特別稿:米国は今、どこに居て、どこに向かおうとしているのか?
トランプ政権はあまりに大胆すぎて、何をやらかすか?分からない。米国はこの数ヶ月で多くの信用を失った、という声が出ています。
一体、トランプ政権は何をしようとしているのでしょうか?実はその背景には、ミラン論文に描かれた極めて体系的な米国を中心とする世界全体の構造改革戦略があります。私がこの論文とAIとの議論を通じて理解したことを、以下に自分の言葉で書いてみたいと思います。
1。米国は第2次世界大戦以降、過去80年に渡り、自国の利益を超えて、世界のインフラを提供し、維持してきました。
米国は、長い間こんな役割を果たしてきました:
・ドルは米国通貨ではなく、世界の基軸通貨としての役割を提供、
・米国は自国防衛のためではなく、世界の軍隊・警察官の役目を果たし
・米国の消費者市場を他国に開くことで他国の経済発展を促し
・米国の債券や株式の市場も他国に開き、世界の金融市場の役目を果たしてきました。
つまり、アメリカは「世界の土台(インフラ)を支える係」だったのです。
世界全体ではなく米国のために閉じた運営であれば、もっと費用も掛からなかったはずですが、それを超えて世界のために色々やってきました。そして、それらのインフラを世界に格安で提供してきました。これは、米国経済が世界の約半分を占めていた時期であれば、負担可能でしたが、現状は他国が大きくなりすぎ、米国が1人でインフラを支え続けるには無理が出てきました。
2。結果として、現状の米国は「頑張りすぎて疲れており、現行の制度は制度疲労を起こしている」という状況です。
この“インフラ係”を何十年も続けた結果、米国は:
・対外国向けは貿易赤字が続き、対外国の債務残高は大きく膨らみ
・政府の税収と支出のバランスも取れず、財政赤字が続き債務残高が膨らみ
・自国ではほとんどモノが作れず(工場が海外に行ってしまった)
・それでも外国からは「ドルを出せ」「世界を守れ」「市場を開け」と言われる
という状態にあります。
対外国の債務残高が膨らみすぎ、国内の債務残高が膨らみすぎて、米ドル・米国債への信用が疑われています。米国の覇権は米ドルへの信頼を前提としているので、この信用が失われ、米ドルからの逃避が起これば、米国の覇権は終わってしまいます。
そして、自国の製造業が失われた結果、いざ戦争になった際に、半導体や鉄鋼などの供給を止められれば、もう戦争継続ができない=すなわち、簡単に負けてしまう状態になりました。米ドルへの信頼と、製造業の復権は、米国が今後も世界の覇権国の地位を維持するには、必要不可欠なのです。
3。では、①米ドルへの信頼と、②製造業の復権を、という課題をどのように解決すれば良いのでしょうか?
①:まず、米ドルへの信頼をどのように回復すれば良いか?
これを解決するには、俗に言う双子の赤字を解消する必要があります。
・A:貿易赤字をこれ以上継続できないため、これを黒字化したい
・B:財政赤字をこれ以上継続できないため、これを黒字化したい
貿易赤字を解決するための1つの理想的な方法は、貿易黒字となっている外国から、その黒字額の金額を丸々米国に対して、税金として収めてもらう方法です。このための手段の1つが関税になります。関税というと自分勝手だと思われますが、米国の場合は、本質的には、
・米国が世界に提供している基軸通貨というインフラサービス
・世界の警察として提供している安全保障というサービス
・米国の消費者市場と金融市場へのアクセスの権利
に対する対価を、各国にきちんと支払って欲しい、という極めて真っ当な理由によります。今までは、米国が1人で負担してきたけど、もう限界を迎えたので、これからはきちんと負担して欲しい=すなわち、米国に対してお金を払ってほしい、という話です。
そして、上記が実現できれば、貿易赤字が解消するだけでなく、税収として米国政府の収支も改善するので、財政赤字も解消することになります。もちろん、金額の規模は調整が必要ですが、理想としては、これで双子の赤字がなくなり、米ドルへの信任は維持されることができます。
「これは不当な要求ではありません。ドルは今や米国の通貨というより“世界通貨”です。その恩恵を受けている国々が、使用料を払うのは当然ではないか――というのが米国の論理です。」米国からの安全保障ももし必要ないなら米国の軍事費を減らすから、自分たちでそれぞれ軍隊を持ってくれ、という話です。
ミラン論文では、関税だけでなく、外国政府が米国債を購入する際に利用料を徴収する案や、米国債をゼロクーポンの永久債にする、などの方法も議論されていますが、本質的には上記の関税と同じことで、米国に対して、基軸通貨・安全保障・米国市場へのアクセスに対する対価を払ってくれ、ということです。それを見た目上は異なる何種類かの方法があると論じているだけです。
②製造業の復権を、どのように行うのか?
