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金髪OKな5代目社長、エレベーターボタンを作る「92年目組織」を最強カスタマイズ

かつては年功序列が色濃く残る、閉鎖的な町工場。今では月2000人が訪れる「日本一予約できない工場」として注目を集めています。島田電機製作所五代目社長の島田正孝さんが推進したのは社員の「らしさ」を軸にした組織改革と、企業ブランドの再構築。創業92年、エレベーター意匠器具というニッチな業界で国内シェア6割を誇る町工場の進化を伺いました。



【第1章】小さな町工場から、国内シェア6割へ

― 島田電機製作所の事業概要を教えてください。

株式会社島田電機製作所はエレベーター用の押しボタンや到着灯、表示灯などの「意匠器具」をオーダーメイドで設計・製造・販売するモノづくり企業です。1933年に祖父が創業し、今年で92年目を迎えます。麻布台ヒルズやあべのハルカス、東京スカイツリーといった日本の名だたる高層ビルに使われるエレベーター向けの製品に携わってきました。設計から組立、検査まで一貫した生産体制と作業環境を整えており、現在(2025年6月)国内の意匠器具市場では6〜7割のシェアを誇る、ニッチながらも高い専門性を持つ企業として評価されています。

― 島田さんのご経歴と、社長になるまでの歩みを教えてください。

専門学校を卒業後、1990年に島田電機製作所の関連会社に入社しました。日立工場で3年間実習を積んだ後、島田電機製作所にて30年以上設計や生産管理、工場長を務めてきました。お客様先に出向いて経験を積むだけでなく、1人で海外拠点を立ち上げたりしたこともあります。2013年には八王子に本社工場を移転したことを機に、五代目代表取締役社長に就任。過去にとらわれず、家業の未来を見据えて新たなことに挑戦しています。

― 現在、どのようなお取り組みに挑戦していらっしゃいますか?

「モノづくり」「組織づくり」「ファンづくり」の3つを軸に事業活動を行っています。組織づくりでは、メンバー全員が「ここで働きたい」と思えるよう、日々のコミュニケーションを重んじながら個性を活かしてパフォーマンスを高め合える環境づくりを進めています。ファンづくりでは「働くとは人を喜ばせること。つまり、事業活動はファンづくり」と捉え「押す」をテーマにした遊び空間「OSEBA」や工場見学といった活動を介してファンコミュニティを築いています。

― 「ファンづくり」ではどのような反響がありましたか?

「島田電機製作所はこうありたい」といった想いを外部に発信した結果「日本一予約できない工場見学」と言われるまでになり、メディアにも年間約70件、累計300件以上取り上げていただいています

2024年7月に新設した「OSEBA」には、平日4日間の営業だけで国内外から月に約2000人が訪れています。経営者やPR関係者、人事担当者といった方々が弊社の組織づくりにご興味を持つケースも増え、「組織づくり勉強会」も開催しています。ちょうど先週には八王子で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)国際会議に参加した21の国と地域の方々も見学に来てくださいました。海外からの訪問者には、弊社のメンバーが英語や中国語でご案内しています。

【第2章】エレベーター業界と意匠器具の現在地

― 貴社のお客様にはどのような方が多いですか?

大手エレベーターメーカーや建設会社、ビル管理会社などが中心で、BtoBの事業展開を行っています。

― 意匠器具業界が直面している変化や、貴社の課題をお聞かせください。

エレベーターの新規生産台数は、1990年代には年間約4万台ありましたが、現在では約2万台まで減少しています。一方、当時に設置されたエレベーターが更新時期を迎えており、リニューアル需要は高まっています。ただ、意匠器具を手掛ける弊社にとっては大したお金にはならない。ビルオーナーからすると、更新時には安全装置の追加や法対応などでコストがかかり、見た目の意匠まで手が回らないことも多く、ビジネスとしては限定的だからです。

また、意匠のニーズ自体も変化しています。以前は高級感のあるデザインが好まれましたが、現在はシンプルで機能的なデザインが主流。エレベーターの生産台数の減少やデザイン嗜好の変化により、意匠器具業界全体が厳しい局面を迎えているのは事実です。一方、新しいビルは家賃が安く機能性が高いなどのメリットが多いため、都市部では再開発も進んでおり、渋谷や虎の門、六本木、丸の内では引き続き新築ビルの需要があります。私たちもこうした機会に積極的に挑戦しています。

― 新型コロナウイルスの影響で、タッチレスボタンといった非接触型の需要は増えていますか?

