TSUTAYA、蔦屋書店、博多一風堂、鳥貴族、挽肉と米、金子半之助。清宮俊之が関与する店は、なぜヒットするのか
TSUTAYA、博多一風堂、鳥貴族、挽肉と米、金子半之助と、名だたる人気ブランドの成長に関わってきた清宮俊之さんは、力の源ホールディングスの社長をご退任後も、フードビジネスの最前線を走り続けています。そんな清宮さんが実践するのは、共感と信頼を軸にしたチームビルディング。経営者としての肩書きにとらわれず、現在進行形で国内外を飛び回りながら挑戦を重ねる背景を伺いました。


【第1章】「代官山T-SITE」地元住民との10回以上の対話から誕生
― 清宮さんは、新卒でカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)に入社し、FC事業や人事、カフェ事業などを含めた新規事業開発部門、代官山プロジェクトなどを担当。その後、力の源ホールディングスでは3年目から代表取締役社長 兼 COOとして経営・人事や、「一風堂」の国内外店舗拡大に携わっていらっしゃいました。現在、人気フードビジネスの海外展開を中心に活動していらっしゃいます。
現在、「鳥貴族」の海外展開をメインに手掛けながら「焼きとりの八兵衛」「市松」といった人気焼き鳥屋との協業、さらに「挽肉と米」「金子半之助」「つじ田」など複数のブランドにも関わっています。株式会社エターナルホスピタリティグループ(旧:鳥貴族ホールディングス)では取締役・COOを務め、「金子半之助」「つじ田」「田中商店/田中そば」を抱えるオイシーズ株式会社では代表権を新社長に託しつつ、取締役として事業を推進。「挽肉と米」では創業メンバーかつ株主の1人として参画しながら、役員には就任せずに海外展開を推進しています。

― 清宮さんのFacebookを拝見すると「先週はL.A.」「今日は京都」など、いつも国内外を移動していらっしゃいますよね。
そうですね。活動は「鳥貴族」を中心とした焼き鳥関連の事業ですが、スーツケースに「鳥貴族」「焼きとりの八兵衛」「挽肉と米」「金子半之助」「つじ田」などのブランドを詰め込むような感覚で国内外を飛び回り、「この街にはどんな業態がフィットするか?」といったご相談には、複数の事例や選択肢を提示するため、ご興味を持っていただくことが多いです。

― 新卒から約15年間在籍したCCCでは、どのようなご経験が印象に残っていますか?
入社6年目で自ら志願して人事を担当させていただいた後、会社から「新規事業開発に挑戦してもらいたい」と言われてカフェ事業や新業態開発を担当し、最終的には代官山T-SITEのプロジェクトを推進したことです。代官山T-SITEは、本・映画・音楽といったカルチャーコンテンツを中心とした豊かな生活を提案する「ライフスタイル提案型商業施設」として2011年に開業し、現在も東京を代表する人気スポットの一つになっています。
この代官山T-SITEの企画から開業までの5年間、まさに挑戦の連続でした。代官山は多くの富裕層や著名人が住む日本有数の高級タウンですが、ここに文化拠点となる商業施設を作ることは容易ではありませんでした。当初は一般的なTSUTAYAが建設されると誤解され、不動産価値の低下を懸念する声も多かったんです。そのため、住民説明会を10回以上実施し、質問攻めや反発に遭いながらも施設のコンセプトや価値、具体的なイメージを模型を用いてお伝えしてご納得いただきました。「事業の成功にはステークホルダーとの対話が不可欠だ」と身をもって学ばせていただきました。
【第2章】世界を魅了する一杯。一風堂の「NY進出」でラーメンは世界食に
― 清宮さんがCCCから力の源ホールディングスに転職し、社長として最初に着手したことは何でしょうか。
当然、経営や事業全般に携わっていましたが、もともと担当していた組織改革や人材育成により注力しました。特に、常に会社や組織が成長し続けられるように適切な人選を行い、組織の基盤固めを意識しました。
― 人気ラーメン店「一風堂」は国内外に多店舗展開しています。2022年のデータによると15の国と地域に進出し、計277店舗を展開。初の海外出店はどのように進めましたか?
日本のラーメンが国民食から世界食になったきっかけの一つに「IPPUDOのニューヨーク進出」があったと考えています。当時、世界的なブランディング効果を見込めるニューヨークを選びましたが、海外進出で重要なのは「アイデンティティを守りながら現地に適応すること」。ニューヨークに日本の「一風堂」をそのまま持ち込むのではなく、現地のニーズに合わせてアップデートしました。例えば、レンゲのサイズを大きくする、麺をすすれないお客様に向けて少し短くする、など。

