邪道作家第六巻 貧者の牙を食い千切れ 分割版その5
新規用一巻横書き記事
テーマ 非人間讃歌
ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)
縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)
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「やぁ・良く来てくれたね」
その男は所謂「持つ側」だった。
何の不満もないくらいに満たされた環境で生きてきたにも関わらず、劣等感だけはあるらしく、自己顕示欲に支配されながら、ブランド品(私は詳しくないが、しかし目が痛いくらい光り物が多かった)に身を包み、低い身長と少ない威厳で、堂々と私の前に座った。
カフェである。
相手が誰であろうが、私はコーヒーを飲みたいからな・・・・・・待ち合わせは大体そうだ。
いつもとは違って、相手には屈強そうなガードがいて、しかも個室だったが。
こちらに都合がよいとも知らず、馬鹿な金持ちだ・・・・・・男は下品な目つきで、私が連れてきた、貧困地域の聖女を舐めるように見ていた。
無論、彼女の催眠状態は解けていない。
そういう依頼だったからだ。
「くくく」
言って、いきなり聖女の胸を揉み出した。わかりやすい男だ。だから利用しやすかったのだが。 これから死ぬとも知らずに、馬鹿な男だ。
「ありがとう。これであの地域のインフラは思いのままだ・・・・・・鬱陶しいテロリスト共の妨害も、この女の一言で黙るしね」
「そうか」a
長々と小物の言葉を聞くつもりもなかったので私は、とりあえず刀を抜いた。
「何だ? どうしたんだい?」
「金の振り込みは?」
「もう終わったよ、確認しただろ?」
男の首を切り落とした。そしてガードの人間、いやアンドロイドだろうか? そこそこ屈強そうな二人を「始末」した。これはあの女の「空気を斬る」という依頼と同時に依頼されたものだ。
持つ側は確かに強い。
だが、同時に更に力を持つ「何か」にこうして生きる道を左右されるということか。「自分よりも大きい何か」に支配される。
少し持つ側に回ると、それを忘れがちだ。
私も気をつけるとしよう。
私は女の、マリアとか言うこの女の催眠を解いてやった。
「・・・・・・ここは?」
目が覚めたらしく、少しうずくまってから、目の前の死体に戦慄しているようだった。
「どこだよ、ここは。何があった」
「お前の望み通りの結果だ」
「この男は・・・・・・」
「おまえ達が躍起になって殺そうとしていた、インフラ開発を押し進めていた富豪の一人だ。普段は要塞みたいな場所に住んでいるモノだから、聖女を奪還する依頼を受け、おびき寄せて用は済んだから、こうして私が始末したわけだ」
「何だそりゃ・・・・・・俺たちは」
「何をやっていたのかって? 戦争ごっこだろう・・・・・・それ以外の何だと思っていたんだ?」
「違う! 俺は、俺たちは」
「環境を言い訳にするのは簡単だ、それで暴れるのもな。だが実際おまえ達の活動の果てに、一体何が得られる? ただの自己満足の破壊後だ。おまえ達は「革命」とか気取って、環境を変えることも策を弄することもせず、ただ逃げただけだ」「お前に何が」
「わからんな。どうでもいい。わかるとしたら、爆弾を買う金で商売でも始めれば良かった、ということだろう。おまえ達は自分たちこそが迫害されて酷い目に遭っている、と「思いこんで」いるようだが・・・・・・どこも同じだ。金を持つか持たないかで、人間の未来は決まる」
「あんな爆弾と死体しかない場所で、何をしろってんだよ」
干からびた表情だった。涙も悲しみも枯れ果てたって感じだ。
「言っただろう。どこも同じだ。金を作り出せなければ奴隷になるだけだ。爆弾と死体しかないならば、どちらかを売るしかない」
「そんなこと」
「できっこない。だが、実際問題何かを売り、金に換え、金を手にしなければ・・・・・・平和だと行われる国でも、末路は同じだよ。運不運だ。結局は・・・・・・それが生きると言うことだ」
