見出し画像

C34 イギリスの訛りに困惑する

新しい一週間が始まりました。朝6時に目が覚めたので、さっそく身支度を整えます。ベッドから起きて庭に面した窓のカーテンを開けると、広々とした小麦畑が見えました。すでに収穫が終わっているようです。庭ではウサギが朝食を取っていたようで、カーテンを開く音に驚いて急いで茂みに飛び込んでいきました。ピーターラビットの世界がこんなにも身近に感じられることに感動しました。

昨夜のうちにサンドイッチを作り、涼しい場所に置いておいたので、朝食をゆっくり楽しむ時間が確保できました。冷蔵庫がない環境ですが、ニンジンやレタスは台所の戸棚に包んでおくだけでなんとかなりそうです。朝食は午前中の肉体労働を支える大切な食事なので、しっかりと摂ります。目玉焼きとクノールのインスタントポタージュやコンソメスープ、イングリッシュスタイルのパン、ミルクティー、そして職員特典のブラックチェリー、西洋ナシ、リンゴ、ブラックベリーといったフルーツの豪華なラインナップです。備え付けのバスケットにフルーツを盛り付け、目でも楽しみます。もちろん、10時と3時のティータイムの紅茶のお供にもなります。

朝食後、トイレを済ませ、スリッパから靴に履き替え、食料をバッグに詰めて出社します。ジェームズと手をつないで農場に出社なんてまっぴらごめんなので、彼が起きる前にさっさと家を出ました。安定した天気のおかげで服装も気にする必要がなく、日本との決定的な違いは湿度です。同じ島国なのに、夏の環境がこんなにも違うのは驚きです。日本の夏も風情がありますが、あの蒸し暑さだけは耐え難いです。この農場で働くようになってから、体調も良くなりました。たぶん、こちらに来てから一番健康な状態です。精神的にも肉体的にも問題ありません。英語圏での会話にも慣れてきましたし、挨拶もワンパターンですが流暢に交わせるようになりました。今週がどんな一週間になるのかワクワクしています。ただし、ジェームズの件を除いてですが…。

今日からはブラックカーラントというブルーベリーに似た果実の収穫作業を始めることになります。地元のアルバイト生は、既に他の現場に出向いているようで、あの騒々しさはありません。ジェームズは、朝礼終了時にのっそりと現れました。ボスはため息をつきながら、再度今日の作業について彼に説明しています。不届きにも手間をかけて説明しているのに、聞く態度が悪く、爪や髪の毛を気にしていて、ちゃんと話を聞いている様子がありません。喉のところまで「こらぁー、しっかり聞かんかぁ!」と怒鳴りそうになりますが、私は単なるバイト生なのでぐっと我慢します。こいつのやる気のなさには本当に腹が立ちますが、こういう人もいるんだなと人生勉強になります。

今日は、トラクターが引く台車に乗って、現場までゆらゆらと移動します。それなりに顔見知りになったので、ちょこちょこと会話が弾みます。ただ驚いたのは、地元の人間が話す英語には相当に方言があり、発音が違うため聞き取りづらいことです。まったく聞き取れないこともしばしばです。これもまた勉強だと感じます。日本と同じように、各地方で方言があることを身をもって経験します。それでも、今までの経験から、伝えようとする気持ちと聞き取ろうとする気持ちがあれば、ほとんど通じることは実証済みです。しかし、英語の母国でこのような経験をするとは予想していませんでした。

そう言えば、鹿児島の友人と指宿市までバイクでツーリングに行ったことがありました。鹿児島と言えば、薩摩藩の外部からの侵入を防ぐために薩摩弁を使っていた県です。明治維新から200年近く経っているにもかかわらず、今でも田舎に行くとおじいちゃんやおばあちゃんがご先祖様から引き継いできた言葉を話しています。薩摩半島の最南端の温泉の民宿に泊まったとき、その宿のおばあちゃんが話す言葉が、初めから最後までまったくわかりませんでした。あまりにも普段聞く日本語とはかけ離れていたため、横にいた鹿児島県出身の友人に「今の話の内容ってどんなだったの?俺は最後のワハハしかわからなかったぞ」と聞くと、「実は鹿児島県人の俺もまったくわからんかった」というすごい経験をしました。元は同じ言葉であったはずなのに、意図的あるいはその土地に根差した言葉に少しずつ変化した結果、方言が発展していったのでしょう。郷に入れば郷に従えというように、こちらの英語もジャパニーズイングリッシュなので、ちょうどバランスが取れていいのかもしれません。

補足情報:イングランド南部の訛り、特にコックニー


(Cockney)は、ロンドンの労働者階級に根付いた特徴的な英語の一形態です。コックニー訛りは、東ロンドンのイーストエンド地区を中心に発展し、独特の発音とリズムが特徴です。

まず、コックニー訛りでは、"th" の音が "f" や "v" に置き換えられます。例えば、"think" は "fink"、"brother" は "bruvver" と発音されます。また、"h" の音が省略されることも多く、"house" は "ouse" となります。これにより、標準英語とは大きく異なる音が生じます。

さらに、コックニー訛りには独自のリズムとイントネーションがあり、しばしば早口で話されます。文章の最後にイントネーションが上がることが多く、疑問文のように聞こえることがあります。このリズムとイントネーションは、コックニー訛りを一層特徴的にしています。

コックニーライムスラングも南部訛りの一部として知られています。これは、特定の言葉を別の言葉で置き換える遊び心のある言葉遣いです。例えば、"stairs" は "apples and pears"、"telephone" は "dog and bone" といった具合です。このライムスラングは、コックニー訛りをさらに興味深く、地域特有のものにしています。

近年、ロンドンの多文化化により、コックニー訛りは変化し、他の方言や外国語の影響を受けています。それでも、コックニー訛りはロンドンのアイデンティティと文化を反映し続けており、地域の伝統として大切にされています。

続く…


いいなと思ったら応援しよう!