ご要望はあるものの、普及までは至っていません。人はエレベーターに乗る時、ボタンを無意識に押す行動を取りやすいですし、静電気で反応するタイプのタッチレスボタンなどではまだ改善の余地があるため。なお、世の中ではスマートエレベーターといったIoT技術の導入も進んでおり、自動認識や待機時間の短縮、エネルギー効率の向上など、操作性や利便性の進化が目覚ましいですね。

― エレベーター業界の技術革新に対し、貴社ではどのように対応していらっしゃいますか?

弊社はこれまで建物ごとに設計・製造する受注生産型の体制を取ってきましたが、やはり下請け構造からの脱却が課題でした。そこで、私たちの独自ブランド「SHIMAX」を立ち上げ、過去の実績から「売れるもの」を分析してセミオーダー式でラインナップを展開。こうすればお客様は既製の中から選べますし、私たちの設計の手間や納期の短縮といった業務効率化も実現できます。

ハウスメーカーが住宅を建てる時にトイレの便器をTOTOやLIXILから選ぶように、私たちも「エレベーターの意匠器具といえば島田電機」と言われる存在になりたいです。製造元がブランドとして販売する体制を確立する。加えて、エレベーター業界のみならず、建築業界とも接点を広げて建築の内装や設備全体にアンテナを張り、上流からニーズを捉える動きを強化していきます。SHIMAXとしては、新設エレベーターだけでなく、リニューアルや建築向けにも製品展開を広げていきたいと考えています。

【第3章】島田電機を変えた「らしさ」重視の組織づくり

― 事業活動に注力する背景をお聞かせください。

かつての島田電機製作所は閉鎖的な空間で黙々と製品を作る、年功序列が色濃く残る昔ながらの町工場でした。そこから脱却するために、メンバー一人ひとりがいきいきと働ける環境を目指し、組織改革に踏み切りました。

― 組織改革の中で、どのような施策を行ってきたのでしょうか?

2019年に佐野さんから取材していただいた時に紹介した「島田ブック」や「やる気ボタン」「残業HELPワッペン」のような取り組みに加え、現在では30以上もの仕掛けが動いています。

例えば、毎月開催されるMVP社員表彰では賞金額を巨大なサイコロで決めたりダブルチャンスを設けたりとゲーム性を持たせています。他にも、毎週水曜の朝は「Heart Beat共有会」と呼ばれる感情を共有する時間を設けています。メンバーが「心が動いた瞬間」や「誰かの心を動かした瞬間」を発表し、他のメンバーが感想を伝え合う、涙あり笑いありのアットホームな場になっています。こうした施策を通じて社内のコミュニケーションをより深める工夫を重ねています

― 「かつては無名の町工場だった」とのことですが、「ファンづくり」を順調に実現していらっしゃいますよね。

ありがとうございます。中小企業の経営者は「人が来ない」「すぐに辞めてしまう」と悩んでいらっしゃいますが、そもそも知られていないだけかもしれない。いくら良い会社、良いプロダクトを作っても発信しなければ届きません。恐らく、皆さんは良くも悪くも謙虚で、同じ業界や地域で目立つことを避けていらっしゃるのかもしれません。そのお気持ちも分かりますが、それでは何も変わらない。突き抜ける覚悟でPRをしなければ変化も起きません

― 国内シェアが6〜7割の理由について、どのようにお考えですか?