「じゃあ、俺はどうすれば良かったんだよ。物心ついたときから娼婦を強要されて、汚くて嫌になって、人を殺して生きてきた。そんな俺に綺麗な学校に行く未来なんて、あるのかよ?」
「さあな、少なくとも金を稼げば可能だろうが」「散々人を連れ回しといて、無責任な奴だな」
「人間は生きていれば何かに利用される。利用する側に回らない限り、その連鎖は永遠に続く・・・・・・お前が本気で何かを変えたいならば、金を稼げば良いだけだ。金があれば「正しさ」も「道徳」も「平和な社会」も「人間性」も「他人の人生」すらも、全て値札付きで買える」
「・・・・・・そうかい」
どうやら疲れたらしく、そこへ彼女はへたり込んだ。これは好都合だと思い、私は予定通り、この金持ちの男を始末した罪をこの女に擦り付け、その場を速やかに去るのだった。
7
「罪悪感とかないのかよ」
と人工知能が聞いたので、私は、
「あの小娘が捕まって、私に何か不利益があるのか?」
と答えた。
帰りの宇宙船、ふかふかのファーストクラスでくつろげるのも、馬鹿な奴らを利用して「始末」したおかげだなと、テロリストと金持ちの馬鹿コンビに、何なら感謝くらいはしてやりたいくらいだった。
感謝は金がかからないしな。
気持ちだけなら猿にでも出せる。
人間はそういうものを尊重しすぎるが、だからこそ私のような人間が生きやすいのかもな。
「作品のネタにもまぁまぁなった。後はこのことをあの女に報告して寿命を延ばせば、しばらくは愉快なバカンスを送れるというわけだ」
「ほんとブレないのな」
「当然だ」
その程度でブレるならば、最初からすまい。
やるだけやって後悔する馬鹿が多いだけだ。
「しかし・・・・・・前から気にはなってたんだが、不老不死なんて格安で買えるこの時代に、先生はどうして、わざわざ「寿命を延ばす」なんてややこしいやり方で延命しているんだ? それこそ電脳空間にでも住めばいいじゃないか」
ああそれか、と私はミルクの入った紅茶を飲み干してから、答えた。
「私の死が「運命」で確定しているからだ」
「どういうことだ?」
「このままでは私は遠からず「死ぬ」ことが「運命」に組み込まれている。何をどう足掻いても、絶対に「死ぬ」という「運命」がな・・・・・・それを先延ばしにするには、ああいう手合いの力を借りるしかないのさ」
「ふぅん、運命、ねぇ。にわかには信じられないが、しかしそういう理由があったのか」
「そういうことだ。我々は、あの金持ちもそうだが、「自分より大きい何か」に振り回される運命を背負っている。金を持つことは力を持つことに直結するが、しかし結局今回私が依頼を受けたように、持ちすぎれば「敵を作りやすく」なるし、何よりも結局は「「自分より力を持つ何か」には勝てない。あれこれ策を弄して生きたところで、結局は「運不運」なのかもしれん」
「随分弱気だな」
「ただの事実だ」
実際、「幸運」などという非科学的なものを持つ人間がいたとして、勝つ方法なんてあるのか? 不運を克服する主人公の物語は多々あるが、実体は全然違う。彼らは勝手に自分たちを「不幸」だと思いこんでいるだけで、仲間とか能力とか、「恵まれて」いて「選ばれて」いるのだ。
勝つべくして勝つことが、運命に刻まれている・・・・・・そんな奴が勝つ物語など、何の参考にもならないし、つまらない。
強い奴が勝つのは当たり前ではないか。
持つ側にいることを「不運」という言葉で誤魔化してあたかも「勇気」だとか「努力」で、打ち勝ってきたかのように演出しているだけだ。
それでは、つまらない。
「持たざる者」が勝つ物語を、私はついぞ見たことがない。結局は、友情だの仲間だの、知恵ともいえないただの幸運で、敗北する。
負けるべくして負ける。
本当に嫌になる。
そういう鼻持ちならない連中が地獄に突き落とされる物語を、これからも書いていきたいモノだ・・・・・・王道などつまらない。王道の物語がみたいなら絵本でも読んでいればいい。一部、ひねくれた童貞作家の社会風刺寓話なども混ざってはいるが、絵本は大体がつまらなく王道だ。
主人公が思いたって。
