邪道作家第五巻 狂瀾怒濤・災害作家は跡を濁す 分割版その4
新規用一巻横書き記事
テーマ 非人間讃歌
ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)
縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)
5
誰かの為。
これほど醜い理由はあるまい。誰かのために殺し誰かのために倒し誰かのために始末する。まぁ意味も結果も同じだが、彼らは「倒す」という言葉を使うことで、自分たちが悪いことをしていない、「悪者を」倒しているだけだ。とそう思いこみたいだけらしいが。
ちなみに私が「始末」という言葉を使うのは、単純に言葉の響きがいいからである。
それ以外に、特に意味はない。
私はそもそもが、私個人の幸福のためならば、文明の一つ二つ滅んでも構わないと、常日頃から思っている人間なのだ。そんな人間に、人間かどうかは知らないがそんな私に、「罪悪感」などという下らない自己満足の自己嫌悪など、持つはずもない。
罪悪感ほど下らない感情も無い。
抱いたから、何だと言うのだ。
それで誰が救われるわけでも無いだろうに。
まぁ私は誰が救われようが、私個人の利益に関係なければ、どうでもいいがな・・・・・・そう言う意味ではやはり、自分で勝手に自己嫌悪して、よくわからない内側に入る人間というのは、人類が滅んでも自分の目的、利益さえあれば笑っていられる私のような人間とは、真逆すぎてわかるまい。 悪を自認することが難しいと人は言うが、産まれて生きている以上、何かを踏み台にする「悪」だ。生まれついての悪というなら、人類はすべからくそうではないか。
私から言わせれば、皆悪だ。
悪に多寡など存在しない。
言い訳がましく認めないか、どうかただそれだけの違いでしかない。悪を自認することが難しいと思うなら、鏡を見ろ。
そこに悪はある。
誰にでも、存在する。
善性についても、同じだ。そもそも人間が勝手に作った概念だが、見方を変えれば「善」でないと、全ての側面からそうあること、そんなことは不可能だろう。
何かを破壊する時点で、誰かは儲かる。
世の中そんなものだ。
実に、陳腐な台詞だが。
「主人公」の如く、人々に必要とされる人間像を、ヴィクターは演じていたらしいが・・・・・・ならば必然的に、彼の周りに集まった人間達は、そういう「自覚」の無い人種だろう。
物語におけるヒロインのような。
助けられることくらいしか存在意義が無いくせに、それらしい綺麗事だけは述べる人間。
絶対に相容れそうにはない。
悪性がない存在など人間どころか、そんな奴は生き物ではないと考える私に対し、彼ら彼女らは善性こそが人間には備わっていて、正しい道を歩いていれば「誰一人として傷つけず生きる」ことが可能だと、盲信している。
その考えそのものが、「持つ側」の余裕ある台詞でしかないことに、彼らは気づく気にもならないのだろう。私などより狂っている。
正しい道を歩くということは、つまりそのために邪魔者は排除し、的を倒すと言うことだ。仮に全ての戦いを避けるならば、尚更そんな存在は生きているとは言い難い。
正しさなど、ただの都合の善し悪しだ。
宗教も政治も道徳も、全て似たようなものだ。思うのだが、「組織」の正しさを盲信したり、あるいは今回のように誰か一個人の「思想」が正しいと考える人間というのは、その対象が倒れたときに、どうするつもりか考えてもいない。
生きる、ということはアテのない広野に道を切り開いて行くことだ。その道を誰か他人任せにして、そのくせ今回のように私のような、糾弾できそうな人間に糾弾し、カネをせびる。
要は、金だろう?
慰謝料とか被害者の心の痛みとか、無責任だとか、権利の有る無しだとか、何かある度に自分たちの「正しさ」を主張する人間が多いが、要は当然の対価として金が相応しい量払われていないから、そんな行動をとるのだ。
素直に金が欲しいと言えばいい。
被害者ぶって誠意なんて形のないモノを求める時点で、金をせびっているのも同然だ。
生きるだけなら金さえあればいい。
誇りが欲しいのなら己の魂を、形にするしかないだろう。それは芸術であり機械であり、システムであり機構だろう。何かしら人間は作りあげることで、自身を表現できるモノだ。
人生に意味が欲しいのならば、生きることに目的を与えればいいだろう。どうせなら壮大な奴がいい。求めもしないで願いが叶うことなどあり得ない噺だ。
だが、最近は求めもせず、そのくせ夢があればと嘆き、かといって目的のない人間が増えている・・・・・・生きるだけなら金があれば事足りるが、残念ながら彼らには金さえ足りていない。
遂げたところで叶うかどうか、半信半疑で道を歩き続けてきた私には、分からない話だ。
人間の数が多くなったのは事実だが、だからといって余分な人間という枠ができたわけでもあるまいに。いや、出来ているのだろうか?
