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貸し農園を渡り歩いて11年――遠さの先にあった解放感

近い畑を求め続けたはずなのに
最後にたどり着いたのは
「遠くても通いたい場所」でした。

貸し農園を使い始めて
今年で11年目になります。

それ以前は
プランターでの栽培も含めて
家庭菜園の経験は
まったくありませんでした。

自分が植物を育てるなんて
想像すらしていませんでした。

始めたきっかけは二つあります。

一つは
家族の毎日の食事担当で
スーパーで食材を選んでいるうちに
自分でも野菜を育ててみたいと
思うようになったこと。

もう一つは
人と関わることが多い仕事で
すっかり疲弊していた私に
心療内科の先生が
「心が安定するから」と勧めてくれたこと。

こちらの理由の方が
より大きかったと思います。

初農園

人間関係を作るのが
得意ではない私にとって

畑は一人で静かに
土と向き合える場所だ――
そう考えて
貸し農園の世界に飛び込みました。



しかし
現実はそう簡単ではありませんでした。

最初に借りた農園は
利用者どうしのつながりや
コミュニケーションが
とても濃い場所だったのです。

幸い
何十歳も年下の私を
温かく迎えてくれる人たちばかりで
人生の先輩方に囲まれた環境は
新しい学びや温かい交流を
もたらしてくれました。

でも同時に
ちょうどいい距離感を
保つことの難しさに
悩むこともよくありました。

それでも
試行錯誤しながら
年数を重ねるうちに
人との心地よい距離の取り方を
少しずつ学んでいったように思います。

この11年間で
私は5つの農園を使ってきました。

最初に使った
市内の貸し農園(A〜D農園)は
すべて同じ団体が運営していました。

20平方メートルほどの区画を
1年単位で契約する仕組みで

道具の貸し出しや
苗・肥料の提供は一切なく
「場所だけを貸す」スタイルでした。


1年目(2016年)

貸し農園を探したとき
自宅から一番近かった
A農園からスタートしました。

近いとはいっても
自転車で25分ほどかかる場所でした。


2・3年目(2017〜2018年)

自宅とA農園のちょうど中間にある
B農園の募集があり見事に当選。
2か所を掛け持ちすることにしました。

それぞれの農園のコミュニティの違いは
大きな学びになりました。


4年目(2019年)

B農園は2月の契約終了まで続けましたが
A農園は契約の途中、11月で解約しました。
やはり行き来に時間がかかる「遠さ」が
ネックになってしまいました。


5年目(2020年)

コロナの影響もあり
この年は自宅のプランター栽培だけに
切り替えました。

世の中でも家庭菜園がとても流行り
市内の貸し農園は
夏ごろにはどこも空きゼロという状態でした。


6〜8年目(2021〜2023年)

それでも広い土への恋しさが
「遠さ」への不安を上回り
今度は自転車で30分かかる
C農園を契約することにしました。

ここはなぜか「かこい」も自分で用意


9年目(2024年)

ずっと抽選で外れ続けていた
自転車で8分という近場のD農園に
やっと移ることができました。
ここで改めて「近さ」のありがたさを
強く感じました。


10年目(2025年)

D農園での2年目。
ところが
物理的に通いやすいことが
必ずしも心地よさにはつながらないと
だんだん感じるようになっていきました。

便利さよりも
心が落ち着ける場所を
求めていたのかもしれません。

そんなとき たまたま6月に
郊外にあるE農園の存在を知り
見学に行ってみたら
すっかり心を奪われてしまいました。

電車と徒歩で50分
車でも30分ほどかかる距離で
最初は車で通っていました。

それでも
区画と区画の間がすべて「通路」として
独立しているつくりが
利用を決める決め手になりました。

最初の目的だった「心の安定」に
一番寄り添ってくれる場所に
やっと出会えた気がしました。

E農園は民間の会社が運営していて
1区画4坪(約13.2平方メートル)で月3,000円。
苗や肥料は自分で用意しますが
農具は一通りそろっているので
道具を持っていかなくても通える場所です。

ただ
初めて自分の区画に足を踏み入れたとき
これまでの市内の農園とは
土の質がまったく違うことに驚きました。
これまでの経験が
リセットされたような感覚でした。

でもそれすら新鮮に感じられて
ゼロから土づくりに取り組むうちに
土を育てることの大切さと楽しさを
体で感じることができました。

そして――


11年目(2026年)

現在
市内のD農園は3年目を迎えています。
来年は再募集の年。
当選するかは分かりません。

なのでこれからは
E農園をメインにして
粘土質の土と格闘しながら
野菜が育ちやすい環境を
じっくり作っていこうと
今は考えています。

E農園は契約を解除しない限り
何年でも同じ場所を続けることができます。

数年はかかると言われる
土づくりの成果を
自分の手で実感していけることに
大きなやりがいを感じています。

最近の思わぬ世界情勢の変化により
車での移動を控えるようにして
今は自転車で1時間かけて
週末に1回(たまに平日にもう1回)
通っています。

これからの厳しい暑さを考えると
いつまでこのペースを続けられるか
分かりません。

それでも ペダルをこぎ終えて
農園にたどり着いた瞬間の解放感は
市内の貸し農園では決して味わえなかった
かけがえのないものです。​​​​​​​​​​​​​​​​


「家庭菜園は野菜の収穫が一番」
そう考えない人間が ここにいます。


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