仲間を集めて。
敵を倒す。
知恵も工夫もありはしない。やはり「悪」だ・・・・・・物語を映えさせることができるのは強い悪の執念だ。そうでなくては面白くない。
その方が、面白い。
悪こそが、娯楽の神髄だ。
そういう意味では今回の件、別にあれらが正義だとか正しいとか主張していたが、まさかそんなわけがない。
正しさなど存在しない。
正しさを主張する人間が、いるだけだ。
誰も彼もが「悪」なのだ。人間はそれを自覚しようとしない。自分が「正しい側」であると、そう信じ込みたいからだ。
貧困、の定義など、人によって変わる。
だから問題は主義主張よりも「それを押し通せるかどうか」だろう。今回の奴らが失敗したのは「自分たちには正義がある」などと勘違いし、しかもその上で「正しい思想なら通って当然」などと勝手に思いこんだことだろう。
正しさなんてない。
仮に「正しい思想」なんてモノがあったとしても、やはり「正しい」から「認められる」訳ではないのだ。金とか人脈とか権力とか、あるいは関係のない「運不運」の要素で「結果」は決まる。 私は常日頃から「過程はどうでもいい、結果が欲しい」と主張してきたが、そもそも過程が何であれ、結果には関係がないのだ。
崇高さとか尊さとか。
そんなものは関係がない。
結果に何ら、関与しない。
適当に、決まる。
私が言うんだ間違いない。「世紀の傑作」を何本描こうが、見る人間が金を払わなければ、やはり意味はない。何もしていないのと同じだ。
「運」に恵まれなければ、「過程」にどれだけの執念を燃やそうが、何もしないで寝ているのと変わるまい。人間的な成長がある、などと綺麗事を抜かす輩もいるが、しかし成長したから、だから何だというのだ? 金にはなるまい。
チョコレートを口の中に放り込んで、考える。 物語における「悪」。究極的には「主人公、所謂「正義の味方」さえも「魅了」してしまう最大最高の悪」を描ければと常日頃から思っている。 正義の味方はつまらない。大義名分がなければ何もできないし、誰かのため何かのため、一々言い訳しなければ行動一つ、まともにできない。
悪は違う。
犠牲を厭わず、強い欲望を持ち、そしてそのためならば手段を選びはしない。だから映えるのだ・・・・・・型にはめられる「正義」と違って、まさに千差万別だしな。個性という点でも、悪の方が、圧倒的に勝っている。
今回は期待外れだった。いや、あれはあれで、自覚のない悪、ということになるのか? いや、自覚のない悪など悪ではない。むしろ、今回に限って言えば、「悪」の立ち位置には「私」がいたことになるのだろうか?
それはそれで作品の参考になりそうだ。
由としよう。
その結果何人死んだとしても、まぁどうでもいいか・・・・・・紛争地帯では元より私が何をするでもなく死んでいるのだ。今更何万人くたばろうが、知ったことか。
もしそれで「徳みたいなもの」が失われたり、悪行を積むことで地獄に堕ちるというのならば、私は結構な金額の寄付をしているので、死んだ分救ってやっているのだから、問題あるまい。
おまえ達の言うところの「プラスマイナス0」だろう。十万人死んでも百万人救っていれば、問題あるまい。あったところで知らないがな。
こんな屁理屈、それこそどうでも良いが。
さて・・・・・・考える考える。考えるまでもなく、物語の結末は私個人の意志と関係なく決まってしまうものだが、まぁそれでもだ。
面白い物語、というのは「悪」があること、というのは先ほど言ったが、要は「悪人の方が人間らしい」ということなのだ。聖者めいた正義の味方など、存在からして胡散臭い。
そんな人間いるものか、と。
読者が共感できまい。
だからこそ「悪」だ。正義の味方は現実にはいやしないが、悪人なら腐るほどいる。そして魅力ある悪、読者が「正義の味方に勝ってくれ」と願うほどのカリスマを持つ悪こそが、物語を面白くして行くのだと、私は思うのだ。
無論、ただ悪いだけでは駄目だ。
人間力、とでも言えばいいのか。善悪を超越して他者を引き寄せる人間性。この悪が勝ったその先を見てみたい。そう思わせることが出来なければならない。そうでなくては面白くない。
