見出し画像

「アスラオ・碧を継ぐもの」Miclalaさん

 私はこれまで、Miclalaさんの作品を誉めることは稀でした。一年半くらい前にはじめて読み、心温まる短篇小説でしたが、何かが足りないと思い、三桁のスキがついているにもかかわらず「視点がおかしい」と書いたほどです。

 今回、紹介させていただくMiclalaさんの長編小説『アスラオ・碧を継ぐもの』は、文字数が多いためにファンタジーノベルを好む読者は別として、全二十八話を読み通す方は少数だと思います。

 noteは紙本と違い、栞のたぐいを挟んでつづきを読むことができない。また、私のような高齢者には、横書きの長文は、読み慣れていないせいもあり、読了することが一層困難に思える。
 しかし、本作は、読みづらくても、読者を失望させない作品に仕上がっています。

ヒトは、家族や仲間のために、いかに生き、何を為すべきか」という普遍的テーマを問いかけているからです。

 養父母のもとで育った中学生二年生の未来(みらい)は、小学生の頃、クラスメートと争い、水死させかもしれないという過去が心の傷になり、他者に対して心を開けない。壮絶なイジメに遭い、抑えられない暴力性にも苦しみ、自分自身さえ信じられない。

なぜ、自分は生まれたのか」と。

 ある日、入院中の見知らぬ老人と、養父母を介して対面する。
「未来……」と呼びかける老人は、余命いくばくも様子だった。
 未来という名、水中で起きた事故、ぬいぐるみの中に隠された石など導入部分のこれらの伏線を、記憶できる人はそう多くないと思うが、作者は、作中や結末で重要な伏線を、目立たないように書き入れている。

 余談になりますが、長編を書く場合、編み物の縦糸と横糸のように整然と編み上げる手法を駆使しなくてはならない。(テーマが縦糸、エピソードが横糸です)。作者はその点を熟知しているというより、長く暖めてきた物語であるため、無意識のうちに構成ができているように感じました。

 もともと心理描写が的確で、情景描写も優れている。奮起すればなんとかなると以前から思っていたが、なぜか、一人の視点で書ききれない。しかし、本作は、長編なので、多次元視点で書かれていることが、効を奏している。行間がとられているうえに、小見出しによっても書きわけられているので没入感が削がれることはない。ただし、登場人物が多いので、名前を記憶するのにひと苦労する。異世界であることも相俟って、ときどき、ここはどこ? あんたはだれ? と問いかけたくなる。

 第一話から第四話までは、一枚の写真から実の両親を探す旅に出る未来が描かれる。〝水の社〟のある彼乃原湖(かのはらこ)から〝神隠しの国〟にたどりつき、そこで、ロッキと名乗る同年齢の少年と知り合う。
 ここから二人の少年の冒険の旅がはじまる。

 二つの月の見える〝ハワクの国〟には、人の憎しみを食べて生きる妖獣ノーバがいる。手先のメノウを使って禍の種をまき、つましく暮らす人々を苦しめている。
 未来が家から持ち出した石は、メノウの卵だった。
 何百年も寿命のあるハワクの人々は過去の災厄を記憶し、言い伝えを信じ、〝外の国〟からやってきた未来を、希望の子〝アスラオ〟と信じ、そう呼ぶようになる。

 ノーバを閉じこめた結界にほろこびが生じたせいで、ハワクの国は滅亡の危機に瀕していた。
 メノウの卵は孵り、ミロクと名付けられる。
 孤独だった未来は次第に、仲間の大切さに気づき、少女ノニとの出会いで恋を知る。
 
 美しい鳥に育ったミロクは、メノウの卵であっても、過去に慈しみをうけたことによって毒の水を浄化する力をもっている。
 気づいた妖獣ノーバによって、飲み水を毒水に変えられたため、未来は、愛してやまないミロクの血で浄化する必要に迫られる。未来は悩みつつも、仲間のために希望の子、アスラオとなり、ノーバやメノウと闘う決意をする。

 展開部分に入り、リズム感のある格闘シーンが随所に描かれている。彼女の他作品と文体が異なり、切れ味がいい。こんなふうに書けるとまったく思っていなかった。女性から男性に変容したかのように読めた。

 この物語は生きる意味を見失い、不信と憎悪の渦巻く現代社会の縮図、あるいは映し絵だと思う。正義感の強い者ほど傷つき、挫折するシステムの中で、多くの人が苦しんでいる。

 うちなる敵と、所在のさだかでない敵との区別がつきにくい。己れに非があるのか、他者に非があるのか。人の憎しみを糧にしている者の実体は、果たしてどこにあるのか。

 憎しみから生まれる愛――この部分が、本作の意図をもっともよく象徴しているように思う。
 
 思いがけない裏切りにも立ち向かい、いくたの犠牲ののちに未来は、ハワクの人びとを救う。
 友の死に未来は涙する。

人を好きになることがどんなに楽しいことか。そして、たとえ、それがどんなに悲しい結末になったとしても、その子に出会えたことが、そのことが素晴らしいんだ」

 そして、外の国――自らが本来あるべき場所にもどった未来には、予想を越える結末が用意されていた。

 ファンタジーノベルの良さは現実をひととき忘れられることに加えて、主人公を通して、異世界や戦闘や苦悶を追体験するところにあると思っています。
 さまざまな登場人物が配されているので、自己投影する対象も見つけやすい。

 長編なので時間がかかると思いますが、是非、渾身の一作に目を通していただきたい。難点をあげるとすると、類似したエピソードがややもすると繰り返されるため、投げ出したくなることもあるかと思います。しかし、これだけの長丁場を破綻することなく書ききる能力は生半可な努力では身につかない。

 本来なら、校正者の手を借り、紙本になってもいいと思う作品です。無名の書き手の作品が書籍になることはほぼない。その現実に打ち勝つ方法は、一人でも多くの方の目に触れて、感動を共有するしかないと思っています。

お詫び。最近は物忘れがはげしく、第一話のアドレスを書き忘れていました。いまさら、遅いかもしれませんが、よろしくお願いします。なお、彼女の全作品の挿絵は、美大卒の本人の自筆です。こちらも見どころです。

https://note.com/miclala0207/n/nba2ee9661a10

 了


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集