― 海外だけでなく、日本国内でも地域との関係構築を重視している背景をお聞かせください。例えば、お子さんたちに食べる喜びを伝えるためのワークショップを開催していらっしゃいましたよね。
それは、力の源ホールディングス創業者である河原成美(しげみ)さんから受け継がれている「食育」や「地域貢献」の理念ですね。食のおいしさや楽しさを正しく伝えるために、日本各地の「一風堂」が1店舗あたり3〜5校の小学校を訪問し、体育館などをお借りしてラーメン作りのワークショップを実施しました。
その目的は2つあり、1つ目は「食の原体験を提供すること」。小学校低学年は「食」への価値観が形成される大切な時期。その年齢のうちに「食の楽しさ」を伝えたいんです。2つ目は「未来の仲間を育てること」。ワークショップを体験したお子さんたちには、社会人になって力の源ホールディングスに入社した方もいます。「一風堂」ではPRのために広告を打つだけではなく、足を使って地域の皆さんに出向いて「食」を伝授するカルチャーがあります。
さらに、このワークショップでは各店舗の従業員が企画・立案してお客様との対話を積んでいくため、店舗に対する信頼の向上にもなりました。この積み重ねが、今日の「一風堂」のブランドを築いています。

― 清宮さんは従業員の皆さんの育成にも注力していらっしゃいましたよね。
力の源ホールディングスでは、従業員育成のために大分県の農業生産法人「くしふるの大地」で研修していました。 この研修では従業員が寝食をともにしながら農作業や食事作り、小笠原流礼法の学習、商品レシピの作成などを学ぶ。私が在籍していた頃は、海外店舗の従業員も参加していました。「一風堂」は国内外に幅広く展開しているため、従業員同士の繋がりが希薄になりがちでしたが、研修によって会社への帰属意識や仲間意識が強まりました。
― 清宮さんからご覧になって「伸び続ける企業」と「そうでない企業」の違いは何だとお考えでしょうか?
「人を鼓舞する」と言うと少し大げさかもしれませんが、魅力的なビジョンを掲げ、それに共感する人が集まるかどうかが大きなポイントだと思います。言葉だけではなく「このビジョンなら相乗りしたい」と思わせる力があるか。
もう一つは、楽しみながら変化に適応できるかどうかです。日本企業の多くは「修正力」が弱く、トライアンドエラーを素早く回すことが苦手。「失敗しても、修正すればいいじゃん」と軽やかに対応できる組織が、これからの時代では生き残っていくのではないでしょうか。在京キー局ですら突然、経営危機に陥る時代です。影響力や実績を誇る大企業こそ、変化や失敗に直面しても勇敢に突き進まなければ、生き残りは難しいでしょうね。
【第3章】山本のハンバーグ創業者山本昇平氏、POOL inc.小西利行氏と仕掛けた「挽肉と米」

― 「挽肉と米」は「挽きたて、焼きたて、炊きたて」をコンセプトに2020年6月に吉祥寺にオープンした、炭火焼きハンバーグと炊きたてご飯専門店です。力の源ホールディングスを退職後、なぜこの事業に着手したのでしょうか?
当時、次に何をするのかは全く決めていませんでした。「挽肉と米」を立ち上げる予定もなかったんです。「ためしに自分で会社を作ってみようかな。仕事は後から何とかなるだろうし」というノリでした。
そんな折「山本のハンバーグ」創業者の山本さんと飲みに行って「一風堂を卒業することになった」と話した時、山本さんから「実は『山本のハンバーグ』だけでは表現しきれていないことがある。清宮さんが力の源ホールディングスにいる時は声をかけづらかったけれど、一緒にやらないか」と誘っていただきました。

ただ、山本さんと私が組んでも「外食 ✕ 外食」の組み合わせで何の新しさもない。これからの外食業界は「クリエイティブ」がないと成功しないし、世界にも進出できない。「どうせやるなら、クリエイティブの力を掛け合わせよう」と思い立ち、広告・ブランディングの第一人者であるPOOL inc.の小西利行さんに連絡しました。
小西さんは人気の高いコピーライターであり、クリエイティブディレクターであり、ブランドの立ち上げやストーリー作りに圧倒的に秀でた方。「面白そうだから、やろう」と即答していただいて以来、紆余曲折はありましたが比較的トントン拍子に「外食 ✕ クリエイティブ」である「挽肉と米」を立ち上げました。

