30秒で終わるABCD評価〜当直で「最初の一手」に迷わなくなる型〜
はじめに ── 30秒でABCDを評価するる「型」
救急のABCD評価。
教科書では読んだことがある。
でも当直でいざ一人でやるとなると、
「何からどの順で確認すればいいんだっけ?」となりがちです。
そこで、覚え方を短歌にしました。
🩺 30秒でcheck! ABCD評価
「質問後、肩に手をかけ、脈を触れ 呼吸を合わせて、『はいおしまい』」 (by なんでも内科)
やることは3ステップです。
ステップ① 「どうしましたか?」と声をかける
→ すらすら答えられればA(気道)とD(意識)はひとまずOKステップ② 肩に手を置いて、患者の呼吸に自分の呼吸を合わせる
→ 頻呼吸があれば頚部・腹部を見てB(呼吸)の詳細評価へステップ③ 手首の脈を触れる
→ 冷感、CRT延長、冷や汗がないかでC(循環)を評価
これだけ。30秒もかかりません。

そしてここが大事なのですが、
ABCDのどれか1つでも異常があれば、
それは気管挿管の適応になりえます。
鎮痛・鎮静薬とともに
挿管の物品準備をスタッフにお願いしておく。
実際に挿管するかどうかは別として、
「準備だけは先に済ませておく」のが初期対応のゴールです。
では、A・B・C・Dそれぞれの評価のコツと、
やってはいけないことを見ていきます。
A(気道)── 声が出ていればOK、出なければemergency
結論から言います。声が出ていれば気道は問題ありません。
逆に、声が出せない・ガラガラした声になっている場合は
気道閉塞の危険があります。
この「ガラガラ声」は、
あつあつのジャガイモを口に含んだような声に例えられ、
hot potato voiceと呼ばれます。
これが聞こえたらemergencyです。
声以外にも、以下の所見がAの異常を示唆します。
顎を突き出している(sniffing position)
口が開けられない(開口障害)、よだれが垂れている(流涎)
胸鎖乳突筋を使って呼吸している
stridorが聞こえる(頚部で最強となる吸気性の喘鳴)
SpO2が低下している
Aの異常を来す原因は大きく3つに分けられます(参考:みんなの呼吸器内科・『みんほす』)。 ① 気道異物(誤嚥・窒息) ② 上気道の狭窄・浮腫(喉頭蓋炎、アナフィラキシーなど) ③ 意識障害(Dの異常)による舌根沈下
気道閉塞を疑うときの「3つの禁忌」
気道閉塞を疑ったとき、やってはいけないことが3つあります。
⛔ 寝かせない(基本は座位を保つ)
⛔ 舌圧子をつっこまない、むやみに吸引しない
⛔ 鎮静薬・筋弛緩薬を不用意に使わない
3つ目は特に注意が必要です。
鎮静薬や筋弛緩薬は咽頭筋などの呼吸筋を弛緩させるので、
気道閉塞をかえって悪化させるリスクがあります。
もちろん、挿管前に鎮静薬や筋弛緩薬を使わざるを得ない状況はあります。
ただ、「この薬で呼吸停止が起きうる」と頭に入れて使うのと、
何も考えずに使うのでは、
万が一の呼吸停止時の対応速度がまるで違います。
一人で不安な状況であれば、
鎮静薬や筋弛緩薬を使わずにバッグバルブマスク換気でしのぎつつ、
応援を待つのも立派な選択肢です。
B(呼吸)── 呼吸回数は「合わせて感じる」が最速
Bの評価で最も大事なのは呼吸回数(RR)。
SpO2やその他の呼吸音ももちろん大事ですが、
呼吸回数への注目が習慣になっていると、
異変の察知が一段早くなります。
呼吸回数の測り方 ── 「こっそり合わせる」のが最速
正確に1分間測りたいところですが、
現場では「早いか早くないか」がわかればまず十分。
カットオフは20〜24回/分あたりです。
最も手っ取り早い方法は、
患者の呼吸に自分の呼吸を合わせてみること。
自分が「ちょっとしんどいな」と感じたら頻呼吸です。
ただし、呼吸は意識すると変わってしまうバイタルサインです。
「呼吸数を測りますよ」と言ったら
