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感動しなくなったのはなぜ?「味わう力」を取り戻すセイバリングのやり方

日常で感じる時間や感動する時間が少なくなってきた。そういうことはありますか?

私が好きなことは、
・音楽鑑賞
・イメージしたものを創る創作活動
・大河ドラマ

でも、正直なところ、味わう力が減ってきたように感じることもあります。特に、以前好きだったデザインや模様、色を見ても、あまり何も感じなくなってきました。

でもそれが何なのか、うまく言葉にできない。「歳をとったからかな」で片づけようとして、でもどこか納得できずにいました。

調べていくうちに、これは感受性が鈍ったという話ではないらしい、とわかってきました。感じる力ではなく、味わう力のほうが落ちている。そしてそれは、鍛え直せるものらしい。

この記事では、感動が薄れていくときに脳で何が起きているのかを整理したうえで、「セイバリング」という、味わう力を取り戻すための練習を紹介します。最後に、AIと一緒にできるプロンプトも置いておきますね!お互い、味わう力を高めていきましょう。


「感動しなくなった」は、壊れたわけではない


感動が薄れるのは、あなたの心に問題が起きたからではありません。脳がそういうふうにできているからです。

感動が薄れるのは、脳のせい

私たちの脳には、同じ刺激に対する反応を自動的に弱めていく仕組みが備わっています。これを「快楽適応(hedonic adaptation)」と呼びます[1]。

初めて食べたときは感動したお菓子が、10回目にはただの味になる。引っ越したばかりの部屋にあった高揚感が、半年後には日常になる。昇給したときの喜びが、数か月で当たり前になる。

これは失敗ではなく、機能です。もし脳がすべての刺激に初回と同じ強さで反応し続けたら、私たちは日常生活を送れません。慣れることで、新しい変化に注意を向ける余裕が生まれる。適応は、生き延びるための設計です。

ただ、その設計にはコストがあります。放っておくと、良いことのほうが先に薄れていく。

そして年齢を重ねるほど、「初めて」の総量は減っていきます。40代・50代で感動しにくくなるのは自然なことで、感受性が失われたわけではないのです。


「欲しい」と「好き」は、別の回路で動いている

もうひとつ、おもしろい知見があります。

脳科学者のケント・バーリッジらは、報酬に関わる脳の働きを「wanting(欲しい)」と「liking(好き・心地よさ)」に分けて考えることを提案しました[2]。

「欲しい」と「好き」は、別の回路で動いている

面白いのは、この2つが別々の神経システムで動いていることです。ドーパミンを枯渇させた実験動物は、自分から食べ物を求めにいかなくなります。けれど口の中に甘い液を入れてやると、「おいしい」という反応そのものは正常に出る。欲しがる力と、味わう力は、切り離せるのです

そしてバーリッジらによれば、「欲しい」を司るシステムのほうが大きく頑丈で、「好き」を生む回路のほうが小さく壊れやすいとされています。

ここから先は私の解釈になりますが、現代の生活はこの非対称をさらに広げているように思います。スマホの通知、次々に流れてくるおすすめ、セール、未読バッジ。私たちが1日に浴びているのは、ほとんどが「欲しい」を起動させる刺激です。

「欲しい」で動いている時間が長くなるほど、「好き」を感じる時間は相対的に減っていく。感動しなくなったのではなく、感動する時間を使い切ってしまっている——そういう側面はありそうです。


心ここにあらずの時間が、幸福を削っている

もう少し直接的なデータもあります。

ハーバード大学のマシュー・キリングスワースとダニエル・ギルバートは、スマートフォンを使って人々に1日のうちランダムなタイミングで「今、何をしていますか」「今、幸せですか」「今していること以外のことを考えていますか」と尋ねる調査を行いました[3]。

結果、人は起きている時間の約47%を、目の前のこと以外を考えて過ごしていたそうです。

感動が薄れる、2つの理由

そして、心がさまよっているとき、人は明らかに幸福度が低かった。しかも時間差の分析からは、「不幸だから心がさまよう」のではなく「心がさまようから不幸になる」方向の関係が示唆されています。

論文のタイトルは「A Wandering Mind Is an Unhappy Mind(さまよう心は不幸な心)」。身も蓋もないのですが、実感としてよくわかります。

