【創作小説】催花雨
あらすじ
とある街の人通りの少ない路地にある1軒の不思議な花屋のお話。
本編
『催花雨 -saikau-』
3月下旬から4月上旬に降る雨の事で、春の花が開くのを促すように雨が降ることから名付けられた

1️⃣
冬が終わりを迎えようとしている。来週には春休みが控えているのに今週はずっと雨天続き。
気温も高低差が激しく何を着れば良いのか毎朝悩ましい。鬱々とした天気を見てると気分まで曇り懸かってしまう。
教室では先日の事件の話題で大盛り上がりだ。
この街には“悪人から盗品を盗み元の持ち主に返却する”偽悪怪盗が大暴れしている。芸術家の多いこの街では詐欺紛いのやり取りが昔から多く、怪盗も私が生まれる遥か昔から存在しているらしい。おそらく代替わりはしているのだろうが、はっきりと顔を見た事のある者が誰も居ないので確認が出来ないのだ。その怪盗がいつも身につけているブローチを落とし、警察がそれを回収したらしい。クラスメイト達はみなテンション高く盛り上がっているが、対して私のテンションは全く上がらなかった。今の空の色は私の心を映しているようだ。
こういう天候の時、決まって私は花が見たくてしょうがなくなるのだ。
帰りのHRが終わり、荷物を持って外に出た。土砂降りではないが傘が必要な雨量だ。学生鞄から折り畳み傘を取り出し拡げると、パッと人工的な花が咲いた。いつもの帰り道は車も人も多いが生花が無い、花屋も無い。通り沿いの店舗に装飾として造花が使われているが、今見たいのは生花の方だ。そういえば以前、裏通りに花屋があるらしいと兄が話していた気がする。少し遠回りにはなるが行ってみるのも悪くない。私は普段直進する交差点を左に曲がった。
車も人も少ない”裏通り“は天候の良し悪しに関係なく暗い。そして治安も悪い。だが白っぽい煉瓦の歩道は綺麗に整備されており、壁面への落書きやスプレーアートは一切なく荒れた様子はない。水溜りを通過する車から跳ねた雨水で足元が泥だらけになる心配もここでは少なそうだ。次の雨の日からはこちらの道を通ろうと決めた。初めて歩く通りを堪能していると、数メートル先に天から光が差して明るい場所があった。近づくにつれそこが交差点の角にある小さな花屋だと分かった。兄が話していたのはこの店の事だろうか。通りに合ったシックな装いだが、これまで見た店と雰囲気が違いすぎて逆に目立っている。外から店内を覗くと、3人居るのが見えた。皆”お一人様“らしく各々物色している。
緊張しつつ花屋の敷地内に足を踏み入れると天から鈴の音が2回聞こえ、レジの近くで花を見ていた白髪の人物がこちらを見て「いらっしゃいませ」と挨拶した。反射で「こんにちは」と返した。白髪の中にまだらに茶髪が混じっているが顔は20代くらいに見える。白いワイシャツとベージュのチノパンに赤いギンガムチェックの家庭用エプロンを着けて細身のサンダルを履いている。
「ごゆっくりどうぞ。用があれば呼んでくださいね」
店員さんは作業に戻った。店内を見回しただけでも豊富な種類と色の植物がある。これだけあると密集しすぎて暑苦しそうなイメージを持ちそうだが、それが一切なかった。植物たちはそれぞれ自分のテリトリー内でのびのびとしているようだった。そして外から見るよりも中はずっと広く感じた。光と空間の使い方による目の錯覚だろうか。私が1番驚いたのは、どの花もあまり見覚えのない形や目をしていることだった。そんなに詳しい方ではないが、それでも目にする機会は少なくない。なのに知っている花が数える程度しか無かった。それと値段が一切書かれていない。時価ということなのだろうか。店内を見て回りようやく一周したところで「お決まりですか?」と耳元で囁かれ、「ぎゃっ」と叫びながら振り返ると店員さんが真後ろに立っていた。私の反応にうふふふと笑っている。
「ごめんなさい。驚かせちゃった」
今の叫び声が他のお客さんの迷惑になっていないかと辺りを見渡したが、既に店内は私と店員さんの2人だけになっていた。体感だと5分くらいしか経過してないと思っていたのだが、腕時計を見ると入店前より短針が約30°動いていた。
「閉店までまだ時間はあるので気にしなくて良いですよ」
そろそろ御暇しても良いが、まだ雨は降り続いている。とても帰る気にはなれなかった。
