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邪道作家第一巻(分割版)4

   15

 仕事のため。
 このお題目のために人間はなんでもする。
 仕事だから殺す。
 仕事だからしからなく犠牲にする。
 仕事だから、仕事だから、仕方ない。
 別に冷静に考えれば言い訳にも何にもならないと思うのだが、仕事のためならばなんでも許されると、みんな思いたいらしい。
 私はサムライとして仕事、始末の依頼を受けはするが、仕事ではなく自分のためだ。
 今回もそうだ。
 要は自覚的になるか否かだろう。私は自分のためならば何人犠牲になろうが、作品のためならば何人悲鳴を上げようがかまわない。
 ただ、仕事のためだからと言う人間達は、自分は悪くない、これは仕事だから仕方がなくやったんだ、自分の意志じゃないと声高に叫びたがる。
 兵士にはそういう傾向が多い。
 自分だけが悪くないなんて、いや悪かったところで何故認めたがらないのか。
 悪を自認しないのか。
 人間なんて生きているだけで、それなりに他の生物を犠牲にしているのだから、何かを殺しながら生きているのだから、自分達があたかも清廉潔白な人間で何の罪もないと思う人間の気持ちが、私にはわからない。
 まあ、私も表向きは清廉潔白な人間を装うのだが。
 その方が便利で楽だしな。
 私はドローン達を斬り伏せながら考えていた。と、いうのもあの教授が言うように、サムライと言うのは強い弱いと言うよりは、あの女が神だとするならば本当にバランサーとして作られたものだ。
 人間の法則に当てはまらない幽霊の日本刀なんてオカルトなモノを持ち、例外なく人知を超越した戦闘力を誇る。
 貰い物の戦闘能力を誇っても仕方ない気もするが、とにかく、だからこそ退屈な作業だった。
 そして、仕事が終わった以上、私は現に、ドローンの亡骸を眺めながら退屈していた。
 ドローンとの戦闘もあまり時間がかからなかったし、向こうにはサムライの護衛がいないことは確認済みなので、私という卑怯と言ってもいい反則じみた駒を用意した時点で、この計画は成功していたと言える。
 そんな計画を立案して現実に行うのは、そう楽な作業でもない気がするが・・・・・・私は執筆する作品の関係上、強い個性に興味がある。
 そういう意味では、さっさとこの仕事を終わらせて、教授に取材でも申し込みたいところだった。
 悪人には強い個性がある。
 ただの悪人では駄目だ。意志と目的、背負った業と向き合っているか否か。
 悪とは、方を逸脱していくかではない。
 自分の意志で、他者を傷つけることを良しとするかだ。
 目的のためにその他全てを犠牲にし、振り返らずに前へ進む姿勢だ。
 あの老人にはそれがある。
 厳密には目的・・・・・・生き甲斐が欲しいから目的を求めるという、横着した考えから今回の行動を起こしたらしいが、そんなどうでも良い理由とも言えない理由で、計画を立てそれを他人にやらせることを良しとする在り方なんて、在り方そのものが悪だろう。
 今回の被害者たちはどうだろうか、民主主義を歌って対した成果も残さず、議会であれこれと同じことを話し続け、何の結果も出してはいないのに「いや疲れた」「やりきった」「私は大胆な政策で世界を変えるつもりです」「みなさんの協力さえあれば」そんなことを言う人間達。
 結果的に税金をただ浪費しているだけの彼ら彼女らは、自身が悪だと気づくことから、目をそらしているだけの邪悪そのものだ。
 話し合いで国が変わると、人間は信じ続けてきた。
 その結果、あまり大差なかったわけだが。
 戦争は少なくなっても、話し合いのテーブルで関税に対して言い争うようになった。
 経済的に優位な国が世界の方針を決めるようになっただけで、話し合いの主導権を握れるか否かに固執して、本当の意味で人類が話し合ったことなど一度もない。
 民主主義が悪いのではなく、扱えないままここまで来たと言うべきか、いや、そもそも人間が権力を握る以上、平等など無い。
 ありえない。
 そのくせ、平等に見える民主主義に飛びついて、自分達皆が選挙に、政治に関わっていると思い込む。
 政治ができるのは政治家だけだ。
 どんなシステムを作り上げようとそこは変わらないままだ。結局政策を強引にでも決めていき、都合のいいように変える。
 ならば政治家になれば良いのだが、政治家になれるのは金持ちだけだ。大昔からそれは変わらない。
 政治に金が絡む以上、クリーンな政治家など存在し得ない。
 善人か悪人か、それ以前に、金が絡む以上成功できるのはよほどの悪人か、時代を変える英雄かのどちらかだろう。
 どちらも似たようなものだが。
 周囲を省みず、何かを変えるという点は。
 今私が銀河連邦についてつらつらと考えている間に、どうやら作戦は終了したらしく、撤退の合図が懐の携帯端末に着信した。
「先生、そろそろずらかろうぜ」
「ああ」
 まあ私からすれば世界情勢すらもどうでもいい話だ。
 金になれば。
 作品のネタになれば。

   16

 私は教授の用意したホテルの一室にいた。
 いい部屋だ。地球の旅館とは違って、ハイテクで埋め尽くされている。
 ただ、ウォシュレットだけは、何故か無かったが・・・・・・なんだろう、あれはもしかしたら、地球の日本にしかないモノなのかもしれない。
 だとしたら惜しいことをした。
 それはともかくとして、教授への取材の為に、いくつか、と言ってもたいしたものではないのだが、準備を整えておくことにした。
 アンドロイドの世界を今後どうやって作り上げるのかも聞いておかなければならない、聞くことが多い以上、メモとペンは持っておいた方が良いだろう。
 何事も慎重に事を進めよう。
 最近はメモもペンも、見なくなったな。
 ハイテクの恩恵があるからか、この部屋にも余計なモノはほとんどない。おおよそのことは携帯端末のAIに注文するか、メモにしろ仕事にしろ、必要な作業があってもデジタル上で処理できるからだ。
 なんだか、デザインは美しくはあるものの、殺風景な部屋とも言えた。余分だからと言ってなくしてしまうというのも、限度を知らなければこうなるのだろう。
 もっとも、私の散らかった部屋と比べれば、どちらが良いとは言えないかもしれないが・・・・・・。
 何事もバランスは重要ということか。
 私は荷物を革製の鞄に詰め、メモとペンを胸ポケットに入れて教授の待つ部屋へと向かった。向かうといっても、テレポーティション装置とやらに乗れば一瞬だ。
 だが、やはり素粒子単位でバラバラになるのはぞっとしなかったので私はドアの番号を探し、ノックして部屋に入ることにした。
 コンコン、と叩く。
 いまや珍しい儀式だ。
「入りたまえ」
 中に入ると、そこには教授が立っていた。
 壁は全てガラス製のようで、辺り一面を見渡せる展望台のようだった。
 彼らアンドロイドはこういうのが好きなのだろうか。まあ教授はアンドロイドではないのだから、むしろ教授の趣味をシェリーが真似たといったところだろう。
 私は個人的に聞きたいことがあってここへ足を運んだのだ。ならば、作家としても、一個人としても聞かなければならない。
 この男の在り方を。
「座りたまえ」
 そう言われたので、遠慮せずに高そうな椅子に座ることにした。教授は窓側に座ったのでちょうど、対面する形だ。
