借金800万、詐欺被害1億2000万――それでも諦めなかった男が語る「失敗こそ最大の資産」「経営者の素顔 vol.1」
「どうせやるなら、経営しよう」
恵比寿にあるプライベートジム。その扉を開けると、トレーニングの熱気とともに、不思議な安心感が漂ってくる。ここを10年間経営し続けてきたのが、KENGOさん(43歳)だ。「ただ鍛えるだけじゃないんですよ。整体、骨の調整――少しのトレーニングで、人生ごと変えていくのが僕のやり方です」そう語るKENGOさんの言葉には、重みがある。プロボクサー、ネットワークビジネス、ソフトバン ク、探偵業、風俗の内勤、ライザップ――異色のキャリアを渡り歩き、何度も借金を背負い、詐欺にも遭った。それでも今、自分の好きな仕事だけを選んで生きている。その人生に、いったい何があったのか。
千葉のヤンキーにカツアゲされた少年が、プロボクサーになるまで
KENGOさんが育ったのは千葉。ヤンキーが多い地域だったという。「小学生の頃って、足が速いか 、頭がいいか、面白いかでモテていたと思うんですよ。頭はダメだったから(笑)、面白さと足の速さで生きてました」子どもの頃からなぜか「悟空の生まれ変わり」だと信じて疑わなかった彼は、ある日ヤンキーにカツアゲされ、現実を思い知る。「俺、悟空じゃなかったんだ」それでも諦めない。「せめてミスターサタンぐらいにはなろう」と空手を始め、そのままボクシングへ転向。努力と根性で、ついにプロボクサーにまで上り詰めた。

20歳で800万の借金。夢を諦めた日
しかし、転機は突然やってくる。「性善説で育てられてたんですよ。で、色々と騙されてしまいまして。20歳の頃に800万くらい借金を負ってしまったんです」ボクシングの夢を手放し、返済のためにネットワークビジネスへ全振り。当時の月収は8万円で、毎月の返済額は16万円。収入の2倍を返し続けるという状況だったが、食らいついて月収120万まで引き上げ、2年間で800万を完済した 。そこからソフトバンク、探偵、風俗の内勤、そしてライザップへ。職種も環境も全く違う職場を渡り歩きながら、KENGOさんはひとつのことに気づいていく。「成績はよかったし、稼げたんですけど――自分だけが喜んでんの?って思って」稼ぐことへの違和感。それが、原点への問いを生んだ 。

ライザップで見えた「本当の問題」
かつて自分が自信を持てたのはボクシングのおかげだった。その記憶を手がかりに、KENGOさんは パーソナルトレーナーの道を選ぶ。ライザップに入社したのは、未経験でも入れる環境を求めてのことだった。 入社当初、理念に感動した。クライアントが「KENGOさんのおかげで人生変わりました」と言って気持ちよく卒業していく――その瞬間が、何より嬉しかった。しかし半年後、卒業したはずの人たちが戻ってくる。「太っちゃった、って」 リバウンドを繰り返すクライアントを目の前にして、KENGOさんは調べ始めた。すると見えてきたのは、リバウンドするのが当然の指導メソッドだった。「セッション数をこなしたら、物販を売ったら、継続を取ったら――評価されるのは営業の部分ばかりだったんですよ。これじゃ今までと一緒だな、と思って」知識を積むほどに、物足りなくなっていった。腕の立つ先輩たちは一人また一人と独立し、残るのは"営業マン"ばかり。「貪欲に色んな店舗から吸収していったら、参考にするべき人がいなくなっちゃったんですよ」その瞬間を境に、KENGOさんは起業を決意する。