「もうちょっと居ても良いですか?」
私がおそるおそる確認すると、「じゃあ私とお話でもしましょうか」と言ってくれた。店員さんは作業しながら「もしかして、雨が降ったから花を見に来たんですか?」と話しかけてくれた。
「はい。変ですよね」
「今日来店されたお客様のほとんどがそういった方でしたから変じゃないですよ。それに初めてですよね?誰かに紹介されました?」
「以前、兄が裏通りに花屋さんがあると話していたので気になって探しに来たんです」
「なるほどお兄さんが。普段この通りを歩いてるんですか?」
「いえ、今日が初めてです」
「うわぁ!じゃあ今日は初めて尽くしの日ですね。でも一人で通るのはおすすめしないので、次回からはお友達と一緒の方が良いと思いますよ」
「やっぱり治安が?」
「そうですね。住むのはおすすめしません。あと夜中と台風の日は時々銃声が聞こえるので絶対に通らないで下さい。住民である私が証言します」
「本当に物騒だ!!大丈夫ですかここ!?」
「ここは日暮れと共に店を閉めますし、台風の日は休みますから大丈夫ですよ。それに当店にとっては彼等も大事なお客様の一人ですから。まぁお店に危害を加えた場合はそれ相応の責任を取っていただくよう契約してますから問題ありませんよ」
本当に大丈夫なんだろうかと心配になったが、この通りに店を構えるくらいだ。この店員さんにも裏の顔があるのかもしれない。あまり深く突っ込まないことにした。
「明るい時だったら1人でもいいですか?」
「おすすめはしません」
笑顔でハッキリと言われたがダメとは言ってくれなかった。
「もう一つ、今日のお客様には共通点があったのですが何か分かりますか?」
共通点?私が見たのは2人の女性で、片方はスーツ姿、もう一人は私服だった。
「うーん何でしょう。“全員女性”だった…?」
「確かに女性の方が多かったですが男性もいらっしゃいましたので違いますね」
「花を買わずに帰っていった?」
言った後で失礼な内容だったと気付き、店員さんの気分を害したのではないかと表情を盗み見たが特に変化は無かった。
「有難いことに売上はありましたね」
他に適当なワードを言ってみたがどれもハズレだった。痺れを切らし答えを強請った。
「そろそろ教えて下さいよ」
「失礼しました。出てくる内容が想像の斜め上だったので楽しくなっちゃって」
ふふふと笑いながら作業していた手を止め、私の方に真面目な表情で向き合った。
「答えは“みんな何か深刻な悩みを抱えている”でした」
「なるほど」
答えを聞くと納得してしまった。思いつきそうな内容なのに出てこなかったのが少し悔しい。
「どうですか?お客様は。ご自身も思い当たる節はありますか?」
すぐに返事ができなじゃった。まだ思春期真っ只中の中学生だ。悩み事は尽きず増える一方だ。
「悩み…。あるにはあるんですが、他人に言えない悩みってどうやって相談したらいいと思いますか?」
店員さんは真剣な表情で聞いてくれている。そんなつもりではなかったのだが。この際なので一番重荷になっている事をぶつけてみた。
「そうですね。“他人には言えない悩み”は誰にでも1つや2つはあると思っているのですが、自分の力で解決出来ないけどどうにかしたいなら第三者に相談した方が早いとは思います」
「おぉ…なんか直球ですね」
「オブラートに包んだ方が良かったですか?」
「いや、ストレートな方が好きです。でも意外だなと思って」
優しそうな容姿からは想定できない返しだったので驚いたが、その物言いに好感度が上がった。
「ヒトは見た目で判断してはいけませんよ?キレイな花には棘があるようにヒトも見た目通りではないですから」
その言葉にドキッとしてしまった。顔に出てないだろうか。もしや気付いてる?それとも偶然?やはりこの店員さんは普通じゃなさそうだ。
「気をつけます」
「あっ、雨止んでますよ」
会話に夢中になっていて気づかなかった。
「そろそろ帰ります。あっ、何も買ってなくてごめんなさい」
「お構いなく。本当に必要になった時に買っていただいた方が私もこの子達もうれしいです」
そう言って近くの花を慈しむようにそっと撫でた。
「ありがとうございます。また来ます」
「はい!またのご来店お待ちしております」