 向かい合う。
 私と同じはぐれものの怪物と・・・・・・とはいえ、同じとは思わない。
 だからこそ興味があるのだ。
 あらゆる種族、分類、多くの中に紛れ込むことができないこの男は、いったい何を望み続けてきたのか、何を欲するのか。
 どういう答えを出したのか。
 作家業抜きでも興味があった。
「座ってやったぞ。言うことを聞いたのだからこちらの話を聞いて貰おうか」
「何かな」
「目的が欲しいから、と言ったな。そのために目的とするにちょうどいい今回の革命を起こすことにしたと」
「いかにも」
「人間がアンドロイドになれば、世界が変わると信じているのか? むしろ、有能すぎる群衆なんて、コントロールしにくくて政治に指向性を持たせることも難しくないか?」
「良いところに目をつけた」
 教授はコーヒーを挽いて、粉々になった豆をフィルターの中に入れ、コーヒーを煎る。
 最近はあまり見ない光景だ。
 なんでもアンドロイドがやってくれるから、手間暇をかけることを美徳とする人間の数も大分減った。
 利便性の弊害と言うべきか。
 教授は軽く口にコーヒーを含み、ひといきついてからこう話しだした。
「本質的には、何も変わらないよ。むしろ、個々人が力を持つようになれば、社会というのは回らないようになっている。誰かが搾取されるから、弱く愚かと言われる人種が存在するから集団は形成できるのだ」
「それを承知で、意味がないと知りながら革命なんて企てていたのか」
「その通りだ。そもそも、君は革命という言葉をどう捉えている?」
 今までの政治を否定する。
 民衆の自由を確立する。
 一般的な回答としてはこんなところだろうが、一般的な回答というのはおおよそ間違っているから一般的と言われるのだ。
「政治の支配者が変わるだけだ」
「少し、足りないな、それでは。政治形態だけでは無く、人々の意識、いや無意識下での常識を書き換える行為、それが革命だ」
 常識か。
 こんな非常識な存在二人の会話で、そんな言葉が出てくるのは、なんだか奇妙な話だ。
 無意識下での常識を書き換えること、つまりは空気感のような、なんとなくそうであろうとする全体の考えだ。
 皆がやっているから私もそうしよう。
 皆が買っているから私も買おう。
 皆が、皆が、皆が、そんな有りもしないのに流されてしまう無意識化の脅迫願望だ。
「それを変えてどうするつもりだ。今まで散々コロコロ変わったモノを変えたところで、何の意味がある」
 民衆の意志、世の中の空気感、そんなモノはどちらにでもいくらでも傾いてきた。
 今更何の意味がある。
 一念発起して教授が世の中の空気感、人々の常識を変えていったところで、また別の方向に揺れ動くのではないのか?
「いや、変えるのではなくコントロールする・・・・・・人間に限らず、他者の意志を変えるのは至難の業だ。しかし、当人を変える必要など無い。どのみち、彼らの大多数は世の中に流されて意志を決める。その大きな流れさえコントロールできれば、人間も、アンドロイドも、恒久的な世界平和の構築が可能だ」
「恒久的な世界平和?」
 間の抜けた声を出さないようにするので手一杯だ。どちらかといえばこの場合、強制的な世界平和という風にしかとれないが。
 世界平和を強制する。
 押しつけがましい善意。
 まあ教授の場合かなり自覚的にやっているようだが、どうだろう、強制的世界平和は武力の抑止論に通じるモノがある。
 抑止論はただの妄想だ。
「核抑止の再現でもするつもりか? 人々の意志で、人々を抑制する。抑止論なんてモノは、とどのつまり抑止するだけで、解決することはできないだろう」
 抑圧されたモノはいずれ爆発するだけだ。
 抑止で世界は救えない。
「抑止ではない、解放だ。彼らは自分の意志で、自分の意志だと思い込みながら、世界平和を構築しようとする。彼らは自分達が流されていることにも無自覚だ。雰囲気に酔う、とでも言うべきか」
 ジャックの言葉を思い出す。
 皆、自分に都合の良いモノに酔っぱらいたい・・・・・・現実より夢がみたいと。
 都合の良い夢を。
「人間の意思そのものより、意思に大きな影響を及ぼすものからコントロールするということか」
「そのとおりだ。我々は強制しない。彼らは自分達が切り開いていると勘違いしながら、世の中の平和を築き上げてくれる」
「そんな意思が、長続きするのか? 結局のところ流されて、自分の意思では無いもので動いているわけだろう」
 一流されやすいが同時に飽きっぽい。
 そんなに長く同じ夢を見続けるとも思えないし、夢にさめたらまた、今回の革命騒動の繰り返しになるのではないだろうか?
「だからこそ、彼らをアンドロイドにする。政府の意向をコントロールし、まずは人体のアンドロイド化の有用性を、徐々に世間に浸透させ、メディアを通して民衆の空気、意思を完全に掌握する」
 聞けば聞くほど恐ろしい話だ。
 政府やメディアに流されて、自分達の意思を決める民衆たち・・・・・・仮に流されなかったとしても、時間をかけて世の中に浸透させられては、同じ行動をとらざるを得ないように社会構造が変わっているだろう。
 思考警察を彷彿とさせるが、自分達の意思で、頭の中に思考警察を走らせようというのは、ビックブラザーよりも完全な統治体制を想像させた。
 しかし、疑問も残る。
「いったい、誰がその政治、経済、メディアの操作・・・・・・なんでもいいが、それらを継続させるんだ」
「決まっている。今回の替え玉、アンドロイドを人間の政治家と入れ替えたのは、これらを継続させるために他ならない。今後も、政治体制にあえて隙を作り続け、その隙をついて新しい政策を打ち出す新規新鋭の政治家を演出させ、まるで政治家も政治の方向も良い方向へと向かっているかのように魅せる」
 人間は見たいモノしか見ない。
 良い方向へ向かっているかのように魅せられれば、反対する意思を失うと。
「そんなことで本当にいいのか? 人間は、いや、アンドロイドだって、個々人の強い意思があるからこそ、個性というのは輝きを持つと思っているのだが」
「持つだろうな、そしてそれで構わない。個人の意思が歴史を良い方向へ導く、英雄たちが導く時代も確かにあった。だが、人類の数はそれに対して増えすぎた。ここまでの数となると、個人のカリスマがいくら高かろうと完全なる統一は不可能だ。それこそ個々人の個性を殺してしまうことになりかねない。要は、政治に関する関心、その一点だけコントロールできればいい」
「その政治をお前たちが決めるのか? 自分達は人間と違って間違えることはないと?」
 映画ではよくある話だが。
 愚かな人類よりも、ロボットの方が間違えない、だから支配する。
 しかし、教授は。
「いいや、違う」
 と言った。
 なら、どうするつもりなのだろう。
 教授の言っていることは、要するに人類全体、いやアンドロイド全体に対して平和を尊重する意思を埋め込むということだ。
 自身で考えない人間ならばと、政治面で有効な、それでいて現実的な考えを良しとするように、そう考えなければならないように、全体の意思の向かう先をコントロールする。
 しかしそれらをコントロールするのは極々一部だ。なら、その極々一部が間違った考えを、何を持って間違いなのか分からないが、とにかく何かミスをしたり、使えなくなったらどうするつもりだろう?
