哲学と数学との意外?な関係
先日、社会思想・哲学について次のような投稿をしました → 「哲学の歴史を、科学の歴史になぞらえて掴む」(2018年12月29日)
それを読んでくれた方が個人的にコメントをくれて、「振り返って考えると、20世紀の社会思想と科学の発展とがパラレルなのが、不思議というか当然というか…」という意味のことをおっしゃってました。
もちろん、ぼくも不思議だなーと思っていたのですが、その理由のヒントをくれそうな本がありました。→
山下正男『思想の中の数学的構造』(ちくま学芸文庫、電子版2017年)。
著者は、京都大学の人文科学研究所名誉教授で、論理と数理の比較思想史的研究が専門だそうです。
この本によれば、
思想史上の人物……タレスとデカルト……には共通点がある。それは一身にして哲学者と数学者を兼ねていたという点である。(同書あとがきより)
functioということばを関数という意味で使ったのはライプニッツが最初である…… ライプニッツは数学者でもあるとともに哲学者でもあった。そこで彼はそうした関数の考えとパラレルな形の形而上学を作り上げた。それが哲学史で有名なモナドロジー(単子論)である。(同書第III章第4節より)
だそうです。
このように、自らの専門分野で得た知見や洞察を、他のものごとにまで敷衍(ふえん=一般化)して考えることは、誰もがよくやること。それと同じことを、むかしの哲学者兼数学者(あるいは物理学者etc.)たちもやったのだなーと思えば、哲学の歴史が科学史とたいへん強くリンクすることは、まことに当然だとも言えるでしょう。
そこで今日はその仮説を検証すべく、思想・哲学に大きな影響があった人のうちで、数学者や科学者を兼ねていた人を探して、ピックアップしてみました。
その結果ですが、意外なほどの人数がいることがわかりました。哲学の歴史に現れる科学者・科学哲学者――あるいはその訓練を受けた人――で、有名どころだけでも、次のような人たちがいます: ピタゴラス、アリストテレス、ユークリッド、プトレマイオス、R. ベーコン、コペルニクス、F. ベーコン、デカルト、パスカル、ニュートン、ライプニッツ、ブール、マッハ、ポアンカレ、ヒルベルト、ラッセル、アインシュタイン、ゲーデル、チューリング、など。
以下は最後まで、これら19名の方々の仕事について解説をしていきます。いずれも、科学ですごくて哲学でも成果を挙げた方、あるいは、科学での発見が哲学のほうにまで大きな影響を及ぼした方ばかりです。さっそく見ていきましょう。
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★1. ピタゴラス(Pythagoras, BC569?-BC470? / BC570?-BC492)
哲学者、数学者、宗教家。音階と天文のなかに比例関係と調和を発見し、世界の原理も、数とそれの比例関係にもとづく音楽的な一大調和であると考えた。直角三角形に関するピタゴラスの定理など。
★2. アリストテレス(Aristoteles, BC384-BC322)
哲学者。プラトンの弟子。政治・文学・倫理学・論理学・博物学・物理学など、ほとんどあらゆる学問領域を対象に、体系的な分類と総括を行った。しかし、地上界は4基本原素(水、土、火、空気)で、天体は第5の原素エーテルからできているとして原子論に反対するなど、実験を伴わなかったがゆえの欠陥もあった。論理学においては三段論法を確立、その後のユークリッド幾何学の成立をうながした。
★3. ユークリッド(Eukleides / Euclid, BC300?)
数学者。プラトンのアカデメイアに学んだ(?)。『幾何学原本』で、それまでの数学(幾何学)を集大成し、こんにちユークリッド幾何学と呼ばれる体系を打ち立てた。そこで用いられた演繹的な論証体系は、2000年の長きにわたってヨーロッパにおいては合理的学問の典型だと考えられた。そのほか、天文学、光学、音楽についての著作もある。
★4. プトレマイオス(Ptolemaios Klaudios, 100?-170? / 85?-165?)
天文学者、数学者、地理学者。天動説にもとづき、彼以前の天文学の研究を集大成した『天文学大全(アルマゲスト)』は、コペルニクスによる地動説が現れるまで、中世の宇宙観への影響が絶大すぎるほどだった。
★5. R. ベーコン(Roger Bacon, 1220?-92?)