― 「挽肉と米」を展開する際、どのようなことを意識しましたか。
正直なところ、最初は3人とも本格的なビジネスとして捉えていませんでした。銀行からお金を借りることもなく「お店を作ってみて、失敗したら解散しよう」「そういうチャレンジ自体が面白いじゃん」という感覚でしたね。ただ、私たちが目指したのは「ハンバーグ王」と呼ばれる山本さんの世界観を具現化すること。「世界のハンバーガー文化をひっくり返す」に楽しみながら本気で挑んだんです。その結果、日本だけでなく、海外5ヶ国にも出店。ちょうど今も10ヶ国で新規開拓を進めていて、来年以降には15〜20ヶ国でお店がオープンする見込みです。なかなか異常なスピード感ですよね(笑)。
― 地域によっては肉を食べられないところもありますが、現地対応はしていらっしゃいますか?
実は、「一風堂」に比べると「挽肉と米」には変更幅がなく、肉や米の調達に徹底的にこだわっています。お店のデザインは進出する国や街にフィットするように常にアップデートしているものの、レイアウトや、オペレーションのコンセプト・原理原則は一切変えていない。どこまで通用するかは分かりませんが、現在は出店する国々で私たちの想像を超える集客が続いています。「これは世界中に展開できるかもしれない」と手応えを感じています。

― 私が「挽肉と米」を知ったのはTikTokでした。清宮さんの事業とは知らずに「おいしそう!」と。TikTokでは「めちゃくちゃいいよ」 と口コミが広がり、渋谷店も常に混んでいますよね。若い層をターゲットにしていたのでしょうか。
最初は30代のグルメな男性・女性を想定していました。実際にオープンしてみると10代から30代まで幅広い世代に支持され、外国人のお客様も多い。印象に残っているのは、女の子が帰り際に「お米を数年ぶりに食べました」と嬉しそうに話してくれたこと。普段はコンビニのご飯やカップラーメン、パンばかりだから、と。
― 「挽肉と米」がヒットして以来、挽肉やハンバーグを売りにしたお店が増えましたよね。
はい、日本でも世界でも似たようなお店が出現していますが、模倣店には絶対に負けない仕組みがあるから気にしていません。むしろ、このハンバーグ文化自体を皆さんと盛り上げていきたいです。
― 模倣店が追いつけない点を、公開できる範囲でお聞かせください。
シンプルな業態であるがゆえに、表には見えない沢山のノウハウが仕込まれています。そもそも「山本のハンバーグ」の山本さんでないと絶妙な肉の調合ができないし、オペレーションの設計や、排気効率や作業導線を考えた独自設計なども特許レベルの技術があります。似たようなお店は現れますが、これらを完コピしようとしても不可能ですね。
【第4章】つじ田、金子半之助、田中商店/田中そば。複数ブランドを住み分ける出店戦略

― 清宮さんが手掛けるお店はいずれも人気を博していますが、複数のブランドを同時進行している理由を教えてください。
どのブランドにも、国内外での店舗展開の可能性があるから。「こんなチャンス、なかなかない」と積極的に取り組んでいるだけなんですよね。
― カジュアルな質問ですが、清宮さんが手掛けているブランドでお好きなメニューは何ですか?
昔から焼き鳥が好きです。50代になってカレーや焼肉やラーメンは昔ほど食べられなくなりました(苦笑)。先月は仕事で24軒の焼き鳥屋に行きましたが、体に合うし、飽きない。そういう背景もあり、焼き鳥関連の仕事はいくら入ってきてもノンストレスです。

― 私は日本橋の「金子半之助」や恵比寿の「つじ田」が好きです。それぞれのブランドを確立するために、どのような戦略を立てていらっしゃいますか?
「つじ田」「金子半之助」「田中商店/田中そば」はそれぞれ約30店舗と規模が小さく、カニバリ(市場の食い合い)の心配はありません。出店戦略を明確に分けることでブランド同士が競合しないようにしているため。
出店戦略はブランドごとに明確に住み分けています。「田中商店」は東北や名古屋などのロードサイドを中心に展開。「つじ田」は東京の一等地に加え、関西にも進出を開始。「金子半之助」は一等地での展開に加え、お弁当・テイクアウト業態を新幹線の駅構内や百貨店にも広げています。つまり、それぞれのブランドが異なる立地戦略を取ることで、きれいなコントラストを作りながら出店を増やしていけるんです。