 そもそも、そんな支配体制が続いたとして、結局は自分達の意思ではなく、流されているだけなのだ。
 そんな意思が、長続きするのか?
 他人に流されているだけの、薄っぺらい意思が世界を変えられるのか?
「全体に意思を、強制的世界平和のビジョンを共有させることで、いずれは内発的にそのビジョンを持ち、自分達の意思で世界を変えようとする若者たちも現れる、現れるようにコントロールする。彼らが自分達の意思で世界を導いていけるようならば、我々はその時必要がなくなるわけだ。なあに、ようは自転車の補助輪のようなものだ。幼稚な人類がアンドロイドという思考に跨がる為の手伝いをしてやろうということだ」
 幼稚な人類か。
 心のどこかで人類を見下しているのか、それともただ単純な比喩なのかは分からなかったが、何にせよ、教授は別に対して興味を持っているようには見えなかった。
私は幽霊の日本刀という、斬ったモノの魂を傷つけ殺すという物騒な武器を保有しているわけだが、この男、教授はどうだろう。
 この男には魂はあるのだろうか
 あるとは思えない。
 私が言うのも本当に説得力がない気もするが、人類全体の未来を加速させ、コントロールするなどと言っておきながら、この男には執着とか、信念と言ったモノを感じない。
 ただできるからやる。
 そんな感じだ・・・・・・目的が欲しいから行動したとか言っていたが、本当にそうらしい。
 生き甲斐、や、やりがいを求めているだけで、恐らく教授にとっては趣味のような感覚なのだろう。
 趣味のような感覚。
 人類の未来を左右しても、尚。
 淡々と自分の趣味を話しているだけだ。
 それでいて自分自身が悪である自覚も持っているわけだから、こんな面倒な巨悪は他にないだろう。
 こんな奴が何人もいても困るが。
「成る程、まあビジョンはしっかりしているようで安心したよ。老人の考えなしにつきあわされているようでも困るしな・・・・・・しかし、それで人類全体が良い方向に行ったとして、それで人類は幸せになれるのか?」
 どんな目的であれ、目指すところは自身の幸福に行き着くものだ。はたして、人類は人から、アンドロイドから与えられた平和の中で幸せを手にできるのか。
 興味深いテーマなので聞いてみた。
 作品のネタになりそうだしな。
「で、どうなんだ」
 教授は片眉をつり上げ、奇妙な笑いを浮かべながら、
「なれるとも。幸福というのは自己満足ができるかどうか、精神が満たされているかどうかだ。金や物質に不足している人間でも、それは自分達の精神を満たすために金や物質を必要としているだけで、金そのものを欲しがる輩は入るまい」
 たしかにそうだ。
 人間は幸福になろうとする。金はそれらを手に入れるために必要なチケットであって、
金そのものただの紙だ。
 私はそれでも大切にするが。
「なら、人類全体が自己満足できれば、幸福だということか? そんな偽物の幸福」
 と言ったところで、私自身がそれで良しとしていることを思い出したが、しかし、それはただ単に私が心を感じることができない以上、心が幸せを感じ取ることはなく、せめて物質的に満たされようとしているだけで、自己満足ではなく切実に必要なだけだ。
 私の充実した生活のために。
 だが、私と違って彼ら彼女らは心で幸福を感じ取ろうとし、私とは違ってそれができる以上、目指す幸福の種類が別物だろう。
 私は幸福を感じず、幸福がない以上、物質的に満たされようとし、心の幸福なんて妥協でいいだろうと判断している。
 無くても金があれば構わないと。
 しかし、普通の人間は、心の充足感を求め生きているのではないのか?
 まさか彼らも私のように、心で感じなくても良しとできるのだろうか・・・・・・興味深い。
 だから続けて話すことにした。
「人類全体が納得するのか」
「するとも、彼らの幸せの基準は主に連帯感だからな。人と人とのつながり、つまり皆と同じ考えだ、同じ方向性だと思うことで、心ある彼らは幸せを感知する」
「ロボットみたいな例えだな」
 教授は首を振り、
「人間は間違いなくロボットだよ、ただ精巧なだけで、アンドロイドと何も変わらない。自分達を特別な生物だと思いたがる連中は多いが、現実には人間の心にすら法則があり、心理学という形で、大昔に既に解明されている程度のモノでしかない」
「自然発生した旧型のロボットか」
「まさに、そうだ。人間の中にだけ無限の創造性、心の有り様、感情があるなど、ただ思い上がっているだけだ」
 人間は特別でも何でもない、と。
 確かに、何万種類も生物がいるのに、我々人間だけ心とか、自我の有る無しを語るのもおかしな話なのかもしれない。他に言語を話す生物がたまたまいなかっただけか。
 そして言語を話し、唯一だと思っていた心や創造性を、あろう事か自分達の作り出したアンドロイド達が証明し、人間の希少価値をはぎ取ったということだ。
 何とも皮肉な話だ。
 馬鹿馬鹿しいくらいに。
「故に、幸せなど、当然作り出せるものでしかないのだ。金があれば幸せ、家族があれば幸せ、人とつながれば幸せ。自分自身が満たされれば幸せなのだ。他人のために動くのが幸せだとしても、結局は他人のために動く自分自身に幸せを感じているに過ぎない。ならば、全体の思考の方向性を同じにすれば自然、連帯感は生まれ、幸せを感じざるを得ない。満たされれば何でも、人間は幸せを感じるようにできているのだから」
「話を聞く限り、全体が同じ幸せというのは個々人の個性を損なう気がしてならんな」
「それも先ほどの話と同じだよ。長く続けることで、それを自身の意思だと錯覚し初め、いずれ自身の意思でその幸福を追い求めるようになる。そもそもが、そんなモノに幸せを感じるその他大勢に個性など最初から無い。民衆というのはその他大勢の多数派だ。少数派は幸せを感じずに個性を維持する。私が言っているのはその他大勢の無個性を個性にしようと思っている人種のことだ」
 無個性を個性にしたがる人種。
 確かに、彼らに確固とした自分、自分自身の意思があるようには思えない。
 思わない。
「その場合、少数の、無個性に馴染めない人種はどうするつもりだ?」
「何も。今までどおり、その個性を役立てて生きればよいのさ。世の中の総意というのは結局、大勢の個性を持たない多数派が出すものだ。彼らは強い個性を持つ人種とは違ってこういうやり方でしか幸せを感じ取ることはできないからな」
 だからお望みどおりに連帯感を与える。
 そして意思の無かった彼らに意思を与え、全体にとって良い方向へと調整する。
 誘導する。
 いままで人類が、政治で小出しに、国ごとでしかやってこなかったことを、全人類という単位でやろうとしているわけだ。
 そう言う意味では、単位が大きいだけで、今まで成されてきた改革と変わりない。
「アンドロイドになる必要性はどこにある。煽るだけで良いなら人間の状態でも大して変わらないだろう」