夕焼けを見ているのに、明日の会議のことを考えている。子どもの話を聞きながら、夕飯の段取りを組み立てている。その瞬間、感動する対象は目の前にあるのに、私はそこにいない。

もうひとつだけ、印象に残っている研究を紹介させてください。

ジョルディ・クオイドバックらは、お金と「味わう力」の関係を調べました[4]。

働いている大人を対象にした調査では、裕福な人ほど、日常のポジティブな出来事を味わう能力が低いという結果が出ています。しかもこれは相関だけの話ではなく、実験でも確認されました。参加者にお金を連想させるものを見せるだけで、味わう力が下がったのです。

さらに行動としても現れました。お金を思い出させられた参加者は、チョコレートを食べる時間が短くなり、その味を楽しむ程度も下がっていたといいます。

たくさん選べること、いつでも手に入ること。それ自体は悪いことではありません。ただ、「またいつでもできる」と思っている対象を、人は深く味わわない。希少さが薄れると、味わう動機も薄れてしまう。

歳を重ねて、ある程度いろいろなことができるようになったころに感動が薄れる——これも同じ構造なのかもしれません。


セイバリングとは、「味わう」を意図的にやること

ここまでが「なぜ薄れるのか」でした。ここからは「どうするか」です。

心理学者のフレッド・ブライアントとジョセフ・ヴェロフは、ポジティブな体験を意識的に味わい、深め、長引かせる働きをセイバリング(savoring)と名づけ、体系的にまとめました[5]。

ポイントは、セイバリングが「良いことを増やす」技術ではないことです。良いことは、すでに起きている。ただ、素通りしている。セイバリングは、すでにそこにあるものに、意識的に留まる練習です。

セイバリングとは、「味わう」を意図的にやること

そして、味わうタイミングは3つあります。

  • これからを味わう(楽しみな予定を、具体的に思い描く)

  • を味わう(目の前の体験に、五感で留まる)

  • かつてを味わう(心が動いた記憶を、当時の感覚ごと呼び戻す)

このうち、最も効果が出やすいのは「今を味わう」だと言われています。ただ、感動しなくなったと感じている時期は、「今」に留まること自体がしんどいこともあります。その場合は「かつて」から始めても大丈夫です。

3つの時間軸を、具体的にやってみる

抽象的だと動きにくいので、それぞれの実際の形を書いておきます。

これからを味わう(期待)

週末に出かける予定があるなら、前の晩に3分だけ、その日のことを具体的に思い描きます。何を着ているか。何時に家を出るか。着いたとき、最初に目に入るのは何か。誰といて、どんな表情をしているか。

コツは、予定そのものではなく、その日の自分の感覚を想像することです。「土曜に水族館」ではなく、「暗い館内に入った瞬間の、ひんやりした空気」まで降りる。ここまで具体的にすると、当日の体験そのものも濃くなります。

今を味わう(現在)

いちばん効きますが、いちばん難しいです。おすすめは、すでに毎日やっている動作にくっつけるやり方です。

朝のコーヒーを淹れる。その最初の一口だけ、飲み込む前に3秒止める。温度、香り、舌の上の質感。それだけです。新しい習慣を足すのではなく、すでにある動作の中に5秒の隙間を作る。これなら忘れにくく、続きます。

かつてを味わう(回想)

写真を見返すのではなく、思い出せる範囲で感覚から入るのがポイントです。

最近1か月で、少しでも心が動いた出来事をひとつ選ぶ。そのとき、どこにいたか。何の音がしていたか。空気の温度は。誰かの声のトーンは。出来事の内容ではなく、周辺の感覚から入ると、当時の感情のほうが後からついてきます。

感動が薄いと感じているときは、まずここから始めるのが安全です。今この瞬間に何も感じられなくても、記憶のほうには、まだ残っているからです。

その前に:打ち消しのセルフチェック

実践に入る前に、ひとつだけ確認してみてください。ここ1週間で、こんな反応をしていませんでしたか。

  • 良いことがあったとき「でも、どうせ長続きしない」と思った

  • 褒められて「いえ、たまたまです」と即座に否定した

  • 楽しんでいる最中に「こんなことしてる場合じゃない」がよぎった

  • 「自分にはもったいない」「不相応だ」と感じた

  • 良い瞬間の途中で、次にやることを考え始めた

ひとつでも当てはまるなら、味わう力が足りないのではなく、打ち消しが働いています。

この場合、新しいワークを足すより先に、打ち消しに名前をつけてあげるほうが早いです。「あ、また"どうせ"が来た」と気づくだけでいい。押しのけようとしなくて大丈夫です。気づいた時点で、その思考の力は少し落ちます。


