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【不登校の親ショートStory6】 ある日の手記 「勉強どうする?」

中1の冬

北寄りの風が吹き込む夕陽湾。
沈む太陽が、次第に輝きを失いつつあった。

「ソウタ、勉強している? そろそろご飯の時間よ」
ソウタが中学校へ行かなくなって、もう半年が過ぎた。
お腹が痛いと、学校を休むのは仕方ないとはいえ、勉強が遅れるのが心配。
でも、私が勉強しなさいと言うたびに、ソウタの顔は曇るばかり。

ちゃんと高校に行って欲しい。
高校受験は失敗させたくないし。

私が言えば言うほど、心を閉ざしていくように感じる。
もしかすると、言わないほうがいいのかしら…。

中2の秋

秋鮭を釣りに、夕陽湾に竿がずらりと並ぶ季節になった。

中学校から連絡があり、スクールカウンセラーと面談をしてみては、という提案があった。
ソウタは「行きたくない」と部屋から出てこなかったので、私だけが話を聞きに行った。

「お母さんがソウタさんを大切に思う気持ちがわかります。でも、お母さんの気持ちを押し付けられている、とソウタさんが感じているかもしれませんね」

スクールカウンセラーの不破先生が、穏やかな声が私の胸に染み込んだ。

家に戻り、私は思い切って「勉強」の話をやめてみた。
代わりに、ソウタの好きなゲームや小説の話題を振ってみると、少しだけ笑顔が戻った気がした。
やっぱり、勉強の心配を、私がソウタに押しつけていたのかも……。

このままソウタが中学校に行かなかったとしても、勉強する機会は親として残しておきたい。
いや、親のエゴかもしれないけれど、私がソウタにどのような選択肢があるか知っておくことは、親として安心できる。

中3の夏

(午前0時をお知らせします)
ラジオの音がかすかに聞こえる。
ソウタの部屋の明かりまだ点いていた。

私はダイニングテーブルでノートパソコンを開いて
 オンライン 学習 高校受験 
と、検索して調べてみた。

塾も高校もオンライで、いろいろあるのね。
驚いたことに、高卒認定試験って、大学進学できるだけでなく公務員にもなれる。
高校受験にこだわらなくても、ソウタの未来への道が開かれていたのね。

無理のない選択肢を探すこと。
それが、今の私にできること。
不登校でも学ぶ機会は大切にしたい。

ソウタの目に留まればいいと思い、私は資料を印刷して、食卓に置いておいた。
そっと、ソウタの背中を押すような、そんな気持ちだった。

翌日の昼、ソウタが眠い目を擦りならがら「おはよう」と、部屋から起きてきた。
ダイニングテーブルの上にある、資料にチラリと目を落としたが、ソウタは洗面所に向かった。

ソウタに伝えたくて、私は顔を洗い終わったソウタに声をかけた。
「通信制だって、定時制、それに高校に行かないという選択肢もあるし。ソウタには選ぶ自由があるのよ」
ソウタは驚いた表情を見せたが、少しだけ目が輝いた気がした。
学校に行かなくなって2年が経っていた。

中3の冬

夕陽湾の波が高い。風が強いけれど、よく晴れた日。
ソウタは自分から「ここで勉強してみようかな」と言ってきた。オンラインでプログラミングも学べる通信制の高校だ。
私は驚きとともに喜びを感じた。
子どもの選択を信じること。それが大事だった。

中学校の卒業式が終わった日の夕方、私とソウタは校長室で卒業証書を受け取った。
静かな校舎。

ソウタは「外の世界と繋がる」ことを選択した。
まだ見ぬ人との交流が、ソウタの視野を広げてくれるかもしれない。

焦らず、ソウタのペースで進んでいけばいい。
これから先、どんな道をソウタが選ぶのかはわからない。
私は、どんな選択でもソウタを信じて見守っていこうと思った。

中3になって最初で最後のソウタの制服姿を、私は目に焼き付けた。




【編集飛後記✈️】
毎日140字の「つぶやき」で綴っていた10月の連続呟きSTORYを、加筆修正して一つの物語として整えました。
舞台は、北海道夕陽市。小説「くじらの部屋」の世界です。小説の主人公の颯太と、今回の物語のソウタは別人ですが、もしかすると、どこかで出会っているかもしれませんね。

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