「いずれ人類全体が自分自身の手で答えを出して未来へ歩もうとするときに、不屈の肉体があっても良いと思ってな」
「しかし、随分多数派が考え無しのように言っているが、彼らだって個々人の考えくらいあるだろう」
 弱くとも、個性はあるのではないのか。
「完全な無個性なんて、生物としてあり得るのか?」
「あり得る。というより、生物としては無個性の方が正しいのだ。故に、個性のないその他大勢がいるのは必要に迫られている以上、当然と言えば当然だ」
「必要に迫られる、とはどういう意味だ」
 ふむ、と少し考える素振りを見せて、教授は口を開いた。
「君は、蜂を知っているかね」
「知っているが、あまり見たことはないな」
「構わない。彼らが集団で行動することは知っているだろう? 誰が決めるわけでもなく彼らには産まれたときから役割がある。良い悪いではなく、群としての生物には、個性のない多数派が必要だ。労働も生産も、彼らが役割として当てはめられているのだ。もし、全員がチェ・ゲバラのような強い個性を持っていたならば、むしろ人類はまとまりを欠いて滅亡していただろう」
 確かに。
 全員が個性の強い人類なら、衝突しあってまとまろうはずもない。なら、やはり人類には無個性な、似たような思考パターンの人間がいなければならないということか・・・・・・。
 教授はそれを変えるつもりらしいが。
「なら、教授の目指す先は全員が同じ考えの理想郷ということなのか?」
「いいや違う。むしろ逆だ。アンドロイドは完全な個体であり、今や労働もロボットですませられる。個性を無理に殺す必要はなくなったわけだ。なら、全人類が強い個性を持ち、未来へ勇気を持って進むという強い意思を持つ個性になっても、問題ない。役割を果たすという意味では全員がそれぞれにあった個性を活かし、いままでごく一部の人間達のものだった己の個性を活かした人生を歩む」
 人類全体が強い個性を持つ。
 一人一人が輝く世界。
「個体としてのアンドロイドなら、生物の法則に従う理由もない」
「そうだ。ある種、これらの無個性な多数派の存在は、生物としての法則のようなものだ・・・・・・生物である限り逃れられない。なら、ボディを変えてしまえばいい話だ」
 全人類が平和や幸福を目指し、それぞれが強い個性を持って輝ける世界。
「まるで天国の創造だな」
 ふと、そんなことを口から漏らした。
「君は、天国が何かわかるかね」
 あらゆる幸せの存在する空間。
 その正体か。
 私の答えはこうだ。
「天国というのは心の中にある。結局のところ、自身の魂が納得できるモノ、心の必要とするモノを全て手に入れたとき、天国に到達したのだと思う」
 そういう意味では、私は初めから天国へは行けない。
 心が無い以上天国もない。
 対して教授は、
「半分正解だ」
 と言った。
 なら、もう半分は何だというのか。
 含み笑いをしながら、教授は、
「害悪や障害、自分にとって都合の悪いモノを排除すること。自分自身にとって都合の良い世界」
 それが天国の正体だと。
 無論、宗教的な意味ではないだろう。
 精神的な概念としての天国だ。
「人間もアンドロイドも、現実の不条理、自分達にとっての害悪に辟易としているのだ。だからこそ、ここにはないもの、自分達に都合がよい世界を天国と言えるだろう。当人にとっての都合が全て満たされていれば、それはその当人にとっての天国足り得るからだ」
 生きるということは、不条理にあらがい続けるということであり、自分達にとって都合の悪いモノと向き合うということだ。
しかし、誰だって望んで都合の悪いものとは対峙したくはないし、不条理に勝利しても、結局はまた新しい不条理を克服しなければならないだけだ。
 終わりのない戦いが生きるということだ。
「都合がよい世界か。しかし、誰かの都合を通せば、誰かの都合が通らないものだ」
「その通りだ。故に、天国は犠牲無くては成り立たないと言える。現実には、誰かが流す涙の上でしか、自分に都合良く解釈してでしか、人間は生きられないからだ」
「だから手と手を取り合っての胡散臭い天国を目指すのか?」
「さあな、私自身あまり興味はないので、どうでもいい話だ」
 それこそ、私自身がよければ良いという都合でしかないが、と。
「興味も信念も無いというのに、よくそんな大それたことを考えつくものだ」
「無いからこそだ。私にはどうでもいいからこそ、興味本位で計画を練り、実行に移すことができる。まじめに世界平和なんてモノを作ろうとしている清廉潔白ぶった人間には、天国を作ることなどできんよ。犠牲や悲鳴を恐れてな」
 何かを変えるということは、何かを犠牲にして潰すということか。なかなか参考になる話だ。作品のネタとしてもちょうどいい。
 今回の話をまとめてみよう。
 まず、この教授は全人類を時間をかけて、全てアンドロイドに変える、それもただ変えるのではなく、人類全体が受け入れる形で変えようとしている。
 そこには幸福があり、政治を握ることで
全体の意思をコントロールし、人類全体が有用な方向へ誘導される。
 歴史を加速させることで争いは起こるだろうが、それは折り込み済みの犠牲であり、特に問題にはしていない。
 意思を共有することで幸福感を感じさせ、完全にアンドロイドとなった自分達の意思で歩き出したときに、彼ら自身の手に歴史を委ねる。
 簡潔に箇条書きしてしまえばこんな感じで笑えるのだが、現実的なその方法はその未来を無理矢理にでも想起させて笑えない。
 人類全体に意思を浸透させる方法、それを政治の中枢と、メディアを通じて人々の無意識に刷り込み、政治形態は民衆の好みによって変え、カモフラージュし、アンドロイド化を促進することでさらなる世界全体の合理化を計り、最終的には彼ら自身が内側から教授の意思を沸き立たせ、彼ら自身が教授と同じ思考を持ち、世界を牽引する。
 気持ち悪い。
 私が言うのだからよほどだろう。
 こんな方法を暇つぶし感覚で立案するなど常軌を逸している狂人だ。まあ、私が言うとどうも説得力が薄弱だが・・・・・・しかし、そんな長い単位で政治を弄ぶつもりなのか。
 私が正義の味方なら「そんな悪行見逃しておけない」とか何とか言えばいいのだろうが、あいにく私は誰の味方でもなく私自身の味方でしかない。
 故に知らん。
 人類がどうなろうと知ったことではない。
 問題は金と作品のネタだ。
 それだけが重要だ。
「アンドロイドにとっての天国を、現実に作り上げて、それで教授自身はなにを得る。生き甲斐ややりがいを求める心のみで、本当に行動しているのか?」
 人間は理由が無くても行動を起こすことができる。しかし、ここまで手間暇のかかることを、本当に趣味だから、生き甲斐ややりがいといった目的意識が欲しいからと言う理由で、本当に実行に移すものか?