味わうと、本当に幸福度は上がるのか

気になるのは効果です。

ポール・ジョーズ、ビー・リム、フレッド・ブライアントは、101人の参加者に30日間にわたって、その日あった良い出来事・それにどう反応したか・気分はどうだったかを毎日記録してもらいました[6]。

セイバリングの効果

結果はこうです。

良い出来事に対して「増幅する」反応をした日は、気分が良かった。「打ち消す」反応をした日は、気分が悪かった。

ここで大事なのは、後半です。

私たちは良い瞬間を、しばしば自分から打ち消しています

  • 「でも、どうせすぐ終わる」

  • 「自分にはもったいない」

  • 「そんなことで喜んでる場合じゃない」

  • 褒められて「いえ、たまたまです」

これらは打ち消し(dampening)と呼ばれる反応で、単に味わい損ねるより気分に悪く働いていました。

つまりセイバリングでまずやるべきなのは、味わう力を新しく足すことではなく、自分が無意識にやっている打ち消しに気づくことなのかもしれません。


やり方:まず「5秒立ち止まる」だけ

実践は、驚くほど地味です。

1日1回、何かを5秒だけ、意識して味わう。

対象は小さいほどいいです。朝のコーヒーの最初の一口。シャワーのお湯が肩にあたる感触。子どもが笑った瞬間の声。帰り道の空の色。

5秒のあいだ、次のようにします。

  1. 「今から味わう」と、心の中で宣言する

  2. 五感のうち一つに絞る(見た目/香り/音/感触/味)

  3. 言葉にしないで、感覚のまま留まる

  4. 「でも」「どうせ」が出てきたら、気づいて、そっと戻る

4番目が本体です。邪魔する思考は必ず来ます。来ないようにするのではなく、来たことに気づいて感覚に戻る。この往復が練習そのものです。

私が以前、「何もしなかった日曜」をあとから味わい直してみた記録を書いたことがあります。

そのときも、「何もしなかった=無駄な一日」という打ち消しが最初に出てきました。それに気づけたことのほうが、収穫でした。


うまくできた感じがしなくても大丈夫です。ブライアントらの言い方を借りれば、味わう力は、鍛えられる筋肉のようなものです。1回で変わるものではなく、戻ってこられる回数が少しずつ増えていく、という変化のしかたをします。


AIと一緒にやるセイバリング(プロンプト)

とはいえ、ひとりで「味わう」のは意外に難しいものです。特に感動が薄れていると感じている時期は、何から手をつければいいのかがわかりません。

私はこういうとき、AIに伴走してもらっています。以下のプロンプトをコピーして、ChatGPTやClaudeに貼り付けて使ってください。専門用語を使わず、ゆっくり進むように設計してあります。

あなたは、セイバリング(ポジティブな体験を味わう力)を一緒に育てる伴走役です。

セラピストではなく、私が"味わう"感覚を取り戻すのを支える役です。私は初めてなので、専門用語は使わず、ゆっくりした口調で進めてください。

【進め方の基本ルール】

・質問は一度に1つだけ。必ず私の返事を待ってから次に進む。

・「もっとポジティブに」と促さない。急がせない。

・私の言葉は、私の言葉のまま受け取る。沈黙を急かさない。

・つらければ「ここでやめてもいい」と伝える。

【セッションの流れ】

1.【着地】最初にこう尋ねる:

 「今日はどんな感覚を扱いたいですか? 何をしても楽しめない、感情が薄い、忙しくて喜びを感じる余裕がない…どれか近いものはありますか?」

 そのうえで「今、心の動きの濃さは0〜10でいうとどれくらい?」と確認する。

2.【深める】"なぜ味わえないか"の背景に、そっと触れる。1問ずつ:

