日々俳句鑑賞148 「冬の水一枝の影も欺かず」 中村草田男
冬の水は冷たく澄んでいて、すべてをそのまま映し出す。
一本の枝が水面に伸び、その影もゆがむことなく写る様子には、嘘やごまかしがない。
読むと、飯田蛇笏の「芋の露連山影を正しうす」を思い出す。
季語で場面を立て、中七で景色を捉え、下五で世界の秩序や精神の感覚に結ぶリズムが似ているのだ。
しかし、自然との向き合い方は大きく違う。
蛇笏は芋の露の儚さに心を寄せ、足元から目を上げて連山の秩序を感じる。
露という小さな光を通して、世界全体が正されるような感覚がそこにはある。
草田男は違う。冬の水そのものの正確さに目を向ける。
水面が枝の影を欺かず映すことで、自然の厳しいまでの真実が伝わってくる。
露が人生のはかなさを思わせるなら、冬の水は「誤魔化しのない世界」を教えてくれる。
リズムは似ているのに、自然と向き合う心の置き方が違う。
この違いが、冬の水の透明で凛とした美しさの正体なのだ。
『合本俳句歳時記第五版』(角川書店)より
