事業継続性向上に向けたオフサイトバックアップ戦略 その4
久しくこのnoteを書いていなかったのでお初めましての方もいらっしゃると思います。村島唯朗と申します。
現在、鎌倉ITクリエイター・ファクトリーというところでDR(災害復旧)およびBCP(事業継続計画)作成運用支援およびオフサイト・エアギャップバックアップの管理受託業務を行なっております。
「何かあっても事業が止まらない会社」になっていただくお手伝いをさせていただいております。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
「5分でわかる DR/BCP体制 危険度チェック」なんていうものも公開しております。ぜひ話の種にチェックしてみてください。
というわけで自己紹介を終わりますが、途中で止まっていた表題の件、いい加減回収しないといけないなと思いますのでその続きを書いてまいります。
オフサイトバックアップの包括的な評価(長所と短所)
オフサイトバックアップは、現代の企業が直面する多様なリスクに対する有効な対策ですが、その導入には多くの長所と同時に、見過ごしてはならない短所も存在します。
長所
広域災害に対する事業資産の保護:地震や津波、火災といった広範囲に及ぶ災害が発生した場合でも、企業の中核的なデータやシステムを遠隔地で安全に保護できます。これにより、被害を受けた拠点の復旧を待つことなく、事業の継続が可能となります。
サイバー攻撃からの復旧力強化:ネットワークから論理的または物理的に隔離されたバックアップデータは、ランサムウェア攻撃によって業務システムが停止した場合でも、復旧の最後の砦となります。これにより、身代金の要求に応じることなく事業を再開できる可能性が高まります。
コスト効率と拡張性:クラウドサービスやコロケーションを利用することで、自社でデータセンターを建設・維持するよりも初期投資や管理コストを大幅に抑えることができます。また、必要に応じてストレージ容量を柔軟に拡張・縮小できるため、効率的なリソース管理が実現します。
多様な働き方への対応:クラウドを活用したオフサイトバックアップは、災害時の緊急対応だけでなく、日常的なテレワークやリモート業務を円滑にするインフラとしても機能します 。
短所
多岐にわたるコスト構造と財政負担:クラウドサービスは従量課金制が多く、データ転送量やAPI利用料など、予期せぬ費用が発生する可能性があります。また、コロケーションでは初期費用やラック使用料に加え、回線使用料やオプション料金など、コストが多岐にわたり、全体像を把握しにくい複雑さがあります。
運用・管理の複雑性と専門人材の必要性:オフサイト拠点の選定、設計、そして運用には、ネットワーク、セキュリティ、法務といった多岐にわたる専門知識が不可欠です。外部ベンダーに委託する場合でも、ベンダー選定や契約内容の精査、そして社内での管理体制の構築に高い専門性が求められます。
セキュリティと法規制遵守の課題:第三者へのデータ保管は、情報漏洩や不正アクセスのリスクを伴います。特に、海外サービスを利用する際には、データ主権に関する複雑な法規制を遵守する必要があり、高度な法的リスク管理が求められます。
性能制約:地理的に遠い拠点をバックアップサイトとして選定した場合、データ転送の遅延が発生し、特に同期レプリケーションを用いる場合にRTOやRPOの要件を厳密に満たすことが困難になる場合があります。
実践的ガイドと成功事例・失敗事例から学ぶ教訓
ここでは、これまでの分析に基づき、読者が自社のオフサイトバックアップ戦略を策定するための具体的なステップと、現実の事例から得られた教訓を提供します。
意思決定のためのステップ・バイ・ステップ・フレームワーク
オフサイトバックアップの導入は、以下のステップで進めることが推奨されます。
影響度分析(BIA)の実施:まず、事業が停止した場合にどのような影響が出るかを分析し、最も守るべきコア事業を特定します。
RTOとRPOの定義:ステップ1で特定したコア事業ごとに、許容できるRTOとRPOを明確に定義します 。この目標値が、以降の技術選定の基準となります。
モデルの絞り込み:自社の予算、人材リソース、そしてRTO/RPOの要件を評価し、最適なオフサイト拠点モデル(クラウド、コロケーション、自社)を絞り込みます。
技術要件と法的リスクの精査:専門家やベンダーと協力し、選定したモデルに求められる技術的要件(データ転送速度、暗号化方式など)と、データ主権などの法的リスクを詳細に精査します。
マニュアルの作成と訓練の実施:計画を文書化し、BCPマニュアルとして整備します。そして、マニュアルに沿った定期的な訓練やシミュレーションを実施することで、非常時の対応能力を向上させ、計画の実効性を高めます。
企業規模・業種別のモデル選定事例
中小企業向け:従業員10名規模の企業であれば、BCP対策の初期費用として50万〜100万円程度が目安とされています。この予算内では、クラウドバックアップの導入(10万円前後)や、安否確認システム(数万円〜)が現実的な選択肢となります。専門家によるマニュアル作成支援も30万〜50万円程度で利用可能です。
大企業向け:従業員100名規模の企業では、初期費用として300万〜600万円程度の予算が必要となり、業務用自家発電機や外部コンサルティングの活用が一般的となります。高い柔軟性と制御性が必要な場合は、複数のデータセンターを活用した冗長化構成が選択されます。