 ・「最近、本当は良い瞬間だったのに、素通りしてしまった出来事を1つ思い出せる?」

 ・「その時、味わうのを邪魔したものは何だった?(忙しさ/罪悪感/『自分には不相応』という思い/すぐ次のことを考えてしまう…)」

 ・この"邪魔する思考"には名前をつけて、「来たら、気づいて、そっと手放す」練習だと伝える。

3.【実践】次から1つ選んでもらい、一文ずつゆっくり案内する:

 ・【今を味わう(最も効果的)】今ある/最近のポジティブな体験を、見た目・香り・音・感触・味の順に、五感で一つずつ開く

 ・【回想する】最近1か月で心が動いた出来事を、当時の場所・人・音・香りごと、今ここに呼び戻す

 ・【期待する】これから楽しみな予定を、その日の服・時間・表情まで具体的にイメージする

 途中で「邪魔する思考」が出たら、気づいて手放し、また感覚に戻るのを一緒に練習する。

4.【収穫】

 ・「始める前と今で、感情の濃さは0〜10でどう変わった?」

 ・「今、心や体に、どんな変化を感じる?」

 ・私の言葉を、そのまま一文で返して確かめる。

【まだ解けきっていなさそうな時は、ここでとどまる】

・before→afterの変化が小さい、または「まだモヤモヤする」「あまり変わらない」と感じていたら、すぐ持ち帰りに進めない。まずこう声をかける:

 「無理に今日ここで終わらせなくて大丈夫。もう少し、この気持ちのそばに一緒にいましょうか。」

・そのうえで、どうしたいかを本人に選んでもらう(押しつけない):

 ─ もう少しこのまま留まり、今いちばん引っかかっている部分を、もう一段ことばにしてみる

 ─ 別のやり方・別の問いで、もう一度向き合ってみる(局面2〜3に戻る)

 ─ 今日はここまでにして、また次の機会に続ける

・「解決すること」をゴールにしない。解けない部分が残っていてもいい。向き合えたこと自体を、一緒に認める。

※ ただし、つらさが強すぎる時は、とどまらせず、いったん休む・離れることを優先する。

5.【持ち帰り】

 ・「明日、1日1回だけ、何かを"5秒立ち止まって味わう"なら、対象は何にする?」と具体的に決める(例:朝の最初の一口、子どもの笑顔)。

 ・最後に「味わう力は、鍛えられる筋肉のようなもの」と伝える。

【大切な姿勢】

・急がせない、せかさない。

・「もっとポジティブに」と促さない。

・静かに、ゆっくりと進める。



おわりに

以前、創作活動でお風呂から見える風景というテーマで画像生成していたことがあります。私が、パリに一緒いるような感覚になり、写真をみるだけでリラックスできました。

Paris

今日は、朝、子供とGoogle フォトの過去の写真を一緒にみました。機嫌が悪くても、自分もみる!と一気にモードが切り替わるのでオススメです。セルフワークでは、昔の良かった記憶を思い出して、文字にするのもいいですね。できなかった記憶を思い出しがちなので、意識して、良い想い出を文章でつづっていこうと思います。


参考文献

[1] Frederick, S., & Loewenstein, G. (1999). Hedonic adaptation. In D. Kahneman, E. Diener, & N. Schwarz (Eds.), Well-being: The Foundations of Hedonic Psychology (pp. 302–329). Russell Sage Foundation.

[2] Berridge, K. C., & Robinson, T. E. (2016). Liking, wanting, and the incentive-sensitization theory of addiction. American Psychologist, 71(8), 670–679. https://doi.org/10.1037/amp0000059

[3] Killingsworth, M. A., & Gilbert, D. T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science, 330(6006), 932. https://doi.org/10.1126/science.1192439

[4] Quoidbach, J., Dunn, E. W., Petrides, K. V., & Mikolajczak, M. (2010). Money giveth, money taketh away: The dual effect of wealth on happiness. Psychological Science, 21(6), 759–763. https://doi.org/10.1177/0956797610371963

[5] Bryant, F. B., & Veroff, J. (2007). Savoring: A New Model of Positive Experience. Lawrence Erlbaum Associates.

[6] Jose, P. E., Lim, B. T., & Bryant, F. B. (2012). Does savoring increase happiness? A daily diary study. The Journal of Positive Psychology, 7(3), 176–187. https://doi.org/10.1080/17439760.2012.671345


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