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『骨太ショック』長期金利はどこへ行くのか

骨太の方針(原案)

2026年7月8日、長期金利が上昇している。先週の日本経済新聞の報道によれば、「『経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)』の原案(以下「骨太」)をきっかけに、積極財政に傾く高市早苗政権へ市場が警鐘を鳴らしている」とのことであり、記事中では「骨太ショック」とも呼ばれている。

「骨太」には威勢の良い言葉が並んでいる。一部、引用する。

  • 低迷する潜在成長率を引き上げていくためには、長年続いてきた過度な緊縮志向、未来への投資不足の流れを断ち切る必要がある。民間投資の拡大による供給力の強化を、経済規模の拡大、税収基盤の強化につなげ、「強い経済」と「財政の持続可能性」を一体的に実現する。

  • 本計画における財政運営の目標については、「責任ある積極財政」の考え方に立脚したものとし、「強い経済」の実現と「財政の持続可能性」を両立する観点から、国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下を中核に位置付ける

  • PBについては、債務残高対GDP比の低下に向けて確認する指標とし、その安定的低下と整合するよう複数年で管理する。単年度の黒字化時期を機械的に追うのではなく、経済・金利環境、歳入歳出の動向を踏まえ、景気変動や危機管理投資・成長投資の必要性に応じて一時的な悪化も許容し得るものとしつつ、債務残高対GDP比の安定的な低下に向けて、改善・管理していく。

  • 「責任ある積極財政」の下、デフレ・低成長時代の一律抑制型の予算編成から、物価・賃金上昇を的確に反映し、経済の成長力強化と名目の経済規模の拡大にふさわしい予算編成へ転換する。

  • 予見可能性を高め、継続的な取組を後押しするため、複数年度の計画に基づくものを基本とする。前年度の予算措置額に関わらず真に効果的な投資支援策を取り込めるよう、要求上限(いわゆるシーリング)を設けず、事項要求も含めて必要な額を適切に要求できるようにし、 予算編成過程で実効的な予算措置につなげる仕組みを整備する。

  • 当面の経済財政運営は「強い経済」の実現を目指しており、そのためにも「安定的な物価上昇」の実現に資する適切な金融政策運営を伴うことが非常に重要である。日本銀行には、日本銀行法第4条及び政府・日本銀行の共同声明の趣旨に沿って政府と緊密に連携し、賃金と物価の好循環を確認しつつ、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて適切な金融政策運営を行うことを期待する

プライマリーバランスには拘らず債務残高対GDP比率を重視すること、日銀に政府との緊密な連携を期待することなど、これまでの同会議の議論を十分に踏まえたものだ。とはいえ「長年続いてきた過度な緊縮志向、未来への投資不足の流れを断ち切る」などと書かれれば筆者は苦笑せざるを得ない。

金利上昇

「骨太」に対して債券市場は比較的大きく反応し、10年債利回りは6月末の2.6%前後から1週間で2.8%台前半まで上昇した。ショックと呼ぶほどのものかは現時点では何とも言えないが、これをきっかけに長期金利の上昇が更に加速していくなら、後年「骨太ショック」が語り継がれることになるのかもしれない。

ただし、金利上昇のそもそもの原因が「骨太」ではない点には注意が必要だ。きっかけではあるがきっかけでしかない。長期金利の上昇トレンドは異次元緩和の末期からずっと続いており、最大の要因は物価上昇である。

出所:財務省国債金利情報(%)

コロナ禍後に日本のインフレ率(CPI総合)が2%を超えたのは2022年4月であり、この時点で10年債利回りは0.25%程度だった。当時、日本銀行は異次元の金融緩和を継続しており、市場の金利上昇圧力を抑えつけていた。しかし、物価上昇は全くおさまらず、日本銀行は2024年3月に異次元の金融緩和を終了、長期金利は上昇を基調を辿った。

そして、そうしたトレンドの下で誕生したのが高市政権である。利上げはアホという過去の発言にも象徴されるように、高市氏は金融緩和を強く信奉する立場とみられており、また、拡張的な財政政策を志向する発言も目立つ。長期金利の上昇ペースは高市氏が自民党総裁に就任した2025年10月から加速した。2025年10月3日の10年債利回りは1.6%台であり、わずか9カ月前の水準が遠い昔のように感じられる。

インフレ下の高圧経済

高市政権は発足時点で既に高インフレ環境にあった。その上で更に金融緩和の継続と拡張的な財政政策を目指すとなれば、金利上昇が加速するのは避けようがない。ロイターの報道によれば、政府関係者からは「骨太」について以下のような意見があるようだ。

  • ​関係者の一人は、骨太に書かれた大​部分の方針が、すでに高市氏が発信⁠済みの「既知の内容」であることに加え、国債発行についても「市場の信認」に配慮すると明記した点を挙げ、「極めて新味のない骨太だ。むしろ市場が反応しないように気をつけた内容になっている」と話す。それでも市場が荒れたこと​に、骨太策定に携わった関係者の一人は「市場参加者は本当に原案をちゃんと読んでいるのか」と首をかし​げた。別の関係者も「⁠市場がネタにして遊んでいるだけのように見える」と不信を募らせている。

市場環境を、金利上昇の背景を完全に見誤っている。新しい情報がなかったのに金利が上昇した、のではない。新しい情報がなかったからこそ、これまで金利を押し上げてきた政府のスタンスが全く変わらないことが確認されたからこそ、金利上昇が加速したのである。

おそらく、政府主導の成長投資で潜在成長率を高められると信じている市場関係者はほぼいないだろう。おそらく、責任ある積極財政の責任を負える誰かが存在すると信じている市場関係者はほぼいないだろう。

実体経済と民意

6月の短観は堅調であり、賃金上昇率は概ね3%以上で推移している。日銀の推計では、需給ギャップはコロナ禍後の2022年1月以降プラスを維持しており、失業率は2.5%程度で安定している。積極財政と金融緩和の出る幕がいったいどこにあるのだろうか。

「骨太」にはEBPMという言葉が4回登場する。しかし、金利が上昇している要因さえ分析できずにどうやってエビデンスに基づいた政策決定を行うのか。Evidence-Based Policy Makingではなく、いっそ正直にPolicy-Based Evidence Making と書いてしまったほうが良いのではないか。

いずれにしろ、民意がそれを支持するならばそれに従うのが民主主義だ。筆者には政治が分からない。ただ、外部環境の好転を祈るのみである。

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