代わりの効く才能。
代わりの効く人材。
代わりの効く労働。
何かを成し遂げて金に換えることが仕事だというならば、人の都合で動くのは労働だ。そして労働を扱う側は金になる。何もない場所から仕事を確立し、道を切り開いていくのは至難の業だ。私が言うのだ間違いない。だが、至難だからと言って、目指しもしない人間が多すぎるのも、また事実と言って差し支えないだろう。
代わりの効く労働に身をやつしていれば、考える必要も悩む必要もなく、何かあったら社会に責任を迫れるし、楽なのかもしれない。無論、望んでその道を選ぶ人間もいるのだろうが、果たして何人が「自分」で選んで「自分」で決めているのだろう。
少なくとも、これから会う人間達に、そんなモノが無いのは事実だ。扇動されただけの人間に、そんなモノがあろうはずがない。
坂を下り、孤児院らしきボロボロの建物(私から言わせれば、金にならない主義主張など道楽に等しい。つまりはそういう類だった)があり、小汚い子供達と、それを指導するであろう衣服の汚れた職員らしき姿も見えた。
選択を素手で行う人間を、久しぶりに見た。
とりまとめ役らしい女職員は「お客様がいらしてるから、後でね」と子供達をあしらい、私の方へ足を運んできた。
「こんにちは、私が、ここの責任者です」
言って、爽やかに会釈をする。こういう類の人間とは相容れそうにない。泥沼の底で笑っていられる、変にかしましい部類の女は。
警戒しつつ、私は答えた。
「ここの職員、李さんに呼ばれてな。来たくもないが、こうして足を運んだ」
「はは、すいません。どうぞ、中へ」
言って、私は案内されるがままに中へと足を進めた。勿論、いつでも切り捨てられるように、警戒は怠らない。
善良そうだからと言って、善良であるとは限らない。
案外、突然襲いかかってくるかもしれないではないか。宇宙船内で女の手が襲ってくるのだから何が起きても不思議ではあるまい。
中へ進むと、私は待合室(コーヒーは出ないし机は汚い。これで何を待ち合わせるのか不明だ)へと案内され、私は言われるがままに椅子へと座った。
「飲み物は」
如何ですか、と言おうとしたと思うのだが、こんな汚らしい場所で出される飲み物を飲みたくはない・・・・・・思いやりの心が美しいのかは知らないが、不味い飲み物を出されれば不味い。
人をもてなすなら豆くらい挽け。
噺はそれからだ。
だから。
「結構だ」
とにべもなく断った。間髪入れなかったので、機嫌が悪いと思われたことだろう。当然、あんな脅迫まがいの方法で呼ばれたのだから、機嫌がいいはずもないのだが。
「用件を話せ」
「わかりました」
言って、女も椅子に座った。
「私はアシュリーと言います。ここの事務員兼教育係です」
「それで」
「はい。えっと・・・・・・ヴィクターさんのお話は聞きました。彼が私たちの養育費を賄ってくれていて、そのおかげもあって私たちはここにいます」「だから?」
私に何の関係があるというのか。
と思ったら、ありきたりな理由だった。
「ええと、ヴィクターさんが生前、今も生きていると言えばいるのでしょうが連絡取れませんし・・・・・・「何かあったら使って構わない」と仰られていたお金があるはずなのですが、何か知りませんか?」
金をせびるだけか。
下らない。
生前言っていたから何だというのか。
「知らないな。私は個人的に金を貰ったが、その金が仮に、だが。おまえ達の使う予定だった金だったとしても、知ったことではない」
「そんな。ええと、ごく一部でいいんです」
ごく一部でいいので無料で下さい。私たちは哀れで救われるべき人間です。だから慈悲の手を。 下らない。
救いの手も強要すればただの脅迫だ。武力で脅しているのと変わらない。大体がこの女達は決して自分たちでやり遂げる気が無い。
救われるべきだから金を貰った。
いままで、恐らくはそんな感覚で寄付金を使い込んできたのだろう。そんな感覚で金を使い、そんな軽い気持ちで金を強請る。
醜悪そのものだ。
「断る。一切貴様等にくれてやるつもりは無い」「だから言ったろう」
そう言って割り込んできたのは、李とかいうあの暴力女だった。宇宙船で私を襲い、妹のためだから殺人を犯しても構わないなどと抜かす、壊人の一人だ。
