彼は、かつてのマイクロノイドが始めた戦争の悲劇が繰り返されるのを防ぐためには、秘密を知った人物を殺すべきという歪んだ価値観の持ち主だったようです」
鎖でつながれてしまったような、重苦しい口調で、知事が語る。
「蓬莱さんの時は、彼を捕まえて拉致しようとしたそうです。ですが蓬莱さんが犯人の指を噛むなどして反撃したので落としてしまい、被害者は屋上に墜落して絶命しました。残念な事件でしたが蓬莱さんの口に犯人のDNAが付着したため、それを鑑定する事により、逮捕する事ができたそうです。逮捕前に、七沢記者まで殺されてしまったのは、悲劇ですが」
「3人共殺されてはならなかった」
綿引はつぶやいたが、虚しく言葉は室内に響いた。
「本山さん、当然あなたはこの件を、ミニ東京の人達に公表なさるおつもりですよね?」
