「言葉の庭」7月企画 夏に挑戦したいこと
退院して早一ヶ月。
家の中でひたすら耐える日々も
ようやく明るい兆しが見えてきた。
杖なしで歩けるまでに回復すると、不思議なもので夏雲のようにむくむくと「やってみたい」という気持ちが湧いてくる。
「そうだ、外へ出てみよう」
一時間ほど車を走らせてもらった。
山の緑はいよいよ深みを増し
駆け上がるハイウェイの先には紺碧の空が広がっていた。
私は子供のように目をかがやかせ
辺りを見回した。
世界は美しいものであふれている
テレビ番組ではないが、今の私には
世界は色であふれている
ふと、若い頃を思い出した。
私はかつて、テキスタイルデザイナーを目指していたことがある。
京都植物園の近くにある小さなデザイン事務所でデザイナーの卵として働き始めた。ほんの半年だけ。
それでも、あの日々は決して無駄ではなかった。仕事は布を彩る色を生み出すこと、デザインが気に入ってもらえば生地メーカーが買い上げてくれる。色と向き合い、変化していく様を追いピタッとくる色を見つける。個展に向けて追われる日々。
半年後、本来じゃじゃ馬の私は
華やかな世界に憧れ布よりも服そのもののデザインへと興味が移ってしまった。
結局は、卵は孵化することはなく今の私がいる。
けれど、色を見る癖だけは今も抜けない。スーパーに行けば、商品のパッケージに目がとまる。
「この色の配色、ステキ」そんなことを考えながらつい立ち止まって見入ってしまう。主人からは
「絶対、お前は不審者に思われてるぞ」とたしなめられる。
興味をもつと、じっと見てしまうのは子供の頃からの癖だからどうしょうもない。
自然に学ぶ
この世に生きるものは、それぞれに与えられた色を持っている。
葉の緑も、空の青も、花びらの赤も
虫の羽の光もどれひとつとして無駄な色はない。しかも完璧な色で。
この夏、私が挑戦したいのは大きなことではない。
世界をもう一度「色」で見ること。
美しく彩られた世界を、この目に焼き付けたい。日々自然に癒されたい。
それが、退院して最初の私のささやかな挑戦です。
了
かぜの帽子さんへ
挑戦というほどのものではありません。穴ぐらからでたモグラが世の中の眩しさを再発見したと言うところです。いつもありがとうございます。