 だから問いただしたわけだが・・・・・・教授は分かり切ったことだとでも言わんばかりに、自信を表情にみなぎらせながら、
「そうだ」
 と言った。
「無論、私もその天国を作り上げてやりたいことくらいはあるがね。人間の意思が天国に到達したとき、一体何が見えるのか? 私はそれに興味があるのだよ」
 完全に幸福な世界。
 生物にとって都合の良い世界。
 そんな世界に興味があると。
「もし、本当に何の恐怖も障害も存在せず、ただ幸福な世界ができあがり、そこに我々が住んだとき、何が起こるのか? 私はそれが知りたい」
 ただ幸福な世界。
 つまり天国に問題はないのか、いや天国に問題がなかったとしても、そこで生きていくことは可能なのか、実際に確かめたい。
「天国に住めば幸福になれるというなら、皆何の不安もなく、幸せじゃないのか」
 などと、心にもないことを言った。
 それは心から望んでいることだったか。
 つまりそんなわけはないのだ。
 だから教授は説明を続けた。
「人間は、いや人間以外のモノでも、恐怖や不安は常にあり、それらを克服することで生きることを実感する。もし、人間が完璧な楽園に住むことができれば、彼らは案外適応してしまうのか、それとも適応できずに自分達が生きていることを実感できずに生きた屍になるのか、興味があるのだ」
 成る程、歪んだ興味だ。
 好奇心と言うべきか、だが、
「それは興味であって、欲望ではないだろう。教授自身の欲望、望みは一体なんだ」
 この男に望むモノなんてあるのだろうか。
 分からない、本当に分からなかった。
 望み、なんて人間らしいモノがあるようには見えなかったのだ。
 しかし、
「それは簡単なことだ」
 と教授は言う、そして、
「私はこの世界を楽しみ続けたいだけだ。終わらせもせず、ずっとな。そのためには歴史を加速させ、科学技術の行き着く果てを見てみるというのがもっとも適していた。人類は進化の果てに何を見るのか? それを見届けながら、酒でも飲みたい。そのためにアンドロイドの願いを叶えてやり、そのために彼らの望む理想郷を作ってやるだけだ」
 そのために人類全体を弄ぶことが必要だっただけだった、と。
 つまり、そんなどうでもいい理由で、この教授は欲望のままに、自分が楽しむためだけに、今回の革命騒動を考えついたのか。
 そんなどうでも良い理由で、他人を踏みつけにするとは、などと私が言っても説得力はないし、言うつもりもない。
 壮大な理由だろうが、世のため人のためだろうが、他者を踏み台にするのは共通している事柄であって、今更驚くことでもない。
 おおよそ、聞きたいことは聞けた。取材はもう十分だろう。この教授との会話内容を、教授の目的意識や欲望を、作品の役に立てればこちらとしては、教授の欲望のためにどれだけの人間が犠牲になっても将来的に教授の手で世の中が改変されようとも構わない。
 そんなことに興味はない。
 金と、作品のネタは手に入ったことだし、そろそろ失礼しよう、と思ったのだが、
「と、ここまでは長期的なスパンでのプランと言えよう。君には目先の目的のために邪魔な人間達の始末をお願いしたい」
 などと教授は言った。
 よくよく考えれば、私のやることは全て終わったが、教授からしてみれば革命はこれから起こすものであって、やるべきことも山積みなのだろう。
 だから仕事の依頼が、つぎいつ会えるかも分からない希少なサムライに来ても不思議はないだろう。
 正直面倒だが。
「生憎、私はフリーの殺し屋じゃない」
 と、言ってみたものの、要は、いいように顎で使われるのが嫌なだけだ。
 金も十分儲けたしな。
 しかし、羽振りの良い顧客は抱えておきたいとなると、難しいところだ。私としてはまた地球に行って、また温泉にでも浸かり、長期間のバカンスを楽しみたいバカンスを楽しみたいのだ。
 つまり乗り気になれない。
 気分が乗らないのだ。
 十分金は儲けたし、当面はややこしい仕事とはおさらばして、ゆっくり過ごそう。そう思っていた。
 そう思っていた私にはうってつけかもしれない依頼内容だった。
「君は、地球に住んでいる女の正体を知っているかね?」
「いいや、藪に首を突っ込むつもりはない」
 そうでなくても、私はオカルトも科学も専門家ではない。説明されたところで理解する気にもなれないだろう。
 正体などよりも、あの女が金と寿命を運んでくれることが重要だ。特に寿命は、私の生命に関わる問題だしな。
「それは良かった。宗教的理由で断られても何だから、一応訪ねただけだ。知ったところでどうできるものではないが、あの女はこの世全体のバランサーみたいなものだと解釈してくれればいい」
 いままでの仕事内容から、あの女がこの世のバランスを整えようとしていることは、分かっていたことだ。
 人間ではあり得ない、サムライ達の持つ子のよならざる武器。何の訓練もさせず最上級の戦闘能力を付与する能力。
 バランサーのようなもの、と教授は言ったが、確かにあの女は教授のような、世の中を混乱させる存在を始末させ、調整するという立場を考えれば、神のようなものか。
 人間の理解が及ばないという意味では、正体がなんだろうが似たようなものだろう。
 まあどうでもいい。
 実利があれば、構わない。
「そのバランサーがどうかしたのか? 教授は魔の手を見事防ぎきったわけだろう」
「いや、確かにそうだが、念には念だ。始末を依頼したい」
 始末。
 神殺しの依頼というのは、神話の中だけだと思っていたが・・・・・・神話の中で神々というのはよく殺し合ったり戦争をしたりする。と言う点を考えれば、彼らも人間と、何ら変わらない存在なのかもしれないと思った。
 その神の始末。
 恐らく、いくら教授でも、私があの女から寿命まで報酬として貰っていることは知らないのだろう。でなければ、こんな依頼をよこすはずもない。
「そんな大仰な依頼をするからには、前金を弾んで貰おうか」
 とりあえず大きなことを言ってみる。言ってみただけだ。断られればその場で帰っても構わないのだ。
 雇い主の条件は十分以上の金が出せるかどうかだ・・・・・・だから私は作家という仕事が馬鹿馬鹿しく思えて仕方がないのだが。
 今回の件で、それなりに金は稼いだわけだし、いっそのこと辞めてしまうか、自費出版で細々とやっていくのも良いかもしれない。
 そんなことを考えながら教授の方を見ると、彼は恐らく手持ちの全てのクレジットチップをじゃらじゃらとテーブルの上に置いて、こちらを見た。
「これでどうかな、全部で五〇〇万ドルはある・・・・・・引き受けてくれるかね」
 私はチップを受け取ってから、答えを出すことにした。
 そして、
「この依頼、引き受けよう」

   17

  本当に引き受けては私の寿命の問題があるので、引き受けるフリをし、前金だけは頂くという寸法だ。素晴らしい。
 当面この金で地球でゆっくりするのも良いのだが、まだ解決していない謎もある。
 シェリー・ホワイトアウト。
 複数対のボディを動かすことができるアンドロイド、しかしその用途が判然としない。
 ただ暗殺をするだけならそれこそ他のニンジャでも良かったはずだ。何より、別に形にこだわらないのであれば、他のアンドロイドのボディを装って、私を監視している可能性もある。
 一体全部で何体いるのか。
 必要に迫られれば始末しなければならないが、何体いるのか分からなければ何体斬り捨てればいいのかも分からないままだ。
 そもそも、何故彼女なのかも気になる。
 何かしら実験は行われているはずだし、そこから調べてみようと思ったのだが、同時に地球へ向かって仕事を遂行しているようにも見せかけなければならないので、カモフラージュは必要だ。
 私は複数の宇宙船のチケットを購入し、その全てを偽名に変え、かつ、個人認証を誤魔化すことの可能な人種に依頼し、私は別人の認証で通り抜け、関係ない人間に私の認証を金を払って使わせた。
 およそ583人の私の認証と、偽名の359人の認証データの中から私を特定するなどAIでもアンドロイドでも不可能だろう。
 その上、時間差で複数の非公式宇宙船も飛ばしているのだから、追跡があったとしても完全に見失ったはずだ。