哲学者、自然科学者。数学と経験的・実験的な方法を重視し、哲学に経験的な方法を導入して、神学と区別することに成功した。光学に関する研究もあり。近代イギリス経験論と、近世自然科学の先駆者。
★6. コペルニクス(Nicolaus Copernicus, 1473-1543)
天文学者、聖職者。3つの大学に学び、当時のほとんどのすべての学問を修めたという。ギリシア、ローマの古典と肉眼による天体観測とに基づいて地動説を提唱、生涯をかけてその数学的精密化に努力していた。近世世界観の樹立に貢献、近代科学成立の契機となった。
★7. F. ベーコン(Francis Bacon, 1561-1626)
哲学者、政治家。経験的な方法を重視し、演繹法に対して帰納法を提唱。客観的観察と実験的方法によって自然を正しく認識する学問のありかたを主張。デカルトとならんで近代哲学の確立者、かつ近代イギリス経験論の創始者。科学的方法論の先駆者でもある。
★8. デカルト(René Descartes, 1596-1650)
哲学者、数学者。「我思う⇒我あり」という有名な命題に到達、これを第1公理として哲学体系を構築しようとした。そして、精神と物体とは独立の実体だとする「物心二元論」を展開。物体を分離したことによって、機械論的自然観の基礎を築いた。近代哲学の祖、解析幾何学の創始者。
★9. パスカル(Blaise Pascal, 1623-62)
哲学者、数学者、物理学者。数学的確実性を信じ、円錐曲線論、(圧力に関する)パスカルの原理などを発表。次第に信仰に重点を置き、理性に対して心情の重要性を説くに至った。主著『パンセ』におけることば=「人間は考える葦である」は有名。現代実存主義の先駆。
★10. ニュートン(Sir Isaac Newton, 1642-1727)
数学者、物理学者、天文学者。近代科学の建設者として、万有引力を発見し、古典力学(いわゆるニュートン力学)を構築。微積分学。『プリンキピア(自然哲学の数学的原理)』を著して、数学的自然科学の理論体系のお手本となった。[これが、のちのヒルベルトの幾何学基礎論とならび、数学・物理学・哲学の公理論的な定式化のモデルにもなったのは間違いない。]
★11. ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz, 1646-1716)
数学者、哲学者。微積分の形成者であり、ドイツ近代哲学の祖。現行の微分積分の記号は彼のものに由来するなど、数学・論理学の形式化に大きく貢献。この意味で、今日の記号論理学の萌芽だとも。(神学的な)目的論的世界観と、(科学的な)機械論的世界観との調停を企図。宇宙は、広がりのないモナド(単子)の無限の合成体である、と論じるなどした。
★12. ブール(George Boole, 1815-64)
数学者。ブール代数を考案し、記号論理学の開祖に。
★13. マッハ(Ernst Mach, 1838-1916)
物理学者、哲学者。ニュートン力学の絶対時空間を批判して、アインシュタインの相対性理論の登場へとつながる地ならしをした。超音速気流を研究しマッハ数を導入。近代実証主義哲学の代表者として、その思想は、ウィトゲンシュタイン(1889-1951)ら論理実証主義的科学哲学に引き継がれていった。
★14. ポアンカレ(Jules Henri Poincaré, 1854-1912)
数学者、物理学者、科学哲学者。専門である数学・応用数学分野での業績は枚挙にいとまがない。また、マッハの流れをくむ実証主義の立場から、科学論を展開した。
★15. ヒルベルト(David Hilbert, 1862-1943)
数学者。広く数学に画期的な業績を残したが、とくに幾何学基礎論では『幾何学の基礎』(1899)を著して、公理主義をとなえ、後世に大きな影響を与えている。
★16. ラッセル(3rd Earl Bertrand Russell, 1872-1970)
哲学者、数学者。『数学の諸原理』を著して、記号論理学・数学基礎論の発展に貢献、論理学に多大な影響を与えた。その成果を用いつつ、イギリス経験論に立った認識論を展開。現代分析哲学の祖と目される。
★17. アインシュタイン(Albert Einstein, 1879-1955)
物理学者。かの有名な特殊相対性理論と一般相対性理論の提唱者。業績は多岐にわたるが、とくにこれらの理論により、エーテルの存在が必要ではないこと、宇宙には特別な視座(≒唯一にして特権的な慣性系)が存在しないことを示した点は、思想界にも大きな影響を及ぼした思われる。
★18. ゲーデル(Kurt Gödel, 1906-78)
数学者、論理学者。物理学も学ぶ。1931年に、数学の形式体系に関する「不完全性定理」を証明し、思想・哲学界にまで影響を与えた。そのほか、選択公理と連続体仮説の無矛盾性を証明するなど、集合論をはじめとする数学基礎論に大きな貢献。
★19. チューリング(Alan Mathison Turing, 1912-54)
数学者。数理論理学の研究を皮切りに、デジタル計算機のモデルであるチューリング・マシンを考案し、「計算不能性」をめぐって数学基礎論に大きな影響を与えた。また、現代の計算機科学の理論的基礎も与えた。
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――いかがでしたか。上記を見ると、たとえ文系的な分野であっても、大きな仕事をするためには数学・物理学などの科学的素養がとても有用…というか、それらがペロッとわかるくらいの知性はぜひ必要ということが見えてくる気がします。現代の知識人も負けてはいられませんね。
一方で、科学的素養に長けた理系人たちも、自らの専門領域に閉じこもっているだけでなく、広く社会の問題意識に関心をもって、それらの解決策を考えていくことが望まれているかもしれません。もちろん現在の日本にもそういう方々はいらっしゃると思います。その際には、とくに課題解決にむけて生産的な議論を形成することがとても大事だと思います。
今日調べた結果でぼくは、
「文系脳の問題意識」と「理系脳の問題解決能力」とがうまく組み合わさったとき、非常に強力な結果が生み出される
という確信めいた仮説を持ちました ――ちょうど、文化人類学者クロード・レヴィ=ストロース氏と、数学者アンドレ・ヴェイユ氏との組み合わせがそうであったように…(過去記事)。
メッセージは、以上で伝わったと思います、自戒も込めて。サイエンス・エバンジェリスト、かのわさびでした。
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理数系の教養は国力の礎。サイエンスのへヴィな使い手の立場から、素敵な科学の「かほり」ただよう話題をお届けしたいと思っています。