事例:株式会社エイビスの取り組み ソフトウェア開発を行う株式会社エイビスは、東日本大震災を機に、大分本社と東京支店の両拠点間で相互にデータをバックアップするBCPを策定しました。この取り組みは、地理的に離れた2つの拠点を活用することで、どちらか一方が被災しても、もう一方からシステムを復旧させることを目的としています。同社は、中核事業の復旧時間を20日以内と目標設定し、マニュアルに沿った定期的な訓練を行うことで、計画の実効性を高めています。この事例は、大規模な投資を行わずとも、既存のリソースを活用して事業継続性を向上できることを示しています。
現実の災害・サイバー攻撃事例から得られた教訓
東日本大震災の教訓:震災後のインフラ復旧事例からは、事前の耐震補強や、民間との災害協定が迅速な復旧を可能にしたことが示されています。重要なのは、ITシステムだけでなく、物理的なインフラやサプライチェーン、そして人命の安全確保といったBCPの全体像を考慮することです。
ランサムウェア攻撃の教訓:多くの企業がバックアップデータを標的とするランサムウェア攻撃によって、復旧に失敗しています。この教訓は、バックアップの重要性だけでなく、バックアップデータ自体の安全性を確保する「不可変性(Immutable)」と、ネットワークから隔離する「エアギャップ」という対策の重要性を再認識させます。バックアップは、常に攻撃者の視点から脆弱性を検証し、最後の砦としての役割を確実に果たすよう設計されなければなりません。
コスト負担軽減策:補助金・助成金の活用
BCP対策の導入費用は、特に中小企業にとって大きな負担となり得ます。しかし、国や地方自治体は、BCP策定や設備導入に対する補助金・助成金制度を提供しています。例えば、東京都江戸川区ではBCP策定にかかる経費に対して上限20万円の助成金があり、愛知県豊橋市では上限10万円の補助金制度があります。これらの制度を積極的に活用することで、コスト負担を軽減し、質の高いBCPを構築することが可能となります。ただし、多くの制度は事前申請が必要であり、対象経費や必要書類が自治体ごとに異なるため、計画的な情報収集が不可欠です。
結論:事業継続戦略の未来とオフサイトバックアップの役割
オフサイトバックアップは、単にデータを別の場所に保存する行為ではなく、災害やサイバー攻撃といった現代のリスクに対する企業の「保険」であり、同時に事業の「競争力」を高める戦略的投資です。本文書で詳述したように、BCPとDR、RTOとRPOという概念を基に、自社の事業特性に合わせた最適なオフサイト拠点モデルを選定し、地理的リスク、セキュリティ、法的リスクを多角的に評価することが不可欠です。
テクノロジーの進化とリスク環境の変化は絶えず続いています。生成AIの普及に伴うデータ管理の課題や、国境を越えたデータの取り扱いに関する新たな法規制が次々と生まれており、オフサイト戦略もまた、一度きりの計画ではなく、継続的な見直しと改善(BCM)が不可欠です。本文書が、読者の皆様がリスクを適切に評価し、堅牢な事業継続体制を構築するための信頼できる指針となることを願います。
というわけで、一応ここで一区切りと致します
長々書いてまいりましたがこれで一応終わりにします。
この文書の中でも触れましたが、オフサイトバックアップの実現方法としてクラウドというのは有力な選択肢です。今日において、これを使わない方法はほぼないと言ってもいいと思います。
しかし、上でも触れましたように、クラウドというのはその利便性からバックアップ用として使い始めたものがいつの間にやら本番環境そのものになってしまうということも起こりがちです。
ですので、弊社では本番環境としてのクラウドと、あくまでもバックアップ専用としてのクラウドのふたつを使うことを推奨しております。そしてクラウドを使わない方法でふたつのコピーを作成します。たとえば、NASと外付け媒体といった具合ですね。そしてさらにそのうちのひとつを遠隔地に逃がします。外付け媒体に取ったバックアップが一番遠隔地に逃がすのに向いているでしょう。これをお預かりするのが、ざっくり言えば弊社が承っている仕事ということになります。
「何かあっても業務が止まらない」をめざして
ここまで長々と書いてしまってここでか、と思われるかも知れませんが、技術的なことはお考えいただく必要はないと思うんです。弊社では、主に「データの重要性は大きいが、IT専門の要員を置くほど大きい組織でもない」といった方々にご利用いただくことを目指しております。
ですので、面倒くさいことは全て弊社で引き受けます。日々成長を続けるITの世界に常に目を光らせておくことなんかも十分「面倒くさいこと」になると思うのですが、そこも弊社で行なわせていただきます。
たとえば、2025年は「クラウド崩壊の年」と言われます。安全だと思われていたクラウドの世界で、サービスが使えなくなるという大規模障害が立て続けに起こったからです。それはなぜなのか、クラウドが利用できなくなったらどうしたらいいのか。その部分は、弊社に投げていただければ対応できるかと思いますので、ご検討いただければと思います。
というわけで「片付ける」ためにいささか長くなりましたが、ここで終わりたいと思います。次回からは、もっと気楽に読めるものを考えたいと思いますのでぜひよろしくお願い致します。
目次にリンク張っておきますので過去記事もぜひご覧下さい。
他の記事もよろしければご覧ください。
なお、弊社の業務をご紹介するちゃんとしたWebサイトは現在本当に頑張って作成作業中です。今しばらくお待ちください。
今日もありがとうございました。
