眠り姫は不眠症(創作)・前編
「眠れない……」
お姫様は茨のしげったお城の中でゴロゴロ悶えていました。
お姫様の名前はターリア。
生まれる時、魔法使いから糸車の錘が指に刺さって死ぬ呪いを受けたにもかかわらず、その場にいた別の魔法使いから、
「100年眠って目が覚める」呪いにかきかえてもらえた。ナイス魔法使い。
……のわけあるか。
100年よ!いくら何でも長すぎだってば!15で死ぬのとどう違うのよ!
お父様は心配して国中の糸車を焼き捨てたけど、結局呪いをかけた魔法使いが隠し持ってた糸車の錘で、魔法使い自ら指を刺す凶行にいたり、わたくし、あえなく撃沈。
そもそもその魔法使いがそこまでの凶行にいたったのわ、わたくしの生誕パーティに、国中の魔法使いを呼んで祝福を受けさせる!と意気込んだにもかかわらず
お食事に出す金の皿の数が1枚足りないからひとりハブにした。
お父様、最悪よ……
テヘペロじゃなーい!
わたくしが可哀想じゃないの!
ということで100年寝ることになったわたくしですが、30年ほど眠ったあたりで、パッチリと目を覚ましてしまいましたの。
ビックリして城を飛びだそうとするも
茨「姫にふさわしい殿方が現れるまでここは開きません!」
えー!こんなとこいたら殿方はおろか、女友達も、ペットすら現れないじゃないの!
茨「私の友人のムカデを呼びましょうか?」
いらんわ!
お父様!お母様!たすけて!
茨「あ、ちなみに国王と王妃は、姫が眠ったことを嘆き悲しんで見てられないと、逃げるように引っ越しましたよ」
ネグレクトかよ!
茨「私の友人のヤモリなら、ちょうど玉の間の窓を住処にしていますから呼び寄せますか?」
いらん……
いや、まって。ヤモリさんは黒いお目目と小さなおててがかわいいから、ペットにしてもいいかしら、流行ってるし。
茨「ナチュラルかつ非道に他人を選別してペット扱いするあたりとか、悪気のない性格の悪さの血は争えないですね」
なんか言った?
というわけで、歳を取らないまま、あと70年、茨の城で一人暮らしをすることになったターリア姫。
70年後にはなにやらカッコイイ王子が迎えに来るようだし、果報は寝て待て、どういうわけか汚れないベッドにダイブしてそのままお昼寝……のはずが。
ちょっと、全然寝れないんだけど!
茨「ぼそり。30年なんにもしないで爆睡してて、昼寝なんか出来るわけねーだろ」
あんた、段々態度悪くなってない?
茨「だって魔法使いから沢山美徳をプレゼントされてる割にアンタ性格わるくない?ま、寝てるだけだったから成長してないだけとも言えるけど」
茨「親譲りの天然系性悪の可能性もある」
茨「見た目は15歳、実年齢アラフィフ、中身はガキ」
茨「子供部屋おばさん」
ガーン
茨「安心しろ、美人だけはちゃんと与えられてるな」
美だけ!うわーん。
こうして大泣きしてしまったターリア姫は、その日以来、眠れない、ねられても眠りが浅い不眠症になってしまったのでした。
……✏️
こうなると気まずいのは茨のほうです。
茨はお友達が見た目で選別されたのにちょっと腹が立っただけなのですが、きつく言いすぎたことを反省していました。
茨はお姫様が眠りについた時、この世界の理としてうまれました。
ですので齢30。立派な青年です。
お姫様は実年齢アラフィフ。
茨よりずっと成熟していると思っていたのですが、眠りについてからは何の経験も積んでいません。15歳の女の子とおなじです。
茨は、この子が眠れないまま、この幼さで、あと70年過ごすのをとても不憫に思いました。
しかし茨は世界の理として生まれた身、時間が来るまでお城を開けてあげる訳には行かないのでした。
茨は女の子が泣き止んで、悩み苦しんで、落ち着いたところを見計らってもう一度は話しかけました。
茨「お姫様、このお城には薬をおさめる倉庫があってな。そこには世界中から集めた貴重な薬やその材料がある。もちろん、睡眠薬もあるよ、軽いものからしっかり効くものまですべてがある。」
茨「ただ、薬というのはとても危険なものでもあるんだ。体の自然な活動をたわめて症状をかるくするんだからな。」
茨「たとえば、鼻水ズルズルのとき、鼻をかむと余計に鼻水が出ることあるだろ?症状を抑えることと悪化させることは紙一重なんだよ」
例えが下品。
茨「あー、わるかったよ。俺は医者でもなければ王侯貴族でもないただの茨だからな。」
茨「城には大きな図書室もある。この世の全ての本があるよ。もちろん薬の本もあるし、医学の本もある。」
茨「情報としては30年前のものだけれど、どうせこの城にある薬だって30年前で時間が止まったものばかりだ。姫さんは本は読めるんだろ、よくよく人間の体について学んで自分にピッタリな薬を処方するといいぞ。10年は以上かかるけどな」
時間かかりすぎよ
茨「あと70年ヒマなんだろ?」
茨「城には小さい運動場もある。適度に体を動かして、可能な限り陽の光をあびるのもいいぞ。」
姫なのに?
茨「姫でも平民ても人は人だろ。疲れなきゃ寝られない」
……✏️
ターリア姫は30年振りに目覚めたその夜から1週間ほど、城の窓から月を眺めてすごしました。
月は青く、光は白い。
ターリアの世界はせまいし、何しろまともに動けていた時間が短すぎる。アラフィフだというのに、ほんの15歳の小娘のような健やかな容貌。それ以外になにもない。
元はと言えば全部お父様のせいじゃない!と言いたい気持ちを堪えて、月の光の下で、じっと考え事をしていました。
茨は、それを静かに見守っていました
後編に続く。