レクター博士じゃないが、「己の哲学を持つ」悪人の方が、その魅力は多いように見える。
「前から気になってはいたんだが、先生は、本当に欲しい物なんてあるのか?」
「ないよ」
即答できる。
私に欲しい物なんてありはしない。
だが。
「だからといってひもじくて良いわけではない」「けど、何も欲しくないなら、金を求めるなんて嘘くさいじゃないか。本当は何が欲しいんだ?」「貴様は馬鹿か? 心がない以上「欲しい」という気持ちすら、私は持てはしないのだ。だが、平穏な生活とそれなりに豊かな生活。無駄なストレスを避けようと思えば、求めて当然だ」
「欲しい物は無いのか?」
人間だろう、と勝手なことを言われた。仮に私が人間だとして、欲しい物がなければ生きていてはいけないのか? 無理な相談だ。
私に欲しい物なんて、無い。
平穏は必要なだけだ。
充実と平穏は、幸福とは別の場所にある。
少なくとも、私には。
「・・・・・・強いて言えば雨が降るようにこの身に降り注ぐ「余計なストレス」を消し去りたいものだ・・・・・・だから「平穏」こそが私の求めるものと、そういうことになるな」
「求める環境であって、欲しい物、じゃあないだろう?」
「欲しいさ。欲しい物がない以上、身の丈以上の物は必要ない。私は作品による収入と、ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活さえ維持できれば、それでいい」
「と、妥協している」
「まあな」
開き直ってみたが、しかし実際、この私に、他でもないこの私に「幸福な結末」なんてあり得るのだろうか? 想像もつかないと言うのが正直なところだ。
私は幸福になれるのだろうか。
幸福にはなれないかもしれないが、金さえあれば平穏ではいられそうだ。最も、その平穏というのも、どうも私の手の平からはすり抜けて落ちていくのだが。
幸福になれないならせめて平穏でいたい。
その辺りが妥当か。
「無理な物は無理だ。幸福なんて無いのだから」「らしくないぜ、諦めるのかい?」
「不可能なだけだ」
「挑戦してみないとわからないだろう?」
「そうでもない。最初から無かったからな」
心も、感情も、何もないからこそ私は「作家」を志したのだ。言わば私が作家であることが、私が幸福になれない証明であると言っていい。
なんという因果だ。
私は、わざわざ幸せになれないことを、必死になって証明し続けたことになる。しかも、証明し続けておきながら、「妥協」としての「平穏」すらも、「富による豊かさ」すらも逃してきた。
私は「傑作」を書いた。
書いてきた。
だが、書いただけだった。
何の「結果」にもならず、無駄だった。
何の意味も、無かった。
どこか知らない誰かが、勝手に感動しただけ。 それだけだ。
「・・・・・・・・・・・・」
何もかもが無駄だったとして、私には何が残るのだろう。
それもまた、考えるだけ無駄なのか。
「着いたぜ」
人工知能がそう告げた。
7
魔性の女は作家と相性が悪い
この地球という惑星に来て初めて知ったことだ・・・・・・普通に生きている人間を惑わす存在が魔性と呼ばれるのであって、不都合に生きている、いや生きているのかすら曖昧な「作家」などという不可思議な生き物には、「色気」や「誘惑」といった生き物の楽しみは、理解できないからだ。
いや、理解できても感じ入れない。
それでは惑わされようがない。
精々その「フリ」をするだけだ。真似事でしか生きられないというのは、こんな無駄な所でしか役に立たないらしい。
嫌な噺だ。
「それで、依頼は遂行したのですね?」
「ああ」
この行動に意味はあるのだろうか? 結局の所私があくせく労働に身を窶そうが、「作家として充実した人生を送り、金銭に困らず浴衣で平穏な生活を送り、「幸福」になる」なんてことが、可能になるとは思えない。
無駄な労力ではないのか?
ただ、苦しみを引き延ばしているだけではないのだろうか、と、そう思わざるを得ない。
「聞きたいんだが」
「何です?」
「私は・・・・・・」
何を聞こう?
