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GW、デイキャンプに失敗した日。

序章

あの日、
友人とデイキャンプへ行く予定だった。
3年ほど前のゴールデンウィークの話である。

朝から快晴。

富士山もきれいで、
車の中では今日の過ごし方を話していた。

昼ごはんには肉を焼いて、
コットで本を読む。

眠くなったら、
そのまま昼寝をする。

そんな一日を思い描いていた。

計画は、ほとんど完成していた。

でも、
その計画は、
高速道路の途中で静かに崩れていく。

結局その日、
僕たちは一度もキャンプ場へ入ることはなかった。

それでも今振り返ると、
あの日は「失敗した休日」ではない。

あの日があったから、
今の旅の楽しみ方があるとも言える。
そんな1日のお話。


計画

元々は、
一泊二日のキャンプへ行く予定だった。

焚き火をして、
夜はお酒を飲んで、
朝はコーヒーを淹れて、
ゆっくり撤収する。

最高のキャンプになる。
予定だった。

でも、
カーシェアの予約が取れなかった。

近くのステーションは、
どこも空いていない。

少し離れた場所まで探したけれど、
状況は変わらなかった。

準備が、少し足りなかった。

「泊まりは厳しいか。」

そう判断して、
予定をデイキャンプへ切り替える。

デイキャンプなら、
予約なんていらない。

そんな根拠のない自信が、
どこかにあった。

GWでも、
少し早く着けば大丈夫だろう。

そんなふうに、
軽く考えていた。

夜には、
翌日の過ごし方をLINEで話していた。

「コットで本を読もう。」

「眠くなったら昼寝しよう。」

「15時にはおやつ。」

そんな理想の一日を、
二人で組み立てていく。

計画は、もう一度完成した。


崩壊

翌朝。

道志方面へ車を走らせる。

予約不要で、デイキャンOKな
キャンプ場が複数あることは
リサーチ済みだった。

泊まりではなくなったけれど、
キャンプへ行ける。

それだけで十分だった。

車窓からは、
きれいな富士山が見えていた。

「今日は気持ちよさそうだね。」

そんな話をしながら、
高速道路を走る。

渋滞はしていた。

でも、
GWだから仕方ない。

まだ、
そのくらいにしか思っていなかった。

この時は、最高のキャンプになると思っていた。

伊勢原が近づいてきた。

時計を見る。

思っていた以上に、
車は進まない。

「これ、
間に合うかな。」

嫌な予感がして、
最初の候補だったキャンプ場へ電話をかけた。

返ってきたのは、

「もう列ができていますね。」

という一言。

少し間を置いて、
もう一軒。

「今日はもういっぱいですね〜」

さらに、
もう一軒。

返事は、
どこも似たようなものだった。

その瞬間、
ようやく現実を受け入れる。

GWを、
少し甘く見ていた。


車内には、
少しだけ静かな時間が流れた。

「どうする。」

キャンプ場を探し続けるか。

それとも、
今日は違う休日にするか。

そんな空気とは裏腹に、
もう一つ、
確実に限界へ向かっているものがあった。

……友人の膀胱である。

車内には、
今までにない緊張感が流れていた。

その後については、
本人の名誉のため、
ここでは伏せておく。

ただ一つだけ言えるのは、

彼はこの日を境に、
出発前のトイレと脱カフェインを
徹底するようになった。


取舵

時が経つにつれ、
デイキャンプが現実的でなくなっていく状況は、
火を見るより明らかであった。

キャンプ場へ向かう理由は、
もうなくなってしまった。

詳しいやり取りは覚えていない。

でも、

「海でも見に行こうか。」

そんな言葉から、
今日の行き先が決まった気がする。

ナビの目的地を変える。
取舵いっぱい

行き先は、
真鶴。

小田原や箱根も考えたが、
どうせなら、
まだ見た事のない景色へ。

西湘バイパスを走る。

山並みだった景色が、
少しずつ海へ変わっていく。

窓を少し開ける。

潮の匂いが、
車の中へ流れ込んできた。

キャンプはできなくなった。

でも、僕たちの休日は、
まだ続いていた。


港町


真鶴へ着く。

どこか懐かしい、
心落ち着く漁村の街並みが、
僕たちを迎え入れてくれた。

港の駐車場に停車し車から降りると、
潮の香りがふわりと漂ってくる。



先程までの車内とは、
少し違う空気が流れている。

港には、
ゆっくりと時間が流れていた。

釣り糸を垂らす人。

ベンチで本を読む人。

港をのんびり散歩する人。

思い思いに、
休日を過ごしていた。

誰も急いでいない。

僕たちも、
急ぐ理由はもうなかった。


郷土

港を歩いているうちに、
お腹が空いてきた。

せっかく海まで来た。

なら、
食べたいものは一つだった。

三軒並んだ食堂が目に入った。

「どこにする?」

そう言いながら、
結局は直感だった。

暖簾をくぐったのは、
『宵』という小さなお店。

カウンターに腰を下ろす。

店主が魚をさばく音。

厨房から漂う醤油の香り。

地元の人らしきお客さんが、
静かに昼ごはんを楽しんでいる。

観光地というより、
町の日常にお邪魔したような空気だった。

その土地で揚がった魚を、
その土地で食べる。

旅先では、
それだけで少し贅沢な気分になる。

しばらくすると、料理が運ばれてきた。


湯気と一緒に、
甘辛い香りが立ちのぼる。

箸を入れると、
ほろりと身がほどけるブリカマ。

刺身は驚くほど瑞々しく、
潮の香りがまだ残っているようだった。

「キャンプはできなかったけど、
これはこれで最高だね。」

そんな言葉が、
自然とこぼれた。



波音

食事を終えて、
真鶴岬へ向かう。

車を駐車場に停め、
椅子を肩に担いで、
岬までの道を歩く。

途中、
高台にある小さなカフェを見つけたり。

「ここもいいね。」

そんな話をしながら、
ゆっくり歩く。

岬へ着く。



椅子を広げる。

サイダーを飲む。

本を読む。

目を瞑って、
波の音を聞く。

たまに顔を上げて、
海を眺める。

話したくなったら話す。

時間の使い方を、
誰にも決められない。

そんな午後だった。

朝には想像もしなかった時間が、
静かに流れていた。


原点

あの日から、
地図を開く時間が少し長くなったのは
間違いない。

キャンプ場だけじゃない。

その町の景色や、

ご飯屋さんや、

寄り道できそうな場所まで。

まだ見ぬ景色を想像する時間も、
今では旅の楽しみになった。

旅は、
思いどおりにならない。

だから、
思いどおりにならなかった時のために、
少しだけ準備をしておく。

準備をするのは、
予定を守るためじゃない。

予定が変わった日まで、
楽しめるようにするためだ。

そうして僕は今日も、
次の休日の設計図を描いている。


▼この記事を書いた人
「キャンプ旅研究所by酔いどれ狸」
キャンプ場だけじゃもったいない。
温泉、グルメ、観光まで含めて
「最高の休日」を設計しています。
Instagram:@campwithwhisky

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