夏休み【シロクマ文芸部】 あんちゃんの背中

夏休みになると、私は兄をいつも
追いかけた。
「あんちゃんまってー、わたしもいきたかぁ」
「さかなば釣りに行くけん、こんでよか」
「せみばとりたかけん、つれてけ」
「せからしかね、しずかにしとかんばよ」
三つ上の兄が夏休みに入ると嬉しくて、私は金魚のふんみたいについて回った。
「あんちゃん、まださかなば、かからんと」
「さちこがうるそうするけん、逃げよると」
「つれたら、ネコのエサにするけん
はよう釣ってよ」
「ならば、だまっとれ!」
私は黙って川のせせらぎを見つめていた。キラキラと降りそそぐ太陽
せわしく鳴く蝉の声、むせかえるような草いきれ
それと、あんちゃんの背中…、
あんころの、話しばしたかね
あんちゃんって何遍も呼んでも返事もせん
母さんがさみしかいうて、早う
つれていってしもうた…。
墓石に蝉の抜け殻がついていた。
さっきのにいにいぜみは
あんちゃんかもしれんね
思い出すのは、楽しかことばかりやった。
夏休み…。
了