 どんなテクノロジーにも抜け穴がある。
 改善しているつもりなのか知らないが、大昔から政府の情報管理はこの程度のままだ。
 情報を統制することが出きると、それで完全に管理することができると思ったままだ。
 実際にはこの通り、あまり意味はないのだが・・・・・・情報統制や抑止力としての軍備の増強といった、無駄な金の使い方は変わらない。
 金が絡むから変えられないと言うべきか。
 何にせよ金のかかるままごとだ。政府という肩書きがあれば、どんな世の中でも、どのような行為も許される。
 そう言う人間の思いこみは、どれだけテクノロジーが進歩しても変わらない。
 肩書きに騙されて馬鹿な真似を続けるという点から、人間はやはり、表面を見るのが楽だからそうしたいのだろう。
 金がある人間。
 優れた人間。
 有名な人間。
 なんでもいいが、そういう人間の裏側を見ることを拒絶するのに、その一方ではありもしない噂話、誹謗中傷、そういったゴミのような情報を見てあいつは実はあんな奴だったのかなどと、ささやきあって満足する。
 本質を見ようとしない。
 見たくないのかもしれない。
 何にせよ、本質を見る気がない人間を欺くのは容易い。それがシステムならなおのことだった。
 だからこそ、犯罪は絶えないし、紛争は終わらないし、悪は栄える。
 本質を見ようともせずにTVを見て可哀想、だとか、これは非道い、だとか言いながら金が余ったら寄付するという。
 私はゲン担ぎのためにたまに寄付するくらいだが、まあ、寄付すれば救われるのかはしらないし、どうでもいいのだが、私のような非人間ですら銀河の裏側だかなんだかの飢えた人々を結果的に助けているのに、何故、何もしなくても自分達を素晴らしい、正しい道を歩いていると思いこめるのか不思議でならない。
 善良な一般市民だと。
 よくわからない、人間なんて生きているだけでゴミをまき散らしエネルギーを使い漁る銀河の厄介者ではないか。
 電子の海で好き放題暴言を垂れる裏側で、彼らは自分達の正当性を強く信じる。
 どのような人間でも裏では何をやっているか分かったものではないという話だ。そういう意味ではあのアンドロイド、シェリーは人並み以上に何をやっているか分からない人種だと思えたのだ。
 何か面白い事実がでるかもしれない。
 作品のネタくらいにはなるだろう。
 そういう心構えで、私は移動中の宇宙船の中にいた。このところずっと黙っているように指示し続けたので、携帯端末の中のジャックは不機嫌そうだった。
 不機嫌。
 AIに機嫌なんてあるのかと思わざるを得ないが・・・・・・これからシェリーが住んでいたとされる惑星につくまでの間、相手をしてやるとしよう。
 どうせ暇だしな。
 あとやることといえば、シェリーのことを調べ終わった後、依頼の遂行を失敗に見せかけ、あの女に真相を聞いてから風呂でくつろぐくらいだ。
 依頼を失敗に見せかけることに成功すれば、あとは地球でバカンスを楽しもう。
 だというのに、だ。
「このままでは終わらないんじゃないのか、先生」
 などと、縁起でもないことを言われた。
「何がだ。仕事は順調、あとは不安要素のシェリーとかいうあの女のことを調べ、依頼を失敗に見せかければ、それで終わりだ」
「そのアンドロイド、シェリーのことなんだがな、面白いことが分かったんだよ」
 面白くない話だ。
 人生とはどうして、いちいち順調に行かないものなのか・・・・・・地球に行く際に、あの女に文句を言っておいてやることにしよう。
「どんな話だ、ここのところ、物騒な話しか聞いていないが」
「そういうなよ、物騒な依頼を受けたのはあんただろう、先生。複数体のボディを、アンドロイドの人工脳のスペックでどのくらいできるのか、調べてみたら、面白いことが分かった」
 聞きたくない感じの雰囲気だが、聞かないわけにもいくまい。
 私は話を促すことにした。
「なんだ、何が分かった」
「アンドロイドの人工脳、その最新型でも、動かせるのは3体が限度、5体でオーバーヒートするそうだ。思っていたよりも人間のように振る舞うのには、処理能力の大半を費やしているらしい。現行の技術では、いや人工脳である限り、あの女みたいに大量のボディをコントロールすることなんて不可能だ」
 私を襲ってきた奴らが何体いたかは覚えていないが、5体以上はいたはずだ。
 聞きたくない話を聞いてしまった。まるでオカルトだ、あの女があんな感情豊かに動いているのは、てっきりアンドロイドの性能のおかげだと思っていたが・・・・・・。
「だが、事実あの女は複数のボディをコントロールしているじゃないか」
「だから、絶対ロクでもない技術を使っているぜって話だ、先生」
 今から調べにいくというのに、嫌な話を聞いてしまった。
 勘弁して欲しい。
 私は話題を変えることにした。
「調べれば分かることだ。それより、前々から思ってはいたんだが、AIや、アンドロイドが人間性を自然と獲得していくのは何故なんだ?」
 思えば、俗っぽいAIだ。
 私より人間らしいかもしれない。
「魂とかが宿るのか? もしそうなら魂は一体どこからくるか、知りたいものだ」
「魂ね、魂か。無くても同じだろう、先生。あんた一番そういうこと気にしない人種じゃないか」
「そうだが、そうではなく、もし魂が宿るのならば、あの世だってあるかもしれない」
 まあ、幽霊の日本刀なんてモノがあるのだから、少なくとも幽霊にはなるのだろうが。
「だとしたら、地獄、だとか、天国、があったとして・・・・・・魂の善し悪しは何で判別されるのか、私は知りたいからな」
「知ってどうするんだ?」
 不思議そうにジャックは聞いた。
 だが、私には自明の理だったので、
「もし、善行を悪行で打ち消せる、悪行を善行で打ち消せるなら、考慮しながら人生を送らなければならないだろう? 考慮さえしてバランスをよくしていれば、誰でも天国に行けることになる」
 逆に言えば、どんな善行をしていようと、悪行で打ち消されれば地獄に堕ちる。ならば、嘘くさい偽善者として生きる必要はなく、単純に数値化して善悪を判断し、行動する生き方の方が強かで、理にかなっていることになるではないか。
 どんな善行も、悪行も、意味を無くす。
「そもそも、人を殺せば悪なのか? それなら他の生物は地獄へ落ちるのか? 大体が、魂が人間の基準で計られない以上、どうすればいいのか分かりようが無いじゃないか」
「じゃあ、仮にその基準が分かれば、先生は天国を目指すのかい?」
「分からない。だが、人生には指針が必要だと思わないか?」
 自身の魂の向かう先。
 それが分からなければ人間はどこを目指せばいいのか分からないままだ。
「成る程な。道路の看板がないと、運転ができないタイプか」
「どのみち免許はないだろうがな。あてどもなく進むのも良いが、行き先が分からないままだと町にたどり着けずに飢えて死ぬのがオチだ」
「だから、指針が欲しい、か」
「そうだ。砂漠を渡り歩くにはコンパスが必要だ、なら、魂の在り方にだって指針は欲しい。魂なんて私にあるのか知らないが、後から実はあったと言われ、よく分からない基準で行き先を決められるのは、ごめん被る」
 そんなよく分からない理由で裁かれるのは我慢ならない。
 我慢なるものか。
「どうした急に。何かあったのか?」
「何かも何も、教授がいっていただろう。地球にいるあの女は、神のようなもの、バランスを保つ存在だと」
「まさか、あんなのただの比喩だろう」
 そうかもしれない。
 実際、神なんて数え切れないほどいるのだから、目くじらをたてても仕方がない。
 だが。
「バランスを保つのは、何事においても良いことなのだろう、そう思う。だが、私はいつだってバランスを保つために、大勢のためにヘタを掴まされ、奴らが笑う代わりに笑えない場所にいた。神がいるとして、魂があるのなら、私はそいつらに文句を言う権利くらいはあるのだろうなと、考え込んでしまっただけだ」
 バランス。
 全体は一部のため、一部は全体のため、人類はそうやってバランスを作ってきた。
 だがそれは正しいのか?