「最初から奪っちまえば良かったんだ。元々が、私らが貰う予定だった金だぞ」
「やめて下さい」
などと言う下らないやりとりを見て、面倒だなぁと思った。子供だからとか、女だからだとか、社会的弱者なので貰って当たり前というスタンスの人間というのは、見ていてつまらないしな。
「もういい。私が提示できるのは一つだ。このまま私に関わらないことだ。邪魔をするならここの子供達ごとお前達を「始末」する」
「てめぇ! 良心のかけらも無い奴だな」
腐ってやがる。などと抜かすのだった。
子供は殺せば罪になるが、金を持った人間を殺すことや悪人を死刑にすることは、恐らくは彼女の中では「合法」なのだろう。これは宗教でも言えることだが、まるで「死んで良い人間」と「死ぬことが理不尽で正されるべき人間」がいるかのように描写されることが多い。
子供も大人も女も男も。
同じ人間だろうに。
何人殺そうがそれはまた人間であり、何人汚そうが元が人間であることは変わりあるまい。
悪人であれば死んで良い。
善人は死ぬべきではない。
馬鹿なのかこいつらは。
生きていれば他者を殺すのなんて当たり前ではないか。誰かが生きるためには誰かが死ななければならない。資本主義とはそういうものだ。
人を殺して良い理由は無いが、殺してはいけない理由もまた、存在すまい・・・・・・当人達がどう思いこむか、ただそれだけだ。
敵の首を取ることが「正義」の時代もある。
人を殺すことが「邪悪」の時代もある。
ただのそれだけだ。
いずれにせよ、自分たちの勝手な倫理観を、押しつけないで欲しいものだ。何か仕事を得ると言うことはその仕事を得るはずだった人間を殺す行為で、何か食べ物を多めに輸入することは、生産地での阿鼻叫喚を容認し、他の国が多少飢えて死んでしまうかもしれないことを、見ぬ振りして忘れる行為だ。
生きるだけで人間は殺している。
例外などあるものか。
澄まし面して勝手に納得しているだけだ。
「それと、私の生活と、何の関係が?」
「未来ある子供を見捨てるつもりか?」
「ちょっと、李さん」
私はアシュリーの方へ立って近づき「お前は卑怯だな」と、とりあえず糾弾した。
「え?・・・・・・何が」
「そうやって、優柔不断なフリをして、物事が片づくのを待つつもりか?」
「そ、そんなことは」
「だが、誰も助けてはくれないぞ。お前もこの施設も、たまたま目について助けられていただけでしかないんだ。お前達がどれだけ「悲劇のヒロイン」を気取ろうが、そんな下らない連中に出す金なんて、無い」
「そんな」
「そんなこと酷すぎる。助けてくれって? 御免だね。私は別に、お前達がどれだけ悲惨であろうが関係ないしな」
「お前」
と言って、李は私につかみかかるのだった。
「恥ずかしくないのかよ。ここは、親もいない子供達が収容されてんだぞ! 中には、臓器輸出一歩手前の奴だっている」
「だから?」
「だからも何も・・・・・・助けて当然だろうが」
「何故?」
「何故って、お前」
「道徳的に、正しいから? だから、何だ。それと私の生活と、何の関係がある。お前達みたいな「悲劇のヒロイン面のバカ」に寄付する事も結構な度合いであるにはあるが、どれだけ多めに金をくれてやったところで、別に因果は応報しない。金を渡したところで、お前達が自分勝手に「ありがとう、これで助かったよ」と言うだけだ。そんな下らない自己満足に、付き合う理由など、あるはずがないだろう」
「そんなんじゃねぇよ。ただ」
「ただ、何だ?」
「困ってる奴を見て助けるのは、当たり前のことだろうが」
ふざけるな。
誰しも、困ってはいる。豊かであろうが、それは同じ事だ。無論、たまたま手が合いたら、あるいはそういう気分だったら、少しは助けることもあるだろう。気分が乗れば、無駄使いではあるが寄付に金を払うことも、やぶさかではない。
だが、それを押しつければ脅迫だ。
道徳の欠片もない。
ただ押しつけがましいだけだ。
「最近、湿気が酷くてな」
「は?」
何の噺か、わからないらしい。当然だが。
私は噺を続けた。
「この惑星でも、体力を持って行かれやすくて困っている。聞くが、お前・・・・・・そんな私を、お前は助けたことはあるのか?」
