その「謎の少女」は最強、二つの目で世界の視線を釘付けにする』 第13話
## 第13話:それぞれの春、動き出す未来
春休みの最終日の朝。
二度寝していたアヌスは、スマホの画面いっぱいに表示されたハルトからの何十件もの着信履歴にようやく気づき、青ざめながら飛び起きた。
「や、やばい……!!」
大慌てで靴を左右逆に履きかけ、バッグをひったくるように抱え、そのまますっ飛ぶようにアパートを飛び出した。慌ただしくもどこか微笑ましい朝から、新たな一日が始まった。
ハルトの家に到着すると、そこにはすでにココナや愛理たちの姿があった。温かい食卓を囲みながら、家族の絆を感じさせる穏やかな時間が流れている。
「アヌス、遅いぞー! ほら、これ食べて!」

愛理が笑顔でおかわりを勧め、ココナが「アヌス、これ好きでしょ?」と好きなおかずを取り分けてくれる。さらに、ハルトが呆れ顔をつくりつつも「まったく、ちゃんと食えよ」と世話を焼いてくれた。
(こんな朝が来るなんて、昔の僕には想像もできなかった……)
アヌスは思わず笑みをこぼした。血の繋がりはなくとも、互いを思いやる温かな家族のぬくもりが、アヌスの胸をじんわりと満たしていく。
朝食を終え、一息ついていると、ココナがふと真剣な表情を浮かべ、それからぱっと目を輝かせた。
「ねえみんな、突然だけどさ……私たち、アイドル活動の一環としてもYouTubeを始めてみたいな!」
「YouTubeか……確かに、今の時代はいいかもしれないね」

アヌスとエリナも賛成し、早速マネージャーに連絡を取ってみると「しっかり準備するならいいわよ。ただし、ただやるだけじゃなくて、一つ一つの発言に責任を持ちなさい」と、プロとしての厳しさを含んだアドバイスとともに撮影の許可が下りた。
リビングの一角を片付け、カメラと照明をセットして簡単なテスト撮影を行う。撮影準備はすべて整った。いよいよルミエールとして初めての動画撮影が始まる。
しかし、動画を撮り始める段階になって一つの問題が持ち上がった。
「それでさ、私たち誰がセンターになるの?」
エリナの問いかけに、全員が「いやいや、私はいいよ」「僕も……」と遠慮し始める。
「じゃあさ、ここは運で決めよっか!」
ココナの提案で平等にじゃんけんをすることになり、見事勝利したのはココナだった。
「えっ!? 私!? よーし、頑張る!」
ココナがパッと顔を輝かせると、アヌスが優しく微笑んで「ここなならぴったりだね」と声をかけ、エリナとともに拍手を送った。こうして、ルミエール初代センターはココナに決まった。
カメラのレンズに向かって、それぞれの自己紹介が始まる。

「ルミエールの海野ここなです! 好きなものは甘いもので、苦手なものは苦いもの全般です。よろしくお願いしますね!」
元気いっぱいの笑顔で、アイドルらしい圧倒的な明るさを振りまくココナ。
続いて、気品をまとったエリナが前へ出る。
「九条エリナと申しますわ。最近の趣味は皆様と一緒に街を探索することですわ。街には私の知らないものがたくさんあって、毎日が新しい発見ですの。どうぞよろしくお願いいたしますわ。」
上品でありながら、どこか世間知らずなお嬢様らしい挨拶が響いた。
そして、少し緊張した面持ちでアヌスの番がやってきた。
小さく息を吸ってから話し始めたアヌスは、少し赤面しながら言葉を紡ぐ。
「海野アヌスです……ここなとは姉妹です。好きなものは甘いもので、苦手なものは匂いがきついものです。その……皆さんと楽しい時間を過ごせたら嬉しいです……よろしくお願いします」

緊張で小さく震える手で言葉を紡ぐその姿は、自然と人を惹きつける魅力を放っていた。
三人は撮影した映像を確認すると、初めてとは思えないほど息の合った雰囲気に思わず顔を見合わせて笑った。
撮影が終わると、マネージャーが優しく微笑みながら声をかけてくれた。
「ココナは明るさ、エリナは上品さ、アヌスは守ってあげたくなる魅力。それぞれ違う個性があるからこそ、このグループは最高のバランスになっているわ。エリナは、これから少しずつ世間のことも知っていきましょうね。この動画がきっと三人の第一歩になるわ。三人ならきっと素敵なグループになれるわよ!」

### そして次の日 —— 入学式
ついに迎えた、マルス学院高等学校の入学式。
登校の際、ハルトがアヌスの肩をポンと叩いて「緊張するだろうけど、お前らしくやれよ。何かあったら俺がついてるから」と力強く送り出してくれた。
ピンと張り詰めた静寂に包まれた広い体育館。アヌスは壇上に上がる直前、大きく深呼吸をした。
一歩ずつ足を運び、新入生代表挨拶の原稿を読み始める。直前の深呼吸のおかげで気持ちを落ち着かせ、最後まで言葉を紡ぎ切ることができた。
席に戻った瞬間、体育館中に大きな拍手が鳴り響き、アヌスは(ふぅ……終わった……)と、どっと押し寄せていた緊張感からようやく解放されたのであった。
入学式を終えると、新入生たちはそれぞれの教室へと移動した。
その後のクラスごとの自己紹介。
アヌスとココナが教室に入ってきた瞬間、クラスがどよめいた。
「えっ、あの子たち……テレビで見たアイドルじゃない!?」
「うそ、本当だ……。すごい、本当に僕たちと同級生なの……?」

「でも、話しかけづらいくらい綺麗……って、アヌスの目、本当に吸い込まれそうな瞳ですごく綺麗……」
自己紹介が終わると、ココナの明るく元気なイメージと、アヌスの妹キャラ的で守りたくなるようなギャップのある魅力に、クラスメートたちはすっかり目を奪われていた。まだ始まったばかりの高校生活、クラス中の注目を集めることになった二人は、少し戸惑いつつも席に座った。
こうして僕たちの高校生活は、静かに幕を開けた。
――新たな物語が、ここから始まる。
