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その「謎の少女」は最強、二つの目で世界の視線を釘付けにする』 第8話


## 第8話「新しい仲間はどんな子?」


昨日は色々と怒涛の一日だった。


だが、夜が明けても海野ハルトと冥路アヌスの二人は、まだ夢の中へと留まっていた。


「アヌスちゃん、ハルトー。朝よー」


階下からサクラが声をかけるが、部屋からは返事がない。サクラが苦笑しながらハルトの部屋のドアをそっと開けると、そこには掛け布団の中で互いに寄り添うようにして眠る二人の姿があった。アヌスはハルトのパジャマの袖をぎゅっと掴み、ハルトもまた守るように肩へ腕をまわしている。


アヌスは、ハルトたちにとって間違いなく大切な「弟」だった。


ただ、艶やかな銀髪と左右で色の異なるオッドアイ、その中性的で神秘的な美しさは、見る者によって印象が変わるほど不思議な魅力を放っていた。


「あらあら……せっかくだから写真でも撮っておこうかしら」


サクラはそっとスマートフォンを取り出すと、微笑ましいその瞬間を一枚の写真に収めた。そこへ、様子を見にやってきた海野あいりと海野ここなが覗き込む。


「うわ……アヌス、天使みたいに可愛い……」


「ねぇお母さん、これ写真だけ見たら仲良すぎて恋人みたいに見えるよね? いっそのことハルトの嫁になってもらえないかしら!」


突拍子もないここなの冗談に、あいりもくすっと笑いながら楽しそうに乗っかる。


「あはは、それすごく良いかも! だって、お兄ちゃんって不器用だから彼女つくるのヘタそうだしさ。あたしも大賛成ー!」


「じゃあ満場一致で決定ね!」


「……朝から何をお前らは恐ろしい企みをしてんだよ」


騒がしさに目を覚ましたハルトが、呆れ顔で身体を起こす。


「お兄ちゃん、嫁さん見つかったよ!」


「はいはい、冗談はそこまでにしとけ。こいつは俺たちの可愛い弟だろ。手に服を掴まれて身動きが取れん……おいアヌス、起きろ」


ハルトに揺り動かされ、アヌスは「ん……」と目をこすりながら体を擦り寄せた。


かつてはどんな危険な環境下でも鋭く目を覚まし、死線を超えてきたアヌスだったが、この温かな日常の中ではどうしても朝だけは弱くなってしまう。


以前のアヌスなら、誰かに弱みを見せたり頼ったりすることなど考えもしなかったはずだ。袖を掴んで離さないアヌスの姿に、ハルトは小さくため息をついた。だが、その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。


「僕……朝、弱いから……お兄ちゃん、連れてって……」


「ったく、世話が焼ける……」


ぶつぶつ文句を言いながらも、ハルトは寝ぼけるアヌスの手を引き、優しく洗面所へと連れて行ってやるのだった。



目がすっかり覚めた後、アヌスはサクラを手伝うため、自然にキッチンへと立った。


「僕も朝ごはん作り、手伝うよ!」


そう言って袖を捲くったアヌスは、丁寧に昆布と鰹節で出汁をとったお味噌汁と、ふんわりとした出汁巻き卵を準備していった。


家族みんなで食卓を囲み、「いただきます!」と声を合わせる。


「美味しい……! すごく落ち着く味だね」


サクラの言葉に、あいりとここなも笑顔で頷く。自分が作った料理を、大切な家族が美味しそうに食べて笑い合っている——誰かのために腕を振るい、その喜びを分かち合う温かな食卓の光景に、アヌスは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。


朝食を済ませて一息ついた時、ここながふと思い出したように手を打った。


「そうだ、アヌス! 今日、マネージャーさんから『事務所に来て』って連絡があったんだ」


「えっ、いきなり事務所に!?」


「うん。契約手続きとか今後の流れの説明があるんだよ。一緒にいこう!」



午後。ここなに連れられて訪れたのは、芸能事務所『Seraph Production(セラフ・プロダクション)』。


案内された応接室で二人を待っていたのは、シュッとしたスーツを着こなす敏腕マネージャー・月島雫(つきしま しずく)だった。


「初めまして。マネージャーの月島です」


月島は立ち上がり、まっすぐな視線でアヌスを静かに観察する。その鋭い眼差しに、アヌスは身を正した。


「……なるほど。ここなが言っていた意味が分かりました。歌やダンスを見る限り、基礎能力はかなり高いですね。ステージ上で理屈抜きに人を惹きつける光を感じます」


プロの視点で冷静に評価された言葉にアヌスが胸を躍らせかけた瞬間、月島はすっと表情を引き締めて言った。


「ですが、プロのアイドルとして必要なのは技術だけではありません。観客を魅了する表現力や、ステージで臨機応変に輝くための『経験』は、これから磨いていく必要があります」


