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認知的脱フュージョンのやり方|ACTで嫌な考えから距離を取る方法



ACTと「脱フュージョン」とは何か

まずACTから説明します。ACTは、不安やネガティブな考えを「消す」ことをゴールにしない心理療法です。そうした考えを抱えたままで、自分が本当に大切にしたいことに向かって動けるようになる――そこを目指します。

ACTの脱フュージョンイメージ

そのACTの中心にあるのが、脱フュージョンです。理解するために、まず反対の状態「フュージョン(融合)」を知っておくとわかりやすいです。フュージョンとは、頭に浮かんだ考えと自分がぴったりくっついて、考えがそのまま事実のように感じられてしまう状態を指します。「自分はダメだ」と浮かぶと、それが本当のことに思えて、気分も、行動も、その考えに合わせて動いてしまう。考えと自分のあいだの境目がなくなっている状態です。

脱フュージョンは、この「くっつき」をゆるめることです。考えと、それを眺めている自分とのあいだに、すきま(距離)をつくる。ここで大事なのは、考えの中身を変えるわけではない、という点です。「自分はダメだ」を「自分はすごい」に書き換えるのではありません。ACTは、その考えが正しいか間違っているかをほとんど問いません。代わりに、その考えとどんな関わり方をしているか――どれくらい巻き込まれているか――に注目します[1] 。考えにどれだけくっついているかは、質問紙である程度測れるくらい、人に共通した心の動きでもあります[2] 。


なぜ距離をとると、ラクになるのか

距離をとると、頭の中では実際に何が変わるのでしょうか。手がかりになる研究があります。こわばった表情の写真を見ると、脳の中で危険を察知する部分(扁桃体)が強く反応します。ところが、その感情に「これは怒りだ」と言葉でラベルをつけてもらうと、その反応が下がり、代わりに感情を言葉で扱う前側の領域が働くことが明らかになっています[3] 。気持ちに名前をつけるだけで、反応の勢いが落ち着く、ということです。

脱フュージョンの脳と心の効果

脱フュージョンそのものを調べた研究もあります。湧いてくる考えや気持ちを、自分から切り離して「心に現れては消えていく、一時的なもの」として少し離れて見る。そうすると脳は、上のほうから気持ちを整えるような働きを見せたと報告されています[4] 。考えを「自分そのもの」ではなく「通り過ぎていくもの」として扱うこと自体が、ラクになる入り口になっているのかもしれません。

さらに興味深いのは、脱フュージョンがACTの「効きどころ」そのものらしい、という点です。うつの治療データを再分析した研究では、ACTを受けた人のうつの改善を、治療後に高まった脱フュージョンが媒介していました。つまり、脱フュージョンが進んだ人ほど、あとからうつが軽くなっていたのです。同じことを認知療法のデータで調べても、この媒介は見られませんでした[11] 。考えとの距離をとる力そのものが、回復を支えている可能性がある、というわけです


やってみる:言葉を繰り返して、意味をはがす

脱フュージョンには、もっと体で実感できるやり方もあります。代表的なのが「ミルクのワーク」です。「ミルク」という言葉を、声に出して二十秒ほど、できるだけ速く繰り返してみてください。はじめは白い飲みもののイメージが浮かびますが、続けているうちに意味がはがれていって、ただの音のかたまりに聞こえてきます。多くの人がそう感じます。

これは百年ほど前からある手法で、ACTに取り入れられてきました[5] 。ある研究では、自分を責める短い言葉――たとえば「ダメ」――でこれをやると、その言葉の「信じやすさ」と、それにともなう不快感が下がったと報告されています。気をそらすやり方や、考えないようにするやり方よりも効果が明らかになっています[5] 。どのくらい繰り返せばいいのかを調べた研究もあって、不快感は速く繰り返して数秒から十秒ほどで、信じやすさは二十秒から三十秒ほどで下がりはじめる、とされています[6] 。

ここでも、言葉の中身は一文字も変えていません。「ダメ」を別の言葉に置き換えたわけではないのに、その言葉が持っていた重さだけが減っていく。これが脱フュージョンの考え方です。考えの形や数を変えにいくのではなく、考えとの距離を変える[1] 。大げさな手順でなくても、日常で浮かぶネガティブな考えに対して、短い脱フュージョンが役に立つことも示されています[7] 。


研究でわかっていること

ここで、ACT全体の効果についても見ておきます。これまでに出た研究をまとめた大きなレビューでは、20のメタ分析・133の研究・延べ1万2千人以上のデータが整理され、ACTは不安、うつ、慢性的な痛み、物質使用など、幅広い問題に対して効果があると結論づけられています[10] 。特定の悩みにだけ効く特殊な方法ではなく、いろいろな場面で一定の手応えが確認されている、ということです。

ACTの効果について

脱フュージョン単体の基礎研究も積み重なっています。さきほどのミルクのワークのように、自分を責める考えに対して脱フュージョンを使うと、その考えの信じやすさや不快感が下がる。しかもそれは、考えないように抑え込むやり方や、別のことで気をそらすやり方よりも効果が大きかった、と複数の研究で報告されています[5] 。