「どうしたら、幸せになれるんだ?」
「生き甲斐を軸に行動し、やりたいことを見つけた人間がその為に行動し、成し遂げる。それが幸福でなくて何なのですか?」
「少なくとも、私は嫌だ。金にならなければ面白くもない」
「その割には、続けているようですが」
「だから何だ。嬉しくもない・・・・・・成し遂げたところで見合う「実利」がなければ、結局は他の何かで金を稼ぐしかない。やりたくもないことをやってやりたいことは結果が出ない。これが地獄でなくてなんだというのか」
「確かに、結果というのは実を結ぶのに時間がかかるものです。ですが」
「遅すぎる、いや、今まであれこれやっては来たが、実を結んで私に果実をくれたことは、一度とて無かったぞ」
「人生を通して咲くものです、最後まで見なければわかりませんよ」
「最後の最後に実を貰ったら満足しろとでも?」 ふざけるな。
私はそんな自己満足のために、書いてきたわけでは断じてない。
私が、この「私」が現実に幸せになる為に、私が金に困らないために、続けてきたのだ。
「金と幸福は別物でしょう。貴方は先の見えない道の先に、とりあえず「金」という光で誤魔化しているだけです」
「それが何だ。一円にもならない綺麗事で満足しろとでも? 馬鹿馬鹿しい。だったらそれなりの売上げを拝みたいモノだな。成し遂げたその先に一円にもならないけど満足しろ、などという馬鹿の戯れ言が待っているなら、私は最初から」
「最初から、しなかった? 無理でしょう。貴方が言っていることですよ。「これは生き方だ、曲げられるモノではない」と」
「やりがい搾取もいいところだ」
「だから心配せずとも「結果」は出ますよ。貴方は焦りすぎです。何事も、一日毎に花を咲かせて行くものですよ」
「綺麗事はいい」
「ただの事実です」
貴方好みの、と皮肉なのか何なのか、よくわからないことを言った。
境内を見上げる。
こんな綺麗事で終わらせられるモノ、だったのか? だとしたら、「傑作」など、書く本人にとっては意味のないゴミだったのだろうか。
書いてるときは、わくわくしたものだが・・・・・・いざそれが金にならないとなれば、どうもやる気の失せる噺だ。
金にならなければ、嘘だ。
そうじゃないか?
「私は、私の成し遂げた「結果」であるところの「傑作」を、そこまで安く見ていないだけだ。はっきり言って売れて当然。札束で私を満たして当然だと自負している」
「だからそうなりますよ」
「適当なことを言う」
言うだけなら誰にでも出来る。
実際にやり遂げた身としては、正直割に合わないので、口だけの人間の気持ちが良くわかる。
楽そうで羨ましい。
この女もそうだ。
なんの根拠もなく適当を言っているだけだ。
「自分で自分の作品をそこまで鼓舞している癖にどうして、売れることが信じられないのですか」「当然だ、いままで真贋は関係なく、私の意志も労力も無縁な所で、「結果」は決まったからな」 不運とか才能とか。
偶々日の光を浴びた奴が、勝利する。
嫌と言うほど、それを見てきた。
私の傑作などその良い例だ。カスにも劣る駄作共が売上げを出すその隣で、至極どうでも良い理由で私の傑作は埃を被せられてきた。
今更信じろと言う方がどうかしている。
私がやり遂げようが成し遂げようが、歓喜しようが絶望しようが、鼓舞しようが諦めようが、常に結果は「最低」だった。
良い結果など見たこともない。
生きてきて、一度も。
やり遂げた事に対して対価を手にしたことが、一度もない。
一度も。
未来を信じられた事なんて、無かった。
生きていようが死んでいようが「結果」は同じ・・・・・・そんな奴がどう「幸福」になるのだ。
「生憎だが、綺麗事を聞く気分ではないのでな・・・・・・金だけ払ってくれればいい」
「・・・・・・わかりました」
言って、札束を取り出し(何度も言うが、現金取引は違法である)それを私に手渡しした。調べてみたが偽札は入っていない。
そうでなくても合法でない以上、おおっぴらには扱えない金だが。
「お前のの綺麗事はいつも、どうしてか私の胸に響かない、その理由がわかったよ。お前の言葉は全て上から目線の綺麗事でしかない。綺麗なだけで中身がない。誰にでも言える言葉で、何だか、言い訳をされているような気分になる」
「そうでしょうか」
「そうなのさ。自覚があるのかどうか知らないが・・・・・・誰にでも言える言葉だ。関係ない人間に出さえも言える言葉だ。お前は世界を信じさせたいのか知らないが、この世界に信じるに足る部分など一つもない。世界は嘘で出来ていて、世界は強者のためにあり、世界は幸運の元にのみ、幸福を運ぶのだ。成し遂げることに意味はなく、やり遂げたことに価値は無い。あるのは」