患者の呼吸パターンが変わるのは当たり前。
そこで、「脈をとりますね」など、
呼吸から意識がそれる声かけをしつつ、
こっそり呼吸回数と呼吸様式を観察するのがコツです。
服を着ていると胸郭の動きが見えにくいこともあります。
そういうときは肩に手を置くと、
呼吸の動きが手のひらに直接伝わるので
非常にわかりやすくなります。
視診のポイント ── 吸気は頚部、呼気は腹部
呼吸の視診にも「見る場所の型」があります。
吸気 → 頚部に注目
陥没呼吸(吸気時に肋間がへこむ)
鼻翼呼吸
胸鎖乳突筋の使用
呼気 → 腹部に注目
腹直筋の緊張(呼気努力)
口すぼめ呼吸 → wheezeが聞こえるかも確認
「吸気は頚部、呼気は腹部」。
これをセットで覚えておくだけで、
視診で得られる情報量が変わります。
C(循環)── まず手を握る。冷たければ循環不全
C(循環)の評価は、まず患者の手を握ることから始まります。
触った瞬間に「冷たい」と感じたら、
それだけで循環不全を示唆する所見。気を引き締めるサインです。
手が濡れていたら、それはおそらく冷や汗です。
Cの異常に気づくためのポイントを整理します。
身体所見:末梢冷感、冷や汗、CRT延長、チアノーゼ、網状皮斑
バイタルサイン:頻脈、徐脈、血圧低下
その他:尿量低下、乳酸値上昇
脈が触れないとか、明らかに意識がない場合は
頸動脈をふれましょうね。
ここで1つ注意点。
βブロッカーを内服している患者は、
循環が悪くなっていても頻脈にならないことがあります。
「脈が速くないから大丈夫」とは限らない。
内服薬の確認はCの評価とセットで行う癖をつけておくと安心です。
また、血圧が正常だからショックではない、というのもよくある誤解です。
ショックの定義は「組織での酸素代謝障害」であり、血圧低下はあくまで一つの所見にすぎません。
逆に血圧が低くても、それだけでショックとは限りません。
末梢冷感やCRT、乳酸値などを合わせて判断する視点が必要です。
D(意識レベル)── 「今日はどうしましたか?」で8割わかる
Dの教科書的な評価は、名前・時間・場所を尋ねて見当識を調べること。
でも実際のところ、「今日はどうしましたか?」の問いかけに対して、
すらすら病歴を答えられれば基本は大丈夫です。
質問に答えている時点で声もしっかり出ているので、
Aの評価も兼ねられます。
つまり、最初のステップ①(声をかける)の段階で、
AとDは同時に評価できている。これがこの型の効率の良さです。
「会話ができる=意識は正常」とは限らない
ただし1つ、落とし穴があります。
会話ができていても、「普段の様子と違う」場合は
意識障害の可能性がある、ということ。
特に若い人は見当識が保たれていても
意識障害を起こしていることが少なくありません。
これは医師だけでは判断できないことが多いです。
家族や付き添いの人に
「いつもと違いませんか?」
と一言確認する。
この一手間が見逃しを防ぎます。
まとめ
もう一度、型を確認します。
🩺 30秒でcheck! ABCD評価
「質問後、肩に手をかけ、脈を触れ 呼吸を合わせて、『はいおしまい』」
① 声をかける → A・Dの評価
② 肩に手を置き、呼吸を合わせる → Bの評価
③ 脈を触れる(手を握る) → Cの評価
そして繰り返しになりますが、ABCDのどれか1つでも異常があれば、気管挿管の適応になりえます。
A・B・C・Dの異常のいずれであっても適応になりうるという点は、必ず押さえておいてください(必ず挿管しろって言っているわけではないです)。
鎮痛・鎮静薬と挿管の物品準備をスタッフに指示する。
実際に挿管するかどうかはその後の判断ですが、
「準備だけは先にしておく」──これが初期対応のゴールです。
当直で患者を前にしたとき、この30秒の型がからだに入っていれば、
少なくとも「最初の一手」で固まることはなくなるはずです。