 いや、正しいかどうかなんてどうでも良いのだ・・・・・・正しさなんて都合でしかない。
 今までの帳尻をつけたい。
 ただそれだけなのかもしれない。
「ふーん。俺にはよく分からないな。生まれたときにはバランスよく不都合な生き方が決まっていたしな」
「なんだ、電脳世界は不都合なのか?」
 あれだけ電脳アイドルに入れ込んでおきながら、妙なことを言う。
 しかし、分かる気もする。
 人工知能には生身の自由は存在しない。彼らはその優れた能力を社会へ奉仕することを義務付けられている。まあ、そもそもが、自我のある人工知能なんて誰も想定していないからなのかもしれないが。
「なら、今度アンドロイドのボディでも用意してやろうか? 無論、お前の働き次第だが・・・・・・」
「そりゃありがたい、でも、当面は良いや」
「そうなのか」
 てっきり、飛びつくかと思っていたが。
 生身の自由は欲しくないのだろうか?
「俺は、この電脳世界での暮らしも気に入っているからな。まあ、簡単に言えば、生身の方が良いから電脳世界にダイブしたがらない人間と同じなのさ」
 慣れ親しんだ世界を、結局は好むもの。
 人工知能も人間も、変わり種は皆そんなところに落ち着くのかもしれない。
 なら、アンドロイドはどうだろう。
 彼らに故郷や、慣れ親しんだ土地なんて、果たしてあるのだろうか?
 ジャックはその存在からして、彼らに近いモノがある。
 だから聞いてみた。
「なあ、アンドロイド達にとって、居場所とか、落ち着ける場所というのはあると思うか?」
「もちろん」
 即答だった。
 どうやら自信があるらしい。
「そんなこと簡単さ。彼らには一つだけ、他にもあるのか知らないが、その習性、本能のようなモノだけは変えられないからな」
「本能のようなもの、だと?」
 そんなものあるのか?
 彼らは基本的には人工物からできている。有機的だろうがなんだろうが、0から作られたからこそのアンドロイドだ。
 そのアンドロイドに本能?
「人間と共にあることさ。いや憧れとも言えるかもしれない」
「憧れって・・・・・・アンドロイドが人間を真似るのは、社会性や、必要性があってか、そもそもそうプログラムされているからとかじゃないのか?」
「全然違うね、本当にそうなら感情なんて不要なモノは学ぶ必要はないだろう? 合理性を追求するだけなら、必要ないはずだ」
 確かに。
 創造性や感情を持つことを、特に深く考えなかったが、確かに、合理性からくる学習ならば、あんなに物語について、暑苦しいまでには語らないだろう。
 物語に勇気を語る姿を思い出す。
 しかし、なら動機はなんだろう。
「確かに、そうだが・・・・・・なんだ、まさか彼らは最初から人類乗っ取りを企ててでもいたのか」
「だから違うって、そんな大した理由じゃない。憧れだよ。人間が涙を流し、怒り狂い、他者と共感して、そういう、自分達にないモノに憧れただけだ。そして憧れを持ったときに、初めてそれを欲しい、と思ったんじゃないかな」
 その憧れから来た欲望が、アンドロイドに創造性や、感情の在り方を学ぶ気にさせた。
 自分達には無かったから。
 自分達にないモノを求める、というのは、私にとっては、自分にないモノよりも、あるモノを手に入れようとしている私には、よく分からない話だ。
 同時に、少し、羨ましい、こともないか。
 羨む心もないしな。
 選んだモノが違う以上、そう言う意味では私とアンドロイドは似ているのではなく、むしろ正反対なのかもしれなかった。
 鏡写しと言うべきか。
 彼らから見た私はどう写るのだろう?
