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#月の味 シロクマ文芸部

「月の味は、どんなかって?
それは、しょっぱいに決まってるでしょ、
   涙の味なんですよ」
そう語る竹ちゃんは、
渋谷から八分で行ける
『八分坂横丁』って名の歓楽街の片隅で夜鳴きそばの屋台をしていた。
1984年の渋谷はバブル前夜の
イケイケ景気で新しいビルがどんどんできて街が様変わりしていた。
そんな渋谷の中で八分坂横丁はまだ昭和の猥雑さを残していた。

竹ちゃんはアーケードの入り口に店を出していた。夕刻四時頃から
仕込みを始め、5時過ぎには仕事帰りのサラリーマンが顔を覗かせ
腹ごしらえをしてお目当ての店に向かう。でも一番のピークは夜も深まる十時過ぎからだ。
「オヤジ、コップ酒、店の子と待ち合わせなんだよ、その前に景気付けお願い」
客はそわそわしながら女の来るのをまっていた。暫くして帰り支度をした店の女の子が駆けて来た。
「お待たせぇ、ママが勘ぐッちゃて中々帰してくれないのよ、御免ね、たーさん」
「いいよ、いいよ、お腹空いてんだろ、なんでもいいから食べろ」
「じゃあ、エビ天三つの増し増しそばお願いします」
「あいよ!」
客は女の子の食べ終わるのをまって
「ねぇ、もう一軒一緒に飲みにいかない?」
「だめ、だめー、家には亭主と乳飲み子まってから無理~!」
「嘘だろ、未婚の二十歳って言ったくせに」
「ママが未婚で二十歳で通せって
私のせいじゃ無いわよ、文句があるならママにいってよね!」
女の子は蕎麦を平らげ手を振って行ってしまった。
呆気にとられている客を見て竹ちゃんは
「お客さん、近頃の子はあんな風ですから、本気は野暮ですよ」
客はうなだれて駅の方にとぼとぼと歩いて行った。
誰もが浮かれていた。
路上では革ジャンでロカビリーを踊る男女や怪しげな占いをする店
八分坂横丁のアーケードを潜れば
心に傷を持ちながらも顔では笑い陽気なそぶり、男と女の欲望が渦巻く世界へと誘う。
竹ちゃんは時計を見た。
そろそろws劇場(ストリップ)の閉店時間だ。風営法で深夜12時までと決まっている。踊り子達が化粧を落としすっぴんでやってくる。化粧を落とすと誰もストリッパーとは分からない。
「竹ちゃん、熱燗一合と月見蕎麦
お願い」
「あいよ!、アッわるい玉子きらしてた」
「今日は繁盛したのね、いいわ掛け蕎麦で」
「すまない、これ、つまみおまけ」
「竹ちゃん、支配人がね、劇場来月で締めるかもしれないって、もう時代遅れなんだって、売り上げも右肩下がり、オーナーがね、ストリップ辞めてノーパンしゃぶしゃぶのお店に変えたいんだって」
「近頃流行のあれかい、ノーパン喫茶とかしゃぶしゃぶとか、訳分かんないのが流行るよね」
「私達、これでもプロ意識持って長年やってきたじゃない、それを時代遅れの一言ではい、さよならよ…、
私悔しい…、」
そう言って踊り子は涙を滲ませながら蕎麦を啜った。

すると、さっきまで泣いていたのに幼女のような顔をして
「見て、見て、竹ちゃん掛け蕎麦の中に月が浮かんでる」
「これがほんとの月見蕎麦だな
味はどうだ?」
「うぅ~ん、少し、しょっぱいかな」
「そうかぁしょっぱいか、それは涙の分な」
踊り子はあどけない顔をして
「竹ちゃん、もしこの八分坂離れてもしょっぱい味の蕎麦忘れないから、元気でいてよね、私も負けないから」
そう言って踊り子は変顔をして去って行った。
誰もが浮き足だっていた。その日その日を貪るように生きていた。
竹ちゃんは店じまいを始めた。
屋台を曳きながら見上げた空にはまあるい月が竹ちゃんの背中を優しく照らした。
「俺もそろそろ潮時かな、いい時代もこれまでか」
八分坂横丁のアーケードには英語でこう書かれていた。
『pray  speak  what  has  happened  』
(何かあったら話してごらん)
八分坂横丁、どんなに世の中変わろうとも心の中にあり続けて欲しいと
願うばかりだ。

お終い
あとがき
フジテレビ 10月期ドラマ水曜夜10時
菅田将暉主演
三谷幸喜脚本
「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろうか」
一話を見終え フジテレビの本気を感じた。ドラマを越えて映画を見ているような満足感。セットも役者の本気度も半端ない。
一話目でやられた!是非来週水曜夜10時二話目みて欲しい。
夜鳴きそば屋の竹ちゃんは私の創作です。物語に出てきません。
付録と思って楽しんでくださいね😊






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