才能と実力を認めつつも、プロとして歩むべき課題を明確に示す言葉。アヌスはゴクリと唾を飲み込み、引き締まった表情で深く一礼した。


「はい……! 精一杯がんばります!」


その覚悟に、月島の目元が微かに和らいだ。


「完璧な人間だけが、人の心を動かせるわけではありません。迷いながらでも前へ進む姿に、人は惹かれるものです。それを届けるのも、アイドルの大切な仕事ですよ」


その言葉は、これまで誰よりも強くあることだけを求められてきたアヌスにとって、不思議なほど心に残った。


強さだけではなく、成長していく姿そのものにも意味がある。


その考え方は、今までのアヌスが知らなかった新しい価値だった。


「……っ、はい!」


手際よく提示された書類に目を通し、署名を終えると、月島は満足そうに頷いた。


「よし、これで正式に契約完了です。それでは……もう一人のグループメンバーを呼びますね」


月島がドアに向かって声をかけると、バタンと扉が開いた。


そこに立っていたのは、見事な金髪縦ロールを揺らす、まるで絵画から抜け出してきたかのような上品なお嬢様だった。


「初めまして。九条エリナ(くじょう えりな)と申しますわ」


優雅に一礼したエリナは、まずここなへ向かって優しく微笑みかけた。


「ここなさん、改めてよろしくお願いいたしますわね。またこうしてご一緒できて嬉しいですわ」


「うん! エリナちゃん、よろしくね!」


挨拶を終えたエリナが次にアヌスへと視線を向けた瞬間、ハッとしたように足を止めた。そしてすーっと吸い寄せられるように歩み寄ると、アヌスの綺麗な銀髪や吸い込まれそうなオッドアイをじっと見つめ、思わずといった様子でため息をついた。


「……なんて美しい方なのでしょう。髪も瞳も……まるで芸術品のようですわ」


言葉を失ったようにアヌスの至近距離で見入ってしまうエリナの姿に、ここなが「あ、また始まった」とくすくす笑いながら肩をすくめる。


「え、えぇっ……!? あ、ありがとうございます……?」


「あら……失礼いたしました。あまりの美しさに、つい我を忘れてしまいましたわ」


ハッと我に返ったエリナは、頬をかすかに染めて上品に咳払いをした。


「美しいものに性別など関係ありませんわ。ですが……ただ容姿が整っているだけではありませんのね。あなたの存在そのものに、不思議な深みがありますわ」


至近距離で見詰められて戸惑いながらも、どこか安心したように小さく微笑みを返したアヌスの表情を見て、エリナは優しく目元を緩めた。


「あなたのような方と一緒にステージに立てるなんて、本当に心が躍りますわ。機会がありましたら、ぜひゆっくりお話しさせてくださいね」


「エリナさん……! はい、ぜひよろしくお願いします!」


月島がパンパンと手を叩き、3人を見渡した。


「これで、我が『Seraph Production』が送り出すグループ、『Lumière(ルミエール)』の3人が揃いましたね。『光』という名に恥じぬよう、天使のように人々の心を照らすアイドルを目指しましょう」


「「「はい!」」」


アヌス、ここな、九条エリナの3人による新人グループ『Lumière』が、ついにここに始動した。


初めて手にした『夢』という存在を胸に、アヌスは歩み出す。かつては、ただ明日を生き抜くために力を振るい、戦い続けてきた。だが今は違う。温かな家族と新しい仲間に囲まれながら、アヌスはこれまで知らなかった未来へ向かって歩き始める。それは、明日を生きるためだけではなく、いつか大切な誰かの笑顔を守るために歩み続ける、新しい道だった。



第9話「初レッスンと芽生える絆」へつづく



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