「ッ!・・・・・・それとこれとは」
「同じだ」
私は断言した。同じだ。
お前等の道徳心は、それと同じだ。
弱きを助け強気を挫く。言葉面は立派だが、その強い弱いの基準は、身勝手な指針によって決められるモノだ。
はっきり言って迷惑極まりない。
「お前達の下らない自己満足に付き合う気は、塵一つ分もありはしない。私は帰らせて貰う」
そう言って、半ば強引にその場を後にした。
こういうのはさっさと引き上げるに限る。私は追跡されないように複数の宇宙船を予約し、高くて貧乏人の奴らでは入れない、ファーストクラスのみの豪華船で、宇宙へと旅立つのだった。
6
「変なケチがついたな、先生」
そういうのはジャックだった。確かに。ああいう手合いは面倒だ。揉める前に引き上げられたのが、唯一の救いか。
「俺にはよく分からないねぇ。どうして、「救われるべき人間」なんてカテゴリが存在する?」
「・・・・・・人間は基本的に「自分は正しい」と思い込みたい生き物だ。だから自分を肯定する能力の低い人間は、組織的な正しさや倫理的な正しさ、そういった「正しそうなもの」を伝聞だったり周囲の空気に会わせたりで、そうあることで「正しくて善良な人間」というステータスを守りたいのだろうな」
「先生にはまるで当てはまらねえな」
「大きなお世話だ」
正しさよりも実利が欲しい。
そういう意味では、必要ない。
役に立たないしな。
「正しさが役に立つシーンなど、大量虐殺を正当化する場合くらいだろう。使い道がない」
「そういう発想がパッと出るあたり、先生も相当なものだと思うぜ」
「私はどうでもいいがな」
他者の評価など、どうでも言い噺だ。
金を貰えば、考えるが。
考えるだけで、やはり意識には入れないな。
人間の不幸の対義語など、精々が金と女と健康と、そのくらいのモノだ。他には、食い物と優越感と支配欲と、まぁそんなところか。
どうでもいいがな。
どうでも良くないのは、金だけだ。
つまり私個人の豊かさの有無だけだ。
他のことなど、どうでも良さすぎる。
「貧乏でも良いから愛してくれるかと聞く、そういう女がいるだろう? 馬鹿馬鹿しいことに、愛さえあれば「不幸せ」に成ってくれるよねと、そう脅迫しているわけだ」
「極端だなぁ」
「だが事実だ。綺麗事や誠意、などというのは、結果そのものだ。だというのに、過程が美しければ「尊い」から別に良いよなと、例えどれだけ人間が死のうが、相手が犠牲になろうが、許容してくれて当然。そう思っているのさ」
「俺にはよく分からない話だが、人間ってのは、愛を求める生き物だろう? 愛さえあればいいってのは、駄目なことなのか?」
「それとこれとは関係あるまい。愛があろうが金は必要だし、過程が尊いから殺人を許す人間というのは、ああいう、自分たちを正しいと盲信している生き物になる。醜悪そのものだ。金があるからこそ行動は誠意になる。頑張っていようがいまいが、倫理的に正しかろうが、結果が全てだ」
「その考えは危うくないか?」
「ほう」
私はコーヒーを飲み、ソファに身を預けながら続きを聞いた。
「だってよ、過程だって大事だろう。過程に信念がなければ、それこそ先生の言う「中身のない」モノが、世間に溢れかえるんだぜ」
「事実として、力を持つのは内実が伴わないものだ。そもそも、内実の善し悪しなど結果が決めることでしかない。金が決めることで、人間の意志はモノの善し悪しに介在しない」
「ミロのビーナスとか、まさにそうじゃないか・・・・・・価値の分かる人間が、後生へ伝えることだってある」
「だが、広めるには金が必要だ。聖人ですら、銀貨で仲間を売っている。確かに、中身がないのは問題だが、私が言いたいのはだからって、金が、結果が「無くてもいい」という事には、絶対になり得ないと言うことだ」
「確かにな」
言って、彼はどうやら私の携帯端末で勝手にゲームをしているらしく、シューティングゲームの画面に切り替えた。
「思うんだけどさ」
「何だ」
「先生は人間が嫌いなんじゃないのか」
「さてな。私の嗜好など、それこそ金次第だ」
「そりゃー面白いな」
だがよ。と彼は続けて言うのだった。
