第18話 まりかへの疑惑
翌日、芳賀瀬家で爆睡していたカルトがヨージの電話で起きる。シャワーを浴びたカルトは、まりかが高校に行っている時間に二人きりになれるカラオケ屋で密談をする。
「カルト兄さん。ここだけの話だけどさ。ちょっと気になることがある、駅前のカラオケ屋に来てよ」
ヨージが真面目な声で電話をしてきた。カラオケ屋は防音だし、他人に聞こえない。監視カメラの死角を探して話を始める。
「俺なりに探ってみたんだけどね。芳賀瀬まりか、真崎壮人の二人が怪しいと思うんだ」
思いもよらぬことを耳打ちする。
「芳賀瀬まりかは友人の妹で、まだ高校生だぞ。壮人だって、殺しをする奴じゃあない」
「高校生だから、そんなこと計画しないなんて断言できないよね。それに、呪いで死ぬことがわかっているのに冷静だと聞く。神経も普通じゃない。若干18歳の女子とは思えない。それに彼女は優秀だと聞く。そのアプリを作っていたとしてもおかしくないと思う。真崎壮人は芳賀瀬さんやカルト兄さんに非常に近い人物だ。つまり、何かしらの恨みによって呪う可能性はある。真崎家は呪術師家系だと聞いた。それにパソコンに詳しく優秀な人材だ。それならば、アプリの開発は可能だろ」
「芳賀瀬まりかに関して言えば、彼女が一人で作ったというのか?」
「兄と共同制作している可能性もあるし、譲渡人を仲介している役割を担っている可能性もある。おかしいだろ。積極的に捜査に加わりたいなんて。普通は怖いから助けてという心理になるのが人間だ。彼女は俺と違って呪い主が特定できていない。つまり、死と隣り合わせであの態度は不自然すぎる」
「まりかは、肝が据わっているんだよ。それに、彼女が怪しいという証拠がない」
まりかは違うとカルトは擁護する。
「真崎壮人は正直2番目に怪しいと疑っている。なぜならば、彼の場合は優秀で地元で有名な呪術師家系だという根拠がある。それと、アプリがインストールされた人物が高校時代の親しい人物の関係者だったからというファイリング結果が疑いの理由だ」
カバンからパソコンを取り出し、説明するヨージ。
「実は、この動画なんだけど。俺は第1に怪しいのは芳賀瀬まりかだと思う」
捜査本部の部屋にて、隠し撮りされた動画をヨージがみせる。まりからしき女性が警視庁に出入りして捜査の資料を漁る様子をうつしたものだ。
「これは、どうやって入手したんだ?」
カルトの表情が変わる。
「犯人はきっと捜査本部の情報を手に入れたいと思うだろうと思ってさ。俺は一度捜査本部に行った時、部屋に隠しカメラを仕掛けたんだ」
ヨージは縦に一本指を立て、静かにというジェスチャーをする。
「おい、そんな勝手なこと許されると思っているのか」
「この部屋は、ほとんど誰も出入りしない。出入りするとしたら、他部署と兼任している部長と課長、そして、城下さんとカルト兄さん。警察内部でもここの捜査本部は公にされていない。ただ一時的に会議室を借りているという形だ。これは違法だと思ったけれど、人の命がかかっている。だから、あえてここにカメラをつけさせてもらった。この部屋には重要な情報がたくさんある。少しでも犯人ならば警察がつかんでいる情報を入手したいだろ。逮捕されたらおしまいだ。秘密にして勝手に捜査資料を漁るのは協力者の域を超えていると思わないか」
それも、そうだ。しかし、情報を得たい理由があったのだろう。それに、もしかしたら合成とかフェイク動画という可能性も捨てきれない。フェイク動画と認定することは、ヨージを疑うことにつながるので、創造主にヨージが騙されているという可能性と考えたほうがいいかもしれない。少なくとも、カルトは心の中で言葉を選んだ。
「あと、芳賀瀬まりかが書き込みをしているという情報解析もしてみたよ。ネット上で創造主を名乗り、仲介している幻人は芳賀瀬まりかだ」