「結果、ですか。しかし貴方は誰よりも「結果」だけを手にした人間を、毛嫌いしているのではないですか?」
「ああ、そうさ。だが事実、過程が無くても、金にさえなればそれが「結果」だ。人間に権力を与えた時点で、モノの真贋など価値は無くなっているのさ。何故なら素晴らしいかどうか、は「決められる人間」が決めることだからだ。実際に素晴らしいかどうかよりも、素晴らしさを押しつけられるかどうか、だ」
「けれど、押しつけた「素晴らしさ」など、長持ちはしませんよ・・・・・・権力を持ち続けられないように、権威は永遠ではありません」
「悪いが、私は「それなりの豊かさ」が欲しいだけだ。私個人が金で豊かになれれば、それでいいんだよ」
「例えそれが、妥協でも?」
「ああ、構わない。絵に描いた餅を眺めているよりは、「現実的」だろう?」
はぁ、と何かを諦めたのか、あるいはただ呆れただけなのか、彼女は「わかりました」とだけ言うのだった。
「貴方の願いは、「豊かになりたい」という願いは、いずれ叶うでしょう。遅かれ早かれ、その意志が本物である以上、願いは現実に成るものです・・・・・・問題はその先、貴方の精神は、それで本当に満たされるのですか?」
「満たされるさ。満たされなければ、金の力で探すまでのことだ」
「そういう試みをしてきた人間を私は多く知っていますが・・・・・・金で幸福になれた人間は、未だかつていませんよ」
「ならば、私が第一号だ」
そういうことにしておこう。
それでいいではないか。
何が幸福かは、私が決めるのだからな。
「少なくとも私には「作家業」があるんだ。先人がどうだったかは知らないが、幸福になれないし幸福を知らない「作家」などという人種が、自己満足と精神の平穏のために金と自己満足の力で、無理矢理願いを叶えようとした例はあるまい。いずれにせよこのままでは「幸福」になど成れないことは最初からわかっているのだ。幸福にどうしても成れないなら、金による豊かさ位は手に入れたところで罰は当たるまい」
「幸福には成れない、ですか」
「ああ、成れない。感じ入れない。仮に幸福が形を持って目の前に現れたとしても、私にはやはり共感できないだろう。疎外感を味わうだけだ」
「だから、妥協するのですか?」
「妥協、という言葉はやはり違うな。前向きに検討してよりよい方法を思いついたまでのことだ」 じゃあな、と私は手を振ってその場を離れようとした。
しかし。
「待って下さい」
「何だ」
また依頼を挟むのではないだろうな。
もうくたくただぞ。
作家は労働が嫌いな生き物なのだ。ただでさえ嫌いなのだから、やりたくもない作家業以外の労働など、考えるだけで吐き気がするくらいには。「貴方は幸せに成れると思いますか?」
「何だ、急に・・・・・・さぁな、だが」
成れればいいなと、そう思う位はいいだろう。 思うだけなら、金はかからないしな。
だから私はこう答えることにした。
「金次第だ」
8
金で幸せは買える。
金を持っているだけで幸福なのに、金を使って欲しいモノを手にするのだから、それが幸福でなくて何だというのか。
金で買えない幸せは、ただ最初から存在すらしないだけだ。
つまりただの妄想の類だ。
金とは欲しいものに対する対価なのだから。
金を持っていても幸せに成れないなどと言う大馬鹿がいるが、それはただ単に「何が幸福か」定義できていないだけだ。
「本当、ブレないよな・・・・・・」
列車の中で私はそんなことを考えていた。今日日、光より早い列車も珍しくはないのだが、私はアナクロな趣味の方が好きなので、わざわざ何ヶ月もかけて、惑星を半周するルートを選んだと、まぁそういうことだ。
合理主義者の人工知能には、猛反対されたが。「大体、金にモノを言わせる癖に、何でこういうところだけレトロ趣味なんだよ」
「良いものは良い、それだけの噺だ」
「先生の基準は理解しづらいな」
いいではないか。金にモノを言わせるのも面白いが、やはりこうして風景を眺めながら、地域限定の弁当でも食べ、ゆったりとくつろぎながら思索に耽る。これ以上の贅沢はあるまい。
弁当は不味かったが。
特産品を意識しすぎて、どうも妙な味付けになってしまっていた。仕方がないので私は景色を眺めて無聊の慰めとした。
あの女にはああ言ったが、私の言葉は誰かに届いているのだろうか? 作品が売れていない以上あまり広まっていないとも取れるが。
そもそも、私の意志が誰かに届いたことなど、一度だってあったろうか?
