日々俳句鑑賞131 「初冬の木をのぼりゆく水のかげ」 長谷川双魚

初冬の朝。

冷えた土が昇る太陽に温められ、木々のまわりに淡い水の気配が立ちのぼる。

まだ冷えた空気をゆっくりと昇る水蒸気は、細やかな粒子となって光を受け、

ほのかに輝きながら空へと消えていく。

その儚い現象を、詩人は「水のかげ」と呼んだのだろうか。


しかし、「かげ」という言葉には、もう一つの世界が潜んでいる。

「影」と「陰」は同語源でありながら、

前者は光によって見える姿、後者は光の届かぬ内なる領域を意味する。


落ち行く葉の季節にあっても、

木の幹の内では、なお水が静かに上へとのぼっている。

外からは枯れを迎えたように見えても、

その奥では生命の流れが絶えず息づいているのだ。

この見えぬ循環こそ、詩人の感じ取った水の陰であろう。


「水のかげ」とは、光にきらめく水の影であり、

沈黙の幹をのぼる水の陰でもある。

見えるものの奥に、見えないものがある。

双魚は、そのふたつの世界を一語に溶かし込み、

初冬という季節の静けさの中に、確かな命の律動を聴き取っている。


冬の始まりに息づく微かな生命。

「水のかげ」という言葉のなかで、それは光と闇のあわいに揺れている。


『合本俳句歳時記第五版』(角川書店)より

いいなと思ったら応援しよう!