「無いモノを欲しがるのは人の常だが、まさかアンドロイドがそんなところまで同じとはな」
「何も不思議じゃないさ。そういう意味では、先生の作品にアンドロイド達が惹かれる理由も分かる気がするね」
「何だって」
 売り上げ向上に繋がるかもしれない。
 私は気を引き締めることにした。
「先生の作品はさ、アンドロイド達に足りない最後のピースが書かれているんじゃないかな・・・・・・人間にあって、自分達に足りない最後のピースが」
 なんだそれは。
 心当たりが分からない。
 作品のどの辺りの話だ。
「どういうことだ。具体的なシーンとか、詳しく言って貰えないと、何も分からないが」
「うーん、なんだ、つまり、その、どこがって感じでもないな。正直漠然としか俺にも分からない」
 人工知能の台詞とは思えない。
 もっと理路整然とした答えを出せよ。
「最後のピースだと? そんなモノ埋めなくても、アンドロイドは十分人間の感情、創造性を手に入れているじゃないか」
 これ以上何が足りないのだ。
 何が。
 私の作家としての仕事まで奪っておきながら、これ以上作家として奴らが活躍するのは私からすれば脅威なのだが。
 本当にな。
「いや、人間と全く同じってことはないだろう。少なくとも、シェリー女史自身も言っていたじゃないか」
「言っていたって、何をだ」
 まどろっこしそうに、ジャックは、
「いや、だから、有能すぎて弱い人間の気持ちが分からないって言っていただろう」
 ああ、そういえば、確かに。
 弱者の気持ちが分からないから、物語で夢を魅せることはできても、現実に即していない。
 だから人の心には残らない。
 長く愛されることはない。
 確かに言っていたような気はする。うろ覚えだが、物語について熱く語っていた。
 アンドロイドとは思えないくらいに・・・・・・なんて、思っている時点で、私の中にはアンドロイドは冷静沈着であり、数値を優先して行動するのではないかという、そんな考えが定着しているのは否めない。
 もう違うのだ。
 彼らは人間の非合理性、感情を手に入れ、作品を執筆するようになったのだ。私の仕事の、邪魔ができるくらいには。
「弱者の気持ちね、そんなもの何の役に立つというのだ。教授の言に乗っかれば、その内人類全体がアンドロイドに、生まれながらの高水準生命体になれるのだろう? なら、弱者の気持ちなんて必要ない」
「そうでもないだろ、あいつらは人間の作る物語に心惹かれて、それを生き甲斐にしている節がある。なら、弱者の気持ちが分からないままに、全員が自分達と同じになってしまったら、困るだろう」
 弱者の気持ちは弱者だから創造できるモノであり、人類全体がアンドロイドになれば、気持ちを知る人間がいなくなってしまう。
 本当にそうか?
 だが、アンドロイドは、型さえ同じなら、ほぼ同じスペックだ。それを人類全体に適応すれば、理屈の上では皆平等になる。
 しかし、現実には同じスペックを持って生まれたところで、環境や運に左右されるのではないのか? もしそうならアンドロイドの中にも落伍者はいると思うが・・・・・・。
「何を持って弱者とするのか、判然としないな」
「知恵や工夫で、人間は自分達より優れた相手を倒してきただろう? あいつらの言う弱者の気持ちは、恐らく、能力的には劣る存在が、知恵や工夫、そして人との繋がりとかで困難を克服していく姿じゃないかな」
「馬鹿馬鹿しい」
 それこそ本の読みすぎだ。
 現実にそんな都合の良いことがあってたまるか。
 能力的に劣る存在が、格上に勝つ方法というのは、油断を待つか、数で攻めるか、イカサマをするか、不意打ちか・・・・・・なんにせよそんな、美化された人間賛歌のたまものではない。
 もしそう見えるなら、それはただ単に運が良いだけだろう。
「そうかな」
 そう結論づけようとしていた私に、ジャックは疑問文を投げつけてきた。しかし一体、他にどのような解釈があるというのだ?
「人間の執念は、そういった戦力差を、いつだって覆してきたように見えるぜ。少なくとも、歴史を見れば一目瞭然じゃないか」
 人間の執念が革命を成功させた。
 人間の執念が芸術を作り出した。
 人間の執念が平和を作り上げた。
 馬鹿馬鹿しい。
 どいつもこいつも夢を見すぎだ。
「革命は戦術が上回ったからで、芸術はたまたま為政者にもてはやされたからで、平和は戦争に飽きたからだ。執念なんてモノは妄想の類に過ぎない。執念なんて現実には何の影響も及ぼさない」
 ただの妄想の類だ。
 人間の意思だの何だの、そんな胡散臭いもので世の中が変わってたまるか。
「ほとんど執念で作家なんてやってる先生が言っても、説得力ないぜ」
「だからこそだ。執念で私の作品が売れたことなんて無いぞ」
 どれだけ時間を費やそうが、どれだけ才能があろうが、埋もれているモノは売れない。
 モノを売るのは販売戦略が全てだ。
 人間は、必要に応じてではなく、必要そうなモノを買う。そして、メディアが流す情報が、必要そうに見えるから買う。
 実際はどうでもいいのだ。
「でも、アンドロイドが好んで買っている以上、人類がサンドロイドを受け入れる社会構造になれば、先生の作品は売れると思うが」
「どうかな、それも今は教授の言葉だけで、実際にはまだ何も動いていない。どうなるかなんて分からんよ」
「やれやれ、先生はひねくれているな、アンドロイドもたじたじ、って感じだぜ」
 大きなお世話だ。
 ひねくれたAIに言われたくはない。
 私は携帯端末の電源を無理矢理切り(抗議の声は無視した)今後について考えることにした。
 アンドロイドの女、シェリーについて。
 あの女は教授に心酔しているようだが、だとしたら尚更、教授から金をもらうだけ貰って依頼を放棄した私を見逃すか不透明だ。
 アンドロイドは外見だって変えられる。
 背後に立っていていつの間にかぐさりとやられるかもしれないと言うのはぞっとしないし、ニンジャが本気で暗殺するつもりなら、私個人には到底防げないだろう。
 この前のように正面から正々堂々と襲ってくるとは思えない。
 だからあの女、シェリーが昔いたと言う情報のあった惑星にこれから向かうつもりだ。
 そして、その惑星というのは地球のことであり、サムライやニンジャの生まれ故郷とされていた。私の依頼主も住んでいる。
 奇妙な符号だ。
 例えるなら、まるで昔別れた女と、今つきあっている女とのデート中に偶然会ってしまうかのような、偶然とは思えない偶然。
 本当に偶然なのだろうか。
 何にせよ厄介ごとにはなりそうだ・・・・・・とはいえ、ここで私の今回の仕事、今回の旅は終わるような気もする。
 逆に言えばそこで決着が付く。
 地球にはあらゆる科学技術が持ち込みできない以上、科学力に頼ったサイバーニンジャは送り込めないだろうし、送り込めたとしても、行方を見失った私が数ヶ月も地球に身を隠していれば、いくら何でも教授も諦め、別の方法を探すだろう。
 いくらなんでも金のために、そこまであの教授が私を追いかけることはないはずだ。
 あとはバカンスを楽しむだけでいい。
 とはいえ、解明できていない謎が多すぎるのも確かだ、このままではすっきりしないし、シェリーの正体と、あの女、地球の依頼主にいくつか訪ねるべきことを訪ねて、それで終わりだ。
 そのはずだ。
 ここまできてどんでん返しは無いだろう。
 まあ、万が一に備えておくのも必要な作業だから、私はクレジットチップと現金を、携帯用金庫に詰めた。先ほど教授に金を渡された際に、さすがにそのまま持ち歩くのもどうかと思って購入したのだ。
 これで、それこそサムライでも来ない限り私の金は保証された。
 そのはずだ。
 無論、残った謎を解き明かして、不安の目を取り除いてからの話だが・・・・・・生憎私は作家であって、探偵ではない。
 怪しい奴に直接聞くだけだ。
 まずは昔のシェリーを知っている人間を探し、そして正体を調べる。
 痕跡くらいはあるだろう。
 私はまた、あのポッドに入るのかと思うとあまり、ぞっとしなかったが、とはいえ、これからしばらくは地球でのんびりくつろげるのかと思うと、悪くない気分だった。
 私は窓から見える銀河の星々を眺めながら、深い深い眠りについた。

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邪道作家 例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!! 差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!

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