眠れない夜は【シロクマ文芸部】今週のお題【眠れない】のお話です。よろしくお願いします。
眠れない夜は、眠れないままでよい。
胸に手を組み、静かに息を吐き、幼い日の家族を夢にみる。
祖母、父、母、兄、私
五人家族の夕餉
父は通勤に単車─バタバタと呼ばれていた─を使っていた。
その音が聞こえると、私は急いで外へ飛び出し乗せて貰った。
帰ると、父はいつもの着物に着替えテレビの前に陣取る。
やがて夕餉が始まる。
祖母も父も大のプロレス好きで、食事をしながら声をあげて応援していた。
私は父のあぐらの中にすっぽり収まり、レスラーの動きに合わせて揺れる父の身体に任せて、まるで荒れる海の舟に乗っているようだった。
当時活躍していたレスラー達は
ジャイアント馬場、ラッシャー木村、悪役のアブドラ・ブッチャー、よく頭から血を流していた。ラリアットのスタン・ハンセン。
私はただ怖いばかりだったが、祖母は
「やっつけろー、アメリカ負けろー」と、声を張り上げていた。
そんな祖母や父を、母は少しあきれながら見ていた。
兄も覚えたての技を私に仕掛けてきた。痛いので家中を逃げ回った記憶がある。
夕餉がすむと、父は私をかかえ五右衛門風呂に入れてくれた。
浮かぶ木の板を踏み、静かに父の腕の中で湯に沈む。
そこでも父はご機嫌で私をゆっさゆっさと揺らした。あたたまった身体を大きな手で頭をゴシゴシ洗われる。
私は耳を塞ぎ、小さく丸まって蛙になった。
布団に入ると、父にしがみついて見た、
アポロ11号の月面着陸
二人とも石のように固まって見ていたね。ピョンピョンと跳ねる飛行士、月にいったらウサギになるのねと感心した。
大きな父に抱かれ、肩に乗り
首にしがみつき、その少しタバコ臭い匂いに安らいだ日のことを思い出していると
私はいつの間にか
枕に一筋の涙を落として
帰らぬ日々を懐かしむ
それでも胸に温かいものを
感じながら
ふっと息を吐き
また眠りにつく
眠れぬ夜は 眠れぬままに
終わり