店の外に出ると、雨上がりの蒸れた土の匂いが肺に入ってきた。数時間ぶりのはずだが、久しぶりに外の空気を吸ったような気分だ。店員さんは私の姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。
2️⃣
それから数日間は毎日のように悪天候が続き、連日裏通りを歩いたが花屋は開いていなかった。兄に聞いてみたが、不定期営業らしく行ってみないと開店しているか分からないらしい。その後も1週間通ったが閉まったままだった。ようやく晴れたが用事で早く帰宅しなければならなかったので裏通りに行くことが無くなってしまった。
あの日の出来事を忘れかけた頃、久々に雨が降った。今日は用事も無い。だが開いているのだろうか?あの日ほど花が見たいという衝動は無いがあの店には行きたい。今日はいつもより授業もHRも長く感じた。
ようやく全てが終わり、私は急いで帰り支度をし校舎を出た。歩きながら折り畳み傘を開こうとしているので、シャワーのような粒が肌に当たった。今は小雨だがこれから激しくなりそうだ。早足で交差点を左に曲がり裏通りへ入る。相変わらず何故か暗い。だがあの場所だけはいつも明るく見えた。そこだけ別世界のように。
花屋のカーテンが閉まっていなかった。しかし入り口の扉は閉じている。祈りながら扉を押すと動いてくれた。今日は開いている。が、中は無人のようだった。雨音が強くなったので入って扉を閉めた。
「いらっしゃいませ。あら、お久しぶりですね!」
店の角の壁から顔だけ出した店員さんが見える。覚えていてくれたらしい。
「お久しぶりです。何度通っても開いてなくて。今日は開いてますか?」
「そろそろ閉めようかと思っていたのですが、雨宿りは大歓迎ですよ。少々お待ち下さい」
と言って顔を引っ込めた。店員さんが出てきた場所を確認すると階段があり、雨音に混じって上から物音がしている。再び降りてきた店員さんはタオルを渡してきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
受け取ったタオルで肩や素足を拭いている間に店員さんは再び上の階に行って戻ってきた。
「熱いので気をつけて下さいね」
と言ってマグカップに入った飲み物をカウンターの上に置いた。あまり嗅いだことのない香りがする。ハーブティーの類だろうか?
「ありがとうございます」
一口含むと不思議と心が落ち着いた。頻繁に飲みたいとは思えないが、気分を変えたい時に飲みたいと思った。
「お口に合いましたか?」
「はい。初めて飲みました」
店員さんは店のカーテンを閉めていた。
「店、閉めるんですか?」
「いいえ」
入り口の鍵を閉める音がする。
「お客様がお望みかなと思いまして。話しやすい空間を用意してみました」
全てお見通しらしい。
「二階か小部屋でも良いんですけど、この部屋の方が雰囲気あるかなと思いまして」
そう言われて外の灯りを遮断した店内を見回すと、高い天井に可愛い花の形をしたランプシェードが1つだけあり、壁にある蔦状の模様が淡く光っている。おそらく蓄光だろう。光源はそれだけなのだが不思議と明るく見えた。
「プラネタリウムみたいです」
「そうでしょう?先代の店主から引き継いだ店ですが、私もこの光景が大好きです」
「…ん?店長なんですか?」
「あれ、言いませんでしたっけ?この店は私一人で切り盛りしてます」
聞いたっけ?と記憶を呼び起こしたが全く覚えがない。
「初耳です」
「それは失礼しました」
暗がりの向こうでにこりと笑う店長さんの顔が見える。木のスツールを渡され、カウンターを挟んで向かい合って座った。荷物を足元に置き、ハーブティーを一口飲む。
「聞いてくれますか?」
「もちろん。最初からそのつもりですよ」
どこから話そうか。考えをまとめながら口を開いた。
「先日、大事な物を失くしてしまいました。でも後日、それを拾った人がいると分かったのですが、その人は私の事を嫌っている人でした。私が言っても返してくれません。友人を頼るのも迷惑かけるし違うと思うんです」
「ほう」
「…どうしたら取り返せるのでしょう?」
無駄な情報など省いて簡潔に凝縮してみたのだが、正確に伝わっただろうか?やはりディテールまで伝えた方が良かっただろうか?
