ニンジン)カチカチ土の発芽には「特別室」を
畑にニンジンの種をまいてから20日目。
去年の暮れ(12/29)にまいた種が、ついに芽を出しました。

これまで9月、10月に種まきするもどちらも失敗。
「もうダメかな」とあきらめかけていました。
でも、真冬にビニールトンネルしてニンジンを育てたことはあり、同じ場所に種をまいてみたのです。すると、

6か所とも細い芽が出ています
(ハート型双葉の雑草も出てますが)
小さな芽がきれいに並んでいる。
早朝の、誰もいない畑で思わず、「よし!」と声が出ました。
植物の力を借りて「待つ」
去年の6月末から使い始めた、郊外にある貸し農園。ここはもともと田んぼだったそうです。
粘土質の土というのはやっかいな性質を持っています。水を含めば泥沼のようにベタつき、乾くと石のようにカチカチに固まる。
この土にいきなり野菜を植えるのは無理だと感じ、植物の力を借りることにしました。
選んだのは、ソルゴーというイネ科の植物です。
緑肥作物として知られ、根の力で硬い土を割る性質があります。


ソルゴーの強力な根っこを「緑のドリル」として使い、踏み固められた土を突き破ってもらう。
そして、育った草を刈り取って、そのまま土の上に敷き、時間をかけて腐らせていく。


「待つ」「時々刈る」という地味な作業でしたが、3か月後の9月、ようやくクワが入り、肥料を混ぜ、ブロッコリーとキャベツの苗を植えることができるまでになりました。


「土のフタ」をどう攻略するか
しかし、自然はそう簡単には微笑んでくれません。
土の深い部分は改善されたからか、ブロッコリーやキャベツはどんどん大きくなりましたが、

(上:キャベツ/下:ブロッコリー)

ニンジンは種をまいても全く芽を出さなかったのです。比較的強いダイコンでさえ、たった一本しか育ちませんでした。
原因は、土の表面にありました。
粘土質の土は、水やりをして乾燥すると、まるでコンクリートの「フタ」のように表面が固まってしまいます。
かよわいニンジンの芽にとって、このフタはあまりに分厚い壁となり、地上へ出ようとする力を封じ込めていたのです。
表面の硬さをどうしたらいいか……
「柔らかい特別室」に種を置く
図書館で「種まき」のことが書かれた本を探して、見つけました。「ふわふわ素材でサンドイッチにする」という作戦を。
バーミキュライトという、園芸用の軽くて保水性のある土を使います。
種をまく溝の底にこれを敷き、種を置き、上からもこのふわふわの土をかぶせる。
つまり、カチカチになりやすい粘土の中に、そこだけ柔らかい「特別室」を作ったのです。
バーミキュライトを使った方法は劇的でした。
種の下は柔らかく根が伸びやすい。
まわりの粘土に水分を奪われない。
そして何より、頭上の土が固まらない。
それで、芽はすっと上に伸びることができたのでしょう。
「剛」のダイコン「柔」のニンジン
無事に芽が出ましたが、本当の勝負はここからです。
多くの場合、ニンジンは「発芽すれば成功したようなもの」と言われます。
しかし、この畑ではそれで安心する気にはなれませんでした。なぜなら、これから根が進んでいく先には、かつて田んぼだった頃の記憶を残した、硬い粘土質の土が待っているからです。
ここからは、芽の「その後」を見守りながら、
土の中で何が起きているのかを考えていきます。
実は、ダイコンとニンジンは、土の中での振る舞いが大きく違います。
ダイコンは、いわば「剛」の野菜です。
私たちが食べている白い部分は、成長すると地面からせり上がってきます。
彼らには土をぐいぐいと押し広げて進む強い力が備わっており、多少土が硬くてもへっちゃらで育つ。
「ど根性大根」があるのもうなずけます。
一方、ニンジンはとても繊細な「柔」の野菜です。
私たちが食べるオレンジ色の部分は、地面の奥深くへ伸びる「本来の根っこ」そのもの。
ダイコンほど土を押しのける力は強くありません。
もし土がカチカチだと、根の一番先にある「成長点」が傷ついてしまいます。
ここは細胞が増えていくとてもデリケートな場所。ここが傷つくと、根は二股や三股に分かれ、きれいな形には育ちません。
地中の見えない時間を見守る
ブロッコリーやキャベツが順調に育ったのは、苗から植えたおかげで、ある程度の強さを持っていたからでしょう。
しかし、種から育つニンジンは違います。
「特別室」を一歩出れば、そこにはまだ、かつての田んぼの記憶を残した粘土質の土が広がっています。ぎゅうぎゅうに詰まった土の粒子たちが。
夏の間、ソルゴーに耕してもらった成果が、土の奥深くでどう出ているのか。
芽が出たことはひとつの通過点にすぎません。
この畑ではここから先、土と根の関係がためされます。地中の見えない時間を、焦らずに見守っていきます。