「結果なんて、ある一定を越えれば無意味なものだぜ。金だって、ある程度ありゃあ、人間は一生生きていける。ありすぎも問題だと思うがな」
「だろうな。ありすぎたところで、正直邪魔なだけだろう。無いよりはマシだがな。金にしたってありすぎれば敵を生み、権力に翻弄され、地位を危ぶまれるモノだ。あるに越したことは無いが、少なくとも私は、それなりの金が欲しい」
「幾らでも、ではなくか?」
「あるならいいだろうが、な。まぁそこまで金に恵まれる状態になれば、歴史を加速させる手伝いでも、するだろうな」
「いつぞやの教授みたいな事言ってるぜ」
「私の場合、ただ科学技術が面白いモノを作り上げるのを、期待しているだけだ。物語も、まぁ面白いモノが作れるのなら、投資するのも良さそうだ」
面白いモノを作り上げる。
と、言うよりも、そういうモノを作りやすいように、早く沢山他でもない私が、それらを可能な限り多く。知られるように、金を使うだろう。
「すぐ飽きるくせに」
「いいんだよ。私が満足できればな」
「アンタ最悪だぜ」
「知っているさ」
それこそ、どうでもいいことだがな。
「私の人生には愛も美しい過程も、ないのだからな・・・・・・人生が金にまみれて何一つ本物に届かなくても構わない」
それで私は満足できる人間だ。
いや、出来なかったところで選択肢など、ありはしないのだが。
「それでも幸福だと、まぁそういうことにしておくとしよう」
「やれやれ、素直じゃねぇなあ。人生に本物が欲しいって泣いて叫んで懇願してもいいんだぜ」「してどうする。金にならなければ、どのみち噺にならない」
「そうだけどさ」
「実利があって初めて、人間の意志は尊いと言うことだ。少なくとも、実利も権威も無い誠意などに、頭を垂れる人間はいない。いるとすればそれは趣味の感覚で「いいこと」をしている暇人だけだ」
つまりああいう人間達だけだ。
私には関係がない噺だ。
「やれやれ、そこまで行くと感服するぜ。アンタみたいに人類全体が開き直れれば、世界は平和になるのかな」
「ならないな。だが、長期的には平和になるだろう。邪魔者を全て消し去り、統一した国家になるだろうからな」
「おっかないねぇ」
「私でなくても、既にそうなっているさ」
事実、銀河連邦などと銘打ったところで、実体は複数の国家の集合体だ。発言力のある国家にとってのみ、有用なサービスでしかない。
複数あるかに見えるだけだ。
人間社会は、とうの昔に金で統べられている。「なぁ、先生。一度先生に聞いてみたかったんだが」
「何だ。有料だぞ」
「・・・・・・先生はもし、無尽蔵の金と、寿命を手に入れたら、どうするんだ?」
何かやりたいことでもあるのか、と彼の立場からすれば至極当然の質問を投げるのだった。
投げられたところで、答えは決まってるが。
「決まっている。毎日を楽しく、かつ面白い物語を読みふけり、コーヒーと豪華な茶菓子を食べ、趣味に生き、暇が余ったら物語を綴るだけだ」
「今と変わらない気がするんだが」
「変わらないさ。物質的な余裕があるという点以外は、何一つ変わるまい」
「先生が物質的に満たされて満足する様も、想像つかねぇけどな」
同じ事だ。
精神的に、物質的に満たされるというのは。
どちらも満たす条件を揃えるために、人間は四苦八苦するわけだからな。
「そういう意味では、やはり物語なんぞ余裕のある人間の娯楽なのだろうな。夢を魅せるにしても余裕のない人間からすれば、ただの綺麗事だ」
「そうかな」
「そうさ」
「俺はそうは思わないぜ。人間の形なんだよ。だから惹かれる物語があり、惹かれない物語があるのさ。物語に陶酔すると言うことはつまり、その物語の作者の思想に傾倒することだ」
「何の問題がある?」
「問題だらけさ。だって先生はさ・・・・・・そういう人間の可能性を、信じているんじゃないのか? だからこそ、物語を読むことを、やめられないんだ」
人を信じることの出来ない先生が人間の可能性を信じているなんて傑作だ。そう彼は笑った。
私も笑い返すことにした。
「当然だろう。可能性だけならばどんなゴミにでもあるからな。現実には何の可能性もないゴミ共の可能性を夢想するのは、楽しいものだ」
「やれやれ、アンタ
