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BYDラッコはN-BOXを倒さない、だが日本を変える

BYDの軽EV「RACCO(ラッコ)」が発売された。
日本で最も売れているカテゴリーのひとつ、背の高いスライドドア付き軽自動車に、とうとうBYDがやってきた。

最初に断っておくと、私は軽自動車事情にはそれほど詳しくない。
過去に所有していた軽自動車といえば、1世代前のMTのジムニーくらいだ。便利なスライドドアもなければ、後席の使い勝手を気にして選んだ車でもない。むしろ趣味性の高い、普通の軽自動車選びからは少し外れた車だった。

だからラッコとN-BOX、スペーシア、タントあたりを並べて、
「後席が何センチ広い」「荷室が使いやすい」「子育てにはこちら」
という比較については、詳しい人の記事や動画を見た方がいいと思う。私もそういうものを見る側だ。
私がラッコで気になっているのは、もう少し先の話である。

たぶん、いきなり日本車を食い荒らしたりはしない

ラッコは、日本で非常に強いスライドドア付きの軽自動車という市場に真正面から入ってきた。
だから「N-BOXの脅威になるのか」みたいな話にもなる。
ただ、私は少なくとも最初から日本の軽自動車市場をひっくり返すほど売れるとは思っていない。
車はスペックと価格だけで買うものではない。
近所にずっと付き合っているディーラーがあったり、家族が代々同じメーカーだったりする。

そもそも、「中国メーカーの車はちょっと」
という人も、まだかなりいるだろう。
EVであること自体を不安に思う人もいる。

充電はどうするのか。
遠くへ行けるのか。
バッテリーは大丈夫なのか。

その全部を乗り越えて、わざわざ今まで買ったことのないメーカーの新車を選ぶ。ラッコが魅力的でも、そこにはそれなりの壁がある。

でも、その壁が急に低くなる瞬間がある。中古車になった時だ。

100万円くらいなら、一度EVに乗ってみようかな

今、新車でEVを買う人は、まだ多少なりとも「EVを買う」という意思を持っていると思う。

ところが数年後、中古車店の軽自動車コーナーにラッコが普通に並ぶようになったらどうだろう。

仮に、
N-BOX、120万円。
スペーシア、110万円。
その隣に、
ラッコ、89万円。

そんな状況になったとする。
もちろん89万円という数字は、私が勝手に想像した未来の中古価格である。だが、新車価格から4年分の年式落ちを考えれば、決して非現実的な数字ではない。むしろ、ブランド価値として未知数な部分がある今のBYDなら、もっと安くなっている可能性すらある。 でも、その値段なら、
「EVを買いたい」
ではなく、
「安い軽自動車を探していたらEVもあった」
という人が出てくる。
私は、この違いが結構大きい気がしている。

軽自動車の使われ方とEVは、そもそも相性がいい

戸建て住まいで、家の外壁に元々あった100Vコンセントのみで運用しているズボラな私でも、EVに実際に乗ってみると、近距離中心の使い方では思っていた以上に面倒が少ない。
駅まで送る。
スーパーへ行く。
ランチへ行く。
家族を迎えに行く。
近所を一日に何度か往復する。
こういう用途なら、何百キロもの航続距離が必要になる場面はそれほど多くない。

そして家で充電できる環境さえあれば、帰ってきたら充電するだけである。
ガソリンスタンドへ行く必要もない。
だから、
「EVだから買った人」ではなく、
「安かったから中古のラッコを買った人」
が実際に使ってみて、
「あれ、これで十分じゃない?」
となる可能性がある。
次に車を買う時、その人にとってEVはもう未知の乗り物ではない。
これは結構じわじわ効くと思う。

ラッコが怖いのは、N-BOXに勝たなくてもいいところ

だから私は、ラッコが年間何万台売れるかだけで、この車の成功を判断するのは少し早いと思っている。

新車で大ヒットしなくてもいい。
街を走る。
数年経つ。
中古車になる。
値段が下がる。
それを誰かが買う。
その人が初めてEVを日常の足として使う。
そうやってEVに乗ったことのある人が少しずつ増えていく。

派手に市場を破壊するというより、じわじわ効いてくる毒みたいなものだ。もちろんBYDにとっては毒ではなく、かなり良い薬だろうけれど。

そして私は、その次も少し気になっている

ラッコでもう一つ面白いのは、BYDが日本の軽自動車規格に合わせた車をわざわざ作ったことである。

海外で売っている小型EVを、そのまま日本へ持ってきたわけではない。
日本で売るための、日本独特の軽自動車を作ってきた。
そうなると考えてしまう。

次は何だろう。

日本には軽自動車の上にも、独特な巨大市場がある。
シエンタやフリード。
さらに上にはノア/ヴォクシー、セレナ、ステップワゴン。
5ナンバーサイズを中心とした、箱型でスライドドアのミニバンたちである。

大型の電動MPVなら、すでに中国メーカーは作っている。
でも日本で本当に台数が出るのは、もっと小さい。

狭い駐車場にも入り、スーパーにも行けて、子供を乗せて、たまに家族旅行にも行けるサイズだ。
BYDがラッコで「日本専用車を作る」という選択をした以上、いつかそこへ手を伸ばしてきても、私はそれほど驚かない。
もちろん、今のところこれは単なる私の予想である。

ラッコの販売台数より、その数年後を見てみたい

ラッコがN-BOXを倒すのか。
私は、そこにはそれほど興味がない。
多分、簡単には倒せない。

日本メーカーが何十年も積み上げてきた販売網や信用、軽自動車作りの経験はそんなに軽いものではないと思う。

ただ。

2026年に買われたラッコが、2029年、2030年あたりに中古車店へ並び始める。
その時に「別にEVが欲しいわけじゃないけど、これ安いね」と買う人がどれくらい現れるのか。
私はそっちの方が気になる。

もしかするとラッコは、EV好きが買う車というより、

EVなんて特に欲しくなかった人を、初めてEVに乗せる車になるのかもしれない。

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