連載開始 会社あるある① フリーアドレス

ーー自由席はだいたい不自由
フリーアドレスを導入したことがある。
いわゆる「固定席をなくして、
好きな席に座るやつ」だ。
導入説明では、
「コミュニケーションが活性化します」
「部門を超えた交流が生まれます」
と、だいたい同じことを言われた。
初日だけは、確かにフリーだった。
みんな少しそわそわしながら、
「今日はここにしてみようかな」
なんて言い合っていた。
ただ、その自由は長く続かない。
二日目には、
「この席、モニター見やすいな」
三日目には、
「電話取りやすいな」
四日目には、
「なんとなく落ち着くな」
となり、気がつけば“いつもの席”ができていた。
フリーアドレス最大の敵は、モニターだと思う。
一度、自分のモニターを置いた瞬間、
そこはもうフリーではない。
完全に「自分の席」になる。
営業はさらに厳しい。
電話が固定だと、鳴る席から離れられない。
結局、
「自分宛の電話が鳴る席」=固定席
になる。
不思議なのは、
誰も「ここは俺の席だ」とは言わないことだ。
でも、なんとなく分かる。
その席には、
触れてはいけない空気がある。
しばらくすると、
「今日はどこ座る?」
が、朝一番の業務になる。
さらに進むと、
「誰がどこに座っているか分からない」
という問題が出てくる。
そこで、ついにやってはいけないことが起きた。
フリーアドレスなのに、座席表が作られた。
誰が、
だいたい、
どのあたりに、
座っているかを示す、
あの懐かしい図だ。
自由席だったはずなのに、
「分かりやすくするため」という理由で、
座席表が貼り出された瞬間、
この制度は静かに終わった。
最終的に残ったのは、
「半固定席」という、
よく分からない名前の仕組みだった。
フリーなのか、固定なのか、
誰にも説明できないが、
とりあえずそう呼ぶことで、
みんな納得したことにした。
結局、人は自由が欲しいと言いながら、
毎日違う席に座るほど、
器用でも強くもない。
自由席は、
だいたい不自由だ。
フリーアドレスは失敗だったのか。
たぶん、そうではない。
ただ、人間の性質を、
少し甘く見ていただけなのだと思う。
※本シリーズはフィクションです。
どこかの会社に似ていても、たぶん気のせいです。
谷中万世(やなかまんせい)
通称 やなまん
会社あるあるは月1回(毎月15日)のペースで
連載予定です。