船体が揺れる。
「何の音だ」
船内アナウンスが流れた。
「あーテステス。これからお前の持っているチップを頂く。当然の権利としてな。だから抵抗するなよ」
とそんな横暴なことを言う、正義の味方ごっこをしている女、李の声が聞こえるのだった。
「だから言ったろう? こういう下らないことに関して言えば、人間の可能性は無限大だ」
6
私は縛られていた。
どうしたものか・・・・・・幸いと言うのか、私ならこの女の思想、主義主張を口先だけで破壊できるのだ。そうすればこの女は多分、壊れてしまうかもしれないが、まぁ知らないし関係あるまいと、私は思うのだった。
関係あったところでやはり知らないが。
いずれにせよ自分勝手な正義の味方馬鹿の未来が泥色になろうが、私に未来には関係ない。
私は囁きかけることにした。
取引を持ちかける悪魔のように。
「・・・・・・あの妹、アシュリーとか言う妹分は、喜んでくれたか?」
「ああ?」
銃を持って乱暴に答える李。
私は黙秘し続けたので、何発か私を殴った後に自分で探している最中だった。
「妹のため、なんだろう?」
「それがどうした」
「まぁ実際は妹のためではなく、「頼れる姉」として尊敬されたいだけだがな。お前は尊敬されて「お姉ちゃんは凄いね」って言って欲しいだけ、ただの下らない自己満足だ」
「お前に何が分かる」
「分かるさ。知られたくもないことだけは、私は知っている者でな。作家なんてそういうものだ。頼まれてもいないんだろう? 誉められたくてこんなところまで、金を回収しにきた」
「違う、私はアシュリーの為に」
「嘘をつくなよ、お前は誉められたかったんだ。そして「凄い」と思われたかった。ただのそれだけだ。好きな相手を虐めるガキと変わらない。妹分に「良いこと」をすることで救われようとしている卑怯者だ」
「黙れ」
凄んで私を睨む李だった。随分と脆い精神だ。こんな精神でよく生きてこれたな・・・・・・あるいはそれこそが人間らしさなのか。
どうでもいいがな。
問題なのは今ここでこいつの精神を破壊し、ついでに肉体面も壊すことだ。
「よくそこまで自己満足に傾倒できるな。拍手してやろう。良かったな、おめでとう。だが残念ながらお前の妹分は全く喜ばないぞ」
「何故、そんなことがお前に」
分かる、と言おうとしたのだろう。
私がサムライの刀(何かいい愛称があった気がするが、忘れた)で縄を切り、携帯端末の画面を見せてやったからだろう。画面の向こうには姉である李を、恐れおののきながら見る、妹分のアシュリーの姿があった。
「見ているかアシュリー。こいつはな、こういう女なんだよ。お前のために何人も殺している」
「やめろ!」
そんな風に叫ぶ李をよそに、彼女は「本当なんですか?」なんて、白々しくもヒロイン気取りで聞くのだった。
関心があれば、気づいていてもおかしくもないと思うのだが、関心を持ちたくもなかったのだろうと、私は結論づけた。
「酷いよな。お前には内緒で、お前の為にと、「そういうこと」にして、罪悪感を減らそうとしているんだ。最低だな」
「最低」
と繰り返すアシュリーの姿を見て(実際にはただ無防備な精神が、言われたことを復唱しているだけなのだが)李は精神的に相当堪えたらしかった。
人を殺しても罪悪感がない人間が、大切な人間に嫌われれば傷つくというのか。何とも身勝手な奴らだ。
「本当はお前だって、李のことが嫌いだったんじゃないのか?」
「・・・・・・そんなことは」
「おい、やめろ。やめてくれ」
「考えるということは、返事に窮すると言うことは、つまりそういうことだ。本当は鬱陶しくて仕方がなかったんだろう。良かったな、これでお前の望み通り、この鬱陶しい女は消えてくれるぞ」「そ、そんなことは」
無い、と断言しようとして詰まっていた。
いいぞ、もう少しだ。
手間暇がかからなくて良かった。
「李だって、お前のことなんて、人をぶっ殺すのに便利な理由として「使用」していたわけだからな。別に構わないさ。お前達は本当のところ、全く信じ合っていなかったのだから」
「そんなことはない」
そういって吠えたのは李だった。銃を私に向けながら、だが。
震えながら言われても説得力は無いが。