ヨージが解析したデータを見せる。まりかの自宅のパソコンから幻人が書きこみをしている文章が発信されている。これは、信憑性のある情報なのだろうか。
「この情報は他の三人にも共有させてもらったよ」
「部長たちにも報告済みなのか?」
「怪しい人間が出入りしているんだ。そういったことは隠れて耳打ちしないとまずいだろ。呪いの子どもを使って俺たちが被害にあう可能性もあるんだ。俺は、大好きなカルト兄さんが死んだらめちゃくちゃ悲しいからさ」
「俺なりに色々確証を得てから、まりかのことは考える」
「全く、カルト兄さんは慎重だなぁ」
ヨージは半ば呆れ顔でデータをしまう。こんな短期間にデータを作成して、報告書を作ってしまうヨージは仕事が早い。でも、アプリの創造主はネット上の詐欺師だ。今までも、捜査をかく乱させる為にあらゆる手段を使っている。関係ない人間の家から送信したことになっていたことは何度もある。だから、警察も捜査が進まなかった。このデータを信じても、創造主のワナの可能性もある。
まりかの動画がフェイクならばヨージが嘘をついているということになる。ヨージの動画が本当ならば、まりかが嘘をついていることになる。
どちらかが、嘘をついているのならば、真実をひとつひとつ探し出すことが最善だろう。公平に一歩一歩。
ヨージは何事もなかったかのようにパソコンを眺めていた。たまに、ヨージ本体と心がばらばらに分かれているように感じる事がある。何も感じていないという印象だった。本当に楽しいとか悲しいとかそういうことを感じない鈍感力を彼は持っているようにも思えた。ある意味図太い神経ともいえる。そして、言い方を変えると、心がからっぽで何も感情持っていないというのが秋沢葉次だった。
芳賀瀬まりかの印象は、非常に常識的で、正義のために自分の犠牲が怖くないような正義感の塊のような印象を受けた。普通の女性にはないような己を貫く力。そして、興味関心への貪欲さ。
真崎壮人への疑念も払拭はできない。可能性の確率の話から行くと、ゼロという断定できる人間はいない。あのアプリは遠隔操作ができる。つまり、誰にでも可能性はある。しかし、身近な怪しい人という点ではヨージの主張はあながち間違っているわけでもない。しかし、壮人との接点が最近はなく、カルトは今の壮人の気持ちがよくわからないのが本音だった。壮人自身が変わってしまっていたら――。疑いだしたら止まらない。
秋沢、まりかの二人とも全然タイプが違うが、呪いのアプリに対して恐れを感じていないというのが共通点だった。
創造主を探す作業。――砂の中から、小さなビーズを探す作業のように途方もなく気が遠くなりそうな作業だった。
夕方、高校から帰宅したまりかとダーツバーに聞き込みに行った。というのも、まりか自身が呪いのアプリを貸す代わりに捜査に協力したいと言い出し、同行したいと申し出たのだ。先程のヨージの忠告が心をざわつかせる。もしかして、まりかがアプリの創造主だったら。または何かしら裏で関係していたら――。自らの頬を叩き、そんな疑念を払拭する。
「危ない捜査に関わってしまう。できれば捜査から身を引いてほしい」
カルトは警告を放つ。しかし、まりかはそれを拒絶する。
「自分の命は自分で守りたいんです」
まりかは真剣だ。その気持ちはわからなくもない。そして、アプリの持ち主であるまりかは捜査には重要な役割を担っていた。こういう女性ははじめてだ。女性といってもまりかはまだ未成年の高校生だ。カルトは結以外の女性と話したことはほとんどない。知らない世界を初めて見たような気がした。
「この人、知ってる?」
まだ明るい時間は開店前だ。壮人が行きつけのバーのマスターに、金髪の壮人の写真を見せた。
「あぁ、常連のお客さんだよ。もう何年も通ってるかな。ふらっと来るから、いつ来るかはわからんけどね」
ひょろっとした細身のマスターはひげを伸ばしたダンディーなタイプだった。