やはり専門性の深さです。92年間もこの業界に特化して事業を継続してきたことで、技術だけでなく環境や材料、人材といったインフラが整っている。他社なら1ヶ月かかる仕事も、弊社では2週間で完了できます。とはいえ、私たちの一番の強みは「人」だと考えています。受注生産の中で、お客様の期待を超えようと本気で向き合えること。そこに宿るプロ意識こそが、島田電機製作所の原動力です。

弊社は「人に仕事を当てる」メンバーシップ型の組織。スキルを「テクニカル」に限定せず「らしさ」というヒューマンスキルまで含めて、メンバーの持ち味を引き出すようにしています。そのために自由でフラットな組織をつくり、飲み放題制度やゲーミフィケーションなどのユニークな仕掛けを生み出しています。

私も若い頃、音楽が好きで金髪に染めていましたが、職場では見せてはいけなかった。自分が社長になったらそんな体験をみんなに味わせたくなかったですね。だからこそ、誰もが「らしさ」を認め合い、それを仕事の強みに変えられるような組織でありたいと考えています。

― 島田さんの個人的な経験が、組織施策にも繋がっているんですね。

はい。自分の中で腑に落ちた「気づき」の方が行動に繋がっています。私自身もずっと「これを何とかしたい」という想いを抱き続けてきたからこそ、やってこれたんですよね。人はどれだけスキルがあっても「想い」がなければ動かない。だからこそ、メンバー一人ひとりの「社会に貢献したい」という気持ちを高め、ポジティブなスキルにしたい。弊社は製造業ですが、生産性だけでなくパフォーマンスも高めることを重視しています。みんなが自由に笑顔で雑談することも、良い組織をつくる力になっていると信じています。

【第4章】会社が「趣味」。社長のブレない逆算思考

― 素のご自分に戻れる瞬間はありますか?

「趣味は島田電機製作所」と言っているくらい、仕事や経営が面白いと感じています。やりたいことを仕事にしているため、どの自分が「素」なのかは分からない。私たちはひとりの人間でしかないので、どこにいても価値観は同じはず。自分の持っている価値観と合う場所で働くべきだと思っているため、自分自身を公私で分ける必要もないんです。

仕事を抜きにして考えるならば、音楽です。兄がバンドをやっていたり、母も芸能関係の仕事をしたりしていたこともあり、パンクバンドが大好き。最初はブルーハーツから入りましたね。今でも聴くたびに心が奮い立つのは、ニューロティカというバンド。好きな音楽を聴いている瞬間が「素」に戻っているかもしれません。

弊社のOSEBAには「1000のボタン」というコーナーがありますが、ブルーハーツの「1000のバイオリン」という曲名から着想を得ました。「1000個」ではなく「1000」という表現が気に入って。

― もし明日から社長ではなくなったら、何をしてみたいですか?

自由人になったとしたら、難しいですね(笑)。やりたいことは具体的に思い浮かびませんが、誰かにポジティブな影響を与えられることをしたいです。音楽を作ることかもしれない。でも、やっぱり経営が面白いから新しい価値を生み出したい。私ひとりでは何もできないので、まずは仲間を集めてチームを作るでしょうね。

― 尊敬している人物はいますか?

先ほど挙げたニューロティカのボーカル、ATSUSHI(通称:あっちゃん)です。彼はライブがない日は創業70年を越える菓子問屋「藤屋」で、店長として朝から駄菓子の仕入れや販売、掃除をしています。

ニューロティカは1984年にデビューしたベテランで、日本のロック界で一時代を築いたのに「自分たちはすごい」なんて言わない。ずっとスタンスを変えずに貫き通しているところがかっこいいんです。駄菓子屋さんにも大勢のファンが来ています。パンクバンドのボーカルなのに地元でエプロンをして駄菓子を売っていて、人間的な余裕を感じますね

― 経営で「予想外な結果になったけれど、結果的に良かった」と感じたエピソードはありますか?