これは、まず、時間がかかります。工場・技術・働く人をそろえるには、10〜20年は必要です。ただし、これができれば、有事の際にも戦争継続能力を持てるし、かつ貿易赤字も自然に減るため、外国から関税などの形で税金をもらう金額を減らしても、持続可能な姿へとシフトできます。
ただし実現には、最低10年、多分20年くらいは時間がかかるので、それまでは外国から関税などの形でお金を徴収し、双子の赤字は解消して時間稼ぎをしつつ、より本質的な製造業の復権を果たそうという考えです。
繰り返しますが、自国に製造業を持たなければ、戦争に不可欠な半導体や鉄鋼の供給を止められて、戦争になれば必ず負けることになります。ですので、これは双子の赤字の解消とは全く別のもう1つの課題として、米国が解決必須のものとなります。
4。さて、この状況に対して、他の国はどう思っているのでしょうか?
日本やヨーロッパの国は、「確かにアメリカがいなきゃ困る…」と思っています。
米ドルが基軸通貨であり、安全保障にただ乗りしていた自覚もあり、米国の消費者市場や金融市場が壊れれば、日本・欧州ともに大恐慌に陥るので、ある意味一蓮托生なのは理解しています。それでも、お金を払うのは気が進まない。国民にうまく説明できないので、現行政府の政治生命を断たれる可能性も高まりますし。それでも、最後は米国に従わざるを得ないと思います。まだ米国には、それだけの力が残っているので。
一方、中国やロシアは、「米国の時代はもう終わりだ」「自分たちで別の仕組みを作ろう」と動き始めています。これが“新しい冷戦”とも言われる今の世界の流れです。もちろん米国を中心とした今の世界の仕組みが壊れていけば、10年〜20年単位で中国やロシアもマイナスの影響を受けるかもしれません。それでも、国家100年戦略を考えれば、次の覇権国を狙う100年ぶりのチャンスが訪れた、という状況なのです。
5。これから米国が目指す「理想の姿」はどういうものでしょうか?
理想はこうです:
・自分でもモノを作れる国になって(貿易で赤字にならないようにして)
・世界の安全や通貨の役割に必要なコストの一部を、他の国に負担してもらい
・無理なく、でも信頼される「新しいリーダー」の形に変わっていく
ただ、これは一歩間違えば、以下の状況に陥ります。
・米ドルや米国そのものへの信任が崩壊するが崩れてドルが信じられなる
・世界が分裂して大混乱になったりする
それでも米国には、座して死を待つ、という選択肢はありません。まだ世界への影響力が残されている今、最後のチャンスをかけて新しい体制を作ろうとしているのです。そのためにトランプ政権は、針の穴を縫うような戦略の実行を開始した、というのが現状のステータスになります。
6。まとめ
・米国は、基軸通貨や安全保障、米国消費者・金融市場へのアクセスを世界中に格安で提供し、もうこれ以上は、現行制度が持たない限界まで追い込まれてしまいました。
・かと言って、米国に取って代わって、世界インフラを提供できる国はまだありません。
・米国は、「あとは知らない」と言える立場ではないし、自ら言いたくもありません。
・そもそも、世界にインフラを提供してきたのだから、そろそろ費用を払ってくれ、そうすれば、今の基軸通貨+安全保障+米国市場というサービス提供を持続可能な形に変更できるのだから。
・そして、同時に、「自分でもモノを作れる体に戻そう」としています。これは有事の際に必要な物資の供給を断たれれば、敗北が必至だからです。
これが、今アメリカで起きていることの本質だと思います。
これを更に要約し、私の考えを少し追記した版も良ければご覧ください。また第二稿としてより具体的な政策と株式市場への影響を考察した記事も書きました。