「何年も前って?」
「最初に来たときは、黒い髪で地味な感じだったなぁ。ある時から、茶色い明るい髪色になって、今は金髪メッシュ。ずいぶん派手な感じになったのは覚えてるよ。彼、フリーターなんでしょ」
「え? そう言ってたんですか?」
少しばかり戸惑うカルト。
「なんでも、底辺高校卒業後に地方から来たとかそんな話をしていたな」
カルトは意外だった。あえて、高学歴であることを隠し、身分を偽っていたという事実。彼は、東王大の大学生という身分から離れたいと思っていたのだろうか。
「もしかして、指名手配とかやばい事件に関わってる人なの?」
小声で確認される。
「もしかして、何か事件に巻き込まれている可能性があったので。ちょっと調べているんです。彼は誰かここで親しい人がいるんですか?」
「うーん、まぁ、いろんな女性と親しげだし、誰とでも話している感じだけど。親密に話しているのは、ちょっと年下の男性だな。明るい茶髪で大きいユラユラしたシルバーリングのピアスをしたイケメン男性。なんでもフリーター仲間なんでしょ」
明るい茶髪、大きなシルバーリングのピアス。
もしかして――秋沢葉次がぱっと浮かんだ。二人は知り合いなのだろうか?
ヨージはフリーターではなく東王大学の首席入学の現役大学生。同じ大学に同じ高校出身。歳は違っても、接点があってもおかしくない。以前、ヨージと一緒に撮影した写真をスマホから検索する。
「もしかして、この人ですか?」
画面には茶髪の秋沢葉次が映る。
「あぁ、このお兄ちゃん、よく一緒にいるよ。二人ともイケメン美形。いい意味で目立つんだよね。まるで兄弟みたいだなぁって思ってたんだ」
マスターは開店準備をしながら快く答えてくれた。
また身分を偽っている奴がいる。なぜなんだろう。そんなに自分を知られたくないのだろうか? 世間からの評価――レッテルのようなものが邪魔なのだろうか。
二人は知り合いだったことをカルトは知らなかった。大学に入る前から知り合いなのか、その後から知り合いなのか――? 案外真崎壮人はあまり自分を語らない故、知らないことが多い。高校時代はあんなに接点があったのに、案外私生活を知らないということに気づかされる。
秋沢葉次も同様にあまり自分を語らない。だから、目の前にいる穏やかで優しいヨージしか知らなかった。
「面白そうな男を見つけましたね。秋沢は、これから警察で会う人物ですよね」
「その通りだ」
「何? この人たち警察にマークされている犯人だったりするの?」
マスターは慌てた様子だ。
「いえいえ、そんな危ないヤツではないですから。ちょっと用事があるだけです」
内心、危ないヤツではないことを願いながら否定する。
「ありがとうございました」
お礼を言い、二人の接点を確認したところで、警視庁に向かう。
「秋沢葉次、なんか癖がありそうなタイプですね。どんな人なんですか?」
まりかは神妙な顔をする。
「地元が一緒でさ、高校も大学も俺の後輩。秋沢葉次が中学の時から友達なんだ」
「なんで、歳が違うのに友達になったのですか?」
「まだ中学生だったヨージが偶然、俺の落とし物を拾ったんだ。高校経由で連絡があって、お礼をしたいということで一度会ったんだ。それ以来、連絡先を交換をして友達になったんだ」
「偶然……ですか。何を落としたんですか?」
まりかは食い入るように深く聞いてきた。見上げるまりかの表情は真剣そのものだ。
「実は財布を落としたんだ。そんな大金は入っていなかったけれど、当時の俺の全財産だったし、お礼をしたくてね」
「本当に偶然なのでしょうか?落とし物は、彼から近づく口実だったのかもしれませんね。スリは技術があればできる技ですから」
友情にぐきりとひびが入る音を感じる。まりかは容赦なくズバズバ言ってくる。やはり結とは全然タイプが違う。