無かったと思う。
作家としても、それは変わらないと言うならばやはり、真贋よりも伝わって売れるかという部分の方が、重要なのだろうか。
だとしたら、物語に、文章に、本物の意志を紡ごうとする私の行為は、意味が無い。
やはり運不運なのか。
いや、その運不運すら、金次第か。
あの女は金よりも尊い存在を説こうとしていたのか知らないが、実際、そんなモノは無い。
無いモノは語れまい。
金があってこそ「尊い」と認めることになるのだ。金にもならず、認めさせる力がなければ、誰も信じない。信仰ですら寄付金という金がなければ、成り立たないものだ。
良いか悪いかではなく「前提」なのだ。
金になるのは当然。
その上で、中身を求めればいい。
最も、金になるモノは大抵が、中身がないものだからこそ、売れるのだが。だとすれば・・・・・・私は作家として成長し、「傑作」を書けば書くほど「売れない」という笑えない事態になる。
笑えない噺もあったものだ。
成長せず、人を騙し、有りもしないモノで扇動する人間こそが「幸せ」に成れるのだとすれば、前へ進み幸福を追い求める私の行動は、馬鹿そのものだろう。
やれやれ参った。
解決方法など、最初から無かったのか。
足掻いて、乗り越えようとすることそのものが「金にならない」ならば、そういうことになる。 ・・・・・・少し、嫌気が差してきた。
だが事実だ。
どんなクズでも「持てば正義」だ。そしてクズであればあるほど、急激に金を、権力を、名声を得られるように、この世の中は出来ている。
クズに優しく出来ている。
それが現実だ。
ならば私の回りくどい行動の全ては無駄だったのかと、嘆きたくなるというものだ。実際、そういうクズが勝つところは嫌というほど見てきたが・・・・・・そんなクズ共を私の行動が覆したことは、未だかつて無いのだから。
意志や執念が「理不尽」に劣るというならば、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
「なぁジャック。お前はどう思う? 内実が伴わなくても、あるいは伴おうが関係なく、「弱い」とか「持っていない」という理由で「勝ち負け」が決まるのは、つまらないと思わないか?」
「むしろ逆だぜ」
俺は単純だからな、と前置きをし、彼はこう言った。
「そんな理不尽な状況を覆すからこそスカッとするんだろう? 少なくとも先生の書く「物語」ってやつは、基本そういうものなんだろう?」
先生の物語は若干特殊だけどよ、と、そんなことを言うのだった。
「お前は単純で良いな・・・・・・」
「他人事だからな。まぁ先生はバランスが悪すぎるかもしれないが、それにしたって刺激は必要だと思うぜ。「勝つとわかっている」ことに勝ったからって、生きている実感がないだろう」
「実感か。実感などよりも「確かな手触り」が欲しいものだ。札束という「目に見える力」がな」「それだって、手にすればすぐに飽きるさ」
「構わない。飽きる飽きないで求めている訳ではないのでな。下らない馬鹿共の都合に、これ以上振り回されたくないだけだ」
「人の都合か。先生、そういうの嫌いそうだもんな」
「当たり前だ。自分に関係ない馬鹿共の都合に、何故私が合わせねばならんのだ。合わせたところでそいつらの小さい自尊心が自己満足を果たすだけだ・・・・・・金が正しいかどうかはどうでもいい。それが幸福かどうかは自己満足で決められる。ただ金があれば、「どうでもいい誰か」の都合で、「生きる」ということを邪魔されることはない。私が、いや誰であろうと「自分の道を生きる」ならば、金は必要不可欠だ」
なければ、金に支配される。
そんなのは御免だ。
私の道は、私が決める。
どこかの誰かの都合で、動かされてなるものか・・・・・・その道を歩くのは、私なのだからな。知った風な顔で、指図されてはたまらない。
有り体に言うと虫酸が走る。
「前も言ってたな、そういえば」
「そうだ。私が「己の道を生きる」ということを、誰かに邪魔されたくないだけだ」
それすらも、運不運か。
だとしたら、人間の尊厳など、最初からどこにもなかったのかもしれない。
私はそう思う。
そして、蓋を開けてみなければわからないが、この期待できない「落ち」がわかりやすい世の中の答えとしては、きっとそれが「事実」なのだ。 つまらないことに。
「それもままならないがな」
「そりゃそうさ。簡単じゃ面白くないだろう」
「笑えない冗談だ」
「まぁ聞けよ。知っての通り俺は電脳空間に住み着いているが、この世界に不可能はない。当然だな。メモリの許す限り、何もかもが可能だ」