崇高な理由なんてない。「どうせやるなら、経営の方がリターンが多い」
「起業するって、難しいイメージがあると思うんですよ」と、私は聞いた。返ってきた言葉はシンプルだった。「そんな崇高な精神じゃないですよ(笑)。雇われでも経営でも、頑張るのは一緒じゃないですか。結果を出そうとするのも一緒。だったらリターンが多いのはどっちか――それだけの話でしたね」サボることを前提にした人間の発想が「雇われ」であり、頑張ることを前提にするなら経営の方が合理的だ、と語る。2016年1月、KENGOさんは恵比寿に事務所を構え、独立した。
「マーケティングを全く考えていなかった」3年間のリアル
しかし、現実は厳しかった。「ライザップのポロシャツを着てるだけで、できる人に見えるんですよ。ブランドのイメージがあるから。でも、独立した瞬間、それがなくなる」自分についていると思っていたクライアントは、実は「ライザップブランドについていた」だけだった。10年経った今 、独立時についてきてくれた人で残っているのは、たった2人だという。「新規を取る必要ないと思ってたんですよね。仲もいいし、金払いもいいし。それがずっと続くと思ってた。今考えたらそんなわけない」マーケティングという概念を完全に無視したまま、恵比寿という激戦区に飛び込んだ。「道路渡って向かい側にもジムがあるし、1本隣にもある。軽く20個以上あるんですよ、周りに」3年ほどは「今月新規1件も取れなかったら潰れる」という状況が何度も続いた。それでも毎回、どこからともなく連絡が来て、首の皮一枚でつながり続けた。「持ってる方だとは思うんですけど――やりたいことを貫くには、やりたくないこともやらなきゃいけないんだな、って思いましたよね 」
折れなかった理由。「潰れたとしても、生きてればなんとかなる」
「なんで折れなかったんですか?」と聞くと、KENGOさんは少し間を置いてから答えた。「いろんな職業を経験してきたんで。そっちに戻る方が、意地でも嫌だったんですよ」タバコの煙が漂う職場、関わると心が重くなる人間関係――たった月30万のために、あの環境に戻るくらいなら、と。 「潰れるのも自分のせい。成功したら自分のおかげ。それが、僕には合ってたんだと思います」 そして、こう続けた。「僕、投資詐欺で1億2000万やられてるんですよ」静かに、でも確かに重い言葉だった。「でも――お金がなくなって気づいたこと、たくさんあるんですよね。800万の借金 、2000万の詐欺、1億2000万の詐欺。そのたびに翌年、必ず収入が上がってきた。やることやってなかっただけなんですよ、結局」
下がったら、必ず上がる。それだけが真実
「当時の自分に声をかけるとしたら?」という問いに、KENGOさんはこう答えた。「必ず、下がったら上がるよ、って。FXに例えると、下がってるからって落ち込む必要はない。下がったあとには必ず上がる。だから、今マイナスなら、今以上に上がる合図だと思ってほしい」 自分で自分の限界を決めてしまうから、そこで止まる。稼がなきゃいけない状況になれば、人は必ずできる――そう、彼は信じている。「目の前が真っ暗だとしても、必ず前には進んでるよ、って 」
今、KENGOさんが選んでいる生き方
10年を経て、KENGOさんのジムはInstagramを通じた集客が安定し、資産運用の収益も加わった今、 「好きな仕事だけを選ぶ」経営スタイルに辿り着いた。カウンセリングの段階でマイナス思考の人は断る。プラスの人だけを周りに置く。「心と体はつながってるんで。暗い人たちと話すと、自分の心も暗くなる。そのまま仕事したら、クライアントが逃げていくんですよ」 効率の話ではない。自分が気持ちよく生きるための、哲学だ。そして今、彼が見据えているのは――孤児院や経済的に恵まれない人たちへの金融教育だ。「魚を欲しがってる人に魚をあげるんじゃなくて、魚の釣り方、養殖の仕方まで教えてあげる。みんなが金銭的にも体の健康面でも不安のない状態に、スタンダードを上げていきたい」
「たくさん失敗すればいい」
最後に、くすぶっている人へメッセージを、とお願いした。「失敗するのが怖い怖いって言う人多いけど――人生って、成功しようと思っても必ず失敗するんですよ。失敗から逃げてたら、一生失敗し続けるだけ。失敗しない人は成功しないんで」 いかに失敗できるか、で経験値が溜まっていく。その言葉の重みを、私は少しだけ理解できた気がした。23歳の私と、43歳のKENGOさん。20年の経験値の差は、確かに圧倒的だった。でも彼は言った。「必ず前には進んでるよ」と。 社名「ラカス」はタガログ語で「力強さ」を意味する。他の言語では出てこない言葉を選んだのは 、ありきたりじゃない、自分だけの力強さを体現したかったからだ。マインドの力強さ、体の力強さ、経済的な力強さ。心身ともに豊かになってほしい――その一言が、KENGOさんのすべてを表していた。
・株式会社LAKAS HP
・KENGOさんInstagram
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取材・文:経営者の素顔