「口実? 普通の男子高生に近づくメリットなんてある? 俺んち普通の家だし。だいたい、そんなはずはないよ。絶対に偶然だ。秋沢葉次との友情は絶対のはずだ。」
「絶対に偶然という根拠は? 彼は、もっと何か深い目的があるような気がします」
実に疑り深い。まりかの言うことが本当ならば、すごく考えて行動をしていたであろう。まだあの時のヨージは中学生だ。
「お前の推理は小説にしたほうがいいかもしれないな。考えすぎだろ。もう7年くらい前の話だぞ」
「年単位かけて近づいた何か目的がある可能性はあります。だいたい、そんな天才がなぜあなたに近づいたのかも疑問です」
推理小説の読みすぎではないだろうかと思う。
「おまえには、気が合うから友達になるとかそういった発想はないのか?」
「呪いのアプリが存在するとしたら。創造主は友達を作ろうなんて発想がない人物に決まっています。私と結さんのスマホに入っている謎の人物。威海操人っていうのも気になっていました。奇しくも真崎壮人さんと響きは同じですよね」
「まぁ、偶然だと思うけどな。ソウトという名前なんていくらでもいるし。だいたい、真崎壮人に恨みをもつような原因があるとも思えないし」
「もしも、真崎壮人に秋沢葉次が恨みを抱いていたら、この話は辻褄が合います。真崎壮人の大切なものを奪いたいなら、アプリが真崎の近辺にバラまかれた理由がわかります」
「まりか、おまえは真崎壮人と何にも関係ないだろ」
「真崎壮人は兄の芳賀瀬志郎と仲がいい。つまり、秋沢の周囲の人間の大切な物を奪って、それを楽しみたいのかもしれません。秋沢に会えるなんて面白いですね。ゾクゾクします」
まりかの目は好奇心に満ちていた。見かけによらず、まりかは強い。
まりかは初めて警視庁の捜査本部を訪れる。会議室の一室が臨時の本部となっていた。
捜査員は部長、課長、カルトともう一人先輩でIT担当の城下がいた。4人しか、ここにはいない。極秘捜査ということもあり、大々的な捜査本部ではなかった。呪いのアプリは信憑性がない。でも、やはり警察としては何かしら動きを取りたいという所らしい。部長や課長は他部署と兼任なので、実質の調査員は二人だ。
静まり返る空虚で無機質な部屋に秋沢がいた。
「こんにちは。秋沢葉次です。東王大の学生です」
手をまりかたちに向けて振る男。物々しい会議室の空気にそぐわない人物というのがまりかの第一印象。かれこそが、天才と噂される秋沢葉次だ。明るい茶髪と揺れる大きな揺れるシルバーリングのピアスが不似合いで場違いだ。果てしなく挨拶は明るく、終始笑顔だった。とても、天才という感じには見えない。見た目はごく普通の明るいお兄さんといったところだ。
「今回、呪いのアプリをヨージ同様に入れられてしまった芳賀瀬まりかさんだ。芳賀瀬志郎という同級生の妹さんだ」
カルトはまりかを紹介する。
「はじめまして。あなたに会えるのをとっても楽しみにしていました。芳賀瀬まりかと申します。高校生です」
「その制服、東王女子高校の制服じゃん。めっちゃかわいいよね」
呪われている当事者とは思えない軽いノリの秋沢。
「あなた、本当に呪われているんですか? 悲壮感が全く感じられません」
まりかは獲物に食いつくようにつめ寄る。
「俺、呪い主特定できちゃってるから、捜査に協力したら呪いから解放される予定なんで」
目にかかる長めの前髪を払いながら、ヨージのひょうひょうとした軽いノリは相変わらずだ。
「へぇ。もし、呪い主が思っていた人と違ったらどうするんですか? あなたは回避策をわかっているように思えます」
まりかは重箱の隅をつつくかのように近づく。
「ネットで色々と回避策は調べているよ。譲渡するっていう方法も検討はしているよ。だいたい、君こそ呪われているのに、そんな平然としているなんて、怖くないの?」
