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ミサイルと冷やし中華と私(ショート・ショート)

ある暑い日のことだった。
日曜日の午後、一発のミサイルが発射された。

「暑いしさ、冷やし中華でいいよ。簡単なやつ。」

「『で』、いいよ?」

「うん。冷やし中華でいいよ。」

「で?」

夫は、冷やし中華を作るのに手間がかかることを知らない。

そもそも料理をしたこともなく、
食材にも作り手にも、
一かけらの敬意すら払ったことがない。

その無自覚な傲慢さが、
たった一文字の助詞「で」に、
如実に表れていた。

冷やし中華を作るには、
まず中華麺をゆで、氷水でしめる必要がある。

具の金糸卵だって、
玉子を溶き、薄く焼き、冷まし、
細く切るという工程がある。

それからハムやキュウリを切り、紅ショウガを添え、
エトセトラ、エトセトラ……。

「ねえ、コンビニで買うのとは違うのよ」と言いかけて、
私はその言葉をぐっと飲み込んだ。

テレビでは連日、
熊本の震災のニュースが流れている。

私が麺をゆでている間、
夫はソファーに寝転がり、 ぼんやりとテレビを眺めていた。

「地震、大変だよなぁ。
うち、水とか食料とか備蓄してるんだっけ?」

夫が他人事のような言葉を私に投げかけた、
まさにその瞬間のことだった。

我が家から、一発のミサイルが発射された。

激しい揺れと轟音、閃光をともない、
ミサイルはゆっくりと上昇していく。

それは某国により、
極秘に開発された兵器ではない。

長年、日々少しずつ積み重ねられた
すれ違いを材料にして、
私たち夫婦が無自覚に製造した
家庭内ミサイルだった。

夫は、突然発射されたミサイルに怯え、
私を置き去りにして、
玄関から外へ逃げ出していった。

ミサイルは我が家の天井と屋根を突き破り、
空に向かってまっすぐに、高く高く上がっていく。

私は狂喜しながら叫んだ。

「たまや〜!」

ぽっかり開いた屋根の穴からは、
雲ひとつない夏空がのぞいていた。

私は火を止め、
ゆであがった麺をザルにあげ、
氷水でしめてから大きな皿に盛った。

そして、その上に、
準備していた金糸卵とハム、キュウリを丁寧に乗せた。

まさに完璧な冷やし中華だった。

それから私は一人、
エアコンの効いたリビングで、
冷やし中華を堪能した。

こんなにおいしい冷やし中華を食べたのは、
いつ以来だろう。

甘酸っぱい夏の味がした。

ミサイルがどこへ飛んで行ったのかは、
私にもわからない。
でも、今はそんなことはどうでもよかった。

「ごちそうさまでした」と声に出した後、
私はソファーに横になった。

気づくと、震災のニュースは終わり、
テレビでは高校野球の試合が流れていた。

それから私は目を閉じ、
穏やかな夏の眠りについた。

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お疲れカツカレー チップをいただけるような素敵な雑記が書けたらなぁ~(遠い目)。