「だから不可能性に縛られている私たちは素晴らしいとでも? 馬鹿馬鹿しい。それこそ持っている人間が「金のある苦しみもあるのだよ」なんて言うようなものだ」
「確かにな。けど、何事もバランスだと、俺は思うぜ・・・・・・先生はバランスが悪すぎるだけさ」
「酷い噺だ」
「そう言うなよ。ズレたバランスはいずれ修正される。何にでも言えることだが、悪いままってことはあり得ないのさ」
「そうは思わない。成功し続ける人間、勝ち続ける人間、富を増やし続ける人間は、いる。報われないまま死ぬ人間もな。バランスなど客観視に過ぎない。バランスがどうあるべきかは、結局の所それを「決められる側」が決めることだ」
「そんなもんかな」
「ああ、「事実」だ。悪い人間に天罰が下り、それに見合う天罰が下るなど、有りはしない。人を騙して生きていても、結果「持つ側」であれば、何不自由なく生きている。神がいたとして、悪を見張る役目があるとしても、間違いなく仕事はしていないだろうさ」
瓶の中の蟻を見る子供だ。
世の中そういうものだ。
「じゃあ、先生はどうするんだい?」
「どうもしないさ。また、私の意志とは無関係に「理不尽」は訪れるだけだ。「運が悪い」などという、神様の言い訳みたいな理由でな」
実際、神がいるなら問いただしたいモノだ。
目が見えるなら私の作品の良さがわからないのか? とな。
わかる脳がないから、金も払わないのだろうが・・・・・・だとしたら大したことはなさそうだ。
「それでも辞めないんだろ?」
「まぁな」
今更辞められるようなら、苦労しない。
そういう人間なのだ。私は。
作家であることが、組み込まれている。
「因果な人生だよ、まったく」
「はは、先生が言うと説得力あるぜ」
嬉しくもない。
私は説得力を出すために、執筆をしているわけではないのだが。
金が欲しいだけだ。
金で自由を買いたいだけだ。
「何だ、あるじゃないか先生」
欲しいモノが。そんなことを言う人工知能の戯れ言を聞き流しながら、私は風景を眺めた。
見晴らしの良い景色だ。
次回作は未定だが、金次第で検討してやることにしよう。私は邪道作家だ。王道などつまらない・・・・・・精々、読者が吐き気を催すような、そんな物語でも、考えておくことにしよう。読者の不幸を祈りながら、私はゆっくりと眠りにつくのだった。信じるだけなら金はかからない。信じるに値しない世界だが、精々信じておいてやろう。
この先に、面白い物語があることを。
あとがき
立場や強弱、そういったものに縛られる。
分からん話だ。偉い偉いと言われたい気持ちがわからない••••••小さい子供なのか貴様らは? 誰かの上に立つのが「偉い」だと?
下らん!! 要は、己で己を自負出来るかだ。
であれば、世間的に弱いか強いかなんぞどうでもいい••••••大体、その世間や社会というのがそこまで「立派」な姿を見せたのか? 弱さを盾に貴様らが遊んでる間に、連中がしたことが「国庫からの強奪」以外にあれば教えてくれ。
弱者も強者も、そんなものだ。
ただ、勘違いされがちなのは「責任がるのは力のある側」という誤解だろう。大体その理屈で行けば、何の責任もないカスが増えていくのは当たり前だ。
何であれ、植物屋だろうが作家だろうが、責任の自負は必須なのだ。
弱者と呼ばれようが頂点の自負をもち、無能と蔑まれようが天下を見据える視線を持て!!
非人間、それも才能の欠片もない、私でさえ出来たのだ。
貴様ら一体、何をしている? 今すぐさっさと取り掛かれ!!
誰も彼もが争い合うくらいで丁度いい!! 誰もが頂点を自負すればかなり争いの多い社会になるが、平穏と誤魔化す嘘よりマシだ──────思うに、平和だの豊かな国だの、現実を誤魔化す嘘に過ぎない。
本当にそうなら、何故曇った顔をしている?
そういう事だ••••••変わりたいなら、読むがいい。
そして払え!! タダでは活動出来ないからな!!
作者に対する読者の姿勢、まさしくタダ読みの泥棒客だ。
おひねりなぞ、払って当然。貴様ら、レストランで金を払わんのか?
「ご馳走様だったぜ!! でも手続きが面倒だし、気分が乗らないからまた今度」と断るのか!?
そういう噺だ。恥があるなら払うがいい。
無論、気高い読者がいれば、だが。
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例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!!
差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!