補足追記:「ペレット種子」のこと

ペレット種子とは、もともと小さな種のまわりを、土のような粉やのり状の材料で包み、丸く大きくしてまきやすくした種のことです。この外側の丸い部分は「コーティング」と呼ばれます。
ペレット種子が発芽するには、まずこのコーティングが水を吸ってやわらかくなり、崩れることが必要です。
外側が崩れてはじめて、中の種が水を吸い、芽を出す準備を始めます。
つまり、コーティングが十分にほぐれない限り、種は水を取り込むことができません。
ここで大切なのは、土が見た目に湿っているかどうかだけでは判断できない、という点です。
たとえばスポンジも、ぬれていても強くしぼれば水は中を動きにくくなります。
同じように、土の中でも水がどれだけ動きやすいか、種の中へ入りやすいかが重要です。
この「水の入りやすさ」を表す考え方が、水ポテンシャルです。
水ポテンシャルが十分に高い状態では、水は自然にコーティングや種の中へ移動します。
反対に、見た目が湿っていても水ポテンシャルが低いと、水は中へ入りにくくなります。その結果、コーティングは十分にふくらまず、崩れにくいまま残ってしまいます。
さらに問題になるのは、土が乾いたり湿ったりをくり返す環境です。
ペレットの外側は、水を吸ってふくらみ、乾いて縮むという変化をくり返すうちに、内部の材料の並び方が変わっていきます。
のり成分がもう一度固まり直したり、すき間がつぶれて小さくなったりして、粒どうしが強く結びつくようになります。
すると全体がより固くなり、水を通しにくい状態になります。これを緻密化、つまり硬く締まってしまう現象といいます。
こうなると、あとから水を与えても内部の種へ届きにくくなります。
種そのものにも影響が及びます。
種は水を吸うことで活動を始めますが、少しだけ吸ったあとに再び乾くと、細胞の膜が傷ついたり、体に負担となる物質が増えたりします。
そのため芽が出るのが遅れたり、芽を出す力が弱くなったりします。これが発芽のばらつきの原因になります。
したがって、種まき後の水やりは、少量を何度も与えるよりも、最初に十分な量をしっかり与えてコーティングを確実に崩すことが重要です。
その後も芽がそろうまで水分を切らさないよう保ちます。とくに土の表面が乾きやすい場合は、不織布などで覆って乾燥の変化をやわらげると効果的です。
反対に、少量の散水をくり返す方法は、表面だけをぬらしてすぐ乾かしてしまい、かえってコーティングの硬化や発芽の不ぞろいを招きやすくなります。
ペレット種子の発芽を安定させるうえで本当に重要なのは、「見た目に湿っているかどうか」ではありません。
水が種へ十分に届く状態を確保し、それを保ち続けることです。乾いたり湿ったりをくり返させず、最初の吸水を確実に完了させることこそが、発芽をそろえる決め手になります。
ニンジン栽培では、「芽をきちんと出させることがいちばん大事」とよく言われます。発芽がそろわないと、その後の生育にもばらつきが出てしまうからです。
そのため、「芽が出るまでは乾かさないように」といった注意書きを目にすることも少なくありません。
ニンジンの種はとても小さいので、まきやすいようにペレット種子が使われます。でも水やりのしかたには気をつける必要があるのです。
このことはタネが入った袋には書かれていないことが多いです。