― 確かに、渋谷スクランブルスクエアで「金子半之助」のお弁当を見かけます。清宮さんは今後、フードビジネス以外の業界にも進出する可能性はありますか?
今のところ毎日が楽しいので、あまり先のことは考えていませんが、50代半ば、60代になったら今まで以上に「やりたくない仕事」はしないつもりです。自分自身が楽しくなれる仕事をする。その方が周囲にもポジティブな影響を与えられる。そうなるとやはりフード、ドリンク、グローバル市場には関わっていく可能性は高いですね。どこでどんな仕事をするかは分かりませんが、自然も好きなのでアウトドアメーカーやキャンプサイトの仕事にも関わるかもしれません(笑)。
― 清宮さんに「うちの既存事業をテコ入れしたい」といった沢山のご相談が寄せられているだろうと思います。
有り難いことにご依頼を頂く機会は多いですが、今は国内外を飛び回っていてどうしても時間が取れないため、新規案件はあまりお受けしていません。とても興味がある案件が来たら考えるかもしれませんが(笑)。
【第5章】清宮氏が実践するCCC創業者の教え「自分に力があると勘違いするな」

― 今後、ヒットしそうなビジネスは何だとお考えですか?
グローバル市場では、社会問題をそのまま事業にする流れがスタンダードになってきています。今はもう「拡大」を目指す時代ではなくなり「資本主義社会そのものを見直すべきでは?」という議論も出ている。今後は、社会問題を解決するインフラやサービスがアツいでしょう。「地球に優しい」「後世に残る」といった世代を超えて価値のあるものを生み出す点では、残念ながら日本は世界から大きく遅れています。海外を回ってから日本に戻るたびに「このままではきつい・・・」と痛感することが多いかもしれません。
― 数年前にはESG経営が話題になりましたが「競争力が失われる」と懸念する声もあります。実際に、社会課題を事業化して売り上げを伸ばしている企業は少ない印象です。
確かに、日本は「利便性」「治安の良さ」「住みやすさ」では世界トップクラスですが「希望のある国か?」と問われると、少し違うかもしれませんね。

― これまで数々のフードビジネスを成功に導いてこられましたが、清宮さんが大切にしている「ビジネス哲学」は何でしょうか?
哲学というものではありませんが、「自分ひとりでは何もできない」です。ただ、さまざまな方にお願いして合意を頂き、チームを組成することは少しだけ得意なのかもしれません。CCC時代、創業者・増田宗昭さんから「自分に力があると勘違いするな。本当に強いのは『何もできない』『弱い』と自分を認識できる人だ」と教わりました。「仕事をする上で最も大切なことは何ですか?」と尋ねた際、「人にものを頼めるプロになれるかどうかだ」と。
この言葉は今もずっと、私の根幹にあります。「自分はこれが得意だ」と思い込むと視野が狭くなってバイアスがかかる。だからこそ「この分野ならこの人にお願いしよう」「Aさん、Bさん、Cさんが集まったら、どんなバランスになるか?」と考えるようにしています。

― いつも各分野のプロフェッショナルと関係を築いていらっしゃいますよね。皆さんが自然と動き出すのも、信頼あってこそですね。
ありがとうございます。これもCCC時代に学んだことですが「人から好かれないと、仕事はできない」に尽きると思います。とはいえ、人に好かれようと意識しているわけではありません。「嫌われないようにすること」を心がけていて「自分の話は後回しにする」「人の話をきちんと聴く」このあたりは常に意識しています。
― 最後に「うちの事業は個性がなく、売り上げもそこそこ。どうすればいいんだろう」と悩んでいる方々に向けて、ぜひメッセージをお願いします。
ベタな話ですが、やはり「顧客価値や顧客体験とは何か」を突き詰めること。そのためには「お客様の感情がどこで動くのか」を見極める視点が欠かせません。しかし、これからの時代は顧客至上主義だけでは驚きも新しさも生まれない。「業界の外にいる第三者の視点」や「クリエイティブな発想」 も取り入れて業態を再設計することが重要です。冷静な顧客視点を持ちつつ、業界の常識を超えたアイデアを組み合わせることで、新しい価値を生み出せるはずです。
― 清宮さん、お話をお聞かせいただきありがとうございました。読者の皆さんに少しでも清宮さんのご功績、また、それぞれのお店の魅力やおいしさが伝わることを願っています。
(企画・取材・執筆:佐野 桃木 写真提供:清宮 俊之 最高顧問:Z)
● プロフィールはこちら「株式会社エターナルホスピタリティグループ取締役COO、オイシーズ株式会社取締役 清宮俊之さん」
💙 stand.fmで裏話を配信中「ももりんの『あの経営者の余談』RADIO」
ご興味を持ってくださった方はnoteをフォローしてくださると嬉しいです。
※ 「静かな空間でゆっくり読まれること」を想定して構成しています。
● ご出演・ご意見はこちら「お問い合わせフォーム」
● 関連記事「祝・ブラックサンダー30周年。有楽製菓が感謝を込めて「30個の楽雷」を投下。その楽しさもイナズマ級!」
● ご感想は #あの経営者のオフレコ でシェアしていただけたら嬉しいです
