キャベツ)「お彼岸あたりが、ちょうどいい」――小さな種苗店での会話から【家庭菜園】
都心のビルの屋上に移った小さな種苗店。
苗を眺めながら店主と交わした会話は
数字や理屈では測れない
季節のリズムを教えてくれた。
都心の真ん中にある小さな種苗店を
ひさしぶりに訪ねた。
かつては古びた木造の一階にあったその店は
新しいビルの屋上へと居場所を移している。
車の音や人の声を背に
その小さな空間だけが
ひそやかに土の匂いを漂わせていた。
棚はがらんとしていて
並んでいるのはキャベツやブロッコリー
芽キャベツの苗がほんの少しだけ。
眺めていると
日に焼けた店長さんが笑みを浮かべて
声をかけてきた。
来週くらいにもう少し入ってくるよ。
でもね、今植えるにはまだ暑いんだ。
10月はどうですか?
そのころだと春どりの苗になるよ。
年内に収穫したいなら9月に植えないと。
でも最近は残暑がきついからねえ。
植えつけのタイミングが
ピンポイントになってきてる。
難しいなって思うよ。
なるほど
去年キャベツが高くなったのも
こういう事情があったのかもしれない。
秋の気温は気まぐれで
暑さが長引いたかと思えば急に冷え込む。
その揺れに翻弄されれば
苗は根を張れず
葉も巻かない。
ありがとうございました。また来ます。
帰ろうとしたら
店長さんがぽつりとつぶやいた。
今年はお彼岸あたりがちょうどいいかもね。
土に触れ続けてきた人の
感覚のような言葉。
数字や理屈では測れない
暮らしに根ざした知恵だった。
帰り道
ビルの谷間を抜ける風が
少しだけ涼しく感じられた。
あの言葉、信じてみようかな……。