予想外な結果になったことがないんです、いつも計画どおりというか。ビジョンや夢にたどり着くために何が必要かを逆算し、小さな点を繋げて線や面にしていくため、思いもよらない方向に行ったことはありません。例えば、残業の見える化やオープンな職場づくり、メンバーによる工場見学のアテンドなども「急にそんなことを?」と驚かれますが、後で振り返ると「全部繋がっていた」と分かってもらえる。「最初から狙ってアクションしたことが、花開いてくれた」という感覚ですね。

【第5章】市場縮小?でも、攻め続ける

― エレベーター・意匠器具業界の今後をどのようにご覧になっていますか?

先述のとおり、エレベーターの意匠器具は近年「シンプル思考」が主流になりつつあります。見た目だけでなくデザインによって「人の行動を導く使いやすさ」や「人に寄り添う乗り心地」といった本質的な機能性が求められている。私たちも、そうした未来のスタンダードを見据えながら、ニーズを先取りする自社製品を開発したいですね。

また、成長のために意匠器具の枠にとどまらず、建築内装の分野にも挑戦します。建築領域に進出することで、より上流から情報をキャッチし、建物全体の魅せ方に貢献できるはず。これまでに培ってきた技術を軸に、エレベーターの「外側」にも活躍の場を広げていきます。

― 海外展開についてはいかがですか?

いずれは、海外にも挑戦したいと思っています。昔は「日本製は高いから海外で製造を」と言われていましたが、いまやコスト差も小さくなっています。情報発信や営業活動に力を入れたら、日本からの受注も不可能ではない。拠点を出すことまでは考えていませんが、海外案件を日本で受ける仕組みは十分に構築できると見ています。

― こちらをお読みになっている中小企業経営者やビジネスパーソンにメッセージをお願いします。

現在、皆さんが悩んでいらっしゃることは、過去からの延長線でお考えではないでしょうか。一度それをリセットして「この会社を何のために経営しているのか」「この会社にとって何が幸せなのか」を再定義することが大切だと考えています。

弊社も「人を喜ばせたい」「成長することが生きることだ」と原点に立ち返って経営を見直してきました。多くの経営者は過去の習慣や世間の常識に縛られて「本当にやるべきこと」に向き合えていないのではないでしょうか。時代は変わってきていますし、PR・ブランディングは戦略の一環として当然やるべきです。結果が出ないのは往々にして私たち経営者の責任です。それを社員や環境のせいにしていては、未来は拓けません。

さらに、「真面目に見積もりで勝負しよう」なんてやっていたら限界があるため、価格競争に巻き込まれないためにも「自社の言葉を持つ」ことが重要です。何を、誰に、どう伝えるのか―。広報にかぎらず、経営者の日常的な思考や言語化力が企業の未来を左右する。打ち出し方一つで、物語の強度は変わります。だからこそ、ご自分の「想い」を言葉にする習慣を持つこともお勧めしたいですね。

― 島田さん、お話をお聞かせいただきありがとうございました。

【エピローグ】

佐野:PRやブランディング、個人的にも考えさせられました。多くの著名人がSNSで自由に発信しているので「私のような無名がどうやって『あの経営者のオフレコ』や『あの経営者の筋トレ』を認知していただけるかな」と悩んでいました・・・。

島田:そうなんですね。でも、すでに特徴はあるじゃないですか。佐野さんのキャラクターは立っているし、取り上げている経営者たちもユニークで魅力的ですよ。あとは、それをいかに言葉に落として「他とは違う」を伝えていくかですよね。

佐野:ありがとうございます。気が引けていましたが、島田さんのお話をお伺いして「堂々と伝えよう」と思えた気がします。まずは、やってみます。

(企画・取材・執筆:佐野 桃木 写真提供:島田電機製作所 最高顧問:Z)

● プロフィールはこちら「島田電機製作所代表取締役社長 島田正孝さん

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