そして、脱フュージョンがただ気分を変えるだけでなく、回復のプロセスそのものを支えているらしいことも、先ほどの媒介研究が示しています[11] 。応用先も広がっていて、もともとはうつや不安が中心でしたが、近年は慢性痛など、考えや感情との付き合い方が関わる幅広い領域で研究が進んでいます[10] 。


ただし、万能ではない

いいことばかり書いてきましたが、いつでも誰にでも効く、という話ではありません。ACTの効果は、研究をまとめると「小さめから中くらい」とされることが多く、すべての悩みを解決する万能薬ではありません[8] 。最近のレビューでも、ACTは認知行動療法(CBT)と比べて明らかに上というより、おおむね同じくらいの効果、という見方が主流です[12] 。効きやすさには個人差があり、その日の調子や、抱えているものの重さでも変わります

もうひとつ、よくある誤解について。脱フュージョンは、嫌な考えを「追い払う」テクニックではありません。「白いクマのことだけは考えないで」と言われた人ほど、白いクマが頭から離れなくなる、という有名な実験があります。無理に押さえこむと、考えはかえって居座ります[9] 。だから脱フュージョンでは、考えを「消す」のではなく「眺める」ところにとどめます

そして、いちばん大切なことです。気持ちの落ち込みが長く続いていたり、つらさが毎日の生活に影響していたりするなら、ひとりで抱えこまないでください。ここで紹介しているのは、その手前でできる、ちいさなセルフケアのひとつです。


今日からできる、3つの小さな練習

最後に、すぐ試せることを3つ。

1つ目は、言いなおすこと。「自分はダメだ」と浮かんだら、「私は『自分はダメだ』と考えている」と前置きをつけてみる。余裕があれば、「私は、そう考えていることに気づいている」と、もう一段引いてみる。これだけで、考えと自分のあいだに少しすきまができます。

2つ目は、名前をつけること。繰り返し出てくる考えに、「また『どうせ自分なんて』が始まったな」とタイトルをつけてみる。気づけた時点で、もう半分は距離がとれています。

3つ目は、効かない日があっても自分を責めないこと。うまく離れられない日は、「今日は近いな」と思っておくくらいで十分です。できない自分を責めると、それ自体がまた新しいフュージョンになってしまいます。

脱フュージョンのゴールは、頭の中を静かにすることではありません。「失敗するかも」という声が浮かんでいても、その声を抱えたまま、自分が大切にしたいことに一歩進めること[1] 。考えを消そうとして止まるのではなく、考えと一緒に進んでいく。そのための練習です。考えは、ただの考え。それを眺めながら進んでいけたら、それで十分なのだと思います。

脱フュージョンのゴールは、頭の中を静かにすることではありません。「失敗するかも」という声が浮かんでいても、その声を抱えたまま、自分が大切にしたいことに一歩進めること[1] 。考えを消そうとして止まるのではなく、考えと一緒に進んでいくという文脈にある効果的なセルフワーク手法です。

下の記事では、このACT認知的脱フュージョンの手法をAIと対話することで誰でも進められるようなプロンプトをご紹介しています。
是非、日常の一助として取り入れて見てくださいね。


参考文献

[1] Acceptance and commitment therapy: Model, processes and outcomes(Hayes, S. C. ら, 2006)https://i-cbt.org.ua/wp-content/uploads/2017/11/Hayes-ACT-2006.pdf
[2] The development and initial validation of the Cognitive Fusion Questionnaire(Gillanders, D. ら, 2014)https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0005789413000713
[3] Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli(Lieberman, M. D. ら, 2007)https://journals.sagepub.com/doi/10.1111/j.1467-9280.2007.01916.x
[4] Approaching or Decentering? Differential Neural Networks Underlying Experiential Emotion Regulation and Cognitive Defusion(Wang, Y. ら, 2022)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9496919/
[5] Cognitive defusion and self-relevant negative thoughts: Examining the impact of a ninety year old technique(Masuda, A. ら, 2004)https://contextualscience.org/sites/default/files/305%20Defusion%20word%20repetition%20BRAT%202004.pdf
[6] A parametric study of cognitive defusion and the believability and discomfort of negative self-relevant thoughts(Masuda, A. ら, 2009)https://doi.org/10.1177/0145445508326259
[7] Using brief cognitive restructuring and cognitive defusion techniques to cope with negative thoughts(Larsson, A. ら, 2016)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26685210/
[8] A meta-analysis of the efficacy of acceptance and commitment therapy for clinically relevant mental and physical health problems(A-Tjak, J. G. L. ら, 2015)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25547522/
[9] Paradoxical effects of thought suppression(Wegner, D. M. ら, 1987)https://scholar.harvard.edu/dwegner/publications/paradoxical-effects-thought-suppression
[10] The empirical status of acceptance and commitment therapy: A review of meta-analyses(Gloster, A. T. ら, 2020)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2212144720301940
[11] Processes of Change in Acceptance and Commitment Therapy and Cognitive Therapy for Depression: A Mediation Reanalysis of Zettle and Rains(Zettle, R. D., Rains, J. C., & Hayes, S. C., 2011)https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0145445511398344
[12] An Overview of Reviews on the Effects of Acceptance and Commitment Therapy (ACT) on Depression and Anxiety(Beygi, Z. ら, 2023)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10293686/

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