見出し画像

カリフォルニア・ワインは熟成しない?

「カリフォルニア・ワインは熟成しない。」

2000年代から2010年代にかけて、国内の専門家の間では、こうした考え方が広く受け入れられていた。例外的に熟成するワインはあったとしても、大方、果実味が豊かで酸に欠けるカリフォルニア・ワインに、熟成能力はないと判断されていた。

実際のところ、ワインの熟成を可能にする要素の中で何を重視するのかは、様々な見方がある。酸を重視する意見もあれば、果実味やタンニンが十分にあることが重要という声もある。

ただ、前者の意見は、主に欧州の中でも酸が強いワインが作られる産地で見られる考え方だ。ぶどうの生育条件や市場の嗜好が大きく異なるカリフォルニア・ワインの熟成可能性については異なる観点があるという考え方は、当時、理解されなかったのだろう。

面白い事実も判明している。ワインの世界に衝撃を与えた1976年の「パリスの審判」の再検証が行われた1986年、2006年、2017年のリターン・マッチの結果、いずれもカリフォルニア・ワインが第1位に選ばれる結果となったのだ。カリフォルニア・ワインが熟成しないというイメージは、ただの先入観に過ぎないことを示す証拠が示されてきた。

今になって思えば、当時は、なぜ「カリフォルニア・ワインは熟成しない」等と、実証もなく決めつけた意見が広く受け入れられたのか。想像するに、ワインの世界にも、ものの見方の多様性が乏しかったからではないか。異なる価値を評価するためには異なる尺度が必要になる。欧州ワインの常識が、カリフォルニアで通用しないということを、想像できなかったのだろう。

しかし、今でも批判の声は燻っている。曰く、1970年代のカリフォルニア・ワインは別物なのだ。当時のワインは、果実味よりも酸を重視したワイン作りをしていたからこそ熟成の能力があったのだ。90年代以降、ロバート・パーカーJr.氏のような評論家の影響を受けたワインに熟成能力があるとは思えない、と。(転じて、Napaのワインは70年代こそがあるべき姿だという主張も、時々、目にする。)

国内に70年代のカリフォルニア・ワインに精通した専門家がどれだけいるのか心許ないが、次々にこうした論点が(検証を経ずに)持ち出されてくるところが、新興生産地の悲しさだ。

そんな疑問への答えを用意する立場にはないが、1992年のJordanのワインが手に入ったので、それを飲みがてら個人的な検証を行うことにした。

Jordanは1972年にTom & Sally Jordan夫妻によってSonomaのAlexander Valleyに設立された。若くして飲みやすく、熟成の能力も高いボルドー・ブレンドを作ることを夢見た夫妻は、かのアンドレ・チェリチェフ氏のアドバイスを受けながら、同氏が採用したRob Davis氏に、1976年から彼が引退する2019年までの間、一貫してワイン作りを任せる等、質の向上やワイナリーのアイデンティティの構築に余念がなかった。2005年以降は、家族のJohn Jordan氏がワイナリー経営に力を発揮しており、現在まで佳作のカベルネ・ソーヴィニヨンを作り続けている。

ちなみに、Sonomaはよくブルゴーニュ品種の産地と思われているが、実際は、Knights ValleyのPeter MichaelやAlexander ValleyのStonestreet等、優れたボルドー・ブレンドを作る生産者が存在する。カベルネ・ソーヴィニヨンが好きな消費者は、注目すべき産地と言って良い。

時を経たJordanのワインの状態は極めて良好だった。熟成を示す煉瓦色でありながら、輪郭は明瞭。味わいの面では、長い時間を経て、酸が和らぎタンニンが解れてきたことが感じられる。酸が十分にあり、丸みのあるボディを程よく引き締めており、尾を引くアフターも洗練されている。かつては、赤黒系の果実が華やかで、コーヒーの香りが強かった様子がうかがえるが、そうした特徴はワインに溶け込んで一体となっているように思える。まだ10年から20年は熟成するだろうが、今が飲み頃だろう。骨格と抑制を感じるSonomaのカベルネ・ソーヴィニヨンの魅力が詰まったワインだ。

90年代のワインが綺麗に熟成するのであれば、2000年代以降のカリフォルニア・ワインもそうではないか。それでも疑わしいと思うなら、新たに対決させるワインを用意して再び「パリスの審判」を行ってはどうか。もっとも、やる前から結果は明らかだろうが。

本日のワイン:
Jordan Alexander valley Cabernet Sauvignon 1992
94+pts
https://www.jordanwinery.com

いいなと思ったら応援しよう!