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数日違いの分岐点

G7
同じG7でありながら日本とカナダとでは生活の仕方が異なる。
これを最も強く感じた。

私の父親はサラリーマン戦士と呼ばれるような昭和の生粋のサラリーマンであった。
小学生の頃は、起きたときには出勤をした後であり、私が寝た後に家に戻ってきていた。そんなことから週末しか父親の顔を見たことが無かった。

それでも、経済的には何の苦労も無く大学まで出させてもらえた。

学生時代に海外に英語を学びにいった。
今のように、大学が主催をして、海外で学びその成績を単位として取得できるという時代では無かったので、単に休学を取ってカナダに英語を学びにいった。

お世話になったホストファミリーは、必ず夕食は家族全員で食事をする。
これが当たり前であった。
残業が必要な場合は、夕食後にホストファザーは会社に戻ることもあった。

サラリーマン戦士であった父とは全く異なる家族の形だと感じた。


社会人4年目。
大学を卒業し、社会人4年目となった時、ふと気が付いたことがあった。
サービス残業に、休日出勤。
自分が、かつての父親のように働いている姿である。

転勤の多い会社でもあり、
『そろそろ転勤の話が来るのではないか。』
そんな噂さえ流れていた時のことである。

同期にライバルがいた。
彼と私の両方が、次の移動の時期に昇格をして転勤になるのではないか。
そうささやかれていた。
流通業で働いていた為、売り場責任者としての転勤が出る可能性が言われていたのだ。

そんなおり、カナダに留学していた時に知り合った友人より話が舞い込んだ。
「もし、カナダに戻って来たいのなら、働いている会社が雇っても良いと言っている。社長が東京の中野のオフィスに行くから会ってみたら?」
というものだった。

自分の父親のように、サラリーマン戦士と化している自分に気が付いたとき、急にカナダのホストファミリーのように、家族を中心とした生活スタイルが恋しくなった時に現れた突然の話だった。

2月中旬の冬休みを利用して、東京中野の友人が働いている会社の支店を訪れた。
そこには人懐っこい顔をした、穏やかな紳士が一人で仕事をしていた。
面接という面接らしいものはなく、少しだけ世間話をしたあと、丁度お昼の時間でもあり
『下に美味しそうなお蕎麦屋さんがあるから行こうか?』
と誘われて、お蕎麦を食べに行った。

『で、H君はカナダに来るかい?』
というお誘いである。
面接らしい面接もしていないのに、突然のお誘いに少し驚きを隠せない状況ではあったが、
「はい、ぜひお願いします。」
と頭を下げた。
『いつ来れるの?』
との問いに、会社規定を思い出し、
「最短で1か月後です」
そう答え、正確な日付けは後々連絡することとして、およそ1か月後には会社を辞めてカナダで働くことが決まった。

その面接とも言えぬ面接をあとにして、その足で職場に向かい、上司に退職の意向を伝えた。

私が冬休みを取っていたのと同じ時期に、ライバルもまた休暇を取っていた。

ライバルとは、よく情報交換をしたり、仕事上の話などをしていた。
私と同じ時期に休暇をとったライバルF君は、退職をして次の道に進むべく段取りを進めると言っていた。その最終段階をこの休暇で決めて来ると。

私とライバルが務めていた流通系の会社では、転勤の内辞が発表されてから、3か月以内に退職をすると、退職金が出ないという、今でいうブラック企業とも呼べる企業であった。

私は休暇中に勤め先である店舗に行き、上司に退職の意思を伝えた。
しかし、ライバルのF君は休暇明けに上司に伝えようとしていた。

休暇が明け、私とライバルは出勤する際、偶然にも同じ電車になった。
F君が私に聞いてくる
「どうなった?」
「カナダ行きが決まったから、休暇中に上司に伝えたよ。」
「俺は出勤したら上司に伝えるつもりなんだ」
そう、休暇中にF君も次の目指すものを決めてきたようだ。
「楽しみだね。」
そう、F君に伝えると、満面の笑みを浮かべていた。

着替えを終え、休憩室で朝礼の時間を待っていると、F君が上司に呼ばれて休憩室を出て行った。

暫くして朝礼の時間となり、事務所へ向かうとF君が暗い表情をしてすでに事務所にいた。
『内辞が出たらしい。』
別の同期から耳打ちされた。

朝礼が終わった後、店長に呼び出され、退職について色々と聞かれた。
恐らく、休暇中に内辞が出ていたのだろう。
しかし、私はその内辞を耳にする前に、休暇中に上司に退職の意思を伝えたことから、内辞が出る前に退職の意思を示したということで内辞を上司が止めてくれたようだ。
しかし、店長は私とF君を異例の速さで売り場責任者又はその補佐としての昇格人事を、人事部に推していたようだ。

それから出勤する度に店長に呼ばれ、
『退職の意思を撤回しないか』
という意思確認が行われた。

カナダに戻りたいと漠然と考えていた私に、ふと沸いたチャンス。
それに比べて、パイロットの道に進もうと計画的に動いていたF君。

偶然にも同じ日付で休暇を取り、ふと沸いたチャンスにその場で上司に退職の意思を伝えた私と、計画通りに休暇明けに伝えようとしたF君。

今、私はカナダで家族をもって暮らしており。
F君は、あの会社で働いている。

F君も、退職金を捨てて退職するという道もあった。
社会人4年目の退職金なんて、たかが知れていた。

チャンスはおそらく平等にやってくるに違いない。
そのチャンスを活かす為の準備をしていても、活かせないこともある。
逆に突然わいたチャンスに飛びつく勇気と、一瞬の行動力でそのチャンスを活かすことが出来ることもある。

選択肢が目の前に広がった時
元の道を選択するのか、新しい道を選択するのか。
どちらを選択しても後悔はあるかもしれない。
選択せずに後悔するぐらいなら、選択して後悔した方が良いだろうと思う。


私がカナダへの道を選択をした後、会社内には様々な言葉が飛び交った。
「あいつは社会人として終わったな。」
「夢なんて追いかけやがって、まだ甘ちゃんなんだな。」
「いつか逃げ帰ってくる姿が見える気がする。」
否定的なものばかり。

退職してから27年が経ち、カナダでの立ち位置をきっちり持ちながら暮らしている。
いつかF君がカナダに遊びに来てくれることを願っている。

ほんの数日の意思表示の違いで、新しい道を選んだ自分と、元の道を歩み続けているF君。
どちらが良い人生であったとか、経済的に良かったとか。
そんな事では計り知れない、夫々の人生があるのだろうと思う。
彼には彼の試練を繰り返しながらの人生と。
私には私の、外国ならではの理不尽さに苦しめられながらの人生と。

皆に平等に与えられた人生。
どんな冒険が待っているのか、新しい道であれ、元の道であれ、主人公の自分が選択をして決めた道。
楽しもうじゃないか。



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