「私は、妹のためなら何だって」
「だがこうして妹の為に殺すことは知られたくなかった。知られたら嫌われるよな。「そんなこと頼んでいない。お姉ちゃんなんて大嫌いだ」と拒絶されることは間違いないだろう」
「そ、んなことは」
「見ろよ、この映像越しの光景を・・・・・・お前のことを化け物か何かを見るような目で、見ているじゃないか。見ての通りお前のやったことは下らない自己満足で、妹分からすれば嬉しくも何ともなかったのさ。どころか、これでもっとお前のことを嫌いになっただろうな」
私は李の耳元で「人殺しなんて汚らわしいと、アシュリーは思っているぜ」と囁いた。
実際には人が人を殺すことなど、歴史の観点から見ても事実として珍しくもないのだが、モラリストという奴は自分たちがモラルに反していると思われることを、病的に嫌う。
自分たちは絶対的に正しいと、思っていなければ壊れてしまうのだ。
だから壊すわけだが。
この方が楽だしな。
李は既に涙ぐんでいた。
「ち、違う。違うんだアシュリー。私はこいつを殺すつもりなんて」
「あったというわけだ。見ろよ、この銃。殺しておいてきっと、お前には「話せば分かる奴だったよ。くれたんだ」とか言って、私の血を拭った金で、お前達を助け「妹に感謝される自分は凄い」と思いたかったんだろうな」
「わた、わたし、私は、ただアシュリーの」
「為に殺そうとした。よかったなアシュリー。お前も今までこの女に善意を向けられていたのだろうが、その本意もはっきりしただろう。いままでお前が貰った善意も、金も、モノも全て、きっとこの女は殺しまくってお前に与えたんだろうぜ」 見ると、アシュリーは腰が抜けているらしく、漏らしながら地面にへたり込んでいた。だがこの程度ではまた復讐とか考えられても面倒なので、きっちりと壊しておくことにした。
「どんなんだ李? 妹に死体を押しつけるのは気持ちよかったか?」
「ち、違う」
「何が違う。人を殺して「ああこれはアシュリーの為だから」って言い訳をして誤魔化して、自分を満足させる下らない自慰行為は、楽しかったのかと、そう聞いているんだぜ」
「違うんだ」
「そうだよな。アシュリーのためだ。彼女のためなら人の100や200殺したって仕方がない。良かったなアシュリー、お前専属の殺し屋だ。気にくわない奴がいたら李に相談すればいい」
「違うんだ」
「気にくわない奴の一人や二人、いるだろ? そういうときは李姉さんに相談だ。お前のいる孤児院の仲間だって、気にくわなければ殺してくれるさ」
「ひ、ひぃい!」
と言ったのは画面越しのアシュリーだった。まぁこの娘には戦闘力は無いだろうし、心だけへし折っておけば大丈夫だろう。画面越しとは言え、死にたくなるように誘導することは出来るし、そうしておくか。
「アシュリー。責任はとらなくちゃな。李はお前のために多くの人間を殺した」
「わ、私は何も」
知らなくて、というアシュリーに私は追い打ちをかけるのだった。
「お前のせいだ、お前のせいだ、お前のせいだ。人を殺しておいて生きていようなんて図々しいぜ・・・・・・人を殺した人間は、死ななくちゃいけないんだ」
どの口が言うのかと思わなくも無かったが、まぁ知らん。知ったことではない。あの世とかいう訳の分からない世界で裁かれるとしても、多くの寄付をしてやっている以上、神だろうが仏だろうが、文句を言われる覚えもない。理不尽な暴力によって無理矢理地獄へ送られることはありそうだが、しかし金をもらうだけ貰ってその金で信徒を増やして人を救っておきながら、人殺しは悪だという理由で私を地獄に落とすのなら、そんな存在は神でも仏でもなく人間と変わるまい。
ただの理不尽だ。
そして自分が格上だと思いこんでいる馬鹿が、ただ権力や地位にモノを言わせて、無理を通すのはどこにでもよくある噺だ。
神も仏も、所詮その程度だろう。
彼らの基準であの世の行き先が決まるなら、そうとしか言えないしな・・・・・・絶対的な存在だったところで、そいつ個人の考えで審判を下すなら、ただの独裁者と何一つ変わるまい。
正しそうに見えるか、見えないか。それだけの違いでしかないのだ。
大体が神や仏の方が、神話上で殺しているのではないのか?
