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【短編小説】潮騒が告げる季節・原稿用紙二枚分の文芸賞

僕の部屋から海は見えない。けれど潮騒は聞こえる。それは夏の始まりの音。なのにちっとも気分は上がらない。

さらに母さんが部屋までやってきて、サラは家に来るだろうかと尋ねる。新しいテーブルクロスを見せたくて仕方がないらしい。

そんなことわかるはずがない。彼女はいつだって自分勝手で気まぐれだ。今日だって、3時の電車でつくと前の週に教えてあったのに来なかった。海は暑すぎて退屈で、午後は暇をもて余していると言ったくせにだ。

母さんを追い出してドアを閉め、ベッドに寝転がる。やがて潮騒の中に窓を叩く音が混じり始めた。天気予報さえあてにならない。何もかもがちぐはぐで、思いどおりにならなくて、うんざりして大きな息を吐いた。

次の瞬間、衝撃音と共に部屋は暗闇に沈む。母さんが叫んで父さんが答えたけれど、僕のドアへはやってこなかった。とっくに寝てしまったと思ったのだろう。

何だか惨めだった。シーツを引き剥がして頭から被る。それでも稲光は容赦なく突き刺してくるし、窓はさっきよりもっと激しく打ち鳴らされて、潮騒なんてもう聞こえもしない。海の家にいる意味がわからない。

駅に迎えに来なかったサラが憎らしかった。サラのくせに、サラのくせに、どうしてそんなにわがままなんだ。

鼻の奥がつんとした時、手の中で画面が点滅した。

『電波塔は自家発電って知ってた?』

何の話をしているんだ。サラがサラすぎて脱力してしまう。寂しかったことも腹がたったことも全部馬鹿らしくなった。だけど頬が緩み、大声で笑いながら打ち込む。

『明日は浜の先の洞窟にいく 青い看板前に10時 遅れないで』

すぐに電源を切ってベッド脇へ投げる。質問したいだろう。返信なしに悪態をつくサラを想像すれば、愉快な気分になった。一方的に押しつける僕も大概だ。けれど、夏がきたのだと思った。

明日はきっと快晴。戻ってきた潮騒の中で寝返りを打ち、足に絡まるシーツを力いっぱい蹴飛ばした。


今年の夏は海にいけず、
海の話がぐるぐるしたので、
花澤さんの企画に参加させていただきました。




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