「呪いを解くために、私は捜査に協力しています。おかしいと思いませんか。そんなにたくさんの人に呪いのアプリは人々にインストールされるわけじゃない。でも、岡野カルトさんの周囲にだけ、3人もアプリの被害者がいるんです。きっと意図的な仕業だと思います」
「あぁ、結さんでしょ。あとは君と俺だね」
「呪いのアプリの法則は私なりに調べました」
まりかがプレゼンを始めた。
「呪いを回避する方法は、誰かに譲渡すること。呪い主を当てること、呪い主の記憶を消す、または意識を消すこと。そして、延長もできることが幻人の投稿小説サイトやネットの書き込みに書いてありました。全て本当かを立証することはできませんが、私たちのスマホには呪いの子どもがいます。聞いてみることはできます。まず、延長するには2人以上に呪いをかけること。2人に呪いをかければ、14日の倍、28日生きる権利が生まれます。しかし、リスクが高まります。二人いれば、呪い主を特定される可能性が高まる。3人に呪いをかければ3倍の42日生きる権利が生まれる。4人だと4倍の日にちとなるでしょう」
「芳賀瀬まりかさん、それは警察の方でも調べました。その検証は正しいと思われます」
真面目な雰囲気のIT担当の先輩刑事の城下が静かに発言する。課長と部長もうなずきながら様子を見守る。
「調べたところ、呪いのアプリの入手方法は、幻人のサイト経由で入手すること。または、夜中の12時14分にアクセスして書き込むこと。誰かに譲ってもらうことです」
ヨージは細く長い足を組みながら、けだるげに説明を聞いていた。
「私は、誰かが、岡野カルト、真崎壮人、兄の芳賀瀬志郎を苦しめようとしているように思いました。だから周辺の大切な人を呪ったのだと推理します」
「君は想像力が豊かだな。まぁ、カルト兄さんにとって俺は大切な存在だからな。呪われて死んだら、絶対泣いちゃうよな。でもさぁ、カルト兄さんは呪われていない。そんなことってある? 偶然じゃない?」
ヨージがため息をつきながら突っ込む。
「立花結、秋沢葉次、私、芳賀瀬まりかが死ぬと悲しむ人がいる。だから、呪いをかけたという考えはどうですか? 推測ですが、秋沢さんが死んで悲しむ人というのは岡野カルト、真崎壮人でしょうか。その他に悲しむ身内はいますか?」
「誰が死んでも悲しむ人がいるだろ。例えば、家族とか友人とか恋人かもしれない。ヨージは、真崎壮人と知り合いなのか?」
カルトがヨージを擁護しつつ、確認する。
「真崎さんのことはソート兄さんと呼んでるよ。たまたま高校受験の時に卒業生のOB訪問で出会ったんだ。それ以来の付き合い。あれ、言ってなかったっけ?」
「真崎壮人とは付き合いは長いが、知らなかったぞ」
少しふて腐れた様子のカルト。
「俺には慕っている兄さんが二人いる。一人は、カルト兄さん、もう一人はソート兄さん。たしかに二人とも同じ高校と大学だけど、俺は学年が違うからみんなで遊ぶっていう機会もなかったしね。個々に会ってはいたけれど、そんなこといちいち話す必要ないだろ?」
「実は、捜査協力にあたって、秋沢葉次さんのアプリに住まう呪いの子を検証させてもらいました」
城下が真面目な顔で説明をする。基本見た目も中身も生真面目な男だ。
「先ほど芳賀瀬まりかさんが言った通り、延長ルールは存在しました。呪いの子が嘘を言っていないならば、2人呪えば2倍、3人呪えば3倍に死ぬ時期が伸びるルールは同じです。しかし、それは呪い主にはリスクが高いのです。複数人いれば、誰かしらが当てるかもしれない。そして、彼らが生きる長さが長くなってしまう。だから、それを使う人はごく稀と聞きました」
「呪いの子どもって、意外とかわいげがあるよねぇ。俺はあーいう子どもって好きだよ。純粋無垢だし、嘘をつかないからね」
秋沢葉次の発言に部長と課長は眉をしかめる。不謹慎にも程があるし、場の空気を全く読んでいない。というより、煽っているのだろうかとも思えた。