「その大事な落とし物は、友人にも共有できるような物なんですね?」
「一部のかなり親しい友人にだけです」
「ふむ。クラスメイトにその件が知られるのはダメですか?」
「二度と学校には行けなくなります。下手したら退学かも」
「ほーう?それは良くないですね。拾った人を再度説得するのは難しそうですか?」
「説得できないと思います。これまでの私のしてきた事を彼は良く思ってないので」
「お客様が拾った方に悪事を働いてたんですか?」
「いえ、何て言ったらいいかな…。“別の人の願いは叶うんですけど、その行為が気に食わないから嫌っている”って感じなんですが…伝わってますか?」
「すごく遠回しな表現だと思いますけど私には伝わってますよ。というか、答え合わせをしているというか、点と点が繋がりました。とりあえず事件の内容は把握しましたが、解決法がねぇ…」
「やはり諦めた方が良いんですかね?」
「いや私は諦めてほしくないんです!だからこそすぐには思いつかないんですけど。うーん」
店長さんは眉間に皺を寄せて顎に手を添えて唸っている。
「やっぱこれしかないよなー」
「何か思いついたんですか?」
「えぇ。これが一番安全で確実な方法かと」
「どんな方法ですか?」
「お客様の意見を尊重したかったのですが、今回は御友人達に協力を仰いで下さい」
「…えっ」
「今回の件、あなた一人でやるのはリスクが多すぎます。時間をかけて準備して機を待って実行するいつものやり方が最も確実で安全だと…思いました」
「でも私はみんなに迷惑かけたくないんです!」
「そう思ってるのはあなただけじゃないんです。御友人達もみなさんそう思いながら毎回頑張ってると思いますよ?」
「……」
「じゃあ、私にしたように“取り返す方法を相談”してみたらどうですか?一緒に考えるんです」
「一緒に…」
「そう」
「うーん。それなら…」
そういえば今回の件について友人達に一度も相談してなかったと気付いた。相談したら巻き込むかもしれないと思って最初からしなかったのだ。
「悩みを共有できる人が居るのは幸せな事なんですよ。お客様は幸運に恵まれています」
「まぁ、友人達と出会えた事は幸運だなって思ってます。…相談しようかな」
「それが良いと思います」
にこりと満足気に笑いながら店長さんは起立し、店の玄関のカーテンを勢いよく開けた。西陽が店内を照らした。太陽光を雨粒が反射してキラキラと輝いている。
「まぶしっ」
「晴れましたねー!さっきまでの大雨が嘘みたい」
「そうですね」
私は残りのハーブティーを飲み干し、椅子から降りて荷物を持った。
「それじゃあ帰ります。色々ありがとうございました」
「御来店ありがとうございました。また来て下さいね」
と言った後に近づいてきて耳元で「取り返せたら、次は花を買って帰って下さいね」と囁かれた。
夜、私は友人達に連絡を取り同じ相談をしてみた。みな同じ反応だった。
「えっ、みんなもどうしようか考えてたの?」
「うん」
「私も」
「はぁ。みんな考えてる事は一緒だったってわけか」
「えっ?えっ?」
「それなら話が早いわ。いつも通りやりましょ!」
「それな⭐︎」
「賛成!!」
「やる事は変わんねぇもんな」
「いや、でも、あれは私が落としたんだから私が悪くて、みんなに迷惑かけらんないよ」
「はぁ?迷惑?」
「そんな事思った事1ミリもないけど?」
「迷惑かけられるより、あんたが捕まる方がイヤなんだからね」
「ゔっ」
「分かった?」
「分かった。じゃあ、みんなお願い!」
「そうよね?」
「そうこなくっちゃ!」
「じゃあ、いつも通り侵入経路等の情報収集頼んだわよ」
「はーい了解⭐︎」
「続きは後日ね。それでさー、今日うちのクラスで英語の小テストがあってさ」
「へー。どうだったの?」
「ギリギリだったわ」
「おー」
「この問題分かるー?」
「ガメキョして?」
「明日帰りに 」