仏はともかく、神は大量殺戮の好きな奴が多いからな。仏は知らない。暇なら調べてろ。
まぁどうでもいい。
私個人の生活が脅かされなければ。
だから正しかろうと、そうではなかったところで・・・・・・「始末」しておいた方が安心できる。
私個人の安心のために死ね。
私は知ったことではない。
「しな、なくちゃ」
「やめろ! おい、アシュリーを止めてくれ」
「アシュリー。お前のためと言う理由で、この女は多くを殺してきたんだ。そうだ。李のためだ。李の為に今お前が出来るのは、責任をとって死ぬことだけだ」
「やめてくれ!」
「そうだ。そこの近くに刃物がおいてあったろう・・・・・・確か調理場だ」
ふらふらと幽鬼のように、彼女は、アシュリーは刃物を取りに行き、そして電池の切れたロボのように、崩れ落ちた。
「そうだ。あとは腹を裂けば、それで終わりさ」「やめろアシュリー。絶対にするなよそんなこと・・・・・・いまそっちに行くから」
「そして殺すんだろうな。アシュリー、この女はまた殺すぞ。お前のために。責任をとるためには今やるしかない。さぁ、早くやれ」
「ああ、う、あ」
「駄目だアシュリー、私はこんなことのために」「人を殺したんだ。アシュリー、お前のために」 す、と血の気が引いたらしく、アシュリーはどたっ、とその場に崩れ落ちた。
ちゃんと死んだのだろうな。
後から報復を受けることが、私が最も嫌がることだからな。嫌なだけで、その際始末すればいいのだろうが、面倒な上いつくるのか分からないモノを待つのは苦手だ。
「よかったな、李。お前の思い通りだ。お前だって本当は、うざったい妹分に、飽き飽きしていたんだろう? 自分だけ汚れ仕事であることに、うんざりしていたんだろう」
「違う、違うんだ、私はそんなつもりじゃ」
まるで赤子のようだった。あるいは小さい子供か。なんでもいいが、報復できないようにキチッと壊しておかなければな。
「お前のせいだ」
この台詞はこういう人間には効く。
私なら「だから?」と開き直るが。
まぁどうでもいいか。
「お前のせいだ、お前のせいだ、お前のせいだ、お前のせいだ、お前の」
せいだ、と言おうとしたところで、彼女もまたその場に崩れ落ちるのだった。チョロい精神だ。「あ、あ、私は」
「人殺しだ。お前のせいで、妹も死んだかもな」「そん、な」
「つもりだった。お前はそのつもりだった」
思考を書き換えてやるとしよう。
繰り返し刷り込むだけだ。
「お前はこの状況で、本当は「スカッ」とする人間だったんだよ。そういう奴なんだ、おまえは」「・・・・・・」
「そうだ、だから笑え、楽しいだろう? 思惑通り鬱陶しい妹分を死に追いやれたぞ!」
大きめの声で耳元で言う。これがコツだ。
彼女は「ははへひふぇ」と、よく分からない奇声を出しながら、笑った。
「そうだ、楽しいだろう? この状況はお前が作り出したんだ、全てお前のせいだ!」
「ああ、ふあえへへへへぇ」
狂気のような笑いだった。
「そうだ、いいぞ。もっと楽しめ、お前の思い通りに、うざったい妹分を殺せたんだからな」
実際には死んでいるか確認は取れていない、というか多分生きてはいるだろうが、そう強く刷り込んでやった。
「ああ、あぁぁぁああ・・・・・・」
「良かったな」
「ええ、えふぇへぇ・・・・・・」
精神への刺激が強すぎて、幼児退行しているようだった。好都合だ、これなら復讐はできまい。 一応始末してしまおうかとも思うが。
とはいえ、それは精神病院のデータからでも確認できることだし、何よりアシュリーをもう一度始末するだけのために、あの惑星へ赴くのもかなり、大分、面倒だ。
我ながら私に刃向かって命を狙った相手に優しいなぁとか適当なことを思いつつ、優しさなんて強者の勝手な都合なんだなと、変に人間に対する理解を深める私だった。
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例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!!
差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!