「創造主はネットで名乗っている幻人だということも、呪いの子どもは認めていました」
城下が報告する。
まりかの言葉が少しばかり引っかかる。今呪われている3人が死んだら悲しむ人。その中で呪われていない人は誰だろう? 真崎壮人? でも、友人の域だ。恋人とか家族のほうが悲しみは深いだろう。
誰かが意図的に殺すならば、徹底的に苦しませたいと願うのが普通だろう。芳賀瀬ならば妹が死ねば、きっと悲しむだろう。芳賀瀬に恨みがあるのだろうか? でも、ヨージと芳賀瀬は接点はない。この3人を呪って悲しむ人、それを見て喜ぶ人がいたとしたら、計画的なインストールに違いない。
威海壮人という名前はまりかのスマホにも入っていた。岡野カルトを苦しめるため? 婚約者の恋人と友人の妹が死んだら悲しむだろう。でも、まりかと知り合ったのは最近だ。解けない難問を目の前にカルトは思案する。
「呪いの子どもと複雑な話をするとき、契約の時以外は基本はAI自動応答機能が使われていると思います。でも、時々アプリを作ったであろう創造主、つまり呪いの子どもの中の人が直接話しているのではないかと思うんです」
まりかは真剣に話し始めた。周囲の警察関係者もうなずく。検証したところ、そういった点を感じていたようだった。
「それは面白い考えだね。でも、普通の人間じゃあ仕事とか学校があって忙しい。こんなにアプリで呪われた人がいたら、相手にするのは厳しいと思うよ」
「だから、限られた時と限られた人とは直接話せるようにしているように思えるのです。盗聴機能もついていますよね。呪いの子どもは基本消えない。つまり、スマホを持っている人の話を聞くことが可能です。ある意味盗聴器を拡散しているようなもの」
まりかは眉毛を釣り上げてヨージに向かって話しかける。
「かわいい顔が台無しだよ。そんな怒った顔をするなんて」
ヨージは軽くあしらう。
「私は、真犯人を突き止めます。警察の方はもちろんですが、秋沢さんも協力してください。自首させたいと思っています」
重々しい空気の中、ヨージは開口する。
「たしかに、俺たちは被害者だ。現に君たちは呪われている。だから、呪った相手を絶対に捕まえるぞ」
「捕まえます」
まりかの一言に、本部の大人たちも賛同する。心がひとつになったかのような感じがする。
一通りの打ち合わせを終え、二人のスマホを警察に預けることにした。
「秋沢さん、あなたは好きな人はいないんですか?」
「かわいい女の子のことは好きだけどね」
茶目っ気たっぷりにヨージは返す。でも、ヨージが女性に惚れたとか恋愛をしている様子を見たことはなかった。
「あなたが死んだら悲しむ人はいないんですか?」
まりかは重ねて質問する。
「悲しむ人なんていないよ」
軽い口調と笑顔でヨージは答える。
「俺が悲しむ。だから、ヨージには絶対死んでほしくない」
カルトがヨージを睨みつける。更に、語調を強める。
「そんなこと言うな。おまえの家族も悲しむだろ、悲しむ人がいないなんていうな。ヨージには、お母さんがいたよな?」
さびしそうな顔をするカルト。
「存在はしているけど、今はほとんど疎遠だよ。学費は払ってくれているけれど、留年したら払わないって言われてるから。卒業は一応するつもりだよ」
「あなたが死んだら、お母さんは悲しまないんですか?」
まりかは険しい顔だ。
「親だから、子どもが死んだら悲しむってのは思い込みだよ。悲しまない親もいるんだ」
笑顔で語るヨージは多分、愛に飢えている、もしくは愛を知らないのかもしれない。父親の話を聞いたことはない。
「失礼ですが、お父さんはいないのでしょうか?」
まりかは、ずかずか心の内に入り込む。
「いない」
ただ一言、諦めた顔で、ヨージは答える。これ以上彼の心の内に踏み込むのはダメなような気がする。それは、結界のように入ってはいけないような何かを直感で感じたというのが本音かもしれない。