「 」
「 」
ある日、警察署宛に一通の手紙が届いた。
『近日中に私の落とし物を返してもらう
怪盗 Crystal』
その日のニュースは一日中この話題一色に染まった。
3️⃣
決行の日はあっという間に来てしまった。朝からずっとそわそわしていた。普段仕事の時はこんな気持ちにならないのに。初仕事の時みたいで懐かしい。
具体的な日程の記載は無かったが、予告状が届いてから警察署周辺の警備はより強固になった。ネズミ一匹通さない程隙が無さそうに見える。だがこちらも長年信頼している仲間が集めた情報がある。彼女曰く、今日のある時間から10分間だけ警備が手薄になるとのことだ。毎回そんな情報を何処から仕入れているのか謎だが、彼女のおかげで仕事の成功率は跳ね上がっている。
イヤモニから現在時刻を告げる声が聞こえた。少しして警備を監視する仲間からの報告が入った。情報は確かだったようだ。それを合図に各自の状況報告が入った。全員準備が整ったようだ。最後に司令塔からゴーサインが入った。私は大きく深呼吸をした。
「それじゃあみんな、行ってきます!」
私は指定された通路を足音を立てずに駆け抜けた。
4️⃣
晴れの日でも裏通りは暗い、と今日初めて知った。この通りが暗く見えるのは天候のせいでも当人の気分のせいでもないのだ。やはり治安か?などと科学的根拠で説明できないような事を考えながら歩いてると明るい場所が視界に入った。いつもそこだけ光が差している。
玄関の扉が開いている。今日は開店していた。中に入るとカウンターの向こうで店長さんが笑っていた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたよ」
「こんにちは。先日は大変お世話になりました。おかげさまで無事返してもらいました」
「おめでとうございます」
「約束通り今日は花を買いに来ました」
「あら律儀ですね!こうして顔が見れただけで私は十分なんですけどね」
「そうですか?」
「えぇ。やっと明るくなりましたね」
明るくなった?私が?そんなに変わっただろうかと顔をペタペタ触ってみた。自分では分からない。
「そう…かも?」
笑い声がハモった。
何の花を買おうか吟味し、数本選んだものを花束にしてもらった。提示された金額を支払い花束を受け取った。
「そうだ。一つだけ言っておこうかな」
「はい?何でしょう」
「後藤咲実という子をご存知ですか?」
肩に力が入った。
「友人です。どうかしました?」
「そんなに怖い顔しないで下さい。彼女も私の良きお客様なんです」
「はぁ」
「彼女に内部の見取図と侵入経路を教えたのは私です」
「は!?」
「私の友人に警察の内部情報に詳しい方がいまして、その方からいただいた情報を彼女に渡しました」
「その知人の方は大丈夫なんですか?機密情報の漏洩ですよね?」
「大丈夫です。あれを罰せる人間はこの世界には居ませんから」
何がどう大丈夫なのかは全く理解できないが、店長さんがそう言うなら大丈夫なのだろう。
「その方にもお世話になりましたとお伝え下さい」
「かしこまりかした」
用も済んだので礼をして外へ出た。抱えた花束が陽光を浴びて一層輝いて見えた。気持ち良さそうだ。
「ありがとうございました。また来ます」
「こちらこそ御来店ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
店長さんが店の入口まで出てきて手を振ってくれた。
この人はやはり只者ではないと確信した。しかも咲実経由で仕事にも関係あったとは。きっと今後もお世話になるだろう。
次行く時は相談じゃなく、ただの世間話をしに行こう。あの不思議な店主と気兼ねなく話せる関係になれるといいな。
〜fin〜

御拝読いただきありがとうございました。
※サムネと挿絵は自作です。転載は禁止です。
↓裏話はメン限にて。
