日々俳句鑑賞 77 「沈黙にジャズすべり込む秋の宵」 木暮陶句郎

沈黙の支配する秋の宵。その静けさを乱すことなく、ジャズがそっと忍び込んでくる。ここでいうジャズは、激しいリズムや熱気に満ちた音楽ではない。むしろ、沈黙と寄り添い、沈黙をさらに深めるような調べである。


「すべり込む」という措辞は絶妙だ。音楽が突然流れ込むのではなく、あたかももとよりそこに存在していたかのように、空気に馴染んでいく。その自然さ、静謐さが秋の宵の気配と呼応する。


思い浮かぶのは、マイルス・デイヴィスの《Blue in Green》。ミュート・トランペットが滲むように鳴り響き、沈黙を破らず、むしろ沈黙の奥に潜む感情をやわらかく照らし出していく。ジャズが沈黙を埋めるのではなく、沈黙を豊かにしていく瞬間を、この一句は鮮やかに掬い取っている。


静けさと音の共鳴。そこに秋の夜の寂寥と慰めとが重なり合う。まさに都会的でありながら、深く情緒的な一句である


『合本俳句歳時記